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123 イレギュラー [1日目深夜] ---- ジョーカーは、島の南東部に広がる岩場の上にいた。 「おやおや……こんなことになっていたとは」 切り立った岩の並ぶ中に、地面が赤く染まった一角がある。天に向けて鋭く突き立った 岩の中ほどに、その首輪の持ち主は百舌の早贄のごとくぶら下がっていた。 ゲーム開始時点から一度も動いていなかったその反応が先ほど消え、不審を抱いて来てみれば この有様だ。万に一つの偶然、と言うしかない。ランダムで開いたポータルの先は不安定な岩の上。 状況を把握する間もなくバランスを崩し、そのまま少し下の岩にグサリというわけだ。 音声記録には悲鳴と衝撃音、その後には苦しげな息遣いだけが残されていた。鋭い岩に体を貫かれ 身動きもとれず、ただ死を待つだけだったのだろう。この時間まで生きていたのは、急所だけは外れていたからか。 「まあ、50名のうちには違いありませんし、進行上問題はないのですが……どうも、華に欠けますねえ」 殺し合いの結果でも、絶望のあまり自殺したわけでもない。こんな死に方をされるのは彼の美学に反する。 かと言って既にユミルの爪角の影響下にある以上、復活させてもう一度などということも出来ない。 「さて、どうしたものやら……ん?」 視界の隅に何かが映る。眼下に広がる背の高い草地の中を進む影。 「ああ……すっかり忘れるところでした。丁度良いイレギュラーがいらっしゃったではないですか」 薄く笑みを浮かべると、ジョーカーの姿はかき消すように消えていた。 「一体、何の御用かしら?」 突然現れた白装束の男に、ジルタスは油断なく構えながら声をかける。足を負傷したぶん、 周囲への警戒は怠っていなかったはずなのに、この男はいつの間にか背後にいたのだ。 「これは失礼。あなたにはお初にお目にかかるのでしたね。私、この大会の司会進行を勤めさせて いただいております、監視者の――通称GMのジョーカーと申します」 慇懃な口調で一礼する。 「あら、そう。あなたが黒幕というわけ?」 ジルタスの口調が剣呑なものに変わり、手が腰の鞭に伸びようとする。 「いやいや、滅相もない。私なぞはただの雇われの身でございますよ。しかし、頂いた仕事は きちんと全うさせていただくと、それだけのことでございます」 「ふん……よく言うわ」 攻撃をためらったのは、そんな弁解を聞いたからではなく、むしろこの男が底知れない実力を 隠していると感じたからだ。 (まあいいわ。考えようによっては、そのおかげでご主人様と会えたのだものね) 「それで、私に何の御用があるのかしら? 見ての通り私は首輪をはめていない。 私は参加者とやらじゃなくてよ?」 「ええ、ええ。わざわざあなたの元に参りましたのは、まさしくそのことでしてね」 ジョーカーと名乗る男がごそごそと懐から取り出したのは、まさしくその首輪であった。 「私も忙しい身ですので、手っ取り早く申し上げますがね。あなたにもこの首輪を付けて頂きたいのですよ」 「あら、どうして? 人数は揃っているんじゃないのかしら?」 「ええ、そうなんです。そうだったんですがね――少々、手違いがありましてねぇ。 どうしてももう一人、参加者が欲しいと、こういうわけなんですよ」 「ふうん――運営者とやらも、随分無能なのね?」 ジョーカーは、いかにも大げさな手つきで頭を叩く。 「いやはや、手厳しい。確かにその通り、私どもの落ち度でございます。しかしここは一つ、 私の顔を立てると思っていただいて――」 「その首輪をつけたら、このゲームとやらに参加しなければならないんでしょう? そんなのは御免だわ。それにね、私に首輪を付けさせられるのは、ご主人様だけなの」 はぁぁ、と大きなため息が聞こえてきた。男はくるりと背を向ける。 「左様ですか。ならばいたし方ありませんねぇ。実に残念だ」 そのまま、とぼとぼという様子で数歩歩き出す。 「ところで――」 ちらりと顔だけを向ける。 「あなたのご主人様、ご無事だといいですねぇ?」 「――どういうこと?」 ジルタスの声が低くなる。しかし殺気のこもった視線にも動じることなく、道化の言葉は続く。 「いえ、なに、大したことではありません。ただ、この首輪には少々仕掛けがありましてね」 くるくると手の中で回してみせる。 「私どもの意思で、いつでも爆発させられる、と。ただ、それだけのことで御座いますよ」 くくく、と含み笑いを漏らす道化の目は、もはや笑ってはいなかった。 ジルタスは全身が一気に冷えるような感覚に襲われる。声が震えるのを押し隠しながら、 その言葉を口にした。 「――首輪を、よこしなさい」 「おや……無理なさらずとも結構で御座いますよ? 私どものほうで何とか……」 「猿芝居は止めなさい、ジョーカー。私が首輪をつけるのが望みなんでしょう? さあ!」 ジョーカーが差し出した首輪を、もぎ取るように手にする。かちりと音を立てて、 ジルタスの首にそれは嵌められた。それを見てジョーカーは満足げに頷く。 「いやいや……大変よくお似合いで。それでは、心配事も片付いたところで、私は失礼いたしますよ。 あなたとご主人様の健闘をお祈りいたします……くっく」 光の渦に包まれ、笑い声のみを残してジョーカーの姿は消える。 忌々しげにその空間を見つめていたジルタスは――しばらくして、ゆっくりと歩き出した。 彼女の主人を探すために。 <ジルタス 現在位置:G-6 所持品:種別不明鞭、ジルタス仮面  首輪を付けられる> <残り33人> ---- | [[戻る>2-122]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-124]] |

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