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083 痕[放送直前] ---- ――俺と俺の妹は血が繋がっていなかった。 形式で言えば連れ子になるんだろうな。両方ともね。 けどあいつの親父殿は再婚、俺の母は…誰が俺の本当の親父かもわからない。そう言う商売だった。 そんな母が親父殿を捕まえたのは、まあ美貌と悪知恵のおかげかな。 ――剣の腕はからっきしでも爵位付きの騎士だった親父殿は、めかけを何人も囲っていた。 母はその中にうまく潜り込んで、俺をお嬢様…妹の小姓に差し出した。 妾の子なんてひどいものさ。使用人どころか犬以下の扱いだよ? まあ、そのおかげで母は奥様…ああいけない、まだ呼び方が抜けないか。…親父殿の本妻と表向きうまくやっていられた。 どうしてかって? 母のことを気に入らないと思っても、本妻としては直接手出し出来ない。 妾の方が本妻より可愛がられるのが世の常だから、下手なことをすれば親父殿を怒らせるだけだ。それに妾なんかと対等に喧嘩できるかって矜持もあっただろうね。 だけど誰も気にしない俺なら、存分にいじめ倒して鬱憤を晴らせるというわけさ。 ――あの頃の俺の生活はちょっとしたものだった。 無理な用事を言いつけられて、出来なかったから食事抜きなんて当たり前。 真冬の明け方に宴から帰ってきて、湯浴みの支度が出来てないからって庭の噴水に投げ込まれたときは、さすがに死んだかと思ったよ。 ついでにお嬢様が何かやらかしても、小姓の俺が至らないせいってことで罰を受けるのは俺の役目だ。 それで少しでも不満そうな顔しようもんなら、また折檻。 いつでも本音を隠してへらへらしてる癖はその時ついた。 ――母は俺がいじめられてるのを知るたびに、本当に悲しそうな顔をしていた。そして俺に謝るんだ。ごめんね、ごめんね、ってね。 だけど絶対に文句は言わなかった。本妻にはもちろん、他の誰にも。 俺はあの頃、それを母の優しさだと思っていた。…今にして思えばしたたかな女だったんだけどね。 痛いのも苦しいのも俺さ。母じゃない。 けれど悲しそうにしてれば本妻の復讐心は満たされるし、他の人は同情する。 特に親父殿がね。 ――そんな顔しないでもらえるかな。俺だって実の母親を悪く言いたくはない。 けれど、母がそうやって一番の愛妾に成りおおせたとき、いきなり都合良く奥様が亡くなったんだ。 どうやってかは知らない。けどそう仕向けたのは母だ。 間違いない。 ――俺はお嬢様の命令で、一緒に奥様…ああ、もう奥様でいいか…の棺桶へ花を供えに行った。 棺に入れる花は白って決まってるけど、奥様は赤い薔薇が好きだったからってな。 まあ俺としては恨みもあったけど、あいつの前で死人に当たる気にもなれなくてね。一緒に花を捧げて冥福を祈ったよ。 そこに足音が近付いてきた。 俺達は慌てて隠れた。なにしろ昼間にも薔薇入れようとして叱られていたからね。 それで祭壇の花束や供物の山に隠れてると…もう分かってるとは思うけど、入ってきたのは母だった。 きれいだったよ。 少し憂いを含んだ優しい顔は、あの時子供心にも本当にきれいだと思った。 …その顔があんなに変わるものとは。 棺桶にかがみ込んだ瞬間、母の顔を形作るパーツが全部、きゅって歪んだ。 目と口と眉を三日月に歪めた魔女の容貌に。 ――俺もお嬢様も、手を握りあったまま叫ぶことも出来ずに震えていた。 母が奥様の死体に何か囁いてる間中、絶対に見つからないように祈りながら。 幸いというか何というか、俺達は見つからなかった。 その代わり最後まで見る羽目になった。 満足そうな顔で囁き終えた母が、笑顔のまま長い針を取り出し…奥様の腹に突き刺すところまで。 針の頭が完全に埋まるまで深々と、何本も何本も。 下腹の、子宮のある辺りだった。