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071 Night stalker  【夜間 第一回定時報告直後】 ----  マダ、カ  マダ、コロサナイノカ  ―――槍が、叫んでいる。  ハヤク  ハヤク、チヲ  ハヤク、ニクヲ  ハヤク、タマシイヲ  ハヤク  「早く・・・早く・・・次の・・・次の獲物・・・次の・・・肉・・・肉・・・・・・」  彼女・・・♀剣士は、泥中のように暗くねっとりとした闇の中を、一人歩んでいた。  右手には巨大な戦槍。儀仗の如く緻密な装飾の施されたその槍は、だが人の作ったものではない、あきらかな『異質』を放っている。  煉獄の悪魔が鍛えたとされし、禁断の魔槍―――煉火槍、ヘルファイア。一説には、スルトと呼ばれる巨人の王が炎の悪魔に作成させ、終焉の黄昏と呼ばれる戦で振るったと云う。  振るえば火弾を撒き散らし、携えた者も、自在に火弾を生成、操作できるようになるという災厄の兵器。  しかして、もっとも恐るべきは、この槍にて魂をわしづかみにされた者――死をもたらされた者――は、その遺体を瞬時に消し炭にされてしまう、ということ。  リザレクション(蘇生術)や医学による延命、返魂の札による換魂術をも許さず。絶対的な死をもたらすこの槍は、神雷槍ゼピュロス、吸魂槍デュングレティ、命貫槍グングニール等と並び、冒険者らには畏怖する存在として恐れられている。  所持したものは、まさに鬼神となりて戦場を翔るけることを許される。  それは、人を人ならざるものへと昇華させる、まさに悪魔の道具。  ―――が、しかし。  あらゆる魔導器がなんらかの呪詛を刻まれているように。あらゆる結果には、それなりの代価か支払われるように。  この槍にも、とある呪いがかけられている。  その呪いとは、『生命を刈り取らねば、代わりに持ち主の生命を削り取ってゆく』という呪い。  持ち主が殺戮を繰り返すのであれば、槍はだまってその血をすすり。  もしも持ち主が殺しを行わぬのであれば、槍は何の遠慮も無く、持ち主の力を消失させ、あえて他人に持ち主を殺させることで、次の所持者へと自らを受け継がせるのだ。  それだけの呪力と、あらゆる殺戮者(マーダー)を魅了するだけの力を、この槍は備えていた。  そして、この槍は今も―――薬物によって意識を破壊されている彼女を使って、もっと多くの血を吸収せしめんと、叫んでいた。  GMジョーカーが、この魔槍をBRに投入した理由は、つまりのところ、この槍の持つ禍々しい性質を殺戮に利用しよう、と考えたところのもので。  実際、それはまさに成功したと言わざるを得なかった。  意識を薬物に砕かれ、そこをヘルファイアにつけこまれた彼女。  いまや、苦痛や疲労を感じず、なんのためらいもなく魂を付けねらうストーカー。  そこに、かつての―――高潔で、戦の先陣を切って味方に勝利をもたらす騎士を志願していた、無垢な少女の姿はなかった。  だが、魂を槍に操作されているからこそ。  長大な獲物を片手で無理矢理振り回し、次なる獲物を求めてひたすら駆け抜ける彼女の体は、すでに限界値を超え、一部は崩壊をきたしていた。  しかし、薬物と槍の呪いにより高揚している彼女には、その破滅への兆候は気づくことすらもままならず。  ひたすらに、次の獲物を捜し求める。 ◇◇◇  「それで、えーっと。   つまり君・・・えっと、♀ナイトさん・・・いやいや、ちゃん?は、かくかくしかじかの理由があって、剣を・・・刃物をもてない。   んで、シールドを装備してはいるけど、武器はない。   BRに参加している以上、生き残る意思はあるけど、殺人はおかしたくない、と。」  「はい・・・私は、かつて過ちを犯しました・・。   だから・・・もう、誰も殺したくない・・・。   