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013.商人の生きる道 ---- 「っつ~…」 窮屈な格好で目を覚ました♂商人は、後頭部の痛みにすぐさま縮こまることとなった。 そっと撫でるとひどいコブができている。 割れてはいないのがせめてもの救いか。 「何があったんだっけか」 この島に来てからのことを思い返す。 『愉しい悦しい殺し合いゲームの始まりです!』 その言葉と共にポータルで飛ばされた彼は瞬時に他の地点に現れ―― 着地と同時にバランスを崩した。 『…はいいっ!?』 出現地点はかなり急な斜面だったらしい。 なんの心構えもなかった♂商人はひとたまりもなく滑り落ちた。 「あ~そか。転がって何かにぶつかったんだ、俺」 彼を受け止めたらしい立木を背に、転げ落ちてきた斜面を見上げた。 「カート取り上げられてて助かったかもな、こりゃ」 高低差にして5m、距離にすれば10m程も転がり落ちたらしい。荷物を満載したカートなど引いていたら、樹とサンドイッチになって一巻の終わりだったかも知れない。 「って、そんなこと感謝してどうするよ!俺が何したってんだ!」 誠実な印象を与えるよう作り上げていた外見を乱し、彼は叫んだ。 彼は冒険商人だった。 みずから各地を歩き回って珍品を入手し、街へ持って帰って高く売る商売である。 普段は迷宮に潜って宝をあさることもあったのだが、地上に魔物があふれてからは危険になった食料輸送を代理するだけで充分な稼ぎになっていた。 他職に比べ戦闘力の面で少々劣る商人としては、召集に応じて戦うよりよほど国のためになっていたつもりである。 「くっそ。絶対死んでやらね」 宮廷のお歴々やギルド上層部をひとしきりののしり、酷い怪我を負っていないことを確認しながら起き上がる。 腹を立てたおかげで混乱も恐怖も一時的にどこかへ行っていた。 (考えろ俺。生き残るにはどうしたらいい) まともにやり合えば、彼の力量は間違いなく下から数えた方が早い。 全員が武器を取り上げられた以上、手に入れた装備で力関係は変わるが…出会う相手全てが自分より不運などということもあり得ない。 つまり彼は戦ってはいけないのだ。 「ってことは俺の武器は…」 決まっている。商人の武器は商売する能力だ。 改めて彼は周囲を見回した。 島の中央に近い高地。もう少し登れば周囲がぐるっと見渡せるだろう。 逆に言えば、付近に家屋など商品が見つかりそうな場所はない。 (どれぐらい気を失ってたか知らねえけど、今から降りても他の奴より先に見つけられるわけないし) ♂商人は転げ落ちてきた方を見上げた。 「登るか」 商売のタネは物とは限らない。情報でもいいのだ。 「――いかだ程度じゃ脱出は無理か」 山頂でつぶやく♂商人の顔には異様な装備がはまっていた。 レンズをはめ込んだ筒を両目に固定する、一種の眼鏡――望遠鏡である。 しかしそれを用いても他の陸地は見あたらない。 そしてやや離れたところに錨泊している王国の船は外洋船だった。 アルベルタの港で見慣れた形だから間違いない。 つまりこの島は大陸からちょっとばかり離れていると言うことだ。 「仕方ねえ、まずは生き延びることだけ考えるか…」 脱出手段の手がかりでも見つかれば最高の取引材料になったんだけどな、とひとりごちる。 島内に視線を移すと東西に1つずつ、ある程度の建物が見えた。 南北は他の峰に隠れてよく見えない。 「とりあえずあそこだ」 やや大きく見える東側の集落を目指して彼は山を下ることにした。 もちろん出遅れた以上、建物に入るような危険は冒せない。 望遠鏡で顔が見えるぎりぎりの距離に留まり、集落に来る者を観察するつもりだった。 参加者の性格や持ち物についての情報は重要であるし、安全そうなグループを見つけたらそこに加わるのもいい。 「そうしねえとこいつも使いにくいしな」 ♂商人は袋の物とは別にポケットへ忍ばせた保存食をもてあそんだ。 箱から一緒に出てきた説明書によると、致命的な寄生虫の卵が仕込まれているらしい。 卵が孵るには時間が掛かるため即効性はないが、治癒スキルも解毒剤も無効という意味ではずっと厄介なアイテムだった。 加熱されれば卵は死ぬが、味のないビスケットのようなそれを煮たり焼いたりする者もいないだろう。 「ま、俺が手を出すのは最後の最後だな」 当面の武器は望遠鏡と山頂から確認した目標物を落とした地図、そして自分の目である。 冒険商人の彼は、弁舌では説得できない相手が居ることをよく知っていた。 取引の可能な相手を見分ける目。 それを武器に彼はこのゲームに生き残るつもりだった。 <♂商人:状態・正常:所持品・望遠鏡、寄生虫の卵入り保存食(3個):現在地・E-5→G-4:外見・♂アチャ型茶色(csm:4j043062)> <残り47名> | [[戻る>2-012]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-014]] |
