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021.出立 ----  こんな事は許されない、と彼女…カプラ職員のグラリスは思う。  それは、彼女達の上司からの直々の通達だった。即ち、『冒険者達の名簿を王国に引き渡せ』と。  グラリスがこの狂ったゲームの事を知ったのは、それからすぐのことだ。  暫くたって。まず反対したのはテーリングとソリンだった。  彼女達はグラリスの目の届く場所からすぐにいなくなった。そして帰ってこなかった。  他のカプラ職員よりはほんの少しだけ高い位置に居る彼女は、その二人が彼の戦場で死んだことを知った。  確か、死因は刺殺と撲殺だったと思う。綺麗だった顔が醜く歪んで見るも無残な死に方だった。  それから。彼女は不安がる残りの職員達を纏める為に努めて非情になった。  冒険者達への王国の指示には絶対に従いなさいと。それが無数の人を殺す事になろうとも。  Wやディフォルテー達が自分を恨らんだり、人殺しの片棒を担ぐのは嫌だと嘆いたりするのは辛かった。  でも。彼女達は、グラリスにとって自分の妹にも等しい大切な、大切な家族だ。  だから、彼女は。冒険者のそれよりも家族の命を優先させる事に決めていた。  例え、それがどんなにか卑しい行為だったとしてもだ。  だけど。だけども。  この世界は、そんな儚い望みさえも彼女には与えてくれなかった。  あのピエロが。  顔に下卑た笑みを張り付かせて、カプラ本社にやって来た。  告げた言葉は。  『いやぁ。実は前回、いえ前々回でしたか…実は貴女方カプラ職員は私共のスポンサーに大変受けがよろしくてね。  とまぁ、そんな事情でまた参加者を出して欲しく社長に掛け合ったらなんと承諾なされたんですよ、彼』  そして、クスクスと笑うとその男は品定めでもする様な目をしていた。  だから、グラリスは自ら進んで参加者になる事を望んだ。  仕方の無い事だ。これは仕方の無い事だ。社長もまた人である。  自分の部下よりも保身に重きを置いても仕方が無い。グラリスが冒険者に対してそうした様に。  その結果として自分が戦場に行かなければならないなら仕方が無い。これは罪への罰だと彼女は思った。  けれども嘲笑うかの様にピエロは陽気に笑うと、言葉を続けたのだ。  『これはこれは。麗しい愛ですな、グラリス嬢。けれども私共は貴女一人だけでは足らないんですよ。もう一人。  もう一人程参加して頂きたいのです。いえいえいえ。決して私共は貴女方を愛しているが故にこうする訳じゃありませんよ。  決まってしまった事なのですよ。そうですねぇ。前回の方は妙齢の美人でしたし。今回は少し幼いWさんが良いですね』  と。  その言葉は。腸が煮えくり返りそうな程の憎しみを彼女がピエロに向ける原因となった。  同時に身も凍る程の恐怖を覚えてもいた。  参加するのは私だけではなくなってしまった。Wが。私の妹の様な娘が。  この狂った殺し合いに参加しなければならない?まるで何か悪い冗談の様だった。  だが認めなくてはならない。その冷静さがグラリス自身を突き動かしていた。  ──これは、悪魔への取引かもしれない。と思う。それも一瞬だった。 『…ええ。いいでしょう。でも貴方は私が殺されて欲しい?それとも私が殺して欲しい?どっちなのかは聞いておきたいわ』 『おやおやおや。勇ましい方だ。また冷静でもあられますな。そうですな。  貴方がただ殺されるのは実に勿体無いし面白みに欠ける。何せ、カプラサービスに就職する以前はジュノーの軍人であられた貴女だ』 『じゃあ殺す方がいいの?でも、それなら私にもそれなりの対価が欲しいわね』 『なる程。クールビューティーな殺し屋と言うのも些か陳腐ではありますが…それもこの道化芝居(バーレスク)には相応しい。  いいでしょう。もし、貴方が十人殺す事が出来れば、Wさんだけは特別に解放して差し上げますよ』 『本当でしょうね?』 『これは信頼の無い…まぁ、大切な妹君ですから致し方ない。しかし、貴方は私の言葉信じるしかないのですよ。  急がないと他の参加者にWさんが殺されてしまうかもしれませんからね?』  冗談めかした殺される、と言う言葉に大きく顔を歪ませていたのか。グラリスの顔を見て道化は笑っていた。  外道め。