でも・・・・・・でも、死ぬのも嫌・・・」  「ふぅーーむ。成る程ねぇ・・・難しい問題だわなぁ」  ―――第一回目の放送があった直後。  俺と♀騎士は、巨木の裏側、ちょうど獣道から見て陰になった部分に座り込み、お互いの自己紹介と現状の見解、そして今後のプランなんかをちまちまと相談していた。  ついさきほど、俺がナンパ・・・もとい同盟を申し込んだ女性・・・♀騎士。  顔つきは美人だし、語り口も凛として結構な勇ましさなんだが・・・肝心の戦いの話になると、とたんに忌避感を示す癖がある。  護ることはできるが、殺すことは出来ない、と。それじゃまるで、どこかの聖騎士じゃないか。騎士は騎士らしく、勇猛果敢に戦って欲しいものであるが・・・いやはや。  こりゃなんつーか・・・狙われてもしゃーないっつうか、哀れな子羊でしかないわな、この状況じゃ。  「だけど、」  眉根をひそめてうんうん唸っていた俺に、不意に彼女は声をかけた。  ん?と顔を上げると、そこには固い決意を秘めた彼女の姿。  「あなたに出会えて・・・私、良かった。」  は?え?いや、え、その、なんか、プロポーズ?え?早くない?  まだ出会って数時間しか経っていないのに、やけに積極的な彼女を見て目を見開く俺。  ♀騎士は、なおも真剣な目つきで、  「私・・・この闘いに参加している人は、みんな殺害の意思があるものだと思っていた。   けど、あなたは違う。   あなたは・・・外の世界に帰ることを、切望している。   それに、他人を自ら殺して生き残ろうとは考えていない。」  「それはかいかぶりってもんだよ。   俺は―――命を狙われれば、確実に相手をしとめるつもりだ。   それは・・・生き残るためにはしょうがない・・・だろう?」  正当防衛だもの、しょうがないわ。  彼女は残念そうに目を伏せると、己の中の葛藤に打ち震えているように、ぶるりと肩を震わした。  その肩をそっと抱き寄せてやりたいところだけれども、あいにく俺にはそんな資格はない。  ・・・ついぞ先に行われた、白衣の道化による第一回定期報告。  それにより、すでに10人近い人数が天に召されたことをを知った俺たち。  正味、まぁそんなもんだろうな、とたかを括っていた自分とは正反対に、♀騎士はその現実を認めたくないかのように、顔色を悪くして(闇にまぎれてたから、多分だが)いた。  ・・・しっかし、こうして俯く顔もまた美しいものであるな、と文脈を無視し、俺が意味も無く感慨にふけって目線をさまよわせると、  「そういえば、君」  「・・・はい?」  「シールドを携えているのはわかるけど、もう一つの箱に何が入っていたんだい?」  「あ・・・・」  忘れていた、とでもいうように赤面する彼女。どうも状況に翻弄されて、もう一つの箱を開けることを忘れていたらしい。  せっかくだから開けておいたほうがいいんじゃないか、という俺の忠告に、彼女は黙ってうなずいた。  「刃物が出てきませんように・・・」  騎士らしからぬ言葉を口にしながら、彼女が手を突っ込んだ箱の中には・・・  「あ、えっと・・・こ、これは・・?」 「おっ、これは・・・アイスピック!   じゃない、錐だ!」  箱の中からでてきた彼女の手に握られたもの。  それは、小ぶりな短剣・・・のようで微妙に短剣じゃなく。  まるで普段の生活用品に使われるピックに似た、小さな錐だった。  「これって、あの、工作なんかに使う・・・アレ、ですよね」  「あ、ああ・・・そうじゃないかな」  ほっと胸をなでおろす彼女。嬉しいのか悲しいのか複雑な表情だが、少なくともお気に召したらしい。  せめてスタナーとかロングメイスでも出てりゃ武器になるんだけど・・・錐・・・ねぇ・・・  首を捻る俺。喜ぶ彼女。  運がいいのやら悪いのやら・・・  「・・・ところでモンクさん」  「ん?」  