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42.♀モンクの誤算 ---- 何度目のヒールになるのだろうか、折れた肋骨は治る気配すら見せてはくれない。 それでも、痛みが少しは和らいでくれたことに感謝するべきなのだろう。 漁師小屋の中で♀モンクはひとり思う。 なぜ、自分がこの馬鹿げた戦いに参加させられたのか。 『依頼がきておる、詳細は現地で聞くが良い』 カピトリーナの長老は確かに私にそう言った。 つまりこの殺し合いは国家だけでなくカピトリーナ修道院も公認だったというわけだ。 そう考えると全てのつじつまが合う。 国家によって布かれた動員令、それに反対運動を起こしていたモンクたちの謎の失踪。 GMジョーカーは今回が4回目と言っていた。 行方不明になったモンクの数は今まで男女合わせて6人、偶然のはずがない。 なぜなら私もまた動員令に対して反対運動を起こしていたモンクのひとりなのだから。 どうする? 私はどうすればいい? 右手を首輪にそっと宛がう。冷たい感触、無機質な死神が私の命を握っているのが分かる。 私が選べる選択肢は2つ。 4日の間に最後の1人になるまで殺し合いをするゲーム、そのルールに従うか、首輪を外して脱出する方法を探すかだ。 首輪を外す、本当にそんなことができるのだろうか? そもそもこの首輪がどういう仕組みで、どういう機能を有しているかなんてことは私には分からない。 それができる可能性を持った人物がいるとすれば、その人物はよほどそういった技術に傾倒している人物のはずで、 該当する職業といえば、ウィザードやセージ、もしくはアルケミストくらいしか私には思い当たらない。 なるほど、それらの人物を探し、協力を要請することくらいしかできることはないというわけか。 細い細いロープを渡る綱渡り、成功する確率はそんな綱渡りよりもさらに低い。 それはこのゲームが4回目だということからも伝わってくる。 過去の3回に何があったのかは分からない、けれど4回目が開かれたということは 既に3回、このゲームは滞りなく行われたということだ。 配給された鞄の中身をあさる。 数日分の食料と水、地図にコンパス、青箱が2つ、それから古いカード帖が1つ。 迷わず1つめの青箱を開ける。 中から出てきたのはスロット付きのアドベンチャースーツ。 どうやらカードは挿さっていないみたいだ。 続いてもう1つの青箱を、と手を伸ばしかけたそのとき、私は小屋に近づく人の気配を感じ慌てて息を殺した。 気配は扉の前で止まっている。 息も絶え絶えだったせいでこの小屋までの足跡を消していなかったことに気付く私。 うかつだった。 浜辺に残ったあの足跡に気が付けば、小屋の中に私が居ることなんて火を見るより明らかだ。 ぐ、と歯噛みする。 扉の前の人間がこのゲームに乗っているかどうか、そこが問題だ。 ゲームに乗った殺人狂ならば、私は戦うしかない。 だが、もし仲間を探し脱出を目指そうとする同志ならば戦う必要などない。 「誰だか知らないが、入ってこい。  私は殺し合うつもりなどない、だが殺されるつもりもない」 私は見えない相手に話しかけた。 どうせ協力するか、殺し合うかの道しかない。それなら不意打ちさえけん制できればそれで良い。 ギィィ、音を立てて扉が開く。 後光に照らされ浮かび上がるシルエット。 飛び込んできた人物の井出たちに私は目を丸くした。 馴染みのあるメイド服。 そう、それはカプラサービスの職員の制服。 いつもキツイ表情を浮かべながらも、ときに私たち冒険者を励まし、 ときに優しく見守ってくれる眼鏡のカプラサービス職員グラリス、その人が目の前に現れたのだ。 「グラリス・・・?」 私の声にグラリスは優しく頷く。 はじめて見たグラリスの笑顔に私は何故だか後ずさる。 「どうしてグラリスがここに?」 一歩、グラリスが私に近づく。 私は唾をゴクリと飲み込み、身構える。 そんな私を見てグラリスはゆっくりと口を開いた。 「良かった、まだ殺されてなかったんですね」 グラリスが浮かべた安堵の表情、それを見て私もまた少しだけ安堵する。 けれど私は気付いてしまった。 グラリスにもまた死神が目を光らせていることに。 「まさか、グラリスもこのゲームに!?」 声がうまく出せない。なんて震えた声。 震えているのは怒りから、それとも恐怖から? カプラ職員とすらも殺し合わなければならないゲーム。 この国家はいったいどうなってしまったというのだろう。 声だけじゃない、握り締めた拳もまた何かに震えている。 「───大丈夫です、私はこんなゲームに乗るつもりはありませんわ」 グラリスは再び笑う。 なぜだろう、なにかが引っかかる。 また一歩、グラリスが近づく。 ドクン、ドクン、私の心臓が警鐘を鳴らす。 「───どうしたんです?顔色が良くないですわよ」 「止まれ、止まってくれ」 声が自然と荒がる。 どうしてだろう、体が目の前の彼女を敵として倒せと言っているみたいだ。 