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075 Inferno【夜間】 ---- 「阿修羅ッ覇王拳ッ!!!」 最大限の気を込めた拳が♀剣士の左腕にぶち当たる。 モンクの奥義の一つであるこの技は、掠っただけでも相手を完全に破壊するという反則のような技だ。 その原理は発頸の応用であり、拳に溜めた気が敵の体内を駆け巡り内側からずたずたにするというものだ。 この技を使い慣れていた♂モンクは右手の感触に勝利を確信した。 (勝った!) それは常識的な判断。 しかし、常識というものは時としてその中に住む者に牙をむく。 「後ろーーーッ!!」 勝利の確信から♀剣士の様子を確かめていなかった♂モンクの耳を♀騎士の悲鳴が打つ。 その声に押されるように♂モンクは前方へと飛んだ。 轟という熱い風が巻いて肌をなでる。 「バケモンかよッ」 飛んでくるかもしれないファイアボールのことも忘れて前転を繰り返し、距離を稼ぐ。 土に塗れて♀剣士の姿を確認し、目を見張った。 彼女は右手で器用にヘルファイアを振りまわし、その穂先で自らの左腕を二の腕から落としたところだった。 血は、流れない。高熱の穂先が瞬時に傷口を焼き血流を止めている。 一方、胴体から離れた左腕は組織崩壊を起こして皮膚から血を吹き出しながらびくびくとのたうっている。 奇しくも二人に挟まれた格好になった♀剣士は不敵に笑むと奇声を発し♀騎士のほうへと踊りかかった。 「こないでッ」 ♀騎士の叫びもむなしく、バターを切り裂くようにかざした盾の一角が切り裂かれる。 紅い槍がまるで舞踏の様に夜の闇を舞う。 突くだけでなく遠心力を利用した大威力の攻撃も利用して♀剣士は♀騎士を追い詰めつつあった。 一方、殺人に強い拒否感を持つ彼女は盾で身を守るばかりで、じりじりと後退していく。 その攻防の中で、舞い散る火の粉はいっそ幻想的ですらあった。 しかし、見ほれるものすらいない勝負は唐突に終わった。 「あっ、がっ!!」 ♀騎士が足元の根に踵を引っ掛けて転倒したのだ。 ふんわりとした赤毛がまるで炎のように地面に広がった。 ♀剣士がその機を逃すはずはない。大きく踏み込むとブーツで鳩尾を踏みつける。 そして、止めを刺すべく大きく槍を振り上げた。 どん。と、鈍い音がした。 ♀騎士はそれが自分の脳天を叩き割られた音だと思った。 しかし、予想していたような激痛はいつまでたってもこない。 恐る恐る目を開けて眼前に繰り広げられる光景に慄然とする。 「一緒に生き残るって言っちまったんだ…ッ」 ♀剣士の後ろに♂モンクがいる。 その手には錐が、突き飛ばされたときに落としてしまった刃物が握られている。 その鋭利な切っ先は、彼女の背中、腎臓の辺りを深々と抉っていた。 素手では♀剣士を止められない、そう判断した♂モンクの苦肉の策であった。 「がぁああああああ!!!!」 獣のような咆哮をあげて♀剣士が石突で♂モンクを殴り飛ばす。 強かに頬を打たれた♂モンクはたたらを踏んで。 穂先で追撃をかけようとした♀剣士の腰に♀騎士がしがみついて。 体勢を立て直した♂モンクが風を切るような速度で脚を振り上げて。 その足先は彼女を裂こうと振り上げようとしたヘルファイアを宙へと弾き飛ばした。 焔の槍は ――― ♀剣士は自分にまとわりつく邪魔な女の首に手をかける。 ――― 綺麗な放物線を描いて ――― のどを詰まらせた悲鳴。♂モンクが♀剣士を引き離すべく髪に手を伸ばす。 ――― ♀剣士の身体に突き立った。 万力のように♀騎士ののどを締め上げていた手から力が抜ける。 圧迫感から開放された彼女は見た。♀剣士の腹から紅い槍が突き出しているところを。 一目見てわかる致命傷。だというのに、血は、やはり流れない。 ただ、それだけのことが、彼女が、まるで人間でないかのような錯覚をあたえる。 この子は人じゃなかったのかしら。そんなとりとめもないことを考えている間に。 不幸な少女の膝は折れ、そして、絶命した。 「…大丈夫、か?」 まるで墓標の様に槍が突き刺さったままの死体のそばで咳き込む♀騎士に声をかける。 彼女はいまだに錐を握ったままである♂モンクの姿を見て、目に涙を溜める。 「ごめんなさい…私、私…盾になろうって思ったのに…助けられて、助けさせて…」 ♂モンクは一瞬戦闘でショックを受けたのかと思い、その視線が自身の手にあることに気づいて、得心した。 「…ん、やっちまったもんは仕方ない。地獄に落ちたらバフォメットに自慢してやるよ。  俺は女の守るために地獄に落ちたんだぜって…」 「でもっ!そんなの、納得できないっ!!」 「そうは言ってもなぁ…」 涙目の美女に見上げられ♂モンクはぽりぽりと頬を書く。頬がわずかに赤いのは戦闘のせいばかりではない。 