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097 狩人と狐 [定時放送後30分以内] ---- 「らァァッ!」 フェイント気味に振るわれた包丁の刃は、しかし分厚い木材で受け止められていた。 バァン!と音を立てて刃が半ばまでめり込み、破片が飛び散る。 「ふっ!」 振り切った体勢でがら空きになっている足元めがけ、ジルタスの脚がしなやかにうなる。 「ぐ……はッ」 「へッ……甘ェんだ……」 しかし体を折ったのはジルタス。♂ローグはとっさに包丁から手を離し、懐に踏み込みざま 肘を打ち込んだのだ。そのまま顎めがけ拳を振り上げる。 「……よッ!」 「……がァッ!」 伊達にジルタスも監獄の女主人と呼ばれるわけではない。 体を捻りつつ、包丁が刺さったままの木材を♂ローグの横っ面に叩きつける。 「がッ……」 「ぐぉッ……」 拳が顎をかすめ、衝撃が頭を揺さぶる。木材が衝撃に耐えかね、 バギン!と真っ二つに割れる。よろけるジルタスと、たたらを踏む♂ローグ。 「「あァァッ!!」」 だが両者とも一瞬で意識を引き戻した。 宙に飛んだ包丁を引っつかむと強引に軌道を曲げて切りかかる。 後方に飛びのきざまバク転の要領で数度蹴り上げる。 「……ペッ」 後ろに数歩よろめくように下がった♂ローグが血の混じった唾を吐き出すと、 カン、と乾いた音がした。折れた歯が何本か床に転がっている。 「ふん……」 床を擦りながら這うように着地したジルタスが体を起こすと、ピン、とワンピースのボタンが いくつか弾け飛んだ。裂けた布地から覗く肌に赤い線が滲んでいる。 嵐のごとき攻防の後の、つかの間の静寂。 「畜生、2本やられた」 頬の血をぬぐいながら♂ローグが言う。 「あたしだって、ボタンを2個も飛ばされたわ」 切り裂かれた布地のあたりをさすりながら、ジルタスが返す。 「へっ、セクシーになって丁度イイじゃねえか。いつももっと過激なカッコしてんだろ」 「せっかくご主人様がいいって言ってくださった服なのよ。それを傷物にするなんて 許せないわ。……それよりあなた、今の顔のほうが男前なんじゃなくて?」 「くっく、そいつはどうも。だが俺ァ、寄って来る女より、逃げようとする女を力ずくで モノにするほうが好みなんでな」 「それは悪趣味ねぇ。強引な男は嫌われるのよ、坊や」 軽口を叩きあいつつも、殺気は再び高まっていく。互いにじりじりと距離を取り、 得物を構え、仕掛けるタイミングを計っている。 その時。 ピ、ピ、ピ、ピ…… 「なんだ!?」 「なに!?」 聞き慣れぬ音に、緊張が破れた。断続的な人工音。 それは一瞬のことだった。しかし、ほんの一瞬だけ早く、ジルタスのほうが 目前の状況に意識を引き戻した。 「失礼!」 近くの棚に置かれていた壷を鞭で引っ掛けると、♂ローグの顔面に向けて放り投げる。 直前で気づいたものの、♂ローグには避ける余裕はなかった。がしゃぁぁん、と壷が割れる。 「ッ……! てめェッ……!!」 しかしその一瞬の隙に、ジルタスの姿は消えていた。かすかに遠ざかっていく足音。 「逃がすかよッ!」 ジルタスとの格闘戦のため脇に置いていたクロスボウに飛びつき、壊れた窓から構える。 今夜は満月。森へと駆けるシルエットがはっきりと見える。 「バカが! ハンティングの的にはもってこいだぜ!」 背中から心臓をぶち抜いてやる。狙いを定め、引き金を引こうとしたその時。 「ひ……ひぃぃぃやぁぁっ!」 だんっ! 何者かに脚をつかまれた。バランスを崩して矢の狙いが逸れたまま、 クロスボウが発射される。人影は一瞬よろめくが、再び走り出す。 「クソッ! 仕留めそこねた!」 二本目を装填するのは間に合わない。この場はあいつを見逃すしかない。 「てめェが余計なことしやがるからだ! コラァ!」 脚にしがみついて何事かわめき散らす肉塊を蹴り飛ばす。窓から放り込んでやった 豚野郎がいつの間にか息を吹き返してやがった。