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110.眠れ、愛しき人よ 【朝方】 ---- 森の中に埋もれるようにして建つ小屋。 一度は激情に駆られて逃げ出したその場所に、♂騎士は今一度足を踏み入れた。 「♀プリ……」 床に広がる夕陽のように赤い血。倒れ伏す相棒――愛しい彼女。 中の様子は血が乾いているという違いこそあれ、彼に悪魔が降りた夕暮れのままだった。 転がる彼女の遺品――少女の日記と未開封の青箱。 それを拾い上げ、彼は自分の胸に抱きしめた。 そして、魂なき♀プリーストに視線を戻す。 一人倒れる彼女は、本当に孤独で、寂しそうで―― 「ごめんな、こんなところに一人にして。……寂しかったろ」 ゆっくりと彼女を抱き上げる。 氷のように冷たい体が、彼女の死を♂騎士に改めて認識させた。 「……馬鹿だな、俺」 わかっている。殺したのは他の誰でもない、この自分だ。 木陰に遮られることなく、日の光を受けて伸びやかに育った花。 その下に、彼は小さな穴を掘った。 「日陰に墓なんか作ったらお前、怒るだろ。じめじめしたところなんか嫌だ! って」 物言わぬ彼女に語りかける♂騎士。 だが彼女は、死の直前の凍りついた瞳を彼に返すのみだ。 「……俺のせいで、こんな顔で死ぬことになっちまったんだよな。…ごめんな」 見開かれた目を閉じさせる。 まるで眠っているかのように安らかな表情になった彼女を、綺麗だと♂騎士は思った。 「安らかに…眠ってくれよ……」 そっと、♂騎士は彼女に口付けた。 そして彼女の体を穴の中へと沈め、眠りを覚まさないようにしているかのように優しく土を被せ。 最後にその上に花をもう一度植え、彼はふぅ、と息をついた。 俺は、お前を忘れない。 お前との思い出も、お前への想いも、自分の許されざる罪も、決して―― 彼女を思わせる可憐な花を墓標とする小さな墓。♂騎士はその前に跪いた。 目を閉じ、そっと祈りを捧げ。彼は愛しい人への想いに浸った。 そしてしばらくして、感傷を振り払うかのように目を開けた彼を、衝撃が襲った。 「……! う、あぁ……!」 ――熱い。体が熱い。 明け方にも感じた体が灼けるような感覚が、彼の体を襲う。 (なんだってんだ、これは……!) 小屋で寝ていた時はこんなことはなかった。この異常な感覚は昨晩からのものだ。 ♂ローグの矢に毒が塗られていたのだとしても、ここまで遅効性の毒があるのだろうか。 しかもおかしいのは体だけではない。苦しむ彼に、何者かが囁くのだ。 ――殺せ。他の全ての人間を殺し尽くせ。 「…またかよ! 誰なんだよ、お前は!!」 囁く何者かに向かって叫ぶ。返事などあるはずがないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。 告げられる言葉が、彼に不快感をもたらすものだったからだ。 ――怖いのだろう? 自分以外の人間が傍にいるのが怖くて仕方がないのだろう? ならば、殺せばいい。あの哀れな少女にしたように、他の人間を一人残らず殺してしまえばいい。 そうすればお前は一人になれる。誰に危害を加えられることもない。お前は自由になれるのだ。 「怖い…怖いさ。だから一度は恐怖に負けてあいつを殺したんだ。  でも、もうあんなこと二度としないって決めたんだ、俺は……!!」 ――ならば死ぬか? 他の人間に殺されて、孤独の中で朽ち果てるのか? 死んでも嘆く者もいない、この島に屍を晒すのか? 「…死ぬ……死ぬものかよ! 俺は……!!」 俺は生きるって決めたんだ。でも、それは他の人間を殺すってことじゃない。 そう、あの男が言ったように―― 『命を燃やして、何かのために生きてみな』 ♂騎士が吐き出した澱んだ心の叫びを全て受け止め、道を示してくれた強面の聖職者。 彼の言葉が、何者かの囁きを掻き消すかのように♂騎士の頭の中に響いた。 「周りの人間を殺して生き長らえて――それが何になるんだ!  俺はあいつの命を無駄にしたくない。絶対にその命に報いた生き方をしてみせる。それしか償う方法を俺は知らないから…!」 ――そんな甘い考えが通ると思うか? あの♂ローグのように、お前の命を狙う者がこの島には多くいるのだぞ。 