ハァ、ハァ。 対峙しているだけで呼吸が乱れ、汗が噴き出し、心がおかしくなってくる。 「困りましたわね。アナタ、だいぶ疲れてるみたいですわ」 わからない、彼女の笑顔がひどく恐ろしい。 わからない、彼女の言動、そのひとつひとつがひどく恐ろしい。 すそに付いた砂を気にしたのか、ぽんぽんと左手で払うグラリス。 まだどちらの間合いでもない距離。 私はなんて愚かだったんだろう。 こんな状況で他人を頼れるはずなんてない。 こんな状況で他人の言葉が信じられるはずもない。 こんな状況で─── ───殺さずにいられるはずがない 「アァアァァァアアアア」 狂乱の雄叫びと共に残影と呼ばれる歩法で踏み込む♀モンク。 だがその動きはとても残影とは呼べない。 肋骨を折られた彼女の動きは、たとえ痛みが少なくとも、本調子からは程遠かったのだ。 グラリスは、自ら破ったのかスカートのスリット部分に右手を入れ、何かを取り出す。 ♀モンクが繰り出すのは気を利用した掌打である発勁。 二人の距離が♀モンクの間合いと重なり、グラリスの腹部に掌が押し当てられる。 「「───!!───」」 時が止まったかのように固まったままのふたり。 抜刀し、剣を振り切った体勢のまま動かないグラリス。 そして─── どさり、その場に崩れ落ちる体。 崩れ落ちたのは首だけがない♀モンクの体。 びゅくびゅくとあふれ出す血の噴水が小屋の中を紅く染めて行く。 紅い、カプラ職員の制服が、純白のエプロンが返り血で紅い。 グラリスは右手のTBlバスタードソードをスカートの内側に隠すように結わえ付けた鞘へと仕舞い込む。 眼鏡を一度スッとかけ直し、♀モンクの死体と、奥に転がった首を見やる。 「本当に良かった、アナタがまだ殺されていなくて」 あと8人、そう呟いてグラリスは床に置いてあった未開封の青箱と古いカード帖を拾い上げ、 自らの鞄へと押し込んだ。 <グラリス> 現在位置-北東の浜辺の小屋(G-3) 所持品-TBlバスタードソード 連弩 普通の矢筒 案内要員の鞄 ♀モンクの青箱 古いカード帖 外見特徴-グラリス 備考-♀モンクの返り血で制服は紅く染まっている、S1アドベンチャースーツは放置 <♀モンク> 現在位置-北東の浜辺の小屋(G-3) 備考-死亡 <残り45名> [[戻る>2-041]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-043]]
42.♀モンクの誤算 ---- 何度目のヒールになるのだろうか、折れた肋骨は治る気配すら見せてはくれない。 それでも、痛みが少しは和らいでくれたことに感謝するべきなのだろう。 漁師小屋の中で♀モンクはひとり思う。 なぜ、自分がこの馬鹿げた戦いに参加させられたのか。 『依頼がきておる、詳細は現地で聞くが良い』 カピトリーナの長老は確かに私にそう言った。 つまりこの殺し合いは国家だけでなくカピトリーナ修道院も公認だったというわけだ。 そう考えると全てのつじつまが合う。 国家によって布かれた動員令、それに反対運動を起こしていたモンクたちの謎の失踪。 GMジョーカーは今回が4回目と言っていた。 行方不明になったモンクの数は今まで男女合わせて6人、偶然のはずがない。 なぜなら私もまた動員令に対して反対運動を起こしていたモンクのひとりなのだから。 どうする? 私はどうすればいい? 右手を首輪にそっと宛がう。冷たい感触、無機質な死神が私の命を握っているのが分かる。 私が選べる選択肢は2つ。 4日の間に最後の1人になるまで殺し合いをするゲーム、そのルールに従うか、首輪を外して脱出する方法を探すかだ。 首輪を外す、本当にそんなことができるのだろうか? そもそもこの首輪がどういう仕組みで、どういう機能を有しているかなんてことは私には分からない。 それができる可能性を持った人物がいるとすれば、その人物はよほどそういった技術に傾倒している人物のはずで、 該当する職業といえば、ウィザードやセージ、もしくはアルケミストくらいしか私には思い当たらない。 なるほど、それらの人物を探し、協力を要請することくらいしかできることはないというわけか。 細い細いロープを渡る綱渡り、成功する確率はそんな綱渡りよりもさらに低い。 それはこのゲームが4回目だということからも伝わってくる。 過去の3回に何があったのかは分からない、けれど4回目が開かれたということは 既に3回、このゲームは滞りなく行われたということだ。 配給された鞄の中身をあさる。 数日分の食料と水、地図にコンパス、青箱が2つ、それから古いカード帖が1つ。 迷わず1つめの青箱を開ける。 中から出てきたのはスロット付きのアドベンチャースーツ。 どうやらカードは挿さっていないみたいだ。 続いてもう1つの青箱を、と手を伸ばしかけたそのとき、私は小屋に近づく人の気配を感じ慌てて息を殺した。 気配は扉の前で止まっている。 