墓を暴けばまだ残ってるはずだよ。 ――それ以来お嬢様は変わった。 それまではちょっとわがままでも明るい子でね。 あの狭い世界では唯一の遊び相手で、理解者だった。 それがあの夜からほとんど笑わなくなった。 特に女を避けるようになって、俺や若い従士達と剣術の真似事ばっかりするようになった。 まあ、当然かな。俺だって母の顔を見ないで済むよう逃げ回っていたぐらいだから。 二人で剣術の稽古に入れあげて…今でも正規の剣術やってる奴の動きはよく見える。 君のもね。 ――ところが、だ。 半年もしない内に、母はまんまと親父殿の後妻に収まった。 今日からお前達は兄妹だ、って言われたときのあいつの顔は忘れられない。 裏切られた、って感じたんだろう。 俺の意思かどうかは関係ない。妹にとっての事実は俺もあいつの『家』に押し入ったってことなんだ。 ノックすれば喜んで迎え入れてくれたはずなのに、母の後にくっついて土足でね。 子供だった俺はそれに全然気付けなかった。 それどころか急に良くなった待遇に浮かれていた。 …気が付いたときにはあいつは誰にも心を開かなくなっていた。 ――愛想のない、後見する母親も死んでしまった娘と、実子じゃなくても今の妻の息子。しかも歳は俺の方が上。 一年経った頃には親父殿は後継者を迷い出してたはずだよ。 そんな折りも折り。俺は剣術の稽古でちょっと大きな怪我をした。 妹の剣で。 その頃は歳の差の分俺の方が強かったし、もう小姓とお嬢様でもない。 必死な顔で突っかかってくるあいつを適当に叩きのめしてたんだけど、一本取って気を抜いたところへ半泣きで振り回された剣が当たってしまった。 ――木刀じゃないよ。 真剣と重さが違うと訓練にならないから、刃がないだけの鉄剣だった。まともに当たれば死ぬこともある。 とは言っても子供の力だ。剣も軽い。 血はだらだら流れてたけど、意識ははっきりしてた。 だから妹の青ざめた泣き顔は見えていたし、叫んだ声もちゃんと聞こえた。 おねがいだからでてって。うちからでてってよ! ――ふぅ。 笑えるよね。俺はその時まで、妹に嫌われてるとはこれっぽっちも考えてなかったんだ。 あいつは拗ねてるだけで、いつか元に戻ると思ってた。 でもそいつは子供の幻想だった。 ベッドで傷の発熱にうなされながらやっと理解したときにはもう手遅れだよ。 親父殿は手に負えなくなった娘をさっさと廃嫡して、剣士ギルドの預かりにしてた。 まあいい判断だったけどね。 そうしてなけりゃ母はあいつまで手に掛けただろうし。 ――それで、俺は馬鹿なりに必死に考えた。 あいつの幸福を取り戻すには、俺と母があの家から出ていくしかない。 そう思った俺はチャンスを待った。 そして、それはすぐに巡ってきた。 俺の恢復を待って、親父殿は嫡男のお披露目をすることにしたらしい。 はっきりそう聞いた訳じゃないけれど、貴顕淑女を集めたパーティーを開いて俺と母を盛装で控えさせるなんて他には考えられない。 呼び出された俺はすました顔でお歴々の前に立ち、 ――親父殿が何を言うよりも早く母のドレスを引きずり下ろした。 傑作だったよ。 首まである淑やかなドレスなら無理だったろうけど、胸ぐりの大きなイブニングドレスだったからね。一発で上から下まで丸見えだよ。 ついでに挨拶をひとこと。 やーどーも、バードでげす。 今ならもうちょっと強烈な口上も思いつくんだけど、あの時は口調変えるのが精一杯。 まあ、結果的にはそれで充分だった。 全部台無しにされた母が、裸身を隠すのも忘れて蹴り飛ばしてくれたからね。 いやもう鬼女丸出しの形相で。 ――当然のごとく、俺は家を追い出された。 それ以前にパーティー会場から直接脱走したんだけどね。 それなりに準備はしてたし、いじめられていたお陰で生きるすべは身についていた。 