腹立ち紛れに何度も蹴りを入れると、 その度にカエルが潰されるようなみっともない呻き声が上がる。 ボロ雑巾のようになった大臣は、ひゅうひゅうと息をしながらひたすら繰り返していた。 「あがっ、が……じんでじまう……じ、死にだぐなぃ……」 「ケッ、死ぬ死ぬ言うわりに頑丈な野郎だ。だがテメェといつまでも遊んでんのも飽きたしな、 この辺でいい加減死んどけや」 ごり、と包丁を首筋に当てる。 「ぐび、わっ……くびわが……ば、ばくっ……ひぎゃぁぁぁ……っ」 「ああ!? 首輪だぁ? 今さらんなもん関係ねェだろ。テメェは首切り落とされんだからよ」 ……いや。待て。 首輪が爆発する――ここは禁止区域なのだからそれは当然のことだ。だが、放送が聞こえ、 禁止区域が発表されたとき、こいつはどうしていた?俺のスペシャルな拷問フルコースで 気を失ってやがったはずだ。みっともなくクソまで漏らして。 それなのに、だ。 どうしてこいつは、首輪が爆発すると、「ここが禁止区域だと」わかるんだ? ピ、ピ、ピ、ピ…… この音。さっきから続いているこの妙な音。 「首輪から……か?」 よく見ると、首輪につけられた小さな石も赤く点滅を繰り返している。 なァるほど、警告ってわけかよ。あの道化師野郎のことだ、禁止区域から逃げやすいように なんて理由じゃない。泡食って必死こいて禁止区域から逃げようとする奴の姿が 見たいだけなんだろうぜ。全く悪趣味だ。 「ま、俺には関係ねェことだがな。丁度いい。時間まで正確にどれだけ残ってるのかは わからねェが、そのままみっともなく喚いて死にな」 ついでに、どれだけの爆発なのか見ておきたいしな。♂ローグはクロスボウを抱えると、 包丁をぶら下げ小屋を出た。そのまま駆け足で小屋から離れる。 爆発が周囲を巻き込むようなものだった場合―― 「巻き添えを食ってお陀仏なんてのァご免だからな」 樹の影で荷物を回収し、ふと小屋を振り返る。まだ爆発の様子はない。 ピ、ピ、ピ、ピ…… 「!?」 妙だ。 まだ音が聞こえる。それもはっきりと……すぐ近くでしているかのように。 「まさか……」 視線を落とす。暗い地面に明滅する赤い光。 『あなたには思うまま殺して頂きたいですからね。その首輪、特別製にしておきました』 「く、そが……ッ!」 ♂ローグは脱兎のごとく走り出した。 『禁止区域に侵入しても爆発しないんです。隠れ場所にするもよし、罠に使うもよし。 ま、楽しんでくださいな。……あ、言っときますけど他の方々にはくれぐれもナイショですよ? ひいきだって怒られちゃいますからねぇ……くっく』 「あのクソピエロ……ぶっ殺してやる!」 走りながら荷物を探り、取り出した馬牌を握りつぶす。馬のいななきのような音が響き、 ぐんと体が加速する。 ゴールも、タイムリミットもわからない。 追う狩人から追われる狐になった男は、夜の森を駆ける。 ピ、ピ、ピ、ピ…… <♂ローグ> <所持品:包丁(血濡れ)、クロスボウ、望遠鏡、寄生虫の卵入り保存食×2、馬牌×3、 未開封青箱×1> <外見:片目に大きな古傷> <性格:殺人快楽至上主義> <状態:禁止エリアより脱出するため疾走中(I-5→?)> ※脱出成功かは後の人に任せます <備考:GMと多少のコンタクト有、自分を騙したGMジョーカーも殺す> <ジルタス> <所持品・・・ジルタス仮面、女王の鞭> <外見・・・ジルタス+ぴちぴちワンピース(胸元が少し破けている)> <状態:♂アコたちを追う(I-5→?)、クロスボウにより負傷(詳細は次の人にお任せ)> <備考・・・♂アコライトのペット> <工務大臣> <状態:♂ローグにより虫の息、首輪のカウントダウンにより恐慌状態、 体内では順調に寄生虫の卵が孵ろうとしている> ---- | [[戻る>2-096]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-098]] |
