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077 僅かな時間に思う事──放送前 ----  夜。夜である。  空を見上げれば、真っ黒いベルベットの天蓋。砕いた宝石を撒いたみたいな星。  それから。まん丸に磨いた白い玉石(ムーンストーン)。綺麗だな、なんて♀Wizは考えて、くすっと笑った。  そうだ。この世界は、惚れ惚れする位に美しい。たとえ、こんな場所であったとしても。  火は焚いていない。それがここがどこかを教えているのが残念だったけれど。  ──夜風がそよいでいる。彼女の髪が僅かに蒼く染まり、黒い木々と共に風と戯れている。  ♂プリーストを始めとした彼等は、一夜の宿を森の中の一角に定めていた。  夜を六度に分け、交代で見張りに立つという規定だ。  一番最初に見張りに立つことになった♀Wizは、じっと空を見上げ、そんな取り留めの無い事を考えていた。  それから。結局、私の夢の事は話せませんでしたね…と少々自分の押しの弱さに落胆しつつ思った。  話す時期に無い、とは思ってみたものの、結局それは目の前の二人を、心の底から信頼していない事実の裏返しでもある  さらさらさら。さらさらさらさら。その音は木々の下生えからかそれとも小川からか。  ずっとそれに聞き入っていると、知らない間に眠り込んでしまいそうな気がしたので、彼女は別の事を考え始める。  私は。結局。あの夢で見た光景の、せめてもの罪滅ぼしにこうしているのだろう、と思った。  誰にもきっと、理解はされない。だって、所詮夢は夢。  けれど目を瞑ればリアルに思い出される夢想の風景。  何度夫に、悪夢にうなされ脂汗と涙塗れになった私を慰めてもらったのかも判らない──けれど彼はもう居ない。  だけど。ねぇ…あなた。  優しい顔の、生まれる前から何時だって彼女の支えだったような気さえする大切な人を思い浮かべながら思考する。  私は。一体どうやって償えばいいのかしら?判らないの。私には。  それはきっと殺される、と言う事ではなくて。でも、きっと殺すと言う事でもない。  ♀Wizは、長い銀色の髪──今は、むしろ蒼銀とでも呼ぶべきか──を白く細い指先で弄ぶ。  一人じゃ、私はそんな事も判らないわ。  ねぇ。私はどうすればいいと思う?  彼女は今は亡き夫に、唯一彼女が心から愛したその人に、弱い自分を支えてもらおうと。  一人、夜空を見上げながら考え込んでいた。  ──しかし、残る二人は、と言うと。  …はてさて困ってしまった。と言うか、例のご婦人が気になって全く眠れないのである、まる。  ちらちらと──因みにそれは二人とも同じである──物憂げな表情で夜空を見上げる♀Wizを見ながら、 ♂プリーストはというと、元気良く立ち上がったマイ逆毛を修道女のヴェールからはみ出させながら寝たふりをしていた。  っていうか、今俺等の方を見たって。ああ、未亡人ってやっぱし色っぽい、というか寝ないと不味いんではないですか俺等。  そして、余り冷静とは言えない状況にあった。  何せ、未亡人の色香、と言うものは未だむさ苦しさの境地に居る両の健全な男子にとって半ば毒物にも近い。  ♂プリーストは悶々と襲い来る妄想を振り払うのに精一杯、と言ったところだ。  ♂シーフは、と言うと月明かりにも解るぐらいの変調を顔面に来たしている。  だが。諸君に問いたい。  もし、如何にも物憂げな雰囲気の未亡人が僅かな月明かりの元、物思いに耽る、という半ば絵画じみた状況で。  健全な身体と感性を持つ一般的なミッドガッツ男児が平静に眠りにつけるのか?という現実を。  ♂プリーストは無論全力で、否、と答えたのである。  つまるところ。万歳!!年上の色香万歳!!プリプリなるちちしりふともも閣下マンセー!!マンセー!!  という北○鮮や悪魔にでも魂を二束三文で売り払ってしまいそうな状態なのである。  まぁ──  ああっ!!今、うなじがっ!!うなじがっ!!?畜生!!♂シーフの馬鹿!!そこどけっ!!  