派手にやっちまったから立ち去らないとまずいと思いつつ、適当にごまかしても♀騎士が納得するはずもなく。 「わかった、だったら一つだけでいい俺の言うことに従ってくれるか?」 錐を手渡し、その手をとって♀騎士を立ち上がらせながら言う。 ♀騎士は、何を言われるかわからない恐怖を抱えながらもゆっくりと首を頷かせた。 「じゃ、命令」 どうせ死ぬのだから、と身体を求められるかもしれない。 相手は刃物で人を殺傷した堕ちた聖職者だ。…ちがう、私が堕としてしまったんだ。 だったら何もかも受け入れよう。 「笑ってくれないか?俺っち、女の子の泣き顔より笑い顔のほうが好きなんだ」 え?と思った。笑え? そんな、そんなことで、赦すというのかと、思った。 だけど、頬を緩めようとして気がついた。ここずっと笑っていなかったことに。 そして、作ろうとした笑顔が痙攣したようなものになっていることに。 「ごめん、うまく、笑えない」 「おいおいでいい。それより、今はこの場を離れる」 「うん」 ♀騎士は意外にしっかりした返事を返す。 命令を果たせないままの彼女の手を引いて♂モンクは戦闘の場を後にした。 刃物を使えないもの同士、打ち捨てられたヘルファイアのことをすっかり忘れて。 やがて、ヘルファイアの穂先に焼かれ燻っていた死体が焔を上げて燃え上がる。 それは哀れな少女への送り火なのか、それとも堕ちた聖職者が焼かれる地獄の炎なのか。 赤々と燃える炎は火の粉を天へと還すのみである。 <♂モンク>  髪型:アサデフォ  所持品:黙示録・四葉のクローバー  備考:諸行無常思考、楽観的 刃物で殺傷 ♀騎士と同行  現在地:F-07から移動 <♀騎士>  髪型:csf:4j0i8092。何かの職業のデフォルトでしたら訂正お願いします  所持品:S1シールド、錐  備考:殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない 笑えない ♂モンクと同行  現在地:F-07から移動 <♀剣士>  髪型:?  遺品:ヘルファイア  備考:左手より先を消失、薬物の大量使用、ヘルファイアによる人格破壊。身体能力の限界値突破  現在地:F-07  状態:死亡(消し炭) <残り40人> ---- | [[戻る>2-074]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>代替2-076]] |
075 Inferno【夜間】 ---- 「阿修羅ッ覇王拳ッ!!!」 最大限の気を込めた拳が♀剣士の左腕にぶち当たる。 モンクの奥義の一つであるこの技は、掠っただけでも相手を完全に破壊するという反則のような技だ。 その原理は発頸の応用であり、拳に溜めた気が敵の体内を駆け巡り内側からずたずたにするというものだ。 この技を使い慣れていた♂モンクは右手の感触に勝利を確信した。 (勝った!) それは常識的な判断。 しかし、常識というものは時としてその中に住む者に牙をむく。 「後ろーーーッ!!」 勝利の確信から♀剣士の様子を確かめていなかった♂モンクの耳を♀騎士の悲鳴が打つ。 その声に押されるように♂モンクは前方へと飛んだ。 轟という熱い風が巻いて肌をなでる。 「バケモンかよッ」 飛んでくるかもしれないファイアボールのことも忘れて前転を繰り返し、距離を稼ぐ。 土に塗れて♀剣士の姿を確認し、目を見張った。 彼女は右手で器用にヘルファイアを振りまわし、その穂先で自らの左腕を二の腕から落としたところだった。 血は、流れない。高熱の穂先が瞬時に傷口を焼き血流を止めている。 一方、胴体から離れた左腕は組織崩壊を起こして皮膚から血を吹き出しながらびくびくとのたうっている。 奇しくも二人に挟まれた格好になった♀剣士は不敵に笑むと奇声を発し♀騎士のほうへと踊りかかった。 「こないでッ」 ♀騎士の叫びもむなしく、バターを切り裂くようにかざした盾の一角が切り裂かれる。 紅い槍がまるで舞踏の様に夜の闇を舞う。 突くだけでなく遠心力を利用した大威力の攻撃も利用して♀剣士は♀騎士を追い詰めつつあった。 一方、殺人に強い拒否感を持つ彼女は盾で身を守るばかりで、じりじりと後退していく。 その攻防の中で、舞い散る火の粉はいっそ幻想的ですらあった。 しかし、見ほれるものすらいない勝負は唐突に終わった。 「あっ、がっ!!」 ♀騎士が足元の根に踵を引っ掛けて転倒したのだ。 ふんわりとした赤毛がまるで炎のように地面に広がった。 ♀剣士がその機を逃すはずはない。大きく踏み込むとブーツで鳩尾を踏みつける。 そして、止めを刺すべく大きく槍を振り上げた。 どん。と、鈍い音がした。 ♀騎士はそれが自分の脳天を叩き割られた音だと思った。 しかし、予想していたような激痛はいつまでたってもこない。 恐る恐る目を開けて眼前に繰り広げられる光景に慄然とする。 