モロクに行くことも考えたけど、結局1人で生きる業をフェイヨンで磨くことにした。 妹に顔向けできなくなることを恐れたのかもね。 ――そして一人前の弓手になってから、俺はこっそりプロンテラの家を覗きに行った。 母は追い出されてはいなかった。 ただ、別の女が新しい愛妾として幅を利かせ、母は屋敷に閉じこめられていた。 それでも死ぬまで何もせず贅沢に暮らせるんだ。むしろ不相応なほどの厚遇だろう。 問題は妹だった。 俺が家を出ても、あいつは家に戻ってなかった。 考えてみりゃ当たり前だ。知らない女が家の中に増えただけなんだから。 ――俺はその足でイズルードに向かった。 剣士ギルドで妹は黙々と剣を振るっていた。 他に誰もいない庭で。完全武装したまま、標的を相手に。 俺はそっと声を掛けた。 返事はなかった。 だからあいつが訓練を終えるまで待って、戻るところを引き留めた。 答えは一言。 邪魔。 それだけだった。 ――それからも俺は折りにつけ妹の元に通った。 あいつはいつも1人で剣を振っていた。 他の剣士達のように冒険に出ることもなく、重い鎧をまとってただひたすらに。 数年経って、少しでもあいつの近くにいられるよう俺が詩人となったときも、あいつはまだ剣士のままだった。 騎士になるには心を閉じすぎ、聖騎士になるには信仰心が薄すぎる。 それが剣士ギルドで聞いた評価だった。 …親父殿がその気になれば騎士叙勲ぐらい簡単だっただろうに。 親父殿はあいつのことを政略結婚の駒程度にしか思ってなかったのかも知れない。 ――まあ、いい。親父殿はその報いを受けた。 結局妹を追いつめただけの俺も。 あと残ったのはあいつを殺したこのゲームだけさ。 だから俺はこのゲームをつぶす。 ゲームに乗った奴も殺す。 そう言うわけだ。 長話のおかげで私はようやく冷静さを取り戻せた。 彼は私と同じ種類の馬鹿らしい。 独りよがりで、大切な人のそばに居てあげることも出来ない大馬鹿。 自分の不幸に溺れ、他を見ないところまでよく似ている。 差があるとすれば、それを口にするか否か。 詩人の性なのかも知れないが、血の繋がらない妹の話などするべきではなかった。 残念ながら同情よりも嘲笑を感じる。 私達カプラ職員も、姉妹を名乗ってはいても誰1人として血の繋がりなどない。 …これだけ容貌に差があるのだ。血が繋がっている方が不思議だろう。 ではなぜ、私達が姉妹を名乗っているか。 それはカプラサービスの本体が孤児院だから。 カプラで育った者は何とかして養育費を返すか、職員としてカプラを支えなければならない。 つまりカプラ職員は全員が同じ孤児院で育った兄弟姉妹なのだ。 その私に不幸自慢とは笑わせる。 地べたをなめてきた話も、虐待の話も、孤児院には掃いて捨てるほどある。 そのどこを取っても、貴族や爵位などといった金ぴかの単語はでてこない。 彼の妹など私から見れば甘やかされた只のわがまま娘だ。 Wの天真爛漫な笑顔の裏にある物が分かるか。 詩人の話が終わるのを待って、私はなるべくゆっくりと声を出した。 「1つだけ、聞いてもいいかしら」 「どうぞどうぞ。でも答えるかどうかは分からないでゲスよ?」 しゃべるだけしゃべって満足したのか、バードは元のにやけ口調に戻って承諾した。 私は腕を押さえられて動かしにくい肩を強引にすくめてみせる。 「思い出話をしたのは私が妹に似てるから、とか言わないですわよね」 「うっひゃ~近い!似てるのはお袋の方でゲス」 「あら光栄。美しい方だったと言いましたわよね」 「いやいやいや。奥様の遺体に針刺したときの顔にでゲスが」 「あら。ひどいですわね」 男の挑発には乗らず、私はもう一度大きく肩をすくめた。 「ではもう1つ」 「質問は1つじゃなかったんでゲスかい?」 「さっきのは質問。今度のは確認ですわ」 「なんでげしょ?」 「あなたの妹さん、いつも同じ場所で剣振ってなかったかしら?」 