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008.楽園 ---- 島の北端―――岩が点在する浜辺に、その男はいた。 波音が響き渡る明るい砂浜には不釣合いなマント。 加えて直射日光に砂からの照り返し。 汗が噴出して然るべき暑さだというのに、男には一筋すらそれが見当たらなかった。 「殺し合い…ですか」 まるで月一つ見えない暗闇のような黒髪。 生気のない土気色をした肌が、更に男の雰囲気を暗くしている。 「ふっ…」 思わず笑いが漏れた。 いつもなら魔術師が集うあの塔に近づくだけで、まるで汚物を見るような視線をぶつけられる自分。 それが何故いきなり呼び出されたのか、これで納得がいった。 実に簡単だ。単純に邪魔だから、この機会に始末してしまおうということ。 頭の固い年寄りどもにしてみれば、またとない好機だったのだろう。 だが… 「ちょうど良いですね」 以前から、人体の研究はしてみたかった。 しかし一般常識というものによると、どうやらそれはご法度らしい。 生きている人間を使おうものなら王国や軍が五月蠅いし、かといって死した人間を使おうものなら教会が黙っていない。 生きているならまだしも、最早何の役にも立たない肉塊を有効利用してやろうというのに、一体何が不満なのか。 所詮低脳で下賤な民。崇高な考えは理解できないということか。 「ですが…」 ここなら何の問題も無い。 殺しを公認するような催しだ。相手をどうしようと、どうこう言われるようなことはないだろう。 ならばここは自分にとって最高の場所だ。 くだらない倫理などに縛られることもなく、己の興味を引き止めるような輩もいない。 それだけではなく、49人もの活きの良い研究材料が、そこらじゅうをうろついているのだ。 これ以上の環境が、この世界のどこにあるだろうか。 今この身に溢れているのは、己が探究心を満たすという限りなき欲望と、それが可能だということへの大きな喜び。 たとえ命が失われようと、そんなことはどうでも良かった。 むしろ自分の渇きが満たせぬ世界に、どれだけの生き続ける意味があろうか。 「感謝しますよ。ここに私を送ってくれた方々に。そして、この素晴らしき楽園を作ってくれた方々に」 支給品の青い箱を開ける。 中には銀に輝く短剣と、片目を覆う透明のレンズ。 幸先の良さに、彼の切れ長の目が細められた。 「さあ、始めましょうか。私の…可愛いモルモット達よ。」 狂気を乗せた哄笑を聞くものは、ただ穏やかに広がる海原のみ。 短剣を腰に、眼鏡を左目に配置すると、彼はゆっくりと、獲物を求めて南へと歩き出した。 <♂ウィザード:島の北端から南へ 備考:現時点では特になし> <所持品:コンバットナイフ 片目眼鏡> <残り:49名> | [[戻る>2-007]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-009]] |
008.楽園 ---- 島の北端―――岩が点在する浜辺に、その男はいた。 波音が響き渡る明るい砂浜には不釣合いなマント。 加えて直射日光に砂からの照り返し。 汗が噴出して然るべき暑さだというのに、男には一筋すらそれが見当たらなかった。 「殺し合い…ですか」 まるで月一つ見えない暗闇のような黒髪。 生気のない土気色をした肌が、更に男の雰囲気を暗くしている。 「ふっ…」 思わず笑いが漏れた。 いつもなら魔術師が集うあの塔に近づくだけで、まるで汚物を見るような視線をぶつけられる自分。 それが何故いきなり呼び出されたのか、これで納得がいった。 実に簡単だ。単純に邪魔だから、この機会に始末してしまおうということ。 頭の固い年寄りどもにしてみれば、またとない好機だったのだろう。 だが… 「ちょうど良いですね」 以前から、人体の研究はしてみたかった。 しかし一般常識というものによると、どうやらそれはご法度らしい。 生きている人間を使おうものなら王国や軍が五月蠅いし、かといって死した人間を使おうものなら教会が黙っていない。 生きているならまだしも、最早何の役にも立たない肉塊を有効利用してやろうというのに、一体何が不満なのか。 所詮低脳で下賤な民。崇高な考えは理解できないということか。 「ですが…」 ここなら何の問題も無い。 殺しを公認するような催しだ。相手をどうしようと、どうこう言われるようなことはないだろう。 ならばここは自分にとって最高の場所だ。 くだらない倫理などに縛られることもなく、己の興味を引き止めるような輩もいない。 それだけではなく、49人もの活きの良い研究材料が、そこらじゅうをうろついているのだ。 これ以上の環境が、この世界のどこにあるだろうか。 今この身に溢れているのは、己が探究心を満たすという限りなき欲望と、それが可能だということへの大きな喜び。 たとえ命が失われようと、そんなことはどうでも良かった。 むしろ自分の渇きが満たせぬ世界に、どれだけの生き続ける意味があろうか。 「感謝しますよ。ここに私を送ってくれた方々に。そして、この素晴らしき楽園を作ってくれた方々に」 支給品の青い箱を開ける。 中には銀に輝く短剣と、片目を覆う透明のレンズ。 幸先の良さに、彼の切れ長の目が細められた。 「さあ、始めましょうか。私の…可愛いモルモット達よ。」 狂気を乗せた哄笑を聞くものは、ただ穏やかに広がる海原のみ。 短剣を腰に、眼鏡を左目に配置すると、彼はゆっくりと、獲物を求めて南へと歩き出した。 <♂ウィザード:島の北端から南へ 備考:現時点では特になし> <所持品:コンバットナイフ 片目眼鏡> <残り:49名> ---- | [[戻る>2-007]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-009]] |

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