「一緒に生き残るって言っちまったんだ…ッ」 ♀剣士の後ろに♂モンクがいる。 その手には錐が、突き飛ばされたときに落としてしまった刃物が握られている。 その鋭利な切っ先は、彼女の背中、腎臓の辺りを深々と抉っていた。 素手では♀剣士を止められない、そう判断した♂モンクの苦肉の策であった。 「がぁああああああ!!!!」 獣のような咆哮をあげて♀剣士が石突で♂モンクを殴り飛ばす。 強かに頬を打たれた♂モンクはたたらを踏んで。 穂先で追撃をかけようとした♀剣士の腰に♀騎士がしがみついて。 体勢を立て直した♂モンクが風を切るような速度で脚を振り上げて。 その足先は彼女を裂こうと振り上げようとしたヘルファイアを宙へと弾き飛ばした。 焔の槍は ――― ♀剣士は自分にまとわりつく邪魔な女の首に手をかける。 ――― 綺麗な放物線を描いて ――― のどを詰まらせた悲鳴。♂モンクが♀剣士を引き離すべく髪に手を伸ばす。 ――― ♀剣士の身体に突き立った。 万力のように♀騎士ののどを締め上げていた手から力が抜ける。 圧迫感から開放された彼女は見た。♀剣士の腹から紅い槍が突き出しているところを。 一目見てわかる致命傷。だというのに、血は、やはり流れない。 ただ、それだけのことが、彼女が、まるで人間でないかのような錯覚をあたえる。 この子は人じゃなかったのかしら。そんなとりとめもないことを考えている間に。 不幸な少女の膝は折れ、そして、絶命した。 「…大丈夫、か?」 まるで墓標の様に槍が突き刺さったままの死体のそばで咳き込む♀騎士に声をかける。 彼女はいまだに錐を握ったままである♂モンクの姿を見て、目に涙を溜める。 「ごめんなさい…私、私…盾になろうって思ったのに…助けられて、助けさせて…」 ♂モンクは一瞬戦闘でショックを受けたのかと思い、その視線が自身の手にあることに気づいて、得心した。 「…ん、やっちまったもんは仕方ない。地獄に落ちたらバフォメットに自慢してやるよ。  俺は女の守るために地獄に落ちたんだぜって…」 「でもっ!そんなの、納得できないっ!!」 「そうは言ってもなぁ…」 涙目の美女に見上げられ♂モンクはぽりぽりと頬を書く。頬がわずかに赤いのは戦闘のせいばかりではない。 派手にやっちまったから立ち去らないとまずいと思いつつ、適当にごまかしても♀騎士が納得するはずもなく。 「わかった、だったら一つだけでいい俺の言うことに従ってくれるか?」 錐を手渡し、その手をとって♀騎士を立ち上がらせながら言う。 ♀騎士は、何を言われるかわからない恐怖を抱えながらもゆっくりと首を頷かせた。 「じゃ、命令」 どうせ死ぬのだから、と身体を求められるかもしれない。 相手は刃物で人を殺傷した堕ちた聖職者だ。…ちがう、私が堕としてしまったんだ。 だったら何もかも受け入れよう。 「笑ってくれないか?俺っち、女の子の泣き顔より笑い顔のほうが好きなんだ」 え?と思った。笑え? そんな、そんなことで、赦すというのかと、思った。 だけど、頬を緩めようとして気がついた。ここずっと笑っていなかったことに。 そして、作ろうとした笑顔が痙攣したようなものになっていることに。 「ごめん、うまく、笑えない」 「おいおいでいい。それより、今はこの場を離れる」 「うん」 ♀騎士は意外にしっかりした返事を返す。 命令を果たせないままの彼女の手を引いて♂モンクは戦闘の場を後にした。 刃物を使えないもの同士、打ち捨てられたヘルファイアのことをすっかり忘れて。 やがて、ヘルファイアの穂先に焼かれ燻っていた死体が焔を上げて燃え上がる。 それは哀れな少女への送り火なのか、それとも堕ちた聖職者が焼かれる地獄の炎なのか。 赤々と燃える炎は火の粉を天へと還すのみである。 <♂モンク>  髪型:アサデフォ  所持品:黙示録・四葉のクローバー  備考:諸行無常思考、楽観的 刃物で殺傷 ♀騎士と同行  現在地:F-07から移動 <♀騎士>  髪型:csf:4j0i8092。何かの職業のデフォルトでしたら訂正お願いします  所持品:S1シールド、錐  備考:殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない 笑えない ♂モンクと同行  現在地:F-07から移動 <♀剣士>  髪型:?  遺品:ヘルファイア  備考:左手より先を消失、薬物の大量使用、ヘルファイアによる人格破壊。身体能力の限界値突破  現在地:F-07  状態:死亡(消し炭) <残り40人> ---- | [[戻る>2-074]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-076]] |

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