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141 この出会いは幸運か不運か ---- 「ふむ……闇雲に歩いたところで器に辿り着けるわけでも無し、かと言って羽虫どもではアテにならぬ。難儀なものよな」 ミストレスは艶のある紫の髪の一房を指に絡めて、落胆を吐息に混ぜた。妙齢の美女が――しかも露出の高い♀WIZの姿で――憂いに顔を陰らせる光景は、普通の男ならば心奪われるに違いない。 さもありなん。彼女は人に近しい姿をとってはいるが、人を惑わす魔性の存在だ。もし能力低下の呪を受けてなければ、否、呪いがあろうとも彼女が真の器を得ていれば、人虫問わず異なる性をもつものたちを残らず虜にすることも出来よう。 それ故に、彼女の異能を常人並に押し込めた呪いの強大さが窺い知れた。 「道化めが」 憎々しさを吐き捨てて、髪をいらう指を解き、繊手を横一文字に振り払う。 バジィッ、と濡れた布を叩きつけたような異音が響き、ミストレスの横手にあった若木が中程から裂けた。指先からほとばしった天帝の雷撃が撃ち抜いたのだ。 きな臭い煙を昇らせる若木を眺め、ミストレスは苦笑に頬を歪めた。 「……これでは蚊の一刺しだの」 もちろん、常の彼女ならば倍以上の巨木さえも打ち倒す雷球を操ることも可能なのだが、能力を抑えられた今はこれが限界だった。 ますます道化が憎々しい。 よかろう。器を取り戻した暁には、道化殿に愛すべき我が眷属の餌となる栄誉を与えよう。先端から少しずつ身を刻み、己が喰われる様を見せ付けながら頭蓋の中身を啜ってくれようではないか。彼奴めの脳髄の味は如何なるものであろう。恐怖か、痛みか、憤怒か、狂気か、それとも歓喜か。いずれにしても極上のローヤルゼリーよりも味わい深いのは確かだろう。 舌の上で溶ける大脳新皮質の味わいを想像し、暗い愉悦をにじませて女王蜂は満足げに嗤った。 「ク……ククク……ん?」 前方彼方から微かに流れてくる話し声を聞きとがめ、ミストレスは歩みを止めた。怒号や罵声といった争いの雰囲気ではない。むしろ、この島には相応しくない団欒の喧騒のような声だった。 「気配は複数……二人以上は確実じゃろうな」 このような場所で談笑するような目出度い連中ならば器に害を与えることもないだろうが、状況が状況である。特にヒトという種族は己の命が助かるなら平気で同族すら食い物にする下種どもだ。今は目出度いかもしれないが、いずれ血に飢えたケダモノに成り果てるに違いない。 そのような連中に器を汚されることだけは、どうしても阻止したい。 だが抑えこまれた知覚では、これ以上を感知するのは無理だった。二人以上なのは確実だが、それが三人なのか四人なのか――はたまた五人なのか――個々では弱い人間も、群れれば魔神を凌ぐ力を出す。奴らを相手に無策に飛び込むは愚の骨頂だろう。 周りを飛ぶ羽虫に人にあらざる言葉で二言三言ささやき、斥候を命じるとミストレスは手近な草むらに腰を下ろした。  * * * 「……なにか今、音がしなかったか?」 「奇遇ね。私にも聞こえたわ」 何かの弾ける音を聞きつけ、♂ハンターとジルタスは手にした武器を油断なく構えた。低木がまばらに生える砂地交じりの草原は見晴らしも良いが、逆に見つかりやすいデメリットもある。攻めるにしろ守にしろ、先に相手を見つけたほうが有利なのだ。 ♂ハンターは音のした方向を油断なく睨んでアーバレストに矢をつがえ、ジルタスは別方向からの奇襲に備えて周囲に隙の無い視線を飛ばしている。 だが♀アーチャーは、 「お、王子様……」 武器を構えることもなく、ただ顔色を青褪めさせて震えているばかりだった。カチカチと並びの良い白い歯を打ち鳴らして、血の気の失せた顔色をしている。まるで突然、流行性感冒の重篤患者にでもなったかのようだ。 「ど、どうしたんだい?」 