息も絶え絶えだったせいでこの小屋までの足跡を消していなかったことに気付く私。 うかつだった。 浜辺に残ったあの足跡に気が付けば、小屋の中に私が居ることなんて火を見るより明らかだ。 ぐ、と歯噛みする。 扉の前の人間がこのゲームに乗っているかどうか、そこが問題だ。 ゲームに乗った殺人狂ならば、私は戦うしかない。 だが、もし仲間を探し脱出を目指そうとする同志ならば戦う必要などない。 「誰だか知らないが、入ってこい。  私は殺し合うつもりなどない、だが殺されるつもりもない」 私は見えない相手に話しかけた。 どうせ協力するか、殺し合うかの道しかない。それなら不意打ちさえけん制できればそれで良い。 ギィィ、音を立てて扉が開く。 後光に照らされ浮かび上がるシルエット。 飛び込んできた人物の井出たちに私は目を丸くした。 馴染みのあるメイド服。 そう、それはカプラサービスの職員の制服。 いつもキツイ表情を浮かべながらも、ときに私たち冒険者を励まし、 ときに優しく見守ってくれる眼鏡のカプラサービス職員グラリス、その人が目の前に現れたのだ。 「グラリス・・・?」 私の声にグラリスは優しく頷く。 はじめて見たグラリスの笑顔に私は何故だか後ずさる。 「どうしてグラリスがここに?」 一歩、グラリスが私に近づく。 私は唾をゴクリと飲み込み、身構える。 そんな私を見てグラリスはゆっくりと口を開いた。 「良かった、まだ殺されてなかったんですね」 グラリスが浮かべた安堵の表情、それを見て私もまた少しだけ安堵する。 けれど私は気付いてしまった。 グラリスにもまた死神が目を光らせていることに。 「まさか、グラリスもこのゲームに!?」 声がうまく出せない。なんて震えた声。 震えているのは怒りから、それとも恐怖から? カプラ職員とすらも殺し合わなければならないゲーム。 この国家はいったいどうなってしまったというのだろう。 声だけじゃない、握り締めた拳もまた何かに震えている。 「───大丈夫です、私はこんなゲームに乗るつもりはありませんわ」 グラリスは再び笑う。 なぜだろう、なにかが引っかかる。 また一歩、グラリスが近づく。 ドクン、ドクン、私の心臓が警鐘を鳴らす。 「───どうしたんです?顔色が良くないですわよ」 「止まれ、止まってくれ」 声が自然と荒がる。 どうしてだろう、体が目の前の彼女を敵として倒せと言っているみたいだ。 ハァ、ハァ。 対峙しているだけで呼吸が乱れ、汗が噴き出し、心がおかしくなってくる。 「困りましたわね。アナタ、だいぶ疲れてるみたいですわ」 わからない、彼女の笑顔がひどく恐ろしい。 わからない、彼女の言動、そのひとつひとつがひどく恐ろしい。 すそに付いた砂を気にしたのか、ぽんぽんと左手で払うグラリス。 まだどちらの間合いでもない距離。 私はなんて愚かだったんだろう。 こんな状況で他人を頼れるはずなんてない。 こんな状況で他人の言葉が信じられるはずもない。 こんな状況で─── ───殺さずにいられるはずがない 「アァアァァァアアアア」 狂乱の雄叫びと共に残影と呼ばれる歩法で踏み込む♀モンク。 だがその動きはとても残影とは呼べない。 肋骨を折られた彼女の動きは、たとえ痛みが少なくとも、本調子からは程遠かったのだ。 グラリスは、自ら破ったのかスカートのスリット部分に右手を入れ、何かを取り出す。 ♀モンクが繰り出すのは気を利用した掌打である発勁。 二人の距離が♀モンクの間合いと重なり、グラリスの腹部に掌が押し当てられる。 「「───!!───」」 時が止まったかのように固まったままのふたり。 抜刀し、剣を振り切った体勢のまま動かないグラリス。 そして─── どさり、その場に崩れ落ちる体。 崩れ落ちたのは首だけがない♀モンクの体。 びゅくびゅくとあふれ出す血の噴水が小屋の中を紅く染めて行く。 紅い、カプラ職員の制服が、純白のエプロンが返り血で紅い。 グラリスは右手のTBlバスタードソードをスカートの内側に隠すように結わえ付けた鞘へと仕舞い込む。 眼鏡を一度スッとかけ直し、♀モンクの死体と、奥に転がった首を見やる。 「本当に良かった、アナタがまだ殺されていなくて」 あと8人、そう呟いてグラリスは床に置いてあった未開封の青箱と古いカード帖を拾い上げ、 自らの鞄へと押し込んだ。 <グラリス> 現在位置-北東の浜辺の小屋(G-3) 所持品-TBlバスタードソード 連弩 普通の矢筒 案内要員の鞄 ♀モンクの青箱 古いカード帖 外見特徴-グラリス 備考-♀モンクの返り血で制服は紅く染まっている、S1アドベンチャースーツは放置 <♀モンク> 現在位置-北東の浜辺の小屋(G-3) 備考-死亡 <残り45名> ---- [[戻る>2-041]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-043]]

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