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099 大五朗夏の夜 [放送後] ---- 眠れない。少女の長い髪は、と言うとぐったりしたその主と同じく身動ぎ一つ無く。  とかく、悪ケミ is いんそむにあっくであった。但しグラサンにカードは無い。  が。やはり彼女は眠れない。彼女達が居る岩陰は、海岸線がすぐ近い。  ざざん…ざざぁんと外から繰り返す波の音。魔物の遠吠えの様で。  彼女が居るダンボールの中にも、隙間のあちこちから青い光。  悪ケミ。彼女には兎にも角にも腕力には自信がまるで無かった。  当たり前だ。闘いが苦手で、それでも他の誰かに負けるのが許せない。  見下してきた連中を見返してやりたい。腕力が駄目なら自分に出来る方法で。  そんな感情の末に行き着いた妥協点が今の彼女なので。  最も。そんな彼女だからこそ軍の役には立たず、この場に送られてしまったのだが。  だから、少なくとも負けず嫌いで虚勢を張り続けてきた。と、膝を抱え遠い筈の海を狭い闇に浮かべながら彼女は思う。  そうしないといけない。悪ケミは強く思う。但し、その先に思考は辿り着かないが。  (それは弱さの裏返し。強くありたい、そう望む事は弱い自分を認めると言う事実)  それから。彼女はとりとめもなく思う。  お母さんはどんな時も私の前には来てくれない。  ──彼女は母の愛というものを知らない。何故なら彼女は母の顔さえも知らなかったので  子バフォも、だいぶ前に愛想を尽かしたのか出て行ってしまった。  ──随分と探したものだけど、結局見つからなかった。一人のご飯は冷たかったし、それから更に意地っ張りになった気がする。  無理も無い話。たった一人の、全てを打ち明けられる『子分』だったから。体の半分程も失ったような痛みに少女は嘆き叫んだ。  トモダチかもしれなかった女騎士とは、その頃から会わなくなった。だから、その代りに夢に縋った。  それに。どうして私はこんな所にいるのか。早く帰りたい。  訳が判らない。私は。今日も他愛も無いイタズラをしている筈で。  (イクラによる爆破やフローラ畑、怪しげな薬品の調合が他愛も無いかどうかは別として)  彼女はそうも思った。他の参加者達の多くと同様に。生憎と愚痴を聞いてくれる彼らも出せない。  眠れずにいた時に響いた、死の宣告めいた道化の言葉が甦る。  これだけが死にました。残り後何人。次はお前だ。  告げながら、あの嫌な顔の道化が悪ケミを指差すという幻想。  自分が、血塗れで、真っ赤な真っ赤な、夕焼けみたいな、赤く赤くなって地面に冷たく転がる。  心が裂かれて瞼を閉じれば真っ赤な映像。これで眠れる訳も無い。  寂しくて、悲しくて、そして余りにも辛くて声を上げて泣き出したい衝動に駆られ、ぐっと口をつぐんで我慢する。  ──、子分の前で泣き顔なんてみせられる訳ないじゃない!!  つまり、彼女はただ強がっているだけだった。それが彼女の被った顔。  ただ、その言葉の通り、彼女には今、子分と呼んでいる奇妙な男が居る。  最も。膝を抱え、ダンボール箱の中。小さく丸まっている姿では、まさか彼に泣き顔は見えまいが。  ──宵闇は、人の心を浮かび上げ。月影は人の思考を霞ませる。  何故なら、心は頭上の満天に輝く星空のようなので。  胎児の様に膝を抱えた彼女に声をかける者は居ない。  何度目かになる寝返りを悪ケミは打った。  但し、ダンボールの壁の向こう。  闇に溶け込む様にして座り込んだ男なら居る。  忍者、であった。殺戮の島に不似合いな、穏やかな笑みを顔に浮かべている男であった。  彼は、月を眺めている。月は彼を見下ろしている。  月に向けて呟くように言う。不思議と良く通る声だった。 「君は──」  途切れた言葉を彼は続ける。 「どうして、そんなに強く帰ろうと思うんだい?」  悪ケミはそれに答えない。 「私は、どうも私が帰れる、何て気がしないんだ。ほら、私は弱いからね」  ダンボールがごそごそ動く。忍者は言葉を続けていく。波はさざんと唸り、月はすまし顔をしている。 「嘘」  と平坦な声で悪ケミは言う。忍者が、痩せた顔の眉を僅かに寄せた。  彼女も、流石に昼間の襲撃者に関しての事実に気づいていたので。  