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038.生臭坊主 on the Tree ----  ―――まぁ、なにはともかく。自分が死んでしまうことだけは避けねばならん。  巨木の頂上、森の頂とも呼べる場所。幹に背をもたれ、座禅を組み(『息吹』と呼ばれる、異国に伝わる一種の瞑想法である)、ほけー、と雲を眺めながら、♂モンクはじっと考え込んでいた。  尻の下には、衣服が汚れぬように広辞苑・・・もとい、黙示録。苔むした巨木の枝葉はじめりと湿っており、直に座ると尻が濡れてしまう。だから、座布団代わり。  神をも恐れぬ行為と呼ばれるやもしれんが、異端の神なぞ知ったことではない。俺が信じるのは、この拳に誓った神のみ。それ以外の神なぞ便所紙すらの価値もないわけだ。と、勝手に言い訳するのは、やはり伝説の武器に対する敬意に他ならないのだろうか。いやはや、それはさておき、だね。今考えるべきはこの広辞・・・黙示録のことではなく。これからどうするか、ということだ・・・と、いうわけで一人座禅を組んですでに2時間ほど。矢張りというか、なんというか。まともな思考はできそうにない。今の状況では。  ちゅちゅちゅちゅちゅ、と小鳥の鳴く声が聞こえる。  何の気なしに遠くの空を見つめ、♂モンクは嘆息を吐いた。  ―――こうして見れば、この島ものどかで美しい、ごくごくありふれたものにすぎないのだ。空は青く、海は光り。鳥は舞い飛び、植物は萌え、太陽はやかましく照り映え、人々の生活が―――・・・  「・・・・ん?うん・・・うん。そうか、生活、などという生易しいレベルの話ではないのか・・・」  大空賛歌など口ずさみそうになった自分を戒めるように眉をひそめると、♂モンクはぽりぽりと頬をかいた。  もったいないなぁ。と思う。心から。  せっかく、風光明媚な、魅力あふれる島なのに。おそらく、いずこかには果実のたわわに実る樹木だってあるのだろう。もしかしたら食料になる動物がいるかもしれない。  生きていくには申し分のない空間。なのに・・・行われているのは、楽しい愉しい幸せゲーム。血の惨劇、魂の狂宴、棺の・・・  ・・・これ以上にネガな思考は止めておこう。  ともかく、何かをしよう。でなければ、落ち着かない。  しかし、瞳を閉じれば、そこに写るのは・・・  「・・・シーフたん・・・」  自分を見つめたときの、あの魔人の如き顔。  握り締めた、真紅の凶器。顔を掠めた、ナイフの風。はだけた胸、透き通るようにきめの細かい肌。  そして、鮮血。臓物。はいずり寄る死の気配・・・。  ―――自分も、ああなるべきなのかしらん?  ♂モンクの疑問は、常にそこにあった。  確かに、(狂乱の末とは言え)殺人鬼と化した彼女の行為を責めるのは簡単である。  しかし・・・それを否定したところで、それじゃあそれが正解かと問われれば、それは誰もが否と答えるであろう。  この世界。美しき箱庭の中では、正邪、善悪、正誤などの介在する余地はないのだ。あるとすれば、各々の感情と、運命のめぐり合わせ。三々五々に散った者達の、意思の通過。そして、その交差点にある審判。  言うならば、混沌の中に、自分はいるのである。  「混沌の書・・・黙示録、か・・・。」  光にも、闇にもつかず。常に『無』の象徴として存在してきた、黙示録。これが俺の手に・・・いや、尻の下にあるっちゅうのは、なんたる皮肉なんだろうか。  腰元に手を回す。背にくくりつけた荷物袋をまさぐると、中からもう一つの小箱を取り出した。残り一つの青箱。開けてびっくり玉手箱ってやつだ。  ・・・ふむ。この、狂った戯曲の舞台は、御伽噺にある竜宮城とさしたる差異はないワケか。あごに手を当て、ふいと記憶の糸をより戻す。  「・・・乙姫様のごちそうに、タイやヒラメの舞い踊り・・・ただ珍しくおもしろく、月日のたつのも夢の中・・・ねぇ・・・」  アマツに伝わるわらべ歌。冗談じゃねぇぞ、せめて乙姫様だけでも出しやがれこんちくしょう、と叫びたくもなるが、叫んだところで近寄ってくるのは哀れな殺人鬼だけ、と。なんまいだーなんまいだ。  にしても、ただ珍しくおもしろく、ってのがいけすかない。踊ってるタイヤヒラメは必死だっつーの。