「2-027」(2005/11/13 (日) 21:28:57) の最新版変更点
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027.黄昏ベイビー
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―――ばさばさ、ばさ。
フェーンと呼ばれる烈しい熱風が、しゃがみこんだ私の髪を強く吹き流す。
右手でそれを抑えながら、私は自身が潜んでいる岩場の影を、じっと凝視していた。
腰まで伸びた、紺碧の長髪。日に照りかえって新緑のように萌えるそれが、この砂漠では目立つ目標にしかならないことを、私は理解していた。
露出度の高い服装は、この熱気の中では都合がいい。しかし、砂漠の気候は、昼夜では完全に逆転する。
日光の照射する今はまだ天国のようなものだ。真に恐怖すべきは、凍て付く冷気に侵食される、夜。それまでに、この灼熱から抜けねばならない。
狙う時間は、夕刻。黄昏に乗じて、この砂漠を抜け出す。オレンジに展開される世界では、私の姿も少しは黄砂にまぎれるだろう。
それまで、頭を整理する時間は十分にある。
ポータルの閃光を抜けて、しばし。私が転送されたのは、広大な砂漠の一点だった。逡巡するのは当然だったが、幸いにも岩場が近く、上れば滾々と湧き出る泉も見当たった。おかげで熱気にやられるということはなさそうだったが、寒さをしのぐ場所はない。岩場の天頂から、かろうじて北の方角に密な森林が広がっているのが見て取れた。時間を狙って、そちらに移動しなければ。
・・・さて、しかし。
私が今頭を捻らせている問題は、それとはまた少々違うものであった。
「・・・どうしたものか。」
先ほど珍妙な男によってもたらされた、二つのマジックアイテム『古く青い箱』。
封神具とも、ガラクタ箱とも称されるそれ。かつて、世界を又に架けた冒険を繰り広げていた私の目の前に、それは幾度と無く現れた。
魔物の懐中。異国のダンジョンにて倒れたものの手の中。商人の引くカートに満載されたもの。
開ければ何が入っているかはわからない。干戈か林檎か、はたまたゼロピーと呼ばれるゴミ屑か。これを使ってギャンブル間隔で自分の運を試す者も多く、なかなかの価値を以ってこれは・・・通称『青箱』は取引されていた。ある長者などは、コレを使って数十、はたまた数百Mもの資産を築いたとも聞く。
だが、小さな頃から、理論系統から逸脱したもの・・・神や霊魂、運といったものを信じなかった私は、それを手に入れるたびに、友の手に譲渡したり、商人相手に売りつけてばかりいた。
しかし今は皮肉にも、その奇天烈で趣味の悪い二つの箱が、私の命運を握っている。
コトリ。躊躇無く、一つを手にする。そして、音に細心の注意を払いながら、ゆっくりとそれを開いた。
「・・・・・・くっ・・・・・・」
四角く、黒い、無機質な漆黒の塊。
これは・・・音声記録用の小さな機械・・・通称『トーキー・ボックス』と呼ばれているモノだ。そういえば、街中でコレを使って悪ふざけしている青年を見たことが幾度かある。確か、手練た弓手にしか使用できないように細工されているという、だがその割には子供の遊び道具にしかならないような道具。トラップの一種らしいが、そもそも賢者を目指している私にとっては興味の対象にすらならない。
ため息を落としながら、私はもう一つの箱を手に取った。
無神論者だが、今は祈りすら胸中に浮かべて、私はそれを開けて―――
―――血糊にも似た、夕日に照らされた鱗雲。見上げる私の目は、今どんな色を浮かべているのだろうか。
つと立ち上がると、斜めに延びた影から頭を出さないように気をつけて、私は周りを注視する。見当たる影はない。
ハードな運動に慣れない魔術師。往々にして私も、日ごろの運動不足が祟ってか、長距離走には自信がない。だから、もしもの時のために・・・いつ殺戮者に見つかっても大丈夫なように、常に呪詛の祝詞を口ずさみながら、砂踏む音をもたてないように、慎重に歩き始めた。フリーキャストと呼ばれる、セージにしかない特権の一つ。これと、詠唱中の呪文を阻害する、スペルブレイカーの技。そして、竜言語(ドラゴノロジー)と呼ばれる、真理へと続く知識。これが、武器を上手く扱えない私の武器。
・・・・・・この、理不尽な殺人ゲーム。独楽の一つとして配置された私が取るべき行動は、冷酷な殺戮者(マーダー)となるか、それとも隠遁者として最後まで争いを見守るか。まだ答えは出ていない。とりあえず、信頼できる友を見つけなければ。できれば、この無駄な玩具を活用できるハンターだと良いのだが・・・。
空を見上げる。まだ、夜は遠そうだ。
護身用に携えた金色の刃先。幸運剣と呼ばれるそれを見つめながら、奇妙な命運の中にある幸運な自分を信じるしか出来ない私は、無力なのだろうか。
それとも・・・。
<♀セージ>
現在位置-南東の砂漠(G-8)
所持品-幸運剣、トーキーボックス×1
備考-フリーキャスト・ドラゴノロジー・スペルブレイカー習得 全ボルト系習得五色セージ 緑髪のロングヘアー