内心で彼女は目の前の男を罵る。最低の人間の癖に頭は切れるらしい。  彼女の経歴全てを知って、その理屈を判った上で、この申し出を受けたのだろう。  しかし、自分の大切な人の為に他の誰かの命を売る事を決めた自分は果たして外道ではないのか。  これが罪の報いだとすれば二度と神なぞ信じまい。グラリスはそう思う。  彼女に与えられたのは、連弩と幅広の剣…バスタードソード。ご丁寧にも、対人呪符が張れるだけ貼り付けてある。  これは殺人者たる事を自ら望んだ彼女へのえこひいきなのだろうか。  まだ放送は無い。参加している筈のWの死はまだ絶対ではない。  けれども、誰に今その娘が殺されてはいないと言う事が出来るだろうか。  がさり、と枝を掻き分ける音がした。  過去に立ち返っていた思考を止め、見れば彼女の隣に何時も居た、案内要員の娘の姿があった。 「あ…グラリスさん。貴女もだったんですか」  顔見知りの姿を見つけ、安堵したらしい口調で彼女は言う。  眼鏡の向こう側から酷く冷たい目がその娘を見ていた。彼女は答えない。 「あのっ、災難ですよね。こんな…」  戸惑ったような声。彼女には生憎ながら運が無かった。  グラリスは案内要員の娘にさようならと言った。  久方振りにざくろの様に頭を弾き割る感覚が手に伝わってくる。  幅広の剣は娘の頭の半ばまで達して止まっていた。生死を確認するまでも無いだろう。  僅かに一瞥をくれ、死体から鞄を奪うと殺人者は出立す。  木々の隙間からは青い光が。彼女のその行いを責める様に自らの正しさを訴えていた。 <グラリス 所持品:TBlバスタードソード 連弩 普通の矢筒 案内要員の鞄 位置指定無し 特別枠> <プロンテラ案内要員 所持品:無し 状態:死亡 特別枠> <W 所持品:不明 状態:不明 位置指定:グラリスからは離れた島の中の何処か 特別枠>  特記事項:カプラ職員間の関係ではグラリスは憎まれ役に立っている <残り46名> | [[戻る>2-020]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-022]] |
021.出立 ----  こんな事は許されない、と彼女…カプラ職員のグラリスは思う。  それは、彼女達の上司からの直々の通達だった。即ち、『冒険者達の名簿を王国に引き渡せ』と。  グラリスがこの狂ったゲームの事を知ったのは、それからすぐのことだ。  暫くたって。まず反対したのはテーリングとソリンだった。  彼女達はグラリスの目の届く場所からすぐにいなくなった。そして帰ってこなかった。  他のカプラ職員よりはほんの少しだけ高い位置に居る彼女は、その二人が彼の戦場で死んだことを知った。  確か、死因は刺殺と撲殺だったと思う。綺麗だった顔が醜く歪んで見るも無残な死に方だった。  それから。彼女は不安がる残りの職員達を纏める為に努めて非情になった。  冒険者達への王国の指示には絶対に従いなさいと。それが無数の人を殺す事になろうとも。  Wやディフォルテー達が自分を恨らんだり、人殺しの片棒を担ぐのは嫌だと嘆いたりするのは辛かった。  でも。彼女達は、グラリスにとって自分の妹にも等しい大切な、大切な家族だ。  だから、彼女は。冒険者のそれよりも家族の命を優先させる事に決めていた。  例え、それがどんなにか卑しい行為だったとしてもだ。  だけど。だけども。  この世界は、そんな儚い望みさえも彼女には与えてくれなかった。  あのピエロが。  顔に下卑た笑みを張り付かせて、カプラ本社にやって来た。  告げた言葉は。  『いやぁ。実は前回、いえ前々回でしたか…実は貴女方カプラ職員は私共のスポンサーに大変受けがよろしくてね。  とまぁ、そんな事情でまた参加者を出して欲しく社長に掛け合ったらなんと承諾なされたんですよ、彼』  そして、クスクスと笑うとその男は品定めでもする様な目をしていた。  だから、グラリスは自ら進んで参加者になる事を望んだ。  仕方の無い事だ。これは仕方の無い事だ。社長もまた人である。  自分の部下よりも保身に重きを置いても仕方が無い。グラリスが冒険者に対してそうした様に。  その結果として自分が戦場に行かなければならないなら仕方が無い。これは罪への罰だと彼女は思った。  