畜生。  あーもう、さっきから雑念ばっかり浮かんできやがって、瞑想にもなんにもなりゃしない。俺は頭を振り、ほう、と『古く蒼い箱』を見下ろした。  そして、決断する。  ・・・もし、この中から武器が出てきたら。  俺は、それを手にとり、争いの渦中へとこの身をゆだねよう。  もし、それ以外のものがでてきたら・・・。  それは、そのとき考える。うん。これは決して思考の放棄なんかじゃぁーないぞ。  うっし、こうなりゃヤケだ。もともと俺って、深く考えるのは苦手じゃないか。信じる神様がいて、笑える友達がいて、ついでに可愛い女の子でもいればso good。もう満足なんだなこれが。  ・・・だから。どんな手段をとってでも、絶対に、戻ってやるんだ。あの頃に・・・。  すいー、ふうー。すぃー・・・深呼吸を三度。  そして俺は、小箱の留め金を、小指でピンと弾いた。  ぐいと手を突っ込む。さぁー弓でも剣でも出てきやがれ。爪なんかだぞなおさらよし。この際だからベルセルクでも・・・、って。  「・・・・・・なんじゃぁー、こりゃ。」  中からでてきたのは。  風に揺られてゆーらゆら。四枚の葉っぱにすらりとのびた茎。ちょこちょこと気持ちばかりに茶色い根っこ。  『四葉のクローバー』・・・・一枚だけ。  「ちょ、押し花でもしろってかぃ?神様よぅ・・・」  ひゅるりーと舞い散る風を涙で飾りながら、俺はよいしょ、と立ち上がった。  尻のぬくもりが程よく残った広辞苑・・・やや、黙示録を手に取り、適当なページを開くと、そこに四葉のクローバーを挟み込む。  混沌の中にある幸運、と。そう考えりゃ悪くもないね。首をコキリと鳴らすと、臆病な自分をかき消すように苦笑した。  ・・・と。  ―――がさりっ、がさ、がさ・・・。  (っ!?)  突然、現れた気配。  とっさに身を木陰に隠すと、そろりと下を覗く。  もっさりとした枝葉に邪魔されて良く見えないが、どうもありゃ女の子・・・やけにゴツい装備してるとこから見ると、クルセか騎士・・・。うん、騎士だ。  だが・・・武器が見当たらない。コウモリのように標的を凝視したまま、♂モンクは首を捻る。シールドを装備しているようだが・・・  武器がない相手であれば、負ける気はしない。冷静な頭で判断すると、うん、とその考えを肯定するように頷いた。  それならば。とりあえず、今この場で、彼女にコンタクトを取ってみようか。もしも彼女が敵対心をむき出しにしてきたら、迷わず殴りまわして、残念だけど殺すしかない。  けど、上手く手を取り合うことが出来れば。きっと、良い仲間になることができるだろう。そんな気が、する。根拠ないけど。  それに。  よく見りゃ、多分、ありゃなかなかの美人だ。Oh.God。こんなチャンスをありがとう。  グッとガッツポーズ。生臭坊主?いいねぇ、タイやヒラメにしかなれねぇんなら、生臭さ上等だってんだ。  「よっ、おっ・・・とりゃっ」  スタリ。  宙を踊り、目の前に飛び降りてきた俺を見た、彼女の顔。糸を引いたようなつり目に、細く意志の強そうな眉。ツンと高い鼻。  おっしゃ、やっぱり美人じゃねえか!飛び上がりそうになりながら、俺は葉っぱだらけの体をはたこうともせず、言った。  「よう、彼女。俺っちと一緒に、生き残ってみないかい?」  ・・・ってあっちゃー、昔っから、ナンパするのだけはニガテだったってこと、忘れてた俺。ナンパ文句考えるの下手糞だな、っとー・・・。  コリコリと頬をかく俺を見て、目を見開いていた騎士は、数秒の後、緊張の糸が切れたように泣き始めたのだった。まるで子供のように。情けなく。だけど・・・  ・・・どこか、愛おしく。  <♂モンク>   髪型:アサデフォ   所持品:黙示録・四葉のクローバー   備考:諸行無常思考、楽観的 ♀騎士と同行   現在地:F-07  <♀騎士>   髪型:?   所持品:S1シールド、青箱   備考:殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない   現在地:F-07 ♂モンクと同行 [[戻る>2-037]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-039]]
