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第57話 馬鹿と秀才 ----  ―――視界は、前後不覚。左右天地、私を包む空間そのものが、まるで漆黒の海。オニキスにも似たその闇の中に、少女の姿がふわりと浮かんでいるのを―――私は、意識のみの形となって、一人見つめている。もしかしたら、この闇自体が私なのかもしれない。意識の海。混濁した思考。黒。  影すら残さぬ闇の渦中。へたり込んだ少女はおいおいと泣き咽びながら、涙を必死に拭うように、顔を服にごしごしとこすり付ける。その腕に、蒼い打撲の跡。見れば、足首には白い湿布が巻かれており、痛々しく膨れ上がっていた。脚をくじいているのだ、あの少女は。私はおぼろげに理解する。そして、少女の顔が、一般的に言う「醜い」顔立ちで、体つきもまるでオークの如く肥えていて、身につけている衣服は実に粗末で・・・。まるで襤褸切れをまとう愚かな豚のようにしか見えず、実際彼女は常日頃、雌豚だとか、豚足だとかいう風に周囲にからかわれているのも、私は理解している。  あれは、過去の私だ。  私が魔道を志し、世界の心理を求めている、真実の理由。私の、過去。トラウマ。傷。そういったもの。気がつけば、醜い豚だった。哀れな乞食。捨て子。野良犬。  残飯を食って生き延び、だけどとある不作の冬。それまでがウソだったかのように、疲弊とストレスでげっそりとやせ細った姿で教会に拾われた、少女。それが、私。  ・・・どうして、人間は不公平なのだろうか、ということ。  どうして、私は醜く生まれ、人はその醜さゆえに私を排斥したのか、ということ。自然の摂理や、精霊の存在の如何ではなく、なぜ世界は、こうも矛盾していて、綻びにまみれていて・・・私は不幸だったのか、ということ。  私が求めているのは、そういった事に対する『答え』だった。  もしかしたら本当は、答えなどないのかもしれない。人の心は醜く、世界は汚泥に満ちている。それは、私自身よく理解している。  だけど・・・人の心には、必ずどこか、輝石の如く輝く一部分があるはずで。必ずしもすべてが腐りきっているはずではないのだ。  それを証明するために、私はあらゆる学問を貪った。魔術理論は基礎から応用まで一通り済ませ、今では博学者と呼ばれるほどになった。医学や心理学も学んだ。薬学にも通じた。いつしかそれは心理を求める学問へと続き、知的生物としては最高位に位置する、竜の研究にまで至った。  ・・・医学を学ぶ過程で、私は自らの顔を整形した。  手術自体は簡単なもの。知り合いのアルケミストに頼み込み、アシッドボトルを数本譲ってもらう。アンティペインメントで一時的に顔面の痛覚を麻痺させ―――後は想像に任せよう。結果、手術は成功し、私は世間的に言う『美人』へと昇華した。  しかし・・・たとえ容姿が変わったところで、何かが劇的に変わったわけでもなく。私は今でも、過去に縛られて生きている。 ++++++++++  夜、だった。  無事に砂漠を抜けて、二時間。北の森に踏み込んだ私は、そこから西へと移動していた。特に深い意味はないのだが・・・西の方角に見えた巨木が、少々気になった。  もしかしたら、誰かがそこにいるかもしれない。このゲーム、生き残るために殺すにしろ手を取り合うにしろ、とにかく誰かと遭遇せねばなるまい。私は冷めた頭でそう考えていた。  しかし、さすがにこれだけ呪詩を紡ぎながらの長時間移動をすると、体力もそうだが精神力が磨り減る。だから私は、巨木が大分近くにあることを確認すると、傍にあった木のうろの中で、少しの時間瞑想を(SPR回復とも呼べる)していたのだった。  体力の回復を感じた私は、髪の毛をかきあげると闇に目を凝らす。うろから顔を覗かせると、神経を尖らせて、あらゆる物音に耳を澄ませ・・・その中に雑音が混じっていないことを確認して、ほう、と安堵の息を吐いた。  今日はもう、ここで朝を待とう。下手に動くと戻れなくなる可能性がある。漆黒の中を不用意に歩くほど、私は馬鹿じゃない。  ・・・と、不意に。  がさり、という音と、小さな呼吸音が耳についた。  私が思考を回転させる間もなく。危なげない足つきで、何者かが木の傍へ近寄ってくる。不用意にもたいまつを掲げているらしい。赤々とした明かりが地面を照らしている。  息を凝らしたまま、私はコンパスを手に取ると、鏡のように磨き上げた底面をそっと掲げた。空洞を染める闇に、金属が硬質な光を投げかける。