そんな中で、少しの間共に過ごしただけの人間の言葉を信じるのか? あの♀Wizなど、その気になればお前を消し炭にすることもできただろう。それでも―― 「黙れよ。さっきからごちゃごちゃうるせえんだよ。俺を操り人形にでもするつもりか?  まあいい。お前がどういうつもりだろうと……」 ぐっ、と拳を握りしめる。そして、迷いを全て振り払うかのように叫んだ。 「お前の思い通りになど、なってやるものかぁっ!!」 囁きは返ってこない。ようやく消えた不快感に、♂騎士は大きく息を吐き出した。 だが体の火照りは消えない。おそらく先ほどの不快な声も、これからずっと自分を苦しめるのだろう。 「それでも……俺は折れたりなんかしてやらないぜ」 固い決意。♂プリーストへの懺悔と共に、彼は迷いを全て吐き出していた。 「♀プリ……俺、もう少しだけこっちで頑張ってみるよ。  それが本当にお前の命を奪ったことへの償いになるかはわからないけど。  だから、今は静かに眠って……あの世で待っててくれ、な」 もう一度、そっと祈りを捧げ。 ♂騎士は彼女の遺品を胸に抱き、その場を静かに立ち去った。 +++++ 一方で、そんな彼を物陰で覗く人影がふたつ。 「あ……行っちゃいましたよ」 ♀クルセが♂ケミに囁く。その表情は残念そうなような、安堵したような微妙なものだ。 二人は♂アルケミの意見でF-3の集落にやってきていた。 それは♀クルセの怪我を完治させるために医療器具が少しでも欲しいというもので、朝方なら活動している人間も少ないだろうという判断からだった。 民家のひとつで救急箱を見つけ、処置を終え。 集落は隠れるところが多い分危険だとの考えから、他の人間に襲われる前に立ち去ろうとしたところで、二人は♂騎士の姿を見かけた。 ♀プリーストの遺体を抱き上げ、悲痛な表情で歩いている彼がどこか気になり、その後をつけたのだったが。 「よかったんですか? 声かけなくて」 「う、うーん…悪い人ではなさそうだけど……  一人で叫んでるところを見てると…危ない人っぽく思えてなぁ」 「それは……同感です」 頷きあう二人。ふと視線が合うと、♀クルセはくすくすと笑い出した。 彼女の笑顔を見て、♂アルケミも照れたような笑顔を浮かべた。 「うん、やっぱり昨日みたいな泣き顔より、笑ってるほうが可愛いよ」 「え……」 彼の言葉を聞き、♀クルセの顔が真っ赤に染まった。 「え、か、可愛いって…そんな……。で、でもうれしい、です」 (ちょ……そんなに照れられると、俺まで照れちまうって) たちまち♂アルケミの顔も赤く染まる。 互いに茹でダコのように赤くなった二人。沈黙が流れる。 この殺伐とした状況の中でその姿は滑稽だったが……どこか微笑ましい。 「アルケミストとクルセイダーか……二人相手とは少し厄介ね」 幸せな二人はまだ、彼らを見つめる冷たい視線に気づかない―― <♂騎士> 現在位置:F-3→どこかへ(未亡人PTの元に戻るか、それとも一人で彷徨うかはおまかせ) 所持品:S3ナイフ、ツルギ、S1少女の日記、青箱1個 外見特徴:憔悴しきり、陰りのある顔。だが、瞳は意志の強さを感じさせる 備考:特殊プロテインによる発熱中。♀プリの遺体を埋葬、生きて罪を償うことを誓う。彼を優勝させようと殺人を誘う声に抵抗 <♂アルケミ> 現在位置:F-3 所持品:マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本 外見特徴:BSデフォ・青(csm:4j0g50k2) 備考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る、ファザコン気味?、半製造型、グラリスに狙われている <♀クルセ> 現在位置:F-3 所持品:レイピア、青箱(未開封) 外見特徴:剣士デフォロング・黒(csf:4j0270g2) 備考:守る対象を探す(今は♂ケミに同行)、右脇腹に負傷(かなり回復)、   献身Vitバランス型 ※肩と足の傷は治癒 グラリスに狙われている <残り37名> ---- | [[戻る>2-109]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-111]] |