「先ほどから、なぜそんなに息を荒くしているんですか?」  へ?と俺は彼女を見た。  ンな、まるでそれじゃ俺が野獣モードになってしまってるってことか?  いやいやいやいや、さすがにこの状況下で欲情するほど俺は間抜けじゃ・・・  反論しようとして、瞬間。  急激に―――大気が膨れ上がった。  気圧?風圧?  違う・・・・・・これは・・・  「殺気・・・!」  顔を見合わせた俺たち。  刹那の一間に飛び退ったその場に、突然炎の塊が激突し、破裂した。  きゃあ、と騎士がシールドで顔を覆う。  突然の襲撃に、俺はとっさに気を練りこみ、気弾を生成していた。そして、周囲を見回す。  そして、ほどなく―――殺意の主を、視認した。  「・・・剣士・・・?」  ♀騎士が、呆けたように口走る。  しかし、ファイアーボールを操るような奴が、ただの剣士であるわけがない。  となると・・・  「スペルスクロールか!?」  思わず叫び、否、と自己否定。  アレは、呪文を叫ばなければ発動しない。  それでは・・・  「まさか・・・あの槍か!」  そう、その右手に握られた、巨大な獲物。  仄赤く明滅するその穂先に、見覚えがあった。  ありゃ・・・ヘルファイア・・・!  「落ち着いてください!話を!話を聞いて!」  「無駄だ!コイツはもう正常じゃない!   槍に取り付かれてる!殺さなきゃ俺たちが殺されるぞ!」  「・・・・!」  答えるように、剣士がニタリと笑った。  幼さの残るその顔に、残酷さのみが張り付いている。  何があったかは知らないが、左手首から先がなくなっていて。しかし、両手でなければ扱えないはずの槍を、右手のみで軽々と突き出す剣士。  こりゃ・・・逃げられないか・・・ならば・・・  瞬時の判断の後、俺は練りこんでいたすべての気を、額の一点に集中させた。  そして、それを圧縮、膨張させ爆発させる。  あらゆる気穴回路(チャクラ)が開き、身体機能が一時的に活性化され・・・  「退け!」  叫びざま、俺は♀騎士を突き飛ばす。  あ、と倒れこむ彼女に向かって突き出された炎槍は、火の粉を残して空振りした。  躊躇無く、俺は♀剣士の左側面に滑り込む。矢張り、左側面が死角になっているようだ。う、と剣士の呻く声。  時流が、一時的にスローになる感覚。脳内麻薬とやらの効果。  その中で、ふと、俺は彼女の右肩を見て、  (こりゃ・・・どっちにしろ、長くは持たないな・・・)  ・・異様に肥大化した後背筋や上腕筋。  筋肉組織の破壊が進んでいる。ま、こんなモンを片手で振り回せばこうなるのは当然か・・・  ―――ならば、一瞬で終わらせてやる。  苦痛も、逡巡の間も無く。  一瞬で。  『阿修羅・・・』  踏み込みざま、俺は剣士の顔を見た。  振り向く彼女の顔は、鬼神と称するに相応しい顔で―――『早く、』と懇願している。  早く、殺して・・・。  小さくうなずき、俺は右の拳を引き・・・  『覇凰拳!』  光の速さで、拳を繰り出した。 <♂モンク>  髪型:アサデフォ  所持品:黙示録・四葉のクローバー  備考:諸行無常思考、楽観的 ♀騎士と同行  現在地:F-07 <♀騎士>  髪型:?  所持品:S1シールド、錐  備考:殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない ♂モンクと同行  現在地:F-07 <♀剣士>  髪型:?  所持品:ヘルファイア  備考:左手より先を消失、薬物の大量使用、ヘルファイアによる人格破壊。身体能力の限界値突破  現在地:F-07 | [[戻る>2-070]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-072]] |