コンパスの底・・・金属面に、映る男の姿。服装からして、剣士のようだ。  人影は、ゆっくりと私のいる場所まで近づいて来て・・・  「・・・よし、ここならきっと安全だ。今日はこの中で一夜をっとぉうわぇぁあ!?」  私の姿を視認し、まるで幽霊でも見たかのように怯えて飛び上がった。確かに、無人だと思っていた木の空洞の中に、女がうずくまって座っていようとは誰も想像しないだろうが・・・。  すっくと立ち上がると、私は呪文を詠唱したまま、その剣士へと歩み寄る。恐慌状態に陥っているらしく、目を白黒させて腰を抜かす様は、まるで亀のようだ。  情けない・・・私があきれた表情を浮かべたのを見て取ったか、剣士は顔を赤くしたまま急に顔を引き締めると、  「あの、おお、お一人ですか!?」  唐突な問いに、私はコールドボルトの詠唱を止めた。呪文のかわりに、そうだ、とうなずく。たたずむ私の前で、剣士は言葉を選ぶように、  「い・・・今まで誰かを殺したり、してますか!?」  私はゆっくりと首を横に振った。剣士が、それに安堵したかのように息をつく。すい、と立ち上がると、真剣な顔つきで、  「あの、それじゃ、人を殺して自分は生き残っちゃおうかな、とか思ってますか?」  「そんなことを聞いてどうするんだ?   私が口で殺人の意志の有無を答えたところで、お前はそれを信じるつもりなのか?この『ゲーム』の中で。」  その言葉に対し、剣士は一瞬だけ、顔を曇らせる。しかし、次の瞬間には、その太い眉をキッと寄せていた。  「だけど・・・だけど・・・僕は、信じたいんです。人は、結託できるって。必ずしも争うだけが道じゃないんだ、って。今こそ、試されるときなんじゃないかなぁ、って。   だから僕は・・・剣士学校じゃ落ちこぼれだったけど・・・力なんてない・・・けど、このゲームに乗るつもりなんか毛頭なくって。絶対、この島から抜け出すって・・・誰も殺さずに、生きて帰れる、って。信じてるんです」  「それは・・・なんとも甘い考えだな」  唇を噛むと、剣士は私をじっと見つめる。図星なのだろう。  「で、でも・・・きっと・・・人は、争わずに生きることが、できるはずなんです・・・・。   だから、僕は・・・僕は、そのための、盾になりたい・・・」  呆れた・・・私は嘆息を落とすと、剣士をつま先から頭の先まで眺めた。  実直そうな顔つき。不器用な手で作られた、無骨な木刀。掲げた松明。頭が回る、とは到底言えそうにないし、おそらく器用な人間でもないだろう。  しかし・・・どう見ても馬鹿だが・・・悪くない。  「・・・・・・もしも、あなたが僕と同じ考えをお持ちでしたら。   僕に・・・護らせてくれませんか?―――あなたを。」  私を、か・・・?不意を疲れたように答えた私に向かって、青年はコクリとうなずいた。そして、共に生き抜きましょう、と、強い語調で言った。  私は・・・先ほどまで見ていた、自らの過去を思い出し・・・・・・この青年に、賭けてみよう。そう、思った。  「―――それじゃ・・・そうだな。頼む。」  ぱぁっと顔を晴れやかにする情けない剣士。その武装や顔を見つめて、ずいぶん分の悪い賭けだな、とは頭の隅で考えつつも。  だけど、この不器用な青年なら、もしかしたら『答え』を見せてくれるかもしれない、と。私は無意識のうちに微笑んでいた。  ―――そして、私と、彼の、奇妙な・・・冒険と言うにはお粗末な、生存のための珍道中が始まった。  <♀セージ>  現在位置-島の中央部の森、巨木の傍(F-7)  所持品-幸運剣、トーキーボックス、支給品  外見特徴-緑色のロングヘアー(csf:4j0i40h2) 、整形美人  口調・性格-沈着冷静、博学。必要なこと以外はあまり口にしないタイプ。過去のトラウマから、感情を殺す癖がある。  備考-高INT 習得スキル フリーキャスト、ドラゴノロジー、スペルブレイカー、全ボルト系(五色セージ) 過去にトラウマ有 ♂剣士と同行  <♂剣士>  現在位置-島の中央部の森、巨木の傍(E-7)  所持品-手製の木刀、s4ナイフ、熱血鉢巻  外見特徴-ノビデフォ髪 (csm:4g022?)  口調・性格-丁寧な口調だが、混乱しやすい。素朴。鈍感。あまり頭は良くない。  備考-JOB45 両手剣剣士 不器用 剣士学校では落ちこぼれだった。 ---- | [[戻る>2-056]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-058]] |