けれども嘲笑うかの様にピエロは陽気に笑うと、言葉を続けたのだ。  『これはこれは。麗しい愛ですな、グラリス嬢。けれども私共は貴女一人だけでは足らないんですよ。もう一人。  もう一人程参加して頂きたいのです。いえいえいえ。決して私共は貴女方を愛しているが故にこうする訳じゃありませんよ。  決まってしまった事なのですよ。そうですねぇ。前回の方は妙齢の美人でしたし。今回は少し幼いWさんが良いですね』  と。  その言葉は。腸が煮えくり返りそうな程の憎しみを彼女がピエロに向ける原因となった。  同時に身も凍る程の恐怖を覚えてもいた。  参加するのは私だけではなくなってしまった。Wが。私の妹の様な娘が。  この狂った殺し合いに参加しなければならない?まるで何か悪い冗談の様だった。  だが認めなくてはならない。その冷静さがグラリス自身を突き動かしていた。  ──これは、悪魔への取引かもしれない。と思う。それも一瞬だった。 『…ええ。いいでしょう。でも貴方は私が殺されて欲しい?それとも私が殺して欲しい?どっちなのかは聞いておきたいわ』 『おやおやおや。勇ましい方だ。また冷静でもあられますな。そうですな。  貴方がただ殺されるのは実に勿体無いし面白みに欠ける。何せ、カプラサービスに就職する以前はジュノーの軍人であられた貴女だ』 『じゃあ殺す方がいいの?でも、それなら私にもそれなりの対価が欲しいわね』 『なる程。クールビューティーな殺し屋と言うのも些か陳腐ではありますが…それもこの道化芝居(バーレスク)には相応しい。  いいでしょう。もし、貴方が十人殺す事が出来れば、Wさんだけは特別に解放して差し上げますよ』 『本当でしょうね?』 『これは信頼の無い…まぁ、大切な妹君ですから致し方ない。しかし、貴方は私の言葉信じるしかないのですよ。  急がないと他の参加者にWさんが殺されてしまうかもしれませんからね?』  冗談めかした殺される、と言う言葉に大きく顔を歪ませていたのか。グラリスの顔を見て道化は笑っていた。  外道め。内心で彼女は目の前の男を罵る。最低の人間の癖に頭は切れるらしい。  彼女の経歴全てを知って、その理屈を判った上で、この申し出を受けたのだろう。  しかし、自分の大切な人の為に他の誰かの命を売る事を決めた自分は果たして外道ではないのか。  これが罪の報いだとすれば二度と神なぞ信じまい。グラリスはそう思う。  彼女に与えられたのは、連弩と幅広の剣…バスタードソード。ご丁寧にも、対人呪符が張れるだけ貼り付けてある。  これは殺人者たる事を自ら望んだ彼女へのえこひいきなのだろうか。  まだ放送は無い。参加している筈のWの死はまだ絶対ではない。  けれども、誰に今その娘が殺されてはいないと言う事が出来るだろうか。  がさり、と枝を掻き分ける音がした。  過去に立ち返っていた思考を止め、見れば彼女の隣に何時も居た、案内要員の娘の姿があった。 「あ…グラリスさん。貴女もだったんですか」  顔見知りの姿を見つけ、安堵したらしい口調で彼女は言う。  眼鏡の向こう側から酷く冷たい目がその娘を見ていた。彼女は答えない。 「あのっ、災難ですよね。こんな…」  戸惑ったような声。彼女には生憎ながら運が無かった。  グラリスは案内要員の娘にさようならと言った。  久方振りにざくろの様に頭を弾き割る感覚が手に伝わってくる。  幅広の剣は娘の頭の半ばまで達して止まっていた。生死を確認するまでも無いだろう。  僅かに一瞥をくれ、死体から鞄を奪うと殺人者は出立す。  木々の隙間からは青い光が。彼女のその行いを責める様に自らの正しさを訴えていた。 <グラリス 所持品:TBlバスタードソード 連弩 普通の矢筒 案内要員の鞄 位置指定無し 特別枠> <プロンテラ案内要員 所持品:無し 状態:死亡 特別枠> <W 所持品:不明 状態:不明 位置指定:グラリスからは離れた島の中の何処か 特別枠>  特記事項:カプラ職員間の関係ではグラリスは憎まれ役に立っている <残り46名> ---- | [[戻る>2-020]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-022]] |

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