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143 世界せーふくの才能 [2日目午前中] ---- 「あーあ、とんだ無駄骨だったわね」 とげとげしい口調による悪ケミの攻撃が開始される。 忍者は彼女の苦情に対し軽く謝罪を済ませ、なだめると、先ほどまで自分たちが調査していた白い塔を見上げた。 ひゅーひゅーと吹きはじめた風の勢いにまかせるようにして、灰色の雲があわただしくこちらに近づいてくる。 「雨が降るかもしれないね」 嫌な色の雲を見て、そうこぼしながらも忍者の思考は別へ向かっていた。 風の音に混じった、けれど卓越した聴力を持つ忍者ならばこそ判別することのできるノイズ。 キーンと三半規管を不快に揺らす超高周波の音。 その音は忍者にとって聞き馴染みのある音であった。 (間違いない、これは訓練砦の制御装置が発する音だ。それもかなり強い) けれど忍者はそのことを口に出して伝えることができない。 身振り手振りで悪ケミからマジックペンを受け取ると、ペン先を抜かないままで忍者は地面に文字を彫る。 『ここには訓練砦の制御装置がある』 忍者が書き示した文字を見て、特徴的な赤い目を大きく見開いた悪ケミは、忍者からマジックペンを奪い取ると、 忍者に習って文字を彫り始めた。 『なんでわかるのよ』 「教えておくよ。忍者はね、弱いからこそ耳がとても良いのさ。  普通の人間ではとても聞き取れないような音だって忍者は聞き取って行動することができるんだよ」 穏やかでいて、それでいてどこか悲しそうに笑う忍者。 常人ではおよそ聞き取ることのできない音を聞くことができる。その力の代償に、彼はいったいなにを失ったのだろうか。 『それじゃ、ここをなんとかすればテレポもポタも使いたい砲台なわけ?』 悪ケミちゃんさまのツッコミどころ満載の誤字を無視して頭を横に振る忍者。つまり回答はNO。 「でも忍者はやっぱり弱いんだ。だからね、そんな弱い忍者が誰かと戦うときに一番最初に考えることはなんだと思う?  答えは簡単だよ、数で有利になっておけば良いのさ。  1人では心もとなくたって、3人、4人、もっと多ければどうだい?」 「負けっこないってわけね」 ちゃんさまの言葉に忍者は満足そうに頷く。そう、制御装置がここだけであるという保障などどこにもない。 だからこそ忍者はなにも気がつかなかったふりをして、灯台から外に出たのだ。 「結局はこの首輪がある限り、何人いたって一緒なんだけどね」 言いながら忍者は自分の首元にある枷を指差す。 死神の鎌は健在で、ふたりの命などいつ奪われようとおかしくはない。 忍者も悪ケミも困ったように顔を見合わせて、ふたり、ため息をついた。 「君の知識でなんとかなりそうなあてはあるかい?天才アルケミストなんだろう、君は」 「私にまかせておきなさい、と言いたいところだけど、こんなのは専門外なのよ」 悪ケミは腕組みをしながら、しょぼくれた顔をしてうつむく。ふたりの間にはしばらくの沈黙。 沈黙。沈黙。 「───あっ───」 時間にして数分が過ぎたのだろうか、悪ケミが声を発した。あわてて自らの口を塞ぎ、しゃがみこみ、 文字によるコミュニケーションが再開される。悪ケミによって書かれた文字はこうである。 『ユミルの爪角を使えば生きてるか、死んでるかがわかる』 「昔ね、私のしたぼくが教えてくれたことがあるのよ。たしか───」 悪ケミは語る。かつて仔バフォから聞いた巨人ユミルの話を。 血は海となり、肉は大地に、骨と歯は山脈に、毛は森林に、頭蓋骨は天空に、 そして脳は雲となったとされる、巨人ユミル、その伝説を。 「どう、素敵なお話でしょ」 得意気に語り終えた悪ケミはうれしそうな顔で忍者の瞳を覗き込む。 「それと首輪とどういう関係があるんだい?」 「うーん、なにか関係がありそうだと思ったんだけどなぁ」 言葉とは裏腹に悪ケミは文字を書き続ける。 盗聴されていると考えればこその行動ではあるが、それにしてもなかなかの役者ぶりである。 忍者は悪ケミの意外な才能に、右手で口もとを覆い隠し、少しだけ微笑んだ。 『ユミルの爪角による生死判定をくるわせる → 首輪がはずせる』 けれどそこまでを書き終えたところで悪ケミは頭を抱えた。 おそらくは生死判定をくるわせる方法が思いつかないのであろう。 あーでもない、こーでもない、と言いながら、悪ケミは地面を使ってなにかをしきりに考えている様子であった。 「じゃあ、仮の話をしてみよう。  もし君がこういう首輪を作ろうとしたら、君ならどういう首輪を作るんだい?」 思いがけない質問が忍者の口から飛び出し、悪ケミはその悪趣味な質問に眉をひそめた。 ところが、何かに気付いたように彼女の目が次第に大きく開かれていく。 悪ケミは考える。 首輪に必要な条件。 無理に外すと爆発すること。でも死んだときは爆発しないこと。遠隔地から任意に爆発させることができること。 