と言った具合で、そこから先に考えの至らないこの野朗は男と言う狼の中でも、それなりに誠実であるらしかった。  いわんや♂シーフをや。彼らはある意味でミッドガッツ男児のサラブレットである。  どかっ、と遂に痺れを切らした♂プリーストの足が、寝返り様に♂シーフの背中を軽く蹴った。  答えてぼかっ、とこれまた寝返り様に振られた♂シーフの手が♂プリーストの顔面を打つ。  視線が合って火花が散った。しかし、夜の闇夜は変わらない。  目を瞑ったまま、しかし野朗二人の表情は鏡写しの様に引き攣っている。  このまま立ち上がって殴りあいと洒落込みたい所だったが、理性はそれに反論を提示している。 「──起きてたんですか?」  と、国境線上で膠着に陥った両軍に、平和的介入を齎す大使、と言った風情の声音が聞こえていた。  これが国際的連合組織でよかった。マッカッカ魔導師将軍元帥であればLoVによる局地的殲滅作戦等を提示していたやもしれぬ。  ハトやら風船やらは勿論夜空には舞わないけれども、むっくりと二人共寝転んでいた体を起す。  ♀Wizは、何だかそんな二人が可笑しかったらしく、淑やかに、口元に手を添えて微笑む。  それから、ふと思い出した様に♂プリーストと♂シーフに対して唇を開いて。 「眠れないんでしたら少しお話でもしませんか?気も落ち着くと思いますから」  そして、ふわっ、とした顔を♀Wizは浮かべて、そう言った。  彼女が持っているのは、幻想と思い出。欲しいものは目的と思い切り、それから二人の信頼。  ぼんやりと思い浮かべる心象はあるけれど、いざ絵の具とキャンバスを与えられれば苦笑してしまう、そんな女性。  愛には時間が必要だ。  ♀Wizは考える。  男二人は考える。  ──何から話したらいいものかしら…やっぱり、今あの事は話しておくべきよね。  ──話題…例えば。『やっぱり一日の回数は多いんですか?』とかか…いや、それは色々マズいだろ。    ヤバいネタしか浮かばねぇじゃねぇか。どうするよ…俺等。  但し、その思う所は微妙にズレていたのだが。  そして、丁度その時だった。あの道化の声が聞こえてきたのは。  そしてまた一方。また島の離れた場所で。  その男──♂騎士が一人森の中を走っていた時の事。  彼は、様々な記憶を思い出しながら歩いていた。  目の前が、まるで真夜中みたいに真っ暗だったせいもある。  (これは自己の崩壊に対する防衛反応、とも言えたが勿論彼はそんな事実にまで頭が回っては居ない)  ただ。彼は逃げても逃げても追いかけて来るイメージに時折吐き気を覚えながらも、それを紛らわす様に森の中を進んでいた。  手には。赤い──ナイフ。真っ赤な真っ赤な筈のナイフ。今は黒く、闇に沈んだ刃となっている。  記憶の中のイメージは。  何時だってワガママなお嬢様だった♀プリーストの事。そのくせ、時折優しさを見せる♀プリーストの事。  笑っている彼女。怒っている彼女。恥ずかしがっている彼女。普通の彼女。昔の彼女。今の彼女。  ぐるぐるぐるぐる。回る回る。何人も何人も彼の周りを♀プリーストの幻影が回っている。  でも。俺は。  彼女を殺した。  認めた途端に幻影は赤く。赤い赤いあかい。どろり、とした赤。  真っ赤な真っ赤な。夕日みたいに真っ赤な。胸から飛沫を上げる。  ナイフを抜くと。ナイフを抜くと──いや、思い出すな。思い出してはいけない。  それを明確に認識し、認めてしまえば。きっと後戻りが出来なくなる。  ♂騎士はそんな錯覚を覚える。  だけど。  俺は、彼女が怖かったんだもの。  眠っている彼女の前にいた時、まるで。まるで。まるで。  ♀プリーストが化物。魔物の様に見えて。  ごめん。ごめんよ。俺は。君を殺したときに、安堵を覚えて──  ──考えるな。それ以上、考えればきっと飲み込まれてしまう。  えっと。そういえば、ここは何処だったか。俺は、♂騎士だった筈だけれど。  今日は、俺は狩りに出る。  今日は、俺は狩りに出る。  俺は冒険者で騎士だから。  今日は、俺は、殺し合いを、する。  