第57話 馬鹿と秀才 ----  ―――視界は、前後不覚。左右天地、私を包む空間そのものが、まるで漆黒の海。オニキスにも似たその闇の中に、少女の姿がふわりと浮かんでいるのを―――私は、意識のみの形となって、一人見つめている。もしかしたら、この闇自体が私なのかもしれない。意識の海。混濁した思考。黒。  影すら残さぬ闇の渦中。へたり込んだ少女はおいおいと泣き咽びながら、涙を必死に拭うように、顔を服にごしごしとこすり付ける。その腕に、蒼い打撲の跡。見れば、足首には白い湿布が巻かれており、痛々しく膨れ上がっていた。脚をくじいているのだ、あの少女は。私はおぼろげに理解する。そして、少女の顔が、一般的に言う「醜い」顔立ちで、体つきもまるでオークの如く肥えていて、身につけている衣服は実に粗末で・・・。まるで襤褸切れをまとう愚かな豚のようにしか見えず、実際彼女は常日頃、雌豚だとか、豚足だとかいう風に周囲にからかわれているのも、私は理解している。  あれは、過去の私だ。  私が魔道を志し、世界の心理を求めている、真実の理由。私の、過去。トラウマ。傷。そういったもの。気がつけば、醜い豚だった。哀れな乞食。捨て子。野良犬。  残飯を食って生き延び、だけどとある不作の冬。それまでがウソだったかのように、疲弊とストレスでげっそりとやせ細った姿で教会に拾われた、少女。それが、私。  ・・・どうして、人間は不公平なのだろうか、ということ。  どうして、私は醜く生まれ、人はその醜さゆえに私を排斥したのか、ということ。自然の摂理や、精霊の存在の如何ではなく、なぜ世界は、こうも矛盾していて、綻びにまみれていて・・・私は不幸だったのか、ということ。  私が求めているのは、そういった事に対する『答え』だった。  もしかしたら本当は、答えなどないのかもしれない。人の心は醜く、世界は汚泥に満ちている。それは、私自身よく理解している。  だけど・・・人の心には、必ずどこか、輝石の如く輝く一部分があるはずで。必ずしもすべてが腐りきっているはずではないのだ。  それを証明するために、私はあらゆる学問を貪った。魔術理論は基礎から応用まで一通り済ませ、今では博学者と呼ばれるほどになった。医学や心理学も学んだ。薬学にも通じた。いつしかそれは心理を求める学問へと続き、知的生物としては最高位に位置する、竜の研究にまで至った。  ・・・医学を学ぶ過程で、私は自らの顔を整形した。  手術自体は簡単なもの。知り合いのアルケミストに頼み込み、アシッドボトルを数本譲ってもらう。アンティペインメントで一時的に顔面の痛覚を麻痺させ―――後は想像に任せよう。結果、手術は成功し、私は世間的に言う『美人』へと昇華した。  しかし・・・たとえ容姿が変わったところで、何かが劇的に変わったわけでもなく。私は今でも、過去に縛られて生きている。 ++++++++++  夜、だった。  無事に砂漠を抜けて、二時間。北の森に踏み込んだ私は、そこから西へと移動していた。特に深い意味はないのだが・・・西の方角に見えた巨木が、少々気になった。  もしかしたら、誰かがそこにいるかもしれない。このゲーム、生き残るために殺すにしろ手を取り合うにしろ、とにかく誰かと遭遇せねばなるまい。私は冷めた頭でそう考えていた。  しかし、さすがにこれだけ呪詩を紡ぎながらの長時間移動をすると、体力もそうだが精神力が磨り減る。だから私は、巨木が大分近くにあることを確認すると、傍にあった木のうろの中で、少しの時間瞑想を(SPR回復とも呼べる)していたのだった。  体力の回復を感じた私は、髪の毛をかきあげると闇に目を凝らす。うろから顔を覗かせると、神経を尖らせて、あらゆる物音に耳を澄ませ・・・その中に雑音が混じっていないことを確認して、ほう、と安堵の息を吐いた。  今日はもう、ここで朝を待とう。下手に動くと戻れなくなる可能性がある。漆黒の中を不用意に歩くほど、私は馬鹿じゃない。  ・・・と、不意に。  がさり、という音と、小さな呼吸音が耳についた。  私が思考を回転させる間もなく。危なげない足つきで、何者かが木の傍へ近寄ってくる。不用意にもたいまつを掲げているらしい。赤々とした明かりが地面を照らしている。  息を凝らしたまま、私はコンパスを手に取ると、鏡のように磨き上げた底面をそっと掲げた。空洞を染める闇に、金属が硬質な光を投げかける。コンパスの底・・・金属面に、映る男の姿。服装からして、剣士のようだ。  