071 Night stalker  【夜間 第一回定時報告直後】 ----  マダ、カ  マダ、コロサナイノカ  ―――槍が、叫んでいる。  ハヤク  ハヤク、チヲ  ハヤク、ニクヲ  ハヤク、タマシイヲ  ハヤク  「早く・・・早く・・・次の・・・次の獲物・・・次の・・・肉・・・肉・・・・・・」  彼女・・・♀剣士は、泥中のように暗くねっとりとした闇の中を、一人歩んでいた。  右手には巨大な戦槍。儀仗の如く緻密な装飾の施されたその槍は、だが人の作ったものではない、あきらかな『異質』を放っている。  煉獄の悪魔が鍛えたとされし、禁断の魔槍―――煉火槍、ヘルファイア。一説には、スルトと呼ばれる巨人の王が炎の悪魔に作成させ、終焉の黄昏と呼ばれる戦で振るったと云う。  振るえば火弾を撒き散らし、携えた者も、自在に火弾を生成、操作できるようになるという災厄の兵器。  しかして、もっとも恐るべきは、この槍にて魂をわしづかみにされた者――死をもたらされた者――は、その遺体を瞬時に消し炭にされてしまう、ということ。  リザレクション(蘇生術)や医学による延命、返魂の札による換魂術をも許さず。絶対的な死をもたらすこの槍は、神雷槍ゼピュロス、吸魂槍デュングレティ、命貫槍グングニール等と並び、冒険者らには畏怖する存在として恐れられている。  所持したものは、まさに鬼神となりて戦場を翔るけることを許される。  それは、人を人ならざるものへと昇華させる、まさに悪魔の道具。  ―――が、しかし。  あらゆる魔導器がなんらかの呪詛を刻まれているように。あらゆる結果には、それなりの代価か支払われるように。  この槍にも、とある呪いがかけられている。  その呪いとは、『生命を刈り取らねば、代わりに持ち主の生命を削り取ってゆく』という呪い。  持ち主が殺戮を繰り返すのであれば、槍はだまってその血をすすり。  もしも持ち主が殺しを行わぬのであれば、槍は何の遠慮も無く、持ち主の力を消失させ、あえて他人に持ち主を殺させることで、次の所持者へと自らを受け継がせるのだ。  それだけの呪力と、あらゆる殺戮者(マーダー)を魅了するだけの力を、この槍は備えていた。  そして、この槍は今も―――薬物によって意識を破壊されている彼女を使って、もっと多くの血を吸収せしめんと、叫んでいた。  GMジョーカーが、この魔槍をBRに投入した理由は、つまりのところ、この槍の持つ禍々しい性質を殺戮に利用しよう、と考えたところのもので。  実際、それはまさに成功したと言わざるを得なかった。  意識を薬物に砕かれ、そこをヘルファイアにつけこまれた彼女。  いまや、苦痛や疲労を感じず、なんのためらいもなく魂を付けねらうストーカー。  そこに、かつての―――高潔で、戦の先陣を切って味方に勝利をもたらす騎士を志願していた、無垢な少女の姿はなかった。  だが、魂を槍に操作されているからこそ。  長大な獲物を片手で無理矢理振り回し、次なる獲物を求めてひたすら駆け抜ける彼女の体は、すでに限界値を超え、一部は崩壊をきたしていた。  しかし、薬物と槍の呪いにより高揚している彼女には、その破滅への兆候は気づくことすらもままならず。  ひたすらに、次の獲物を捜し求める。 ◇◇◇  「それで、えーっと。   つまり君・・・えっと、♀ナイトさん・・・いやいや、ちゃん?は、かくかくしかじかの理由があって、剣を・・・刃物をもてない。   んで、シールドを装備してはいるけど、武器はない。   BRに参加している以上、生き残る意思はあるけど、殺人はおかしたくない、と。」  「はい・・・私は、かつて過ちを犯しました・・。   だから・・・もう、誰も殺したくない・・・。   でも・・・・・・でも、死ぬのも嫌・・・」  「ふぅーーむ。成る程ねぇ・・・難しい問題だわなぁ」  ―――第一回目の放送があった直後。  