ひとを。ころす。俺は、この島に来てしまったから。  いや、そうではなくて。  そうではないはずで。ズキズキと傷が痛い。ズキズキと心が痛い。  はて。俺がこの痛みから逃れようとするのは、果たして正しいのか正しくないのか?  傷がひたすらに痛む。それが狂気への自閉への逃避を阻む。  ──認めてしまえよ。ともう一人の自分が♂騎士に囁いた。  お前は、♀プリーストを殺した。だから、他の人間も殺してしまえよ。  しかし。認めた所でどうするのか?人を殺して回るか?この忌まわしいナイフ一本で?  この痛む体を引きずって、俺が、人を、殺すの、か?  出来る訳が無い。どうせ、殺されるのがオチだ。今の自分は例え、ノービスが相手でも殺されてしまうかもしれない。  だから、逃げるのか?  ──ああ、そうさ。俺は逃げる。逃げて逃げて逃げ続ける。  あの幻影から。この島の事実から。殺し屋から。人から。世界から。  逃げ続けていれば、どうせ追ってはこられない。  罪も、殺しも何もかも真っ平ご免だ。ああでも、自殺なんて出来る気がしない。  ♀プリーストの事が好きではなかったのか?  けれど、彼女は。彼女は俺が。俺が。  いや、アレは──違う。違う違う!!彼女のせいではなく俺のせいだ!!  けれど。それはやっぱり、事実を事実として認める事で。  がぶりを振る。傷が痛む。逃げられない。何処までも追いかけてくる。  そんな時だった。彼が、あの忌まわしい声を聞いたのは。  声の主はジョーカー。即ち死神である。  耳を塞げども、声は届く。逃げる事は出来ない。  そして罪人よその意味を震えながら聞け。  ──判決。有罪。  忌まわしい道化の歌に乗って彼は踊る踊る。 <♂騎士 E-3に辿り着くまでの心理補足?> <♀Wiz&♂プリ&♂シフ 場所E-3 時間は夜> ---- | [[戻る>代替2-076]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-078]] |
077 僅かな時間に思う事──放送前 ----  夜。夜である。  空を見上げれば、真っ黒いベルベットの天蓋。砕いた宝石を撒いたみたいな星。  それから。まん丸に磨いた白い玉石(ムーンストーン)。綺麗だな、なんて♀Wizは考えて、くすっと笑った。  そうだ。この世界は、惚れ惚れする位に美しい。たとえ、こんな場所であったとしても。  火は焚いていない。それがここがどこかを教えているのが残念だったけれど。  ──夜風がそよいでいる。彼女の髪が僅かに蒼く染まり、黒い木々と共に風と戯れている。  ♂プリーストを始めとした彼等は、一夜の宿を森の中の一角に定めていた。  夜を六度に分け、交代で見張りに立つという規定だ。  一番最初に見張りに立つことになった♀Wizは、じっと空を見上げ、そんな取り留めの無い事を考えていた。  それから。結局、私の夢の事は話せませんでしたね…と少々自分の押しの弱さに落胆しつつ思った。  話す時期に無い、とは思ってみたものの、結局それは目の前の二人を、心の底から信頼していない事実の裏返しでもある  さらさらさら。さらさらさらさら。その音は木々の下生えからかそれとも小川からか。  ずっとそれに聞き入っていると、知らない間に眠り込んでしまいそうな気がしたので、彼女は別の事を考え始める。  私は。結局。あの夢で見た光景の、せめてもの罪滅ぼしにこうしているのだろう、と思った。  誰にもきっと、理解はされない。だって、所詮夢は夢。  けれど目を瞑ればリアルに思い出される夢想の風景。  何度夫に、悪夢にうなされ脂汗と涙塗れになった私を慰めてもらったのかも判らない──けれど彼はもう居ない。  だけど。ねぇ…あなた。  優しい顔の、生まれる前から何時だって彼女の支えだったような気さえする大切な人を思い浮かべながら思考する。  私は。一体どうやって償えばいいのかしら?判らないの。私には。  それはきっと殺される、と言う事ではなくて。でも、きっと殺すと言う事でもない。  ♀Wizは、長い銀色の髪──今は、むしろ蒼銀とでも呼ぶべきか──を白く細い指先で弄ぶ。  一人じゃ、私はそんな事も判らないわ。  ねぇ。私はどうすればいいと思う?  彼女は今は亡き夫に、唯一彼女が心から愛したその人に、弱い自分を支えてもらおうと。  一人、夜空を見上げながら考え込んでいた。  ──しかし、残る二人は、と言うと。  …はてさて困ってしまった。と言うか、例のご婦人が気になって全く眠れないのである、まる。  ちらちらと──因みにそれは二人とも同じである──物憂げな表情で夜空を見上げる♀Wizを見ながら、 ♂プリーストはというと、元気良く立ち上がったマイ逆毛を修道女のヴェールからはみ出させながら寝たふりをしていた。  っていうか、今俺等の方を見たって。ああ、未亡人ってやっぱし色っぽい、というか寝ないと不味いんではないですか俺等。  そして、余り冷静とは言えない状況にあった。  何せ、未亡人の色香、と言うものは未だむさ苦しさの境地に居る両の健全な男子にとって半ば毒物にも近い。  ♂プリーストは悶々と襲い来る妄想を振り払うのに精一杯、と言ったところだ。  ♂シーフは、と言うと月明かりにも解るぐらいの変調を顔面に来たしている。  だが。諸君に問いたい。  もし、如何にも物憂げな雰囲気の未亡人が僅かな月明かりの元、物思いに耽る、という半ば絵画じみた状況で。  健全な身体と感性を持つ一般的なミッドガッツ男児が平静に眠りにつけるのか?という現実を。  ♂プリーストは無論全力で、否、と答えたのである。  つまるところ。万歳!!年上の色香万歳!!プリプリなるちちしりふともも閣下マンセー!!マンセー!!  という北○鮮や悪魔にでも魂を二束三文で売り払ってしまいそうな状態なのである。  まぁ──  ああっ!!今、うなじがっ!!うなじがっ!!?畜生!!♂シーフの馬鹿!!そこどけっ!!  と言った具合で、そこから先に考えの至らないこの野朗は男と言う狼の中でも、それなりに誠実であるらしかった。  いわんや♂シーフをや。彼らはある意味でミッドガッツ男児のサラブレットである。  どかっ、と遂に痺れを切らした♂プリーストの足が、寝返り様に♂シーフの背中を軽く蹴った。  答えてぼかっ、とこれまた寝返り様に振られた♂シーフの手が♂プリーストの顔面を打つ。  視線が合って火花が散った。しかし、夜の闇夜は変わらない。  目を瞑ったまま、しかし野朗二人の表情は鏡写しの様に引き攣っている。  このまま立ち上がって殴りあいと洒落込みたい所だったが、理性はそれに反論を提示している。 「──起きてたんですか?」  と、国境線上で膠着に陥った両軍に、平和的介入を齎す大使、と言った風情の声音が聞こえていた。  これが国際的連合組織でよかった。マッカッカ魔導師将軍元帥であればLoVによる局地的殲滅作戦等を提示していたやもしれぬ。  ハトやら風船やらは勿論夜空には舞わないけれども、むっくりと二人共寝転んでいた体を起す。  ♀Wizは、何だかそんな二人が可笑しかったらしく、淑やかに、口元に手を添えて微笑む。  それから、ふと思い出した様に♂プリーストと♂シーフに対して唇を開いて。 「眠れないんでしたら少しお話でもしませんか?気も落ち着くと思いますから」  そして、ふわっ、とした顔を♀Wizは浮かべて、そう言った。  彼女が持っているのは、幻想と思い出。欲しいものは目的と思い切り、それから二人の信頼。  ぼんやりと思い浮かべる心象はあるけれど、いざ絵の具とキャンバスを与えられれば苦笑してしまう、そんな女性。  愛には時間が必要だ。  ♀Wizは考える。  男二人は考える。  ──何から話したらいいものかしら…やっぱり、今あの事は話しておくべきよね。  ──話題…例えば。『やっぱり一日の回数は多いんですか?』とかか…いや、それは色々マズいだろ。    ヤバいネタしか浮かばねぇじゃねぇか。どうするよ…俺等。  但し、その思う所は微妙にズレていたのだが。  そして、丁度その時だった。あの道化の声が聞こえてきたのは。  