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114.Devotion ---- 私は、弱かったんだろうか。 薄れてゆく意識の中で、♀クルセは思っていた。 喉からひゅうひゅうと空気が漏れ、熱いものが流れ出していく。 私はここで死ぬんだ。 あなたを守ると言ったのに。 暖かな血と共に、命が流れ出していく。氷のように冷たい死が、全身を犯していく。 あの夜の底よりもなお暗い闇が、自分を飲み込もうとしている。 怖い。 鼻歌を歌いながら、道化師がやって来る。 怖い怖い怖い 9人分の死体をぶら下げて、後ろに4人を引っ立てて、鎌を担いでやって来る。 怖い怖い怖い怖い怖い そしてゆっくりと告げる。さあ♀クルセさん、お迎えに上がりましたよ。 怖い助けてこんなの嫌お父様お母様どうして死にたくない誰か――!! ぽつ、と胸に熱が広がる。ぽつ、ぽつ。 闇に包まれていた私の意識が一気に開けた。 ♂アルケミさんが泣いている。私を抱きしめて、泣いている。 夜とは逆みたいだと、私は思った。 ああ、駄目。そんなにしたら、血で汚れてしまいます。 「……俺を守るって……そう言ったじゃないか!!」 (ごめんなさい、私は、あなたを守れなかった――) 断ち切られた私の首はごぼごぼと血の泡を溢れさせるばかりで、 それをなかなか言葉にはしてくれない。 私の胸元に涙を滲ませながら、♂アルケミさんが言う。 「なのに、俺は……俺はっ! 君を守ってやれなかった……!」 そうか。 なんて私は馬鹿だったんだろう。 私は誰かを守ることで頭がいっぱいで。他の人だって守るものがあると頭ではわかっていて。 私だって誰かに守られていたのに。私だって簡単に死んではいけなかったのに。 それに気づいていなかった私が、あの人に敵うはずがなかったのだ。 あの人は、例えばあの魔術師のように、狂ってはいなかった。 あの人の目は、何かのために戦っている人の目だ。覚悟をした人の目だ。 何て強くて、そして何て悲しい目。 冷たくなってきた体は、全然言うことを聞いてくれない。 必死で手を動かそうとしても、全然動いてくれない。 当たり前だ。私はもう首を切られているのだから。 それでも、一人は寂しくて。もう一度♂アルケミさんの温もりを感じたくて。 お願い、ほんの少しでいいから。 と……必死で手を伸ばそうとする私の手が、暖かい感触に包まれる。 ♂アルケミさんの掌。彼が私の手をしっかりと握ってくれていた。 この人の体温が伝わってくる。とても、暖かい。 もう祈りの言葉は要らない。 私の魂はすべてこの人のものだから。この人の苦痛も、罪も、すべて分かち合おう。 私はあなたと一緒にいます。 だから、お願いです。生きることを諦めないで。憎しみに囚われないで。 そしてあの人を、グラリスさんを、止めてあげて。 この悲しいゲームを終わらせて。 もう、目が良く見えない。 最期に♂アルケミさんの顔が見られないのは、残念だなと思う。 でも、そう。 笑った顔が可愛いよ、とあなたは言ってくれたから。 私は精一杯、笑顔を浮かべた。 私は、ここにいます。 どうか、かみさま。このひとに、ごかごを―― <♀クルセ 死亡> <残り36人> ---- | [[戻る>2-113]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-115]] |
114.Devotion ---- 私は、弱かったんだろうか。 薄れてゆく意識の中で、♀クルセは思っていた。 喉からひゅうひゅうと空気が漏れ、熱いものが流れ出していく。 私はここで死ぬんだ。 あなたを守ると言ったのに。 暖かな血と共に、命が流れ出していく。氷のように冷たい死が、全身を犯していく。 あの夜の底よりもなお暗い闇が、自分を飲み込もうとしている。 怖い。 鼻歌を歌いながら、道化師がやって来る。 怖い怖い怖い 9人分の死体をぶら下げて、後ろに4人を引っ立てて、鎌を担いでやって来る。 怖い怖い怖い怖い怖い そしてゆっくりと告げる。さあ♀クルセさん、お迎えに上がりましたよ。 怖い助けてこんなの嫌お父様お母様どうして死にたくない誰か――!! ぽつ、と胸に熱が広がる。ぽつ、ぽつ。 闇に包まれていた私の意識が一気に開けた。 ♂アルケミさんが泣いている。私を抱きしめて、泣いている。 夜とは逆みたいだと、私は思った。 ああ、駄目。そんなにしたら、血で汚れてしまいます。 「……俺を守るって……そう言ったじゃないか!!」 (ごめんなさい、私は、あなたを守れなかった――) 断ち切られた私の首はごぼごぼと血の泡を溢れさせるばかりで、 それをなかなか言葉にはしてくれない。 私の胸元に涙を滲ませながら、♂アルケミさんが言う。 「なのに、俺は……俺はっ! 君を守ってやれなかった……!」 そうか。 なんて私は馬鹿だったんだろう。 私は誰かを守ることで頭がいっぱいで。他の人だって守るものがあると頭ではわかっていて。 私だって誰かに守られていたのに。私だって簡単に死んではいけなかったのに。 それに気づいていなかった私が、あの人に敵うはずがなかったのだ。 あの人は、例えばあの魔術師のように、狂ってはいなかった。 あの人の目は、何かのために戦っている人の目だ。覚悟をした人の目だ。 何て強くて、そして何て悲しい目。 冷たくなってきた体は、全然言うことを聞いてくれない。 必死で手を動かそうとしても、全然動いてくれない。 当たり前だ。私はもう首を切られているのだから。 それでも、一人は寂しくて。もう一度♂アルケミさんの温もりを感じたくて。 お願い、ほんの少しでいいから。 と……必死で手を伸ばそうとする私の手が、暖かい感触に包まれる。 ♂アルケミさんの掌。彼が私の手をしっかりと握ってくれていた。 この人の体温が伝わってくる。とても、暖かい。 もう祈りの言葉は要らない。 私の魂はすべてこの人のものだから。この人の苦痛も、罪も、すべて分かち合おう。 私はあなたと一緒にいます。 だから、お願いです。生きることを諦めないで。憎しみに囚われないで。 そしてあの人を、グラリスさんを、止めてあげて。 この悲しいゲームを終わらせて。 もう、目が良く見えない。 最期に♂アルケミさんの顔が見られないのは、残念だなと思う。 でも、そう。 笑った顔が可愛いよ、とあなたは言ってくれたから。 私は精一杯、笑顔を浮かべた。 私は、ここにいます。 どうか、かみさま。このひとに、ごかごを―― <♀クルセ 死亡> <残り36人> ---- | [[戻る>2-113]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-115]] |

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