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035.日常との別れ ---- とりあえず、傷の手当てをしなくては。 ♀BSは、魔術師に撃たれた左腕の傷口をそっと窺った。 スパノビのヒールのおかげでなんとか止血はできたが、傷口は おせじにも癒えたとはいえず、おまけに痛みも戻ってきた。 このままにしておくことはできない。 不幸中の幸いか、凍傷はまぬがれたらしい。 後ろから左腕を弾いた魔力の衝撃はかなりの強さだったので、 おそらく高レベルのコールドボルトだったはずだ。 運が悪ければ凍って砕けてしまうか、一生動かなくなるかするだろうに この程度で済んだのは奇跡としか言い様がなかった。 「あの♀マジ……絶対許さん……でもレベル低かったみたいでよかった」 「ぼず、おで、おで……」 ♂スパノビは、♀BSを癒そうとしきりにヒールを繰り返す。 「もういいって、血は止まったし、助かったよ」 もう何度目かの明滅になるのだが、彼のヒールは その聖光のまばゆさにしてはどうにも治癒力が乏しい。 「おで、へ、へだぐそになった」 必死に何度もヒールを唱える所為で、彼の顔は既に蒼白だ。 「だから待ちなよ。アンタみたいな大男にぶっ倒れられたら、 そのカートでだって運べやしないんだから」 カート、と口にして自分と彼との相違点に気づく。 私の荷物は、全てあのGMに奪われたらしい。他の参加者も等しくそうなるはず。 「アンタ、そのカートどっから持ってきたんだい? 没収されなかったのかい?」 「あ、あ……あ……。あっちで、いえとそうこ、あった」 「へぇ?」 スパノビのカートが、ただの民家の倉庫にあるなどということがあるのだろうか。 スーパーノービスは職業として採用されて、まだ日が浅いほうだ。 首都でこそ多く見られるものの、彼女の古巣である都市ゲフェンですらまだ珍しい。 そのカートが、こんな辺鄙な島にあったというのか。 まぁ、いいか。貧血で思考がまともに働かない。とりあえずは後回しだ。 「まぁ、家があるってんなら治療に使えそうなもんもあるかもね。 案内してくれるかい?」 30分ほど移動して、やっとのことで民家と倉庫が見えてきた。 時間の割に距離はほとんど移動できていない。血が足りなすぎてまともに動けないのだ。 民家は少々小さめの山小屋程度のもので、離れが彼の言うカートがあった倉庫らしかった。 「ぼず、どうするの?」 「そうだねぇ、アンタはもう一度倉庫を見といで。 誰か居ないか、十分気をつけんだよ」 そうして、自分は家のほうを調べることにした。 やはりここは、元もとの無人島ではないのだろう。 さきほど逃げ込んだ小屋に比べれば、この家は随分古い。 むしろ、先の小屋が新し過ぎたとも言えるのだが。 「民間人を追い出したってか……随分と、非道なGMさまだねぇ……」 中に人の気配がないのを確認してから、ドアを思いっきり開く。 そこには、惨劇の後があった。 「ひ、いッ?!」 悲鳴を上げそうになるのを慌てて飲み込む。 そこには王国軍の兵士、それも小間使いの下級兵士が二人、佇んでいた。 一様に白目をむき臓物を撒き散らし、そして彼らの装備と床を血で汚しながら。 むせ返るほど充満した死臭に吐き気を催し、いつの間にか真後ろに立っていた スパノビを押しのけて木の根元にえづきを開放する。 他の兵による銃殺ではない。魔力によるものでもない。 あれは、刃物による殺害だ。 力任せに開けられた、小さく、しかし命を奪うのに十分な数の傷口は、 山で化け狸を相手にしていたころのような、短剣のもの。 生を握りつぶすことにためらいがなく、しかしそこに残されたのは 始末とは違う明白な殺意。彼らのサーベルは腰にささったままで、 抵抗することすらできずに殺されたことを意味していた。 どうして、兵士が死んでいるんだ。これはGMの考えた趣味の悪い遊びじゃなかったのか? 頭の中で警鐘が鳴り響く。どこかで聞いたはずだ、王国軍の黒い噂。 「たし、か……商人ギルドの子が……」 何て、言っていただろう。思い出そうとするのに頭が上手く回転してくれない。 ただ一つ分かること、何より重要なのは、この血はまだ変色しきっていないことだ。 「ぼず」 ひとしきり吐いてしまってから、背中に走る怖気に我に帰る。 誰が、これをやったんだ? 「ぼず?」 「あ……いや、ごめん。あんたの支給品は確認したし、 それにあんたに人殺しなんて出来るわけがないわね……」 出会った時も、血の匂いはしなかったはず、とも思う。 自分の傷口の所為でそんなものに気付きようもないことは忘れていた。 「ぼず、おで、あたまいたい」 この島には、人殺しが居る。 あの惨状を作れるものだけが勝利を得る世界に、私たちは居る。 「ああ……なんだろうね、じゃぁどこか休める場所を……?」 立ち上がろうとして、私の世界は大きく揺らいだ。 <♀BS> 現在位置 F-3 民家の前 所持品:ツーハンドアックス(♂スパノビの箱から) 外見特徴:ボス、筋肉娘、カートはない。むちむち。 状態:貧血。怪我の体力は回復していない。 <♂スパノビ> 現在位置 F-3 民家の前 所持品:スティレット、ガード、ほお紅(♀BSのもの) 外見特徴:巨漢。超強面だが頭が悪い。カートあり。 状態:ヒールを連発したので少し顔色が悪い。 ---- [[戻る>2-034]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-036]]