俺と♀騎士は、巨木の裏側、ちょうど獣道から見て陰になった部分に座り込み、お互いの自己紹介と現状の見解、そして今後のプランなんかをちまちまと相談していた。  ついさきほど、俺がナンパ・・・もとい同盟を申し込んだ女性・・・♀騎士。  顔つきは美人だし、語り口も凛として結構な勇ましさなんだが・・・肝心の戦いの話になると、とたんに忌避感を示す癖がある。  護ることはできるが、殺すことは出来ない、と。それじゃまるで、どこかの聖騎士じゃないか。騎士は騎士らしく、勇猛果敢に戦って欲しいものであるが・・・いやはや。  こりゃなんつーか・・・狙われてもしゃーないっつうか、哀れな子羊でしかないわな、この状況じゃ。  「だけど、」  眉根をひそめてうんうん唸っていた俺に、不意に彼女は声をかけた。  ん?と顔を上げると、そこには固い決意を秘めた彼女の姿。  「あなたに出会えて・・・私、良かった。」  は?え?いや、え、その、なんか、プロポーズ?え?早くない?  まだ出会って数時間しか経っていないのに、やけに積極的な彼女を見て目を見開く俺。  ♀騎士は、なおも真剣な目つきで、  「私・・・この闘いに参加している人は、みんな殺害の意思があるものだと思っていた。   けど、あなたは違う。   あなたは・・・外の世界に帰ることを、切望している。   それに、他人を自ら殺して生き残ろうとは考えていない。」  「それはかいかぶりってもんだよ。   俺は―――命を狙われれば、確実に相手をしとめるつもりだ。   それは・・・生き残るためにはしょうがない・・・だろう?」  正当防衛だもの、しょうがないわ。  彼女は残念そうに目を伏せると、己の中の葛藤に打ち震えているように、ぶるりと肩を震わした。  その肩をそっと抱き寄せてやりたいところだけれども、あいにく俺にはそんな資格はない。  ・・・ついぞ先に行われた、白衣の道化による第一回定期報告。  それにより、すでに10人近い人数が天に召されたことをを知った俺たち。  正味、まぁそんなもんだろうな、とたかを括っていた自分とは正反対に、♀騎士はその現実を認めたくないかのように、顔色を悪くして(闇にまぎれてたから、多分だが)いた。  ・・・しっかし、こうして俯く顔もまた美しいものであるな、と文脈を無視し、俺が意味も無く感慨にふけって目線をさまよわせると、  「そういえば、君」  「・・・はい?」  「シールドを携えているのはわかるけど、もう一つの箱に何が入っていたんだい?」  「あ・・・・」  忘れていた、とでもいうように赤面する彼女。どうも状況に翻弄されて、もう一つの箱を開けることを忘れていたらしい。  せっかくだから開けておいたほうがいいんじゃないか、という俺の忠告に、彼女は黙ってうなずいた。  「刃物が出てきませんように・・・」  騎士らしからぬ言葉を口にしながら、彼女が手を突っ込んだ箱の中には・・・  「あ、えっと・・・こ、これは・・?」 「おっ、これは・・・アイスピック!   じゃない、錐だ!」  箱の中からでてきた彼女の手に握られたもの。  それは、小ぶりな短剣・・・のようで微妙に短剣じゃなく。  まるで普段の生活用品に使われるピックに似た、小さな錐だった。  「これって、あの、工作なんかに使う・・・アレ、ですよね」  「あ、ああ・・・そうじゃないかな」  ほっと胸をなでおろす彼女。嬉しいのか悲しいのか複雑な表情だが、少なくともお気に召したらしい。  せめてスタナーとかロングメイスでも出てりゃ武器になるんだけど・・・錐・・・ねぇ・・・  首を捻る俺。喜ぶ彼女。  運がいいのやら悪いのやら・・・  「・・・ところでモンクさん」  「ん?」  「先ほどから、なぜそんなに息を荒くしているんですか?」  へ?と俺は彼女を見た。  