110.眠れ、愛しき人よ 【朝方】 ---- 森の中に埋もれるようにして建つ小屋。 一度は激情に駆られて逃げ出したその場所に、♂騎士は今一度足を踏み入れた。 「♀プリ……」 床に広がる夕陽のように赤い血。倒れ伏す相棒――愛しい彼女。 中の様子は血が乾いているという違いこそあれ、彼に悪魔が降りた夕暮れのままだった。 転がる彼女の遺品――少女の日記と未開封の青箱。 それを拾い上げ、彼は自分の胸に抱きしめた。 そして、魂なき♀プリーストに視線を戻す。 一人倒れる彼女は、本当に孤独で、寂しそうで―― 「ごめんな、こんなところに一人にして。……寂しかったろ」 ゆっくりと彼女を抱き上げる。 氷のように冷たい体が、彼女の死を♂騎士に改めて認識させた。 「……馬鹿だな、俺」 わかっている。殺したのは他の誰でもない、この自分だ。 木陰に遮られることなく、日の光を受けて伸びやかに育った花。 その下に、彼は小さな穴を掘った。 「日陰に墓なんか作ったらお前、怒るだろ。じめじめしたところなんか嫌だ! って」 物言わぬ彼女に語りかける♂騎士。 だが彼女は、死の直前の凍りついた瞳を彼に返すのみだ。 「……俺のせいで、こんな顔で死ぬことになっちまったんだよな。…ごめんな」 見開かれた目を閉じさせる。 まるで眠っているかのように安らかな表情になった彼女を、綺麗だと♂騎士は思った。 「安らかに…眠ってくれよ……」 そっと、♂騎士は彼女に口付けた。 そして彼女の体を穴の中へと沈め、眠りを覚まさないようにしているかのように優しく土を被せ。 最後にその上に花をもう一度植え、彼はふぅ、と息をついた。 俺は、お前を忘れない。 お前との思い出も、お前への想いも、自分の許されざる罪も、決して―― 彼女を思わせる可憐な花を墓標とする、彼自身が作った小さな墓。 ♂騎士はその前に、正式な葬儀でするように恭しく跪いた。 目を閉じ、そっと祈りを捧げ。彼は愛しい人への想いに浸った。 そしてしばらくして、感傷を振り払うかのように目を開けた彼を、衝撃が襲った。 「……! う、あぁ……!」 ――熱い。体が熱い。 明け方にも感じた体が灼けるような感覚が、彼の体を襲う。 (なんだってんだ、これは……!) 小屋で寝ていた時はこんなことはなかった。この異常な感覚は昨晩からのものだ。 ♂ローグの矢に毒が塗られていたのだとしても、ここまで遅効性の毒があるのだろうか。 しかもおかしいのは体だけではない。苦しむ彼に、何者かが囁くのだ。 ――殺せ。他の全ての人間を殺し尽くせ。 「…またかよ! 誰なんだよ、お前は!!」 囁く何者かに向かって叫ぶ。返事などあるはずがないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。 告げられる言葉が、彼に不快感をもたらすものだったからだ。 ――怖いのだろう? 自分以外の人間が傍にいるのが怖くて仕方がないのだろう? ならば、殺せばいい。あの哀れな少女にしたように、他の人間を一人残らず殺してしまえばいい。 そうすればお前は一人になれる。誰に危害を加えられることもない。お前は自由になれるのだ。 「怖い…怖いさ。だから一度は恐怖に負けてあいつを殺したんだ。  でも、もうあんなこと二度としないって決めたんだ、俺は……!!」 ――ならば死ぬか? 他の人間に殺されて、孤独の中で朽ち果てるのか? 死んでも嘆く者もいない、この島に屍を晒すのか? 「…死ぬ……死ぬものかよ! 俺は……!!」 俺は生きるって決めたんだ。でも、それは他の人間を殺すってことじゃない。 そう、あの男が言ったように―― 『命を燃やして、何かのために生きてみな』 ♂騎士が吐き出した澱んだ心の叫びを全て受け止め、道を示してくれた強面の聖職者。 彼の言葉が、何者かの囁きを掻き消すかのように♂騎士の頭の中に響いた。 「周りの人間を殺して生き長らえて――それが何になるんだ!  俺はあいつの命を無駄にしたくない。絶対にその命に報いた生き方をしてみせる。それしか償う方法を俺は知らないから…!」 ――そんな甘い考えが通ると思うか? あの♂ローグのように、お前の命を狙う者がこの島には多くいるのだぞ。 そんな中で、少しの間共に過ごしただけの人間の言葉を信じるのか? あの♀Wizなど、その気になればお前を消し炭にすることもできただろう。