038.生臭坊主 on the Tree ----  ―――まぁ、なにはともかく。自分が死んでしまうことだけは避けねばならん。  巨木の頂上、森の頂とも呼べる場所。幹に背をもたれ、座禅を組み(『息吹』と呼ばれる、異国に伝わる一種の瞑想法である)、ほけー、と雲を眺めながら、♂モンクはじっと考え込んでいた。  尻の下には、衣服が汚れぬように広辞苑・・・もとい、黙示録。苔むした巨木の枝葉はじめりと湿っており、直に座ると尻が濡れてしまう。だから、座布団代わり。  神をも恐れぬ行為と呼ばれるやもしれんが、異端の神なぞ知ったことではない。俺が信じるのは、この拳に誓った神のみ。それ以外の神なぞ便所紙すらの価値もないわけだ。と、勝手に言い訳するのは、やはり伝説の武器に対する敬意に他ならないのだろうか。いやはや、それはさておき、だね。今考えるべきはこの広辞・・・黙示録のことではなく。これからどうするか、ということだ・・・と、いうわけで一人座禅を組んですでに2時間ほど。矢張りというか、なんというか。まともな思考はできそうにない。今の状況では。  ちゅちゅちゅちゅちゅ、と小鳥の鳴く声が聞こえる。  何の気なしに遠くの空を見つめ、♂モンクは嘆息を吐いた。  ―――こうして見れば、この島ものどかで美しい、ごくごくありふれたものにすぎないのだ。空は青く、海は光り。鳥は舞い飛び、植物は萌え、太陽はやかましく照り映え、人々の生活が―――・・・  「・・・・ん?うん・・・うん。そうか、生活、などという生易しいレベルの話ではないのか・・・」  大空賛歌など口ずさみそうになった自分を戒めるように眉をひそめると、♂モンクはぽりぽりと頬をかいた。  もったいないなぁ。と思う。心から。  せっかく、風光明媚な、魅力あふれる島なのに。おそらく、いずこかには果実のたわわに実る樹木だってあるのだろう。もしかしたら食料になる動物がいるかもしれない。  生きていくには申し分のない空間。なのに・・・行われているのは、楽しい愉しい幸せゲーム。血の惨劇、魂の狂宴、棺の・・・  ・・・これ以上にネガな思考は止めておこう。  ともかく、何かをしよう。でなければ、落ち着かない。  しかし、瞳を閉じれば、そこに写るのは・・・  「・・・シーフたん・・・」  自分を見つめたときの、あの魔人の如き顔。  握り締めた、真紅の凶器。顔を掠めた、ナイフの風。はだけた胸、透き通るようにきめの細かい肌。  そして、鮮血。臓物。はいずり寄る死の気配・・・。  ―――自分も、ああなるべきなのかしらん?  ♂モンクの疑問は、常にそこにあった。  確かに、(狂乱の末とは言え)殺人鬼と化した彼女の行為を責めるのは簡単である。  しかし・・・それを否定したところで、それじゃあそれが正解かと問われれば、それは誰もが否と答えるであろう。  この世界。美しき箱庭の中では、正邪、善悪、正誤などの介在する余地はないのだ。あるとすれば、各々の感情と、運命のめぐり合わせ。三々五々に散った者達の、意思の通過。そして、その交差点にある審判。  言うならば、混沌の中に、自分はいるのである。  「混沌の書・・・黙示録、か・・・。」  光にも、闇にもつかず。常に『無』の象徴として存在してきた、黙示録。これが俺の手に・・・いや、尻の下にあるっちゅうのは、なんたる皮肉なんだろうか。  腰元に手を回す。背にくくりつけた荷物袋をまさぐると、中からもう一つの小箱を取り出した。残り一つの青箱。開けてびっくり玉手箱ってやつだ。  ・・・ふむ。この、狂った戯曲の舞台は、御伽噺にある竜宮城とさしたる差異はないワケか。あごに手を当て、ふいと記憶の糸をより戻す。  「・・・乙姫様のごちそうに、タイやヒラメの舞い踊り・・・ただ珍しくおもしろく、月日のたつのも夢の中・・・ねぇ・・・」  アマツに伝わるわらべ歌。冗談じゃねぇぞ、せめて乙姫様だけでも出しやがれこんちくしょう、と叫びたくもなるが、叫んだところで近寄ってくるのは哀れな殺人鬼だけ、と。なんまいだーなんまいだ。  にしても、ただ珍しくおもしろく、ってのがいけすかない。踊ってるタイヤヒラメは必死だっつーの。畜生。  あーもう、さっきから雑念ばっかり浮かんできやがって、瞑想にもなんにもなりゃしない。