035.日常との別れ ---- とりあえず、傷の手当てをしなくては。 ♀BSは、魔術師に撃たれた左腕の傷口をそっと窺った。 スパノビのヒールのおかげでなんとか止血はできたが、傷口は おせじにも癒えたとはいえず、おまけに痛みも戻ってきた。 このままにしておくことはできない。 不幸中の幸いか、凍傷はまぬがれたらしい。 後ろから左腕を弾いた魔力の衝撃はかなりの強さだったので、 おそらく高レベルのコールドボルトだったはずだ。 運が悪ければ凍って砕けてしまうか、一生動かなくなるかするだろうに この程度で済んだのは奇跡としか言い様がなかった。 「あの♀マジ……絶対許さん……でもレベル低かったみたいでよかった」 「ぼず、おで、おで……」 ♂スパノビは、♀BSを癒そうとしきりにヒールを繰り返す。 「もういいって、血は止まったし、助かったよ」 もう何度目かの明滅になるのだが、彼のヒールはどうにも治癒力が低い。 「おで、へ、へだぐそになった」 必死に何度もヒールを唱える所為で、彼の顔は既に蒼白だ。 「だから待ちなよ。アンタみたいな大男にぶっ倒れられたら、 そのカートでだって運べやしないんだから」 カート、と口にして自分と彼との相違点に気づく。 私の荷物は、全てあのGMに奪われたらしい。他の参加者も等しくそうなるはず。 「アンタ、そのカートどっから持ってきたんだい? 没収されなかったのかい?」 「あ、あ……あ……。あっちで、いえとそうこ、あった」 「へぇ?」 スパノビのカートが、ただの民家の倉庫にあるなどということがあるのだろうか。 スーパーノービスは職業として採用されて、まだ日が浅いほうだ。 首都でこそ多く見られるものの、彼女の古巣である都市ゲフェンですらまだ珍しい。 そのカートが、こんな辺鄙な島にあったというのか。 まぁ、いいか。貧血で思考がまともに働かない。とりあえずは後回しだ。 「まぁ、家があるってんなら治療に使えそうなもんもあるかもね。 案内してくれるかい?」 30分ほど移動して、やっとのことで民家と倉庫が見えてきた。 時間の割に距離はほとんど移動できていない。血が足りなすぎてまともに動けないのだ。 民家は少々小さめの山小屋程度のもので、離れが彼の言うカートがあった倉庫らしかった。 「ぼず、どうするの?」 「そうだねぇ、アンタはもう一度倉庫を見といで。 誰か居ないか、十分気をつけんだよ」 そうして、自分は家のほうを調べることにした。 やはりここは、元もとの無人島ではないのだろう。 さきほど逃げ込んだ小屋に比べれば、この家は随分古い。 むしろ、先の小屋が新し過ぎたとも言えるのだが。 「民間人を追い出したってか……随分と、非道なGMさまだねぇ……」 中に人の気配がないのを確認してから、ドアを思いっきり開く。 そこには、惨劇の痕があった。 「ひ、いッ?!」 悲鳴を上げそうになるのを慌てて飲み込む。 そこには王国軍の兵士、それも小間使いの下級兵士が二人、佇んでいた。 一様に白目をむき臓物を撒き散らし、そして彼らの装備と床を血で汚しながら。 むせ返るほど充満した死臭に吐き気を催し、いつの間にか真後ろに立っていた スパノビを押しのけて木の根元にえづきを開放する。 他の兵による銃殺ではない。魔力によるものでもない。 あれは、刃物による殺害だ。 力任せに開けられた、小さく、しかし命を奪うのに十分な数の傷口は、 山で化け狸を相手にしていたころのような、短剣のもの。 生を握りつぶすことにためらいがなく、しかしそこに残されたのは 始末とは違う明白な殺意。彼らのサーベルは腰にささったままで、 抵抗することすらできずに殺されたことを意味していた。 どうして、兵士が死んでいるんだ。これはGMの考えた趣味の悪い遊びじゃなかったのか? 頭の中で警鐘が鳴り響く。どこかで聞いたはずだ、王国軍の黒い噂。 「たし、か……商人ギルドの子が……」 何て、言っていただろう。思い出そうとするのに頭が上手く回転してくれない。 ただ一つ分かること、何より重要なのは、この血はまだ変色しきっていないことだ。 「ぼず」 ひとしきり吐いてしまってから、背中に走る怖気に我に帰る。 誰が、これをやったんだ? 「ぼず?」 「あ……いや、ごめん。あんたの支給品は確認したし、 それにあんたに人殺しなんて出来るわけがないわね……」 出会った時も、血の匂いはしなかったはず、とも思う。 自分の傷口の所為でそんなものに気付きようもないことは忘れていた。 「ぼず、おで、あたまいたい」 この島には、人殺しが居る。 あの惨状を作れるものだけが勝利を得る世界に、私たちは居る。 「ああ……なんだろうね、じゃぁどこか休める場所を……?」 立ち上がろうとして、私の世界は大きく揺らいだ。 <♀BS> 現在位置 F-3 民家の前 所持品:ツーハンドアックス(♂スパノビの箱から) 外見特徴:ボス、筋肉娘、カートはない。むちむち。 状態:貧血。怪我の体力は回復していない。 <♂スパノビ> 現在位置 F-3 民家の前 所持品:スティレット、ガード、ほお紅(♀BSのもの) 外見特徴:巨漢。超強面だが頭が悪い。カートあり。 状態:ヒールを連発したので少し顔色が悪い。 ---- [[戻る>2-034]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-036]]

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