それでも―― 「黙れよ。さっきからごちゃごちゃうるせえんだよ。俺を操り人形にでもするつもりか?  まあいい。お前がどういうつもりだろうと……」 ぐっ、と拳を握りしめる。そして、迷いを全て振り払うかのように叫んだ。 「お前の思い通りになど、なってやるものかぁっ!!」 囁きは返ってこない。ようやく消えた不快感に、♂騎士は大きく息を吐き出した。 だが体の火照りは消えない。おそらく先ほどの不快な声も、これからずっと自分を苦しめるのだろう。 「それでも……俺は折れたりなんかしてやらないぜ」 固い決意。♂プリーストへの懺悔と共に、彼は迷いを全て吐き出していた。 「♀プリ……俺、もう少しだけこっちで頑張ってみるよ。  それが本当にお前の命を奪ったことへの償いになるかはわからないけど。  だから、今は静かに眠って……あの世で待っててくれ、な」 もう一度、そっと祈りを捧げ。 ♂騎士は彼女の遺品を胸に抱き、その場を静かに立ち去った。 +++++ 一方で、そんな彼を物陰で覗く人影がふたつ。 「あ……行っちゃいましたよ」 ♀クルセが♂ケミに囁く。その表情は残念そうなような、安堵したような微妙なものだ。 二人は♂アルケミの意見でF-3の集落にやってきていた。 それは♀クルセの怪我を完治させるために医療器具が少しでも欲しいというもので、朝方なら活動している人間も少ないだろうという判断からだった。 民家のひとつで救急箱を見つけ、処置を終え。 集落は隠れるところが多い分危険だとの考えから、他の人間に襲われる前に立ち去ろうとしたところで、二人は♂騎士の姿を見かけた。 ♀プリーストの遺体を抱き上げ、悲痛な表情で歩いている彼がどこか気になり、その後をつけたのだったが。 「よかったんですか? 声かけなくて」 「う、うーん…悪い人ではなさそうだけど……  一人で叫んでるところを見てると…危ない人っぽく思えてなぁ」 「それは……同感です」 頷きあう二人。ふと視線が合うと、♀クルセはくすくすと笑い出した。 彼女の笑顔を見て、♂アルケミも照れたような笑顔を浮かべた。 「うん、やっぱり昨日みたいな泣き顔より、笑ってるほうが可愛いよ」 「え……」 彼の言葉を聞き、♀クルセの顔が真っ赤に染まった。 「え、か、可愛いって…そんな……。で、でもうれしい、です」 (ちょ……そんなに照れられると、俺まで照れちまうって) たちまち♂アルケミの顔も赤く染まる。 互いに茹でダコのように赤くなった二人。沈黙が流れる。 この殺伐とした状況の中でその姿は滑稽だったが……どこか微笑ましい。 「アルケミストとクルセイダーか……二人相手とは少し厄介ね」 幸せな二人はまだ、彼らを見つめる冷たい視線に気づかない―― <♂騎士> 現在位置:F-3→どこかへ(未亡人PTの元に戻るか、それとも一人で彷徨うかはおまかせ) 所持品:S3ナイフ、ツルギ、S1少女の日記、青箱1個 外見特徴:憔悴しきり、陰りのある顔。だが、瞳は意志の強さを感じさせる 備考:特殊プロテインによる発熱中。♀プリの遺体を埋葬、生きて罪を償うことを誓う。彼を優勝させようと殺人を誘う声に抵抗 <♂アルケミ> 現在位置:F-3 所持品:マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本 外見特徴:BSデフォ・青(csm:4j0g50k2) 備考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る、ファザコン気味?、半製造型、グラリスに狙われている <♀クルセ> 現在位置:F-3 所持品:レイピア、青箱(未開封) 外見特徴:剣士デフォロング・黒(csf:4j0270g2) 備考:守る対象を探す(今は♂ケミに同行)、右脇腹に負傷(かなり回復)、   献身Vitバランス型 ※肩と足の傷は治癒 グラリスに狙われている <残り37名> ---- | [[戻る>2-109]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-111]] |

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