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065 Ice Coffin ---- 「う・・・く・・・・・・っ・・・」   男は、悪夢を見ていた。   ―――冷たい、冷たい棺の中。   辺りを見渡そうにも、首が凍りついたかのように動かず。ただ、眼前にのっぺりと広がる天井――らしきもの――のみが、現実を示すように色彩を放って存在している。   それは、真紅。紅を引いた女性の唇にも似た、あでやかで美しい赤。   しかし、それはどこか布のようにも見える。闇に覆われて、よく見えないが。   てらてらと照り返す光沢。白。これは、布?いや、しかし布にしては奇妙だ。それでは、コレは何なのだ。   ・・・今、自分はどこにいるのか。   それが、男にはどうしてもわからなかった。   ただ、仰向けになって、どこか狭い空間に閉じ込められている、ということだけが頭の隅で理解できている。   しかし、ここはどこで?どうやって?どういう理由で?自分はこの不気味な空間に存在しているのか、ということ。   求道者である男にとって、『知らない』ということは最も畏怖すべきことであり、また、『知らない』男は、まるで無垢な赤子と同義の恐怖をその身に宿していた。   やがて、金縛りに合ったかのように動けなかった男の体にも、変化がおき始める。   足元が(もしくは足が存在すると思われる箇所が)急激に熱を帯び始めたのだ。   男は混乱した。なんだこれは?苦痛や疲弊ではない。純粋な、熱。その感覚を体感したことのない男は、それだけで戦いていた。   熱は、巨獣が獲物をじっとりと舐めるように、徐々に男の体を上り始める。   足・・・膝・・・太もも・・・腰・・・そして、腹・・・   そして、その熱が下腹まで来たとき、困惑していた男は、視界の変化に気づいた。   ―――目の前の『赤』が、徐々に歪み始めている。   どういうことだ・・・最早、それは狂乱だった。   男はとにかくこの場所から逃げようと、必死に体を起こそうとする。   しかし、男は理解していない。逃げ場など、どこにもないのだ。   そして、熱が胸元まで来たとき。   やっと―――男は、理解してしまった。   つまり、目の前の真紅は、本当に布であって。   先ほどから体を上り詰めてきているのは、本当に熱であって。   この、狭く暗い、奇妙な空間は、、、、、、   ニゲラレナイ、   男は諦めていた。   そうだ、ここは私の―――   ―――どこからか、趣味の悪い音楽が聞こえる。   パイプオルガンの音色で飾られたそれは、何時か、どこかで聞いたもの。   ああ、そうだ。   かつて、私の愛した女。   生涯で、唯一愛した女。   あの女が死んだ時。   その棺に、私が自ら火を点したとき。   教会の神父が、自ら弾き上げた。   これは、あの時の鎮魂歌(レクイエム)・・・。   轟、と熱がすべてを蹂躙し。   そして、私の意識も炎の燃えかすとなって、炭化した。   +++++++   男が目を覚ましたとき、辺りはすでに薄暮に包まれていた。   はっと自らの体を有無を確認し、男は現実の優しさに息を吐く。   ―――大丈夫だ、私はまだ、殺されていない。   先ほどのはただの夢であって、今私は現に生きている。そうだ。アレは夢なんだ・・・。   だが、男にとって、最も忌避すべき悪夢であった、先ほどの体感。   男の体は、恐怖のためか細かく震え、時々呼吸にえづきが混じった。   ―――かつて男には、人生を通して唯一愛した女性がいた。     彼女は、常に無口で無表情な男を笑わせようと、いつも道化のような笑みを浮かべ、くだらないジョークや子供だましの実験をしては私に得意顔で『どうだ!』と笑いかけていて。   それに対し、私は冷たいまなざししか返せなかったけれども。   だけど、それは幸せと呼べる、かもしれない時間だった。お粗末だが、私にはそのような表現しか出来ない。   常日頃研究室に篭って魔道の研究に没頭していた私にとって、俗世の人間の抱く感情など、それまで単なる実験対象にしか過ぎなかったからだ。   