音の方向から目を離すことも出来ず、♂ハンターは尋常でない怯え方をする♀アーチャーに、ぎこちないながらも背中越しに優しく語りかけた。 「だ、大丈夫だよ。ほ、ほら、俺がついてるし、ジルタスさんもいるから……」 言いながら、♂ハンターは自分の顔が紅潮していくのを感じていた。同時に、気分がべっこりとへこんでいくのも。 ……いったい自分は、この島に送り込まれて何度目のランドマインを踏みつけているのだろう。そんな自問すら浮かんでくる。 だが、使うたびに♂ハンターの魂を削る王子的セリフも、今回ばかりは通用しないようだった。 「い、嫌……っ!」 小さく、しかし強い口調で♀アーチャーは拒絶した。頭を抱え、腰が抜けたように彼女はその場にしゃがみこんだ。 「嫌あっ! あ、あいつ……あいつが来るのっ! やだ怖い助けて怖いのあいつが来るのパパもママもお兄ちゃんもみんなみんなあいつに殺さ――いやあああああああああああああああああっっ!!」 血を吐くような悲鳴が少女の唇から迸る。今までにも彼女の妄想癖を見てきて振り回されてきた♂ハンターだったが初めて見る彼女の反応に驚き、何者かが迫っていることも忘れて振り返っていた。 それが、隙となった。 振り返った背中に紫電の一撃を喰らい、♂ハンターは吹き飛んだ。地面を子供に蹴られた小石のように転がされ、ようやく止まったときには天地も左右も分からなくなるほどに脳をシェイクされた後だった。 「……が――っ!?」 息が上手く吸えない。吸い込んだ空気と吐き出したかった息が喉の奥でぶつかる。身体中の筋肉が好き勝手にビクンビクンと暴れまわって、起き上がることもままならない。 銅鑼でも耳元で鳴らされたみたいに耳鳴りがひどい。ジルタスと♀アーチャーの悲鳴じみた呼び声が聞こえたが、何を言ってるのかさっぱり分からない。唯一、無事に動く左目が、視界の端っこで紫色の人影を捉えていた。 (あれは……あれが――俺を撃ったのか……?) 紫色の影が、どういうわけか彼には巨大な肉食昆虫に見えた。   * * * 「ふむ……礼を言うぞ、狩人よ」 バチバチと爆ぜる雷を指にまとわりつかせたまま、優雅にミストレスは進み出た。鞭を構える監獄の女妖魔のことなど眼中にもおかず、彼女はただ一つだけを見つめている。 「よくぞ、我が器を守っていてくれたのう」 絶望に震える♀アーチャーを満足そうに眺め、女王蜂は高々と哄笑した。 <♂ハンター> 現在地:G-5(G-6境界付近) 所持品:アーバレスト、大量の矢、ナイフ 備考:極度の不幸体質 D-A二極ハンタ 状態:ユピテルサンダーで感電。痺れて動けない。まだ生きている。 <♀アーチャー> 現在地:G-5(G-6境界付近) 所持品:プリンセスナイフ 備考:弓に対する怯えがあり、うまく扱えない 妄想癖あり ♂ハンターを慕う 状態:ミストレスの新たな器。家族をミストレスに殺されている。恐慌状態。 <ジルタス> 現在地:G-5(G-6境界付近) 所持品:種別不明鞭、ジルタス仮面 備考:首輪を付けられている 状態:ミストレスと対峙。 <ミストレス> 現在地:G-5(G-6境界付近) 容姿…髪は紫、長め 所持品:ミストレスの冠、カウンターダガー(♀アサの遺品は拾わず) 備考:仮初の身(見た目はWIZ)だが、時々ミストレスの翼が背に現れる 備考:飛ぶ虫を操れる。蟲と話せる。器探しの協定?を結ぶ。 備考:GMの用意した体に入った(首輪ついた)ことで、各能力減退。 目的:「器」を探し出し、ついでにジョーカーを殺して山に帰る。 状態:ねんがんの うつわを はっけんした! <残り33人> ---- | [[戻る>2-140]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-142]] |

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