俺は頭を振り、ほう、と『古く蒼い箱』を見下ろした。  そして、決断する。  ・・・もし、この中から武器が出てきたら。  俺は、それを手にとり、争いの渦中へとこの身をゆだねよう。  もし、それ以外のものがでてきたら・・・。  それは、そのとき考える。うん。これは決して思考の放棄なんかじゃぁーないぞ。  うっし、こうなりゃヤケだ。もともと俺って、深く考えるのは苦手じゃないか。信じる神様がいて、笑える友達がいて、ついでに可愛い女の子でもいればso good。もう満足なんだなこれが。  ・・・だから。どんな手段をとってでも、絶対に、戻ってやるんだ。あの頃に・・・。  すいー、ふうー。すぃー・・・深呼吸を三度。  そして俺は、小箱の留め金を、小指でピンと弾いた。  ぐいと手を突っ込む。さぁー弓でも剣でも出てきやがれ。爪なんかだぞなおさらよし。この際だからベルセルクでも・・・、って。  「・・・・・・なんじゃぁー、こりゃ。」  中からでてきたのは。  風に揺られてゆーらゆら。四枚の葉っぱにすらりとのびた茎。ちょこちょこと気持ちばかりに茶色い根っこ。  『四葉のクローバー』・・・・一枚だけ。  「ちょ、押し花でもしろってかぃ?神様よぅ・・・」  ひゅるりーと舞い散る風を涙で飾りながら、俺はよいしょ、と立ち上がった。  尻のぬくもりが程よく残った広辞苑・・・やや、黙示録を手に取り、適当なページを開くと、そこに四葉のクローバーを挟み込む。  混沌の中にある幸運、と。そう考えりゃ悪くもないね。首をコキリと鳴らすと、臆病な自分をかき消すように苦笑した。  ・・・と。  ―――がさりっ、がさ、がさ・・・。  (っ!?)  突然、現れた気配。  とっさに身を木陰に隠すと、そろりと下を覗く。  もっさりとした枝葉に邪魔されて良く見えないが、どうもありゃ女の子・・・やけにゴツい装備してるとこから見ると、クルセか騎士・・・。うん、騎士だ。  だが・・・武器が見当たらない。コウモリのように標的を凝視したまま、♂モンクは首を捻る。シールドを装備しているようだが・・・  武器がない相手であれば、負ける気はしない。冷静な頭で判断すると、うん、とその考えを肯定するように頷いた。  それならば。とりあえず、今この場で、彼女にコンタクトを取ってみようか。もしも彼女が敵対心をむき出しにしてきたら、迷わず殴りまわして、残念だけど殺すしかない。  けど、上手く手を取り合うことが出来れば。きっと、良い仲間になることができるだろう。そんな気が、する。根拠ないけど。  それに。  よく見りゃ、多分、ありゃなかなかの美人だ。Oh.God。こんなチャンスをありがとう。  グッとガッツポーズ。生臭坊主?いいねぇ、タイやヒラメにしかなれねぇんなら、生臭さ上等だってんだ。  「よっ、おっ・・・とりゃっ」  スタリ。  宙を踊り、目の前に飛び降りてきた俺を見た、彼女の顔。糸を引いたようなつり目に、細く意志の強そうな眉。ツンと高い鼻。  おっしゃ、やっぱり美人じゃねえか!飛び上がりそうになりながら、俺は葉っぱだらけの体をはたこうともせず、言った。  「よう、彼女。俺っちと一緒に、生き残ってみないかい?」  ・・・ってあっちゃー、昔っから、ナンパするのだけはニガテだったってこと、忘れてた俺。ナンパ文句考えるの下手糞だな、っとー・・・。  コリコリと頬をかく俺を見て、目を見開いていた騎士は、数秒の後、緊張の糸が切れたように泣き始めたのだった。まるで子供のように。情けなく。だけど・・・  ・・・どこか、愛おしく。  <♂モンク>   髪型:アサデフォ   所持品:黙示録・四葉のクローバー   備考:諸行無常思考、楽観的 ♀騎士と同行   現在地:F-07  <♀騎士>   髪型:?   所持品:S1シールド、青箱   備考:殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない   現在地:F-07 ♂モンクと同行 ---- [[戻る>2-037]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-039]]

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