だから、彼女の――魔術教会から派遣された、私の実験助手であった――浮かべる笑みは、私を惑わしてしまうにはあまりにも凶悪で。そして絶対的。   されど・・・現実はあまりにも冷酷で。   彼女は、私の目の前で、熱病のために儚く息を引き取った。   冷たくなった彼女を抱いて。   私は、それまで感情というものを切り離した生活をすごしていた私は、当然のように泣くことすらできず。   ただ、人形のように呆けて、その現実を直視することしか出来なかった。   そして、彼女への、狂おしいまでの愛も、そのときになってやっとその身に、純粋に感じることが出来た。   私は、彼女の遺体を自らの手で焼却することを、神父に懇願した。   神父は快くうなずいた。   しかし、彼はわかっていないのだ。   濃紺に塗られた棺、それを舐めゆく業火を見下ろして、私は冷たい思考に波紋を浮かべる。   右手に残った、小さな小さな、彼女の破片。   一本の歯・・・これから、一人の人間を再生できないか。   アルケミストの研究しているホムンクルス(人造生物)ではなく。   どちらかといえば、ゴーレム(土くれ人形)やムナックのそれに近い、有機的で意識を持つ、擬似生命。ウィザードである私でも作成可能な。   しかし、それは彼女の意思を持つ・・・。   「く、くくく・・・ふは・・・ははは・・・」   額を指で押さえ、私は笑みを浮かべた。   脂汗にまみれた顔。モノクル(片眼鏡)。そうだ。私は、『研究』しなければならないのだ。   そう・・・すべては、愛する彼女のため・・・。 [容姿]暗闇のような黒髪、土気色をした肌(2-008)     片目眼鏡(2-008) [口調] 丁寧 [性格] 残酷、サディスト [備考]倫理感が希薄 =所持品= コンバットナイフ、片目眼鏡 =状 態= 現在位置 C-5付近を南下中 目的 「研究」のために他者を殺害 | [[戻る>2-064]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-066]] |
065 Ice Coffin ---- 「う・・・く・・・・・・っ・・・」   男は、悪夢を見ていた。   ―――冷たい、冷たい棺の中。   辺りを見渡そうにも、首が凍りついたかのように動かず。ただ、眼前にのっぺりと広がる天井――らしきもの――のみが、現実を示すように色彩を放って存在している。   それは、真紅。紅を引いた女性の唇にも似た、あでやかで美しい赤。   しかし、それはどこか布のようにも見える。闇に覆われて、よく見えないが。   てらてらと照り返す光沢。白。これは、布?いや、しかし布にしては奇妙だ。それでは、コレは何なのだ。   ・・・今、自分はどこにいるのか。   それが、男にはどうしてもわからなかった。   ただ、仰向けになって、どこか狭い空間に閉じ込められている、ということだけが頭の隅で理解できている。   しかし、ここはどこで?どうやって?どういう理由で?自分はこの不気味な空間に存在しているのか、ということ。   求道者である男にとって、『知らない』ということは最も畏怖すべきことであり、また、『知らない』男は、まるで無垢な赤子と同義の恐怖をその身に宿していた。   やがて、金縛りに合ったかのように動けなかった男の体にも、変化がおき始める。   足元が(もしくは足が存在すると思われる箇所が)急激に熱を帯び始めたのだ。   男は混乱した。なんだこれは?苦痛や疲弊ではない。純粋な、熱。その感覚を体感したことのない男は、それだけで戦いていた。   熱は、巨獣が獲物をじっとりと舐めるように、徐々に男の体を上り始める。   足・・・膝・・・太もも・・・腰・・・そして、腹・・・   そして、その熱が下腹まで来たとき、困惑していた男は、視界の変化に気づいた。   ―――目の前の『赤』が、徐々に歪み始めている。   どういうことだ・・・最早、それは狂乱だった。   男はとにかくこの場所から逃げようと、必死に体を起こそうとする。   しかし、男は理解していない。逃げ場など、どこにもないのだ。   そして、熱が胸元まで来たとき。   