013.商人の生きる道 ---- 「っつ~…」 窮屈な格好で目を覚ました♂商人は、後頭部の痛みにすぐさま縮こまることとなった。 そっと撫でるとひどいコブができている。 割れてはいないのがせめてもの救いか。 「何があったんだっけか」 この島に来てからのことを思い返す。 『愉しい悦しい殺し合いゲームの始まりです!』 その言葉と共にポータルで飛ばされた彼は瞬時に他の地点に現れ―― 着地と同時にバランスを崩した。 『…はいいっ!?』 出現地点はかなり急な斜面だったらしい。 なんの心構えもなかった♂商人はひとたまりもなく滑り落ちた。 「あ~そか。転がって何かにぶつかったんだ、俺」 彼を受け止めたらしい立木を背に、転げ落ちてきた斜面を見上げた。 「カート取り上げられてて助かったかもな、こりゃ」 高低差にして5m、距離にすれば10m程も転がり落ちたらしい。荷物を満載したカートなど引いていたら、樹とサンドイッチになって一巻の終わりだったかも知れない。 「って、そんなこと感謝してどうするよ!俺が何したってんだ!」 誠実な印象を与えるよう作り上げていた外見を乱し、彼は叫んだ。 彼は冒険商人だった。 みずから各地を歩き回って珍品を入手し、街へ持って帰って高く売る商売である。 普段は迷宮に潜って宝をあさることもあったのだが、地上に魔物があふれてからは危険になった食料輸送を代理するだけで充分な稼ぎになっていた。 他職に比べ戦闘力の面で少々劣る商人としては、召集に応じて戦うよりよほど国のためになっていたつもりである。 「くっそ。絶対死んでやらね」 宮廷のお歴々やギルド上層部をひとしきりののしり、酷い怪我を負っていないことを確認しながら起き上がる。 腹を立てたおかげで混乱も恐怖も一時的にどこかへ行っていた。 (考えろ俺。生き残るにはどうしたらいい) まともにやり合えば、彼の力量は間違いなく下から数えた方が早い。 全員が武器を取り上げられた以上、手に入れた装備で力関係は変わるが…出会う相手全てが自分より不運などということもあり得ない。 つまり彼は戦ってはいけないのだ。 「ってことは俺の武器は…」 決まっている。商人の武器は商売する能力だ。 改めて彼は周囲を見回した。 島の中央に近い高地。もう少し登れば周囲がぐるっと見渡せるだろう。 逆に言えば、付近に家屋など商品が見つかりそうな場所はない。 (どれぐらい気を失ってたか知らねえけど、今から降りても他の奴より先に見つけられるわけないし) ♂商人は転げ落ちてきた方を見上げた。 「登るか」 商売のタネは物とは限らない。情報でもいいのだ。 「――いかだ程度じゃ脱出は無理か」 山頂でつぶやく♂商人の顔には異様な装備がはまっていた。 レンズをはめ込んだ筒を両目に固定する、一種の眼鏡――望遠鏡である。 しかしそれを用いても他の陸地は見あたらない。 そしてやや離れたところに錨泊している王国の船は外洋船だった。 アルベルタの港で見慣れた形だから間違いない。 つまりこの島は大陸からちょっとばかり離れていると言うことだ。 「仕方ねえ、まずは生き延びることだけ考えるか…」 脱出手段の手がかりでも見つかれば最高の取引材料になったんだけどな、とひとりごちる。 島内に視線を移すと東西に1つずつ、ある程度の建物が見えた。 南北は他の峰に隠れてよく見えない。 「とりあえずあそこだ」 やや大きく見える東側の集落を目指して彼は山を下ることにした。 もちろん出遅れた以上、建物に入るような危険は冒せない。 望遠鏡で顔が見えるぎりぎりの距離に留まり、集落に来る者を観察するつもりだった。 参加者の性格や持ち物についての情報は重要であるし、安全そうなグループを見つけたらそこに加わるのもいい。 「そうしねえとこいつも使いにくいしな」 ♂商人は袋の物とは別にポケットへ忍ばせた保存食をもてあそんだ。 箱から一緒に出てきた説明書によると、致命的な寄生虫の卵が仕込まれているらしい。 卵が孵るには時間が掛かるため即効性はないが、治癒スキルも解毒剤も無効という意味ではずっと厄介なアイテムだった。 加熱されれば卵は死ぬが、味のないビスケットのようなそれを煮たり焼いたりする者もいないだろう。 「ま、俺が手を出すのは最後の最後だな」 当面の武器は望遠鏡と山頂から確認した目標物を落とした地図、そして自分の目である。 冒険商人の彼は、弁舌では説得できない相手が居ることをよく知っていた。 取引の可能な相手を見分ける目。 それを武器に彼はこのゲームに生き残るつもりだった。 <♂商人:状態・正常:所持品・望遠鏡、寄生虫の卵入り保存食(3個):現在地・E-5→G-4:外見・♂アチャ型茶色(csm:4j043062)> <残り47名> ---- | [[戻る>2-012]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-014]] |

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