そしてまた一方。また島の離れた場所で。  その男──♂騎士が一人森の中を走っていた時の事。  彼は、様々な記憶を思い出しながら歩いていた。  目の前が、まるで真夜中みたいに真っ暗だったせいもある。  (これは自己の崩壊に対する防衛反応、とも言えたが勿論彼はそんな事実にまで頭が回っては居ない)  ただ。彼は逃げても逃げても追いかけて来るイメージに時折吐き気を覚えながらも、それを紛らわす様に森の中を進んでいた。  手には。赤い──ナイフ。真っ赤な真っ赤な筈のナイフ。今は黒く、闇に沈んだ刃となっている。  記憶の中のイメージは。  何時だってワガママなお嬢様だった♀プリーストの事。そのくせ、時折優しさを見せる♀プリーストの事。  笑っている彼女。怒っている彼女。恥ずかしがっている彼女。普通の彼女。昔の彼女。今の彼女。  ぐるぐるぐるぐる。回る回る。何人も何人も彼の周りを♀プリーストの幻影が回っている。  でも。俺は。  彼女を殺した。  認めた途端に幻影は赤く。赤い赤いあかい。どろり、とした赤。  真っ赤な真っ赤な。夕日みたいに真っ赤な。胸から飛沫を上げる。  ナイフを抜くと。ナイフを抜くと──いや、思い出すな。思い出してはいけない。  それを明確に認識し、認めてしまえば。きっと後戻りが出来なくなる。  ♂騎士はそんな錯覚を覚える。  だけど。  俺は、彼女が怖かったんだもの。  眠っている彼女の前にいた時、まるで。まるで。まるで。  ♀プリーストが化物。魔物の様に見えて。  ごめん。ごめんよ。俺は。君を殺したときに、安堵を覚えて──  ──考えるな。それ以上、考えればきっと飲み込まれてしまう。  えっと。そういえば、ここは何処だったか。俺は、♂騎士だった筈だけれど。  今日は、俺は狩りに出る。  今日は、俺は狩りに出る。  俺は冒険者で騎士だから。  今日は、俺は、殺し合いを、する。  ひとを。ころす。俺は、この島に来てしまったから。  いや、そうではなくて。  そうではないはずで。ズキズキと傷が痛い。ズキズキと心が痛い。  はて。俺がこの痛みから逃れようとするのは、果たして正しいのか正しくないのか?  傷がひたすらに痛む。それが狂気への自閉への逃避を阻む。  ──認めてしまえよ。ともう一人の自分が♂騎士に囁いた。  お前は、♀プリーストを殺した。だから、他の人間も殺してしまえよ。  しかし。認めた所でどうするのか?人を殺して回るか?この忌まわしいナイフ一本で?  この痛む体を引きずって、俺が、人を、殺すの、か?  出来る訳が無い。どうせ、殺されるのがオチだ。今の自分は例え、ノービスが相手でも殺されてしまうかもしれない。  だから、逃げるのか?  ──ああ、そうさ。俺は逃げる。逃げて逃げて逃げ続ける。  あの幻影から。この島の事実から。殺し屋から。人から。世界から。  逃げ続けていれば、どうせ追ってはこられない。  罪も、殺しも何もかも真っ平ご免だ。ああでも、自殺なんて出来る気がしない。  ♀プリーストの事が好きではなかったのか?  けれど、彼女は。彼女は俺が。俺が。  いや、アレは──違う。違う違う!!彼女のせいではなく俺のせいだ!!  けれど。それはやっぱり、事実を事実として認める事で。  がぶりを振る。傷が痛む。逃げられない。何処までも追いかけてくる。  そんな時だった。彼が、あの忌まわしい声を聞いたのは。  声の主はジョーカー。即ち死神である。  耳を塞げども、声は届く。逃げる事は出来ない。  そして罪人よその意味を震えながら聞け。  ──判決。有罪。  忌まわしい道化の歌に乗って彼は踊る踊る。 <♂騎士 E-3に辿り着くまでの心理補足?> <♀Wiz&♂プリ&♂シフ 場所E-3 時間は夜> ---- | [[戻る>2-076]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-078]] |

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