やっと―――男は、理解してしまった。   つまり、目の前の真紅は、本当に布であって。   先ほどから体を上り詰めてきているのは、本当に熱であって。   この、狭く暗い、奇妙な空間は、、、、、、   ニゲラレナイ、   男は諦めていた。   そうだ、ここは私の―――   ―――どこからか、趣味の悪い音楽が聞こえる。   パイプオルガンの音色で飾られたそれは、何時か、どこかで聞いたもの。   ああ、そうだ。   かつて、私の愛した女。   生涯で、唯一愛した女。   あの女が死んだ時。   その棺に、私が自ら火を点したとき。   教会の神父が、自ら弾き上げた。   これは、あの時の鎮魂歌(レクイエム)・・・。   轟、と熱がすべてを蹂躙し。   そして、私の意識も炎の燃えかすとなって、炭化した。   +++++++   男が目を覚ましたとき、辺りはすでに薄暮に包まれていた。   はっと自らの体を有無を確認し、男は現実の優しさに息を吐く。   ―――大丈夫だ、私はまだ、殺されていない。   先ほどのはただの夢であって、今私は現に生きている。そうだ。アレは夢なんだ・・・。   だが、男にとって、最も忌避すべき悪夢であった、先ほどの体感。   男の体は、恐怖のためか細かく震え、時々呼吸にえづきが混じった。   ―――かつて男には、人生を通して唯一愛した女性がいた。     彼女は、常に無口で無表情な男を笑わせようと、いつも道化のような笑みを浮かべ、くだらないジョークや子供だましの実験をしては私に得意顔で『どうだ!』と笑いかけていて。   それに対し、私は冷たいまなざししか返せなかったけれども。   だけど、それは幸せと呼べる、かもしれない時間だった。お粗末だが、私にはそのような表現しか出来ない。   常日頃研究室に篭って魔道の研究に没頭していた私にとって、俗世の人間の抱く感情など、それまで単なる実験対象にしか過ぎなかったからだ。   だから、彼女の――魔術教会から派遣された、私の実験助手であった――浮かべる笑みは、私を惑わしてしまうにはあまりにも凶悪で。そして絶対的。   されど・・・現実はあまりにも冷酷で。   彼女は、私の目の前で、熱病のために儚く息を引き取った。   冷たくなった彼女を抱いて。   私は、それまで感情というものを切り離した生活をすごしていた私は、当然のように泣くことすらできず。   ただ、人形のように呆けて、その現実を直視することしか出来なかった。   そして、彼女への、狂おしいまでの愛も、そのときになってやっとその身に、純粋に感じることが出来た。   私は、彼女の遺体を自らの手で焼却することを、神父に懇願した。   神父は快くうなずいた。   しかし、彼はわかっていないのだ。   濃紺に塗られた棺、それを舐めゆく業火を見下ろして、私は冷たい思考に波紋を浮かべる。   右手に残った、小さな小さな、彼女の破片。   一本の歯・・・これから、一人の人間を再生できないか。   アルケミストの研究しているホムンクルス(人造生物)ではなく。   どちらかといえば、ゴーレム(土くれ人形)やムナックのそれに近い、有機的で意識を持つ、擬似生命。ウィザードである私でも作成可能な。   しかし、それは彼女の意思を持つ・・・。   「く、くくく・・・ふは・・・ははは・・・」   額を指で押さえ、私は笑みを浮かべた。   脂汗にまみれた顔。モノクル(片眼鏡)。そうだ。私は、『研究』しなければならないのだ。   そう・・・すべては、愛する彼女のため・・・。 [容姿]暗闇のような黒髪、土気色をした肌(2-008)     片目眼鏡(2-008) [口調] 丁寧 [性格] 残酷、サディスト [備考]倫理感が希薄 =所持品= コンバットナイフ、片目眼鏡 =状 態= 現在位置 C-5付近を南下中 目的 「研究」のために他者を殺害 ---- | [[戻る>2-064]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-066]] |

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