ンな、まるでそれじゃ俺が野獣モードになってしまってるってことか?  いやいやいやいや、さすがにこの状況下で欲情するほど俺は間抜けじゃ・・・  反論しようとして、瞬間。  急激に―――大気が膨れ上がった。  気圧?風圧?  違う・・・・・・これは・・・  「殺気・・・!」  顔を見合わせた俺たち。  刹那の一間に飛び退ったその場に、突然炎の塊が激突し、破裂した。  きゃあ、と騎士がシールドで顔を覆う。  突然の襲撃に、俺はとっさに気を練りこみ、気弾を生成していた。そして、周囲を見回す。  そして、ほどなく―――殺意の主を、視認した。  「・・・剣士・・・?」  ♀騎士が、呆けたように口走る。  しかし、ファイアーボールを操るような奴が、ただの剣士であるわけがない。  となると・・・  「スペルスクロールか!?」  思わず叫び、否、と自己否定。  アレは、呪文を叫ばなければ発動しない。  それでは・・・  「まさか・・・あの槍か!」  そう、その右手に握られた、巨大な獲物。  仄赤く明滅するその穂先に、見覚えがあった。  ありゃ・・・ヘルファイア・・・!  「落ち着いてください!話を!話を聞いて!」  「無駄だ!コイツはもう正常じゃない!   槍に取り付かれてる!殺さなきゃ俺たちが殺されるぞ!」  「・・・・!」  答えるように、剣士がニタリと笑った。  幼さの残るその顔に、残酷さのみが張り付いている。  何があったかは知らないが、左手首から先がなくなっていて。しかし、両手でなければ扱えないはずの槍を、右手のみで軽々と突き出す剣士。  こりゃ・・・逃げられないか・・・ならば・・・  瞬時の判断の後、俺は練りこんでいたすべての気を、額の一点に集中させた。  そして、それを圧縮、膨張させ爆発させる。  あらゆる気穴回路(チャクラ)が開き、身体機能が一時的に活性化され・・・  「退け!」  叫びざま、俺は♀騎士を突き飛ばす。  あ、と倒れこむ彼女に向かって突き出された炎槍は、火の粉を残して空振りした。  躊躇無く、俺は♀剣士の左側面に滑り込む。矢張り、左側面が死角になっているようだ。う、と剣士の呻く声。  時流が、一時的にスローになる感覚。脳内麻薬とやらの効果。  その中で、ふと、俺は彼女の右肩を見て、  (こりゃ・・・どっちにしろ、長くは持たないな・・・)  ・・異様に肥大化した後背筋や上腕筋。  筋肉組織の破壊が進んでいる。ま、こんなモンを片手で振り回せばこうなるのは当然か・・・  ―――ならば、一瞬で終わらせてやる。  苦痛も、逡巡の間も無く。  一瞬で。  『阿修羅・・・』  踏み込みざま、俺は剣士の顔を見た。  振り向く彼女の顔は、鬼神と称するに相応しい顔で―――『早く、』と懇願している。  早く、殺して・・・。  小さくうなずき、俺は右の拳を引き・・・  『覇凰拳!』  光の速さで、拳を繰り出した。 <♂モンク>  髪型:アサデフォ  所持品:黙示録・四葉のクローバー  備考:諸行無常思考、楽観的 ♀騎士と同行  現在地:F-07 <♀騎士>  髪型:?  所持品:S1シールド、錐  備考:殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない ♂モンクと同行  現在地:F-07 <♀剣士>  髪型:?  所持品:ヘルファイア  備考:左手より先を消失、薬物の大量使用、ヘルファイアによる人格破壊。身体能力の限界値突破  現在地:F-07 ---- | [[戻る>2-070]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-072]] |

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