勿論、普段ならばこんな事は言わない。だが、今は空に月。遠くからは魔物の唸り。  だから仮面は脱げかけている。 「嘘じゃないさ。私は弱い。元々何一つ持ってはいなかったからね。もしかしたら、未だに失うのが怖いのかもしれないけど」  ダンボール越しの会話と言うのも奇妙な状況だ、と場違いにも忍者は思った。 「何一つ…?どうしてよ」  その問いには答えず、忍者は言葉を続ける。 「私はまだ私じゃない。なぜなら託し託され繋げていく者だからね、忍者は。そして、私は託して初めて私になる」 「…良く判らない。はっきりと言ってよ」 「礎ってことさ。私は…忍者になりたくなったんだから」 「石杖…?忍者と違うじゃない」 「字が違うね…少し、言葉の勉強もした方がいいよ」  うまくはぐらかされた気がして(と言うのも、彼女には僅かに忍者が言葉を飲み込んだ気がしたからだ) 悪ケミはダンボール箱の中から顔だけ出して、彼の方を見た。どうやら理系の彼女は語学は得意では無いらしい。  痩せた顔。気弱そうに下がった眉と目尻。苦笑している様な口元。  その癖、その目が何処か彼女自身を見ていない様な気がして悪ケミは不安になった。 「アンタは私の子分だからね」 「そうだね。私は、君の子分だ」 「…何よ、判ってるんじゃない。だったら簡単に帰れないなんて言わないでよ」  ぷい、と顔を背ける悪ケミに忍者は緩やかに笑う。帽子は脱いでしまっていて、その前髪がそよいでいる。  サングラスは無い。彼女の赤かった目は、ありふれた黒に。どこにでもいる娘の様に不安に揺れている。 「でも、一つだけ聞いておきたいんだ。君は──」  いいかけて、忍者は言葉を止めた。 「何?」 「いいや…何でもないよ」 「答えてよ」 「つまらない事だから。気にしなくてもいいよ」  不安げに言葉を繰り返した悪ケミに忍者は再度首を横に振る。  彼は、やはり、と一人納得する。きっと、不安そうなこの彼女こそ、悪ケミの本来の顔なのだ、と。  なればこそ。そんな彼女に、自分にとっても酷な言葉を口にさせる訳にはいかない、と思った。  即ち。君は人を殺せる覚悟が出来るかい?私には出来ないけれど、と。  ダンボールの中から抜け出してきた悪ケミがぶすっ、とした顔で忍者を見ている。  私は──何も無かった私は。礎に。言うまでも無い。皆が生きて帰る為の礎になれるのだろうか?  忍者は、微笑みの下で思う。判らない。この答えは、きっとYes、それともNoで理解はできない。  けれども。この娘はきっと希望に程近い、と彼は信じる事にした。  ──だって、彼女は。苦しみながらも希望を見失っては居ない。  ぶすったれた悪ケミの顔がまだ彼を見ている。彼は曖昧に笑う。  怒った様な顔をすると、彼女は。 「明日は灯台の他にも逃げ出せそうな場所探す事になると思うから、早く眠ってよ。手下が足手纏いじゃ困るわ」  と彼に言う。 「君は寝なくていいのかい?」 「ば、馬鹿にしないでよ!!今までで十分眠ったわよ!!」 「それならいいけれど。何かあったらすぐに起して欲しいな」 「当然でしょ!!」  怒鳴る彼女に、それから思い出したように忍者は言った。 「それから。疲れたら何時でも代わるから。それじゃあ、お休み」  私は多分死ぬだろう。でも、彼女は多分生き残る。そしてきっと強くなる。  それでいいじゃないか。目を瞑ると忍者はなんとなく思った。  ──本当に殺さないのかい?  殺さないよ。この子といれば、私の望みも叶いそうだからね。  囁きにそう答えながら。しかし何処かで誰かが笑うような幻聴を彼は聞いた。  曰く、君はそうやってこの子以外を見捨てる訳だ、と。 <忍者&悪ケミ H-7の浜辺の岩陰 悪ケミの外見特徴追記 髪型:ケミデフォ 目の色は赤──がスレ設定の筈 その他に変化は無し> 追記:タイトルのヒントは大五郎の口癖と和単語英訳、ネタ元は悪ケミスレの名無しさんによる   わかる人にはわかる筈。チャァァァァ~~ン、summer!!(但し修羅場モードは現時点では実装されておりません) ---- | [[戻る>2-098]] | [[目次>第二回目次]] | [[進む>2-100]] |

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