097 狩人と狐 [定時放送後30分以内] ---- 「らァァッ!」 フェイント気味に振るわれた包丁の刃は、しかし分厚い木材で受け止められていた。 バァン!と音を立てて刃が半ばまでめり込み、破片が飛び散る。 「ふっ!」 振り切った体勢でがら空きになっている足元めがけ、ジルタスの脚がしなやかにうなる。 「ぐ……はッ」 「へッ……甘ェんだ……」 しかし体を折ったのはジルタス。♂ローグはとっさに包丁から手を離し、懐に踏み込みざま 肘を打ち込んだのだ。そのまま顎めがけ拳を振り上げる。 「……よッ!」 「……がァッ!」 伊達にジルタスも監獄の女主人と呼ばれるわけではない。 体を捻りつつ、包丁が刺さったままの木材を♂ローグの横っ面に叩きつける。 「がッ……」 「ぐぉッ……」 拳が顎をかすめ、衝撃が頭を揺さぶる。木材が衝撃に耐えかね、 バギン!と真っ二つに割れる。よろけるジルタスと、たたらを踏む♂ローグ。 「「あァァッ!!」」 だが両者とも一瞬で意識を引き戻した。 宙に飛んだ包丁を引っつかむと強引に軌道を曲げて切りかかる。 後方に飛びのきざまバク転の要領で数度蹴り上げる。 「……ペッ」 後ろに数歩よろめくように下がった♂ローグが血の混じった唾を吐き出すと、 カン、と乾いた音がした。折れた歯が何本か床に転がっている。 「ふん……」 床を擦りながら這うように着地したジルタスが体を起こすと、ピン、とワンピースのボタンが いくつか弾け飛んだ。裂けた布地から覗く肌に赤い線が滲んでいる。 嵐のごとき攻防の後の、つかの間の静寂。 「畜生、2本やられた」 頬の血をぬぐいながら♂ローグが言う。 「あたしだって、ボタンを2個も飛ばされたわ」 切り裂かれた布地のあたりをさすりながら、ジルタスが返す。 「へっ、セクシーになって丁度イイじゃねえか。いつももっと過激なカッコしてんだろ」 「せっかくご主人様がいいって言ってくださった服なのよ。それを傷物にするなんて 許せないわ。……それよりあなた、今の顔のほうが男前なんじゃなくて?」 「くっく、そいつはどうも。だが俺ァ、寄って来る女より、逃げようとする女を力ずくで モノにするほうが好みなんでな」 「それは悪趣味ねぇ。強引な男は嫌われるのよ、坊や」 軽口を叩きあいつつも、殺気は再び高まっていく。互いにじりじりと距離を取り、 得物を構え、仕掛けるタイミングを計っている。 その時。 ピ、ピ、ピ、ピ…… 「なんだ!?」 「なに!?」 聞き慣れぬ音に、緊張が破れた。断続的な人工音。 それは一瞬のことだった。しかし、ほんの一瞬だけ早く、ジルタスのほうが 目前の状況に意識を引き戻した。 「失礼!」 近くの棚に置かれていた壷を鞭で引っ掛けると、♂ローグの顔面に向けて放り投げる。 直前で気づいたものの、♂ローグには避ける余裕はなかった。がしゃぁぁん、と壷が割れる。 「ッ……! てめェッ……!!」 しかしその一瞬の隙に、ジルタスの姿は消えていた。かすかに遠ざかっていく足音。 「逃がすかよッ!」 ジルタスとの格闘戦のため脇に置いていたクロスボウに飛びつき、壊れた窓から構える。 今夜は満月。森へと駆けるシルエットがはっきりと見える。 「バカが! ハンティングの的にはもってこいだぜ!」 背中から心臓をぶち抜いてやる。狙いを定め、引き金を引こうとしたその時。 「ひ……ひぃぃぃやぁぁっ!」 だんっ! 何者かに脚をつかまれた。バランスを崩して矢の狙いが逸れたまま、 クロスボウが発射される。人影は一瞬よろめくが、再び走り出す。 「クソッ! 仕留めそこねた!」 二本目を装填するのは間に合わない。この場はあいつを見逃すしかない。 「てめェが余計なことしやがるからだ! コラァ!」 脚にしがみついて何事かわめき散らす肉塊を蹴り飛ばす。窓から放り込んでやった 豚野郎がいつの間にか息を吹き返してやがった。腹立ち紛れに何度も蹴りを入れると、 その度にカエルが潰されるようなみっともない呻き声が上がる。 ボロ雑巾のようになった大臣は、ひゅうひゅうと息をしながらひたすら繰り返していた。 