首輪に必要な要素。 生死の判定。起爆トリガー。爆発物。通信機能。 生死判定にはユミルの爪角。爆発物は殺傷能力があって小型なもの。 残ったのは爆発物を起爆させるトリガー、そして通信機能。 私なら───ジェムストーンを使うわ。 あれは反動の大きい魔法を行使したときに反動を逸らして流し込むためのもので、 つまり砕けるほどのエネルギーが注入されるまではエネルギーを蓄積できるってことだもの。 それに、セージがディスペルを使えた場合を考えたってジェムストーンに蓄積されたエネルギーは消えない。 それどころか、ディスペルをトリガーに溜め込んだエネルギーを放出するようにだってできる。 そうよ、そう考えてみれば首輪を作るための起爆トリガーにジェムストーン以外を使うことなんてありえないわ。 だってディスペルさえあれば、魔法を使ったシステムはどんなシステムだって無力化されちゃうもの。 ということは私たちのつけているこの首輪にはジェムストーンが埋め込まれている。これは間違いないはずね。 そしてジェムストーンは限界ギリギリまでエネルギーを溜め込んでいるというわけよ。 あとほんの少しでもエネルギーが加わったら砕けてしまうくらいにね。 問題は遠隔地からどうやって爆破させるか、よね。 ジェムストーン、通信、なにかがひっかかってる。なんだったかな。 通信・・・通信・・・ 「お、思い出したわっ」 悪ケミによる突然の声に、忍者が目を丸くして驚く。 世界せーふくをたくらむ悪のアルケミストなら爆弾のひとつやふたつ、作ったことがあるだろうと思いたきつけた忍者ではあったが、 悪ケミの反応は予想を斜め上、はるかに超えて、まさに今、核心に辿り着こうとしていた。 いやはや、雨水岩をも穿つというが、目標をもって生きている人間の力というやつはおそろしい。 「週刊首都通信って知ってる?」 同時に悪ケミは地面に文字を刻む。記憶の片隅に残っている彼の記事、システムの名前は───振動リンク。 『ジェムストーンに限界までエネルギーを蓄積 → 砕けて放出されるエネルギーを利用して起爆  振動リンクシステム → 同色なふたつのジェムストーンを遠隔で同期させるシステム』 「こーむ大臣さんの連載、大好きだったの。さっき彼の名前が呼ばれてたよね。  彼までこの島で殺されてたなんて、ひどい。私サイン欲しかったのにー」 『振動リンクシステムの欠点 → 同期が外れたらそれまで蓄積していたエネルギー量に関係なくジェムが砕けてしまうこと』 忍者は口を大きく開けたまま、ぽかんとしているが無理もない。 首輪爆弾を作る方法を考えろといったところで悪ケミ以外の誰がここまで考えることができるであろう。 それもシステムの根幹部分までである。 離れた場所でリンクしているジェムストーン。リンク切れによるジェムストーンからのエネルギー放出。それをトリガーに爆発する爆薬。 そう、世界せーふくに特化した悪による悪のための頭脳によってすべての線は繋がったのだ。 けれど悪ケミはそこでがっくりとうなだれる。力ない手で書かれたへにょへにょした文字を忍者は目をこらして読んだ。 『あくまで推測 さらに問題あり』 『ジェムストーンに蓄積されたエネルギーをとりのぞく方法 → プロフェッサーによるソウルバーン』 文字に目を通し終えた忍者もまた、悪ケミと同じようにがくりと頭を垂らした。 この島に転生職はひとりも存在しない。つまり首輪が悪ケミの推測した通りだとしても解除する方法はないのである。 本当にそうであろうか? 雷でも落ちたかのようにふたりは同時にひらめく。 ふたりが思い出したのは昨日の戦闘でのこと。 といっても悪ケミは指弾を受けて気絶したことくらいしか覚えてはいないのだけれど。 ともかくふたりは気付いたのだ。 蓄積されたエネルギーを取り除くことのできるもうひとつの職業を。 戦っていなければ気付かなかったかもしれない。出会っていなければわからなかったかもしれない。 けれどふたりは気付いたのだ。首輪を解除することのできる可能性を持った職業が───モンクであることを。 〈悪ケミ> 現在位置:灯台(J-6) 所持品:グラディウス、バフォ帽、サングラス、黄ハーブティ、支給品一式 外見特徴:ケミデフォ、目の色は赤 思考:脱出する。 備考:首輪に関する推測によりモンクを探す サバイバル、爆弾に特化した頭脳 参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目 〈忍者> 現在位置:灯台(J-6) 所持品:グラディウス、黄ハーブティ 外見特徴:不明 思考:悪ケミについていく。殺し合いは避けたい ---- | [[戻る>2-142]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-144]] |

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