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027.黄昏ベイビー
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―――ばさばさ、ばさ。
フェーンと呼ばれる烈しい熱風が、しゃがみこんだ私の髪を強く吹き流す。
右手でそれを抑えながら、私は自身が潜んでいる岩場の影を、じっと凝視していた。
腰まで伸びた、紺碧の長髪。日に照りかえって新緑のように萌えるそれが、この砂漠では目立つ目標にしかならないことを、私は理解していた。
露出度の高い服装は、この熱気の中では都合がいい。しかし、砂漠の気候は、昼夜では完全に逆転する。
日光の照射する今はまだ天国のようなものだ。真に恐怖すべきは、凍て付く冷気に侵食される、夜。それまでに、この灼熱から抜けねばならない。
狙う時間は、夕刻。黄昏に乗じて、この砂漠を抜け出す。オレンジに展開される世界では、私の姿も少しは黄砂にまぎれるだろう。
それまで、頭を整理する時間は十分にある。
ポータルの閃光を抜けて、しばし。私が転送されたのは、広大な砂漠の一点だった。逡巡するのは当然だったが、幸いにも岩場が近く、上れば滾々と湧き出る泉も見当たった。おかげで熱気にやられるということはなさそうだったが、寒さをしのぐ場所はない。岩場の天頂から、かろうじて北の方角に密な森林が広がっているのが見て取れた。時間を狙って、そちらに移動しなければ。
・・・さて、しかし。
私が今頭を捻らせている問題は、それとはまた少々違うものであった。
「・・・どうしたものか。」
先ほど珍妙な男によってもたらされた、二つのマジックアイテム『古く青い箱』。
封神具とも、ガラクタ箱とも称されるそれ。かつて、世界を又に架けた冒険を繰り広げていた私の目の前に、それは幾度と無く現れた。
魔物の懐中。異国のダンジョンにて倒れたものの手の中。商人の引くカートに満載されたもの。
開ければ何が入っているかはわからない。干戈か林檎か、はたまたゼロピーと呼ばれるゴミ屑か。これを使ってギャンブル間隔で自分の運を試す者も多く、なかなかの価値を以ってこれは・・・通称『青箱』は取引されていた。ある長者などは、コレを使って数十、はたまた数百Mもの資産を築いたとも聞く。
だが、小さな頃から、理論系統から逸脱したもの・・・神や霊魂、運といったものを信じなかった私は、それを手に入れるたびに、友の手に譲渡したり、商人相手に売りつけてばかりいた。
しかし今は皮肉にも、その奇天烈で趣味の悪い二つの箱が、私の命運を握っている。
コトリ。躊躇無く、一つを手にする。そして、音に細心の注意を払いながら、ゆっくりとそれを開いた。
「・・・・・・くっ・・・・・・」
四角く、黒い、無機質な漆黒の塊。
これは・・・音声記録用の小さな機械・・・通称『トーキー・ボックス』と呼ばれているモノだ。そういえば、街中でコレを使って悪ふざけしている青年を見たことが幾度かある。確か、手練た弓手にしか使用できないように細工されているという、だがその割には子供の遊び道具にしかならないような道具。トラップの一種らしいが、そもそも賢者を目指している私にとっては興味の対象にすらならない。
ため息を落としながら、私はもう一つの箱を手に取った。
無神論者だが、今は祈りすら胸中に浮かべて、私はそれを開けて―――
―――血糊にも似た、夕日に照らされた鱗雲。見上げる私の目は、今どんな色を浮かべているのだろうか。
つと立ち上がると、斜めに延びた影から頭を出さないように気をつけて、私は周りを注視する。見当たる影はない。
ハードな運動に慣れない魔術師。往々にして私も、日ごろの運動不足が祟ってか、長距離走には自信がない。だから、もしもの時のために・・・いつ殺戮者に見つかっても大丈夫なように、常に呪詛の祝詞を口ずさみながら、砂踏む音をもたてないように、慎重に歩き始めた。フリーキャストと呼ばれる、セージにしかない特権の一つ。これと、詠唱中の呪文を阻害する、スペルブレイカーの技。そして、竜言語(ドラゴノロジー)と呼ばれる、真理へと続く知識。これが、武器を上手く扱えない私の武器。
・・・・・・この、理不尽な殺人ゲーム。独楽の一つとして配置された私が取るべき行動は、冷酷な殺戮者(マーダー)となるか、それとも隠遁者として最後まで争いを見守るか。まだ答えは出ていない。とりあえず、信頼できる友を見つけなければ。できれば、この無駄な玩具を活用できるハンターだと良いのだが・・・。
空を見上げる。まだ、夜は遠そうだ。
護身用に携えた金色の刃先。幸運剣と呼ばれるそれを見つめながら、奇妙な命運の中にある幸運な自分を信じるしか出来ない私は、無力なのだろうか。
それとも・・・。
<♀セージ>
現在位置-南東の砂漠(G-8)
所持品-幸運剣、トーキーボックス×1
備考-フリーキャスト・ドラゴノロジー・スペルブレイカー習得 全ボルト系習得五色セージ 緑髪のロングヘアー
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