「あがっ、が……じんでじまう……じ、死にだぐなぃ……」 「ケッ、死ぬ死ぬ言うわりに頑丈な野郎だ。だがテメェといつまでも遊んでんのも飽きたしな、 この辺でいい加減死んどけや」 ごり、と包丁を首筋に当てる。 「ぐび、わっ……くびわが……ば、ばくっ……ひぎゃぁぁぁ……っ」 「ああ!? 首輪だぁ? 今さらんなもん関係ねェだろ。テメェは首切り落とされんだからよ」 ……いや。待て。 首輪が爆発する――ここは禁止区域なのだからそれは当然のことだ。だが、放送が聞こえ、 禁止区域が発表されたとき、こいつはどうしていた?俺のスペシャルな拷問フルコースで 気を失ってやがったはずだ。みっともなくクソまで漏らして。 それなのに、だ。 どうしてこいつは、首輪が爆発すると、「ここが禁止区域だと」わかるんだ? ピ、ピ、ピ、ピ…… この音。さっきから続いているこの妙な音。 「首輪から……か?」 よく見ると、首輪につけられた小さな石も赤く点滅を繰り返している。 なァるほど、警告ってわけかよ。あの道化師野郎のことだ、禁止区域から逃げやすいように なんて理由じゃない。泡食って必死こいて禁止区域から逃げようとする奴の姿が 見たいだけなんだろうぜ。全く悪趣味だ。 「ま、俺には関係ねェことだがな。丁度いい。時間まで正確にどれだけ残ってるのかは わからねェが、そのままみっともなく喚いて死にな」 ついでに、どれだけの爆発なのか見ておきたいしな。♂ローグはクロスボウを抱えると、 包丁をぶら下げ小屋を出た。そのまま駆け足で小屋から離れる。 爆発が周囲を巻き込むようなものだった場合―― 「巻き添えを食ってお陀仏なんてのァご免だからな」 樹の影で荷物を回収し、ふと小屋を振り返る。まだ爆発の様子はない。 ピ、ピ、ピ、ピ…… 「!?」 妙だ。 まだ音が聞こえる。それもはっきりと……すぐ近くでしているかのように。 「まさか……」 視線を落とす。暗い地面に明滅する赤い光。 『あなたには思うまま殺して頂きたいですからね。その首輪、特別製にしておきました』 「く、そが……ッ!」 ♂ローグは脱兎のごとく走り出した。 『禁止区域に侵入しても爆発しないんです。隠れ場所にするもよし、罠に使うもよし。 ま、楽しんでくださいな。……あ、言っときますけど他の方々にはくれぐれもナイショですよ? ひいきだって怒られちゃいますからねぇ……くっく』 「あのクソピエロ……ぶっ殺してやる!」 走りながら荷物を探り、取り出した馬牌を握りつぶす。馬のいななきのような音が響き、 ぐんと体が加速する。 ゴールも、タイムリミットもわからない。 追う狩人から追われる狐になった男は、夜の森を駆ける。 ピ、ピ、ピ、ピ…… &lt;♂ローグ&gt; &lt;所持品:包丁(血濡れ)、クロスボウ、望遠鏡、寄生虫の卵入り保存食×2、馬牌×3、 未開封青箱×1&gt; &lt;外見:片目に大きな古傷&gt; &lt;性格:殺人快楽至上主義&gt; &lt;状態:禁止エリアより脱出するため疾走中(I-5→?)&gt; ※脱出成功かは後の人に任せます &lt;備考:GMと多少のコンタクト有、自分を騙したGMジョーカーも殺す&gt; &lt;ジルタス&gt; &lt;所持品・・・ジルタス仮面、女王の鞭&gt; &lt;外見・・・ジルタス+ぴちぴちワンピース(胸元が少し破けている)&gt; &lt;状態:♂アコたちを追う(I-5→?)、クロスボウにより負傷(詳細は次の人にお任せ)&gt; &lt;備考・・・♂アコライトのペット&gt; &lt;工務大臣&gt; &lt;状態:♂ローグにより虫の息、首輪のカウントダウンにより恐慌状態、 体内では順調に寄生虫の卵が孵ろうとしている&gt; ---- | [[戻る>2-096]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-098]] |

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