人影は、ゆっくりと私のいる場所まで近づいて来て・・・  「・・・よし、ここならきっと安全だ。今日はこの中で一夜をっとぉうわぇぁあ!?」  私の姿を視認し、まるで幽霊でも見たかのように怯えて飛び上がった。確かに、無人だと思っていた木の空洞の中に、女がうずくまって座っていようとは誰も想像しないだろうが・・・。  すっくと立ち上がると、私は呪文を詠唱したまま、その剣士へと歩み寄る。恐慌状態に陥っているらしく、目を白黒させて腰を抜かす様は、まるで亀のようだ。  情けない・・・私があきれた表情を浮かべたのを見て取ったか、剣士は顔を赤くしたまま急に顔を引き締めると、  「あの、おお、お一人ですか!?」  唐突な問いに、私はコールドボルトの詠唱を止めた。呪文のかわりに、そうだ、とうなずく。たたずむ私の前で、剣士は言葉を選ぶように、  「い・・・今まで誰かを殺したり、してますか!?」  私はゆっくりと首を横に振った。剣士が、それに安堵したかのように息をつく。すい、と立ち上がると、真剣な顔つきで、  「あの、それじゃ、人を殺して自分は生き残っちゃおうかな、とか思ってますか?」  「そんなことを聞いてどうするんだ?   私が口で殺人の意志の有無を答えたところで、お前はそれを信じるつもりなのか?この『ゲーム』の中で。」  その言葉に対し、剣士は一瞬だけ、顔を曇らせる。しかし、次の瞬間には、その太い眉をキッと寄せていた。  「だけど・・・だけど・・・僕は、信じたいんです。人は、結託できるって。必ずしも争うだけが道じゃないんだ、って。今こそ、試されるときなんじゃないかなぁ、って。   だから僕は・・・剣士学校じゃ落ちこぼれだったけど・・・力なんてない・・・けど、このゲームに乗るつもりなんか毛頭なくって。絶対、この島から抜け出すって・・・誰も殺さずに、生きて帰れる、って。信じてるんです」  「それは・・・なんとも甘い考えだな」  唇を噛むと、剣士は私をじっと見つめる。図星なのだろう。  「で、でも・・・きっと・・・人は、争わずに生きることが、できるはずなんです・・・・。   だから、僕は・・・僕は、そのための、盾になりたい・・・」  呆れた・・・私は嘆息を落とすと、剣士をつま先から頭の先まで眺めた。  実直そうな顔つき。不器用な手で作られた、無骨な木刀。掲げた松明。頭が回る、とは到底言えそうにないし、おそらく器用な人間でもないだろう。  しかし・・・どう見ても馬鹿だが・・・悪くない。  「・・・・・・もしも、あなたが僕と同じ考えをお持ちでしたら。   僕に・・・護らせてくれませんか?―――あなたを。」  私を、か・・・?不意を疲れたように答えた私に向かって、青年はコクリとうなずいた。そして、共に生き抜きましょう、と、強い語調で言った。  私は・・・先ほどまで見ていた、自らの過去を思い出し・・・・・・この青年に、賭けてみよう。そう、思った。  「―――それじゃ・・・そうだな。頼む。」  ぱぁっと顔を晴れやかにする情けない剣士。その武装や顔を見つめて、ずいぶん分の悪い賭けだな、とは頭の隅で考えつつも。  だけど、この不器用な青年なら、もしかしたら『答え』を見せてくれるかもしれない、と。私は無意識のうちに微笑んでいた。  ―――そして、私と、彼の、奇妙な・・・冒険と言うにはお粗末な、生存のための珍道中が始まった。  <♀セージ>  現在位置-島の中央部の森、巨木の傍(F-7)  所持品-幸運剣、トーキーボックス、支給品  外見特徴-緑色のロングヘアー(csf:4j0i40h2) 、整形美人  口調・性格-沈着冷静、博学。必要なこと以外はあまり口にしないタイプ。過去のトラウマから、感情を殺す癖がある。  備考-高INT 習得スキル フリーキャスト、ドラゴノロジー、スペルブレイカー、全ボルト系(五色セージ) 過去にトラウマ有 ♂剣士と同行  <♂剣士>  現在位置-島の中央部の森、巨木の傍(F-7)  所持品-手製の木刀、s4ナイフ、熱血鉢巻  外見特徴-ノビデフォ髪 (csm:4g022?)  口調・性格-丁寧な口調だが、混乱しやすい。素朴。鈍感。あまり頭は良くない。  備考-JOB45 両手剣剣士 不器用 剣士学校では落ちこぼれだった。 ---- | [[戻る>2-056]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-058]] |

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