こんどは返答に一呼吸分の間があった。 「…それがどうかしたでゲスか」 やっぱり。 ここから先は推測だ。 100%確信があるわけではないけれど、間違っていたとしても彼の一番柔らかいところを突くだろう。 私はみたび肩をすくめて見せた。 「それは誰かを待っていたからに決まっていますでしょう?来るか来ないか分からない人を毎日ですわよ」 密着した男の体がぴくり、と動くのが分かった。 当意即妙に切り返そうとして果たせず、呼吸が乱れる。 私は彼が見せたその隙に全てを賭けた。 肩をすくめる動作に隠し、少しずつ動かしていた左腕を一気に引き抜く。 その勢いのまま腕を振り下ろし、バリスタを叩いた。 バツン 「っくあっ」 左脇に熱感。 メイルのお陰で串刺しは免れたが、どうやら酷くえぐられたようだ。 だが、これでいい。バリスタは片手ではつがえ直せない。 「往生際が悪いでゲスよ!」 しかし詩人は判断よくバリスタを諦め、私が右手の自由を取り戻す前に両手で押さえつけに来た。 まずい。ポジションが悪い上に腕力もあちらが上。もう一度押さえつけられたら最期だ。 握った右手の剣を必死に動かして男の注意を引き、空いた左手でつかんだ物を男の足に突き立てる。 「っつあっ…?」 その瞬間、バードの声と体がなぜか揺らいだ。 力のゆるんだ男の体を突き飛ばし、その下から一気に転がり出す。 そのまま連弩へと手を伸ばすが 「そうはイカの何とやらでゲスよっ」 猿並みの身ごなしでくるりと立ち上がったバードの蹴りの方が一瞬早かった。 吹き飛んだ連弩は樹に当たり、鈍い音を立てて転がる。 連射を可能にする精巧な仕掛けは衝撃に弱い。もう使い物にならないだろう。 「お下品ですわねっ」 舌打ちをこらえ、蹴り足を狙ってわざと力任せにバスタードソードを振り抜いた。 「うおっとお」 ひょいっと飛び上がって避けた男は、後ろ向きにとんぼを切ってバリスタへたどり着く。 絶対的不利を悟った私はバリスタに矢がつがえられる前に身を翻した。 「逃がさないでゲス」 剣術修練で鍛えられた腕力と梃子を生かし、バードはバリスタを信じられないほど早く引き絞った。 地面に散らばった矢から一本を選び、矢溝に乗せる。 「スリープアローとは恐れ入りやした…が、今度はそちらが味わう番でゲスよ」 木々の間に見え隠れするグラリスの後ろ姿に狙いを付け、引き金を引こうとする。 しかし、撃とうとした瞬間に視界がわずかに霞んだ。 「おろ…?」 ぱしゅん 放たれた矢は目標のヘッドドレスをかすめて飛び去った。 催眠毒の効果がまだ残っていたのかと思い、彼は右脚の傷を確かめる。と、 ツッ なぜか右脚ではなく、左脚を鮮血が伝っていた。 左の脇腹から。 痛みはほとんどないにも関わらず、ぱっくり開いた傷口からは真っ赤な血がとめどなく流れ落ちていた。 「なんでゲスかこりゃあ」 ――それは彼の矢がグラリスの鎧を貫いた場所と、寸分違わぬ位置だった。 <残り40名> <グラリス> 位置:F3→E4 容姿:カプラ=グラリス 所持品:TBlバスタードソード 普通の矢筒    案内要員の鞄(DCカタール入り) メイルオブブリーディング 状態:左脇腹負傷 備考:連弩破壊により喪失 敗北により油断は消えている <バード> 位置:F3 容姿:BSデフォ白 所持品:バリスタ 羽帽子 普通の矢筒 スリーピングアロー十数本 状態:軽傷。左脇腹バッドステータスとしての<出血> 備考:妹の復讐の為に殺人者と主催者へ憎しみを抱く。 ---- | [[戻る>2-082]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-084]] |

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