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 145:鉄面皮  面白く無し、と♂クルセイダーは鉄面皮の裏で考えていた。  原因は目の前の二人、である。  彼はさも当然の様に(彼にはそう見えた)声をかけて来た♂モンクに応じ、一時彼らと共に座り込んでいた。  僧兵曰く、彼を治療したいと言った♀騎士に感謝しろ、と言う事らしかった。  今更口にするまでも無いが、ここは殺戮の庭である。  だと言うのにだ。これは一体なんたる偽善か、そうでなければ愚鈍であろうか。  彼は勿論、冷静ではある。  意識ははっきりとしているし、殊にこのゲームにおいてならば彼に勝る経験を積んだ者などいるまい。  例えば、只殺すだけでは最後まで生き残る事は出来ない、と理解している点。  他にも、諸々の生存論理がある。  しかし──正直に言えば、彼は眼前の♂モンクと♀騎士が妬ましかった。  直ぐにでも切りかかりたくはあったが、彼の経験と知恵は自らの衝動を愚かだ、と戒めた。  手負いの一人では前衛二人を仕留め切れない。  大方、返り討ちに会うだろう。足りないものが余りにも多すぎた。  第一、今の状況は♂クルセにとって、とても都合が良い。  それなりに深かった傷は、と言うと♂モンクによってある程度治癒されてもいるのだし。 「──すまないな。手間をかけさせた」  ぞんざいに礼を言うと、♂モンクも彼に応じるように「ああ」とだけ言う。  警戒されている、と思った方が良いのだろう。  娘は愚かだが、僧兵は俺を疑っているらしい、と彼は認識していた。  賢い。その選択は確かに最良とは言わないもののベターではある。  だが、彼にとってそれはどうでも良い事。  僧兵には娘と言う枷がある。今の問題は別にあった。 「所で──」  そう切り出し、♂クルセは話題を持ちかける。 「少し情報を交換したい。お互い、生き残るにはその方が都合がいいだろう。…構わないか?」  自身の真っ黒い腹の内を知っている♂クルセにとってそれはなんとも白々しい台詞であったけれども、 ♂モンクと♀騎士にとってはそうではなかったのだろう。  或いは、殺人鬼といえば直ぐにでも切りかかってくる人間を思い浮かべているのか。  それから、♂クルセイダーはここまでで自分が♀ローグ、♀アコライトと刃を交えた事。  その悉くが現状を理解できず狂っていただろう事などを簡潔に、しかし解り易く述べた。  含んでいるのは六割の真実と四割の嘘。  ♀騎士は蒼い顔をしていて、♂モンクがしきりにそれを落ち着かせている。  彼はそれを見て、この二人が恐らくは現実に打ちのめされているのだろうな、と思った。  何も生き残るのに必用なのは何も剣の力だけでは無い。 「済まない。いきなりだったとは言え…人を、危めてしまった」  そして、俯き今殺せない事の鬱憤で手を震わせて見せつつ彼は告げた。 「そう…か。そりゃ、そうだよな。うん、うん」  ほら見たことか。折角疑っていたのに異常な状況に放り込まれたショックで碌に判断が働かなくなってしまっている。  生き残る事が困難になりそうなら乞食や騙りの真似事だってしてやるさ。  ♂クルセイダーは、腹芸を見抜けぬまま騙される♂モンクに思う。  (最も、彼は♀シーフや♀ノービスの事を知らないのだけれど) 「俺達の方は──すまない、まだアンタ以外には誰にも会って無いんだ。♀アコライトに会わないように注意するよ」  済まなさそうに♂モンクは言うのを見て、♂クルセは頷く。 「あの、すみません。いいですか?」  と、会話が一区切り付くや否や、傍らで聞いていた♀騎士が割って入る。  暫しの間を空けて、♂クルセは返事を返した。 「悪いが、一緒に行けと言うなら駄目だ。一応、俺にも目的があってね」 「そう…ですか。すみません、勝手なお願いしようとして」  勝手、と言うよりも不安から来る暗愚だろう、と♂クルセは思ったが勿論口には出さない。  一人で居るのが嫌で、数合わせ(にんぎょうあつかい)の他人を近くに侍らせたいのか。  じぐり、と心の深い部分が湿った音を立てるのを彼は聞いていた。  実に不快だった。彼は、そう言う人間がこのゲームで最後に取る行動について良く知っている。 「落ち込むなよ…何だ。あんまり人数が増えても…その、な」 「……どうして。皆、こんなの嫌に決まってるわ。だから、皆で協力すればきっと──」  きっと、ここから無事に帰れる、とでも思っているのか。  内心せせら笑いながら、しかし助け舟を出してやる。 「ああ。俺だって本当は一緒に行きたい。けど探してる人が居るんだ。だから、行けない」 「探してる人…どんな?」  答える為に、悲しげに顔を歪めた。  ──不思議と、時間は過ぎたのにこれだけはどうしても嘘が付けない、と♂クルセイダーは思う。  それが実際には故人である、と言う只一点を除いて。 「俺の、恋人だよ」  飾る事無く短く答えた。どんな人だったのかは磨耗していてもう殆ど思い出せなかったけど。  只、酷く懐かしいイメージだけは理解できた。  何処にでも転がっていた懐かしいイメージ。彼はその残滓で、自己の保存によってそれに縋りつく事だけが生き甲斐だった。  言うと、自分の荷物をしょって立ち上がる。  引き止められるかもな、と一瞬彼は思ったが、台詞に面食らいでもしたかどちらの言葉も背中には無かった。 「じゃあ、俺は行くぞ。世話になった」  さて、この二人は今殺すべきではないし、体力も戻っていないから。  それにあれじゃあ、狂気に飲まれて遠からず死ぬ。  少し何処かで休んで次の誰かを探しに行こう。  ♂クルセイダーは相変わらずの鉄面皮の下でそんな事を考えていた。 ♂モンクは、と言うと如何にも先程立ち去ったクルセイダーの男の顔が頭の中から薄れずにいた。  勿論、それは戦場での恋、と言う訳では無いのであった。  そうなるかも知れない相手は♀騎士の方が随分と優れているに違いなかったからだ。  第一、そういう趣味は修道院所属であっても額面通りではない彼には一欠けらだって無い。  さて、♂モンクはこの地獄の鍋底で、自分が一体何をすべきかと言う事について今の今まで状況に流されるままだった。  当然ながら参加した以上生き残る事を希望している彼は、どちらかと言えば慎重に行動する事を望んでいたが、 先の一件でどうにも自らの連れ立った女性がそういった思慮に乏しいらしい、と無遠慮ながら考えざるを得なかった。  さっきの判断保留は、一応信頼しての事だったが、見事にそれは裏切られた訳で。  まるで一人でいる事が怖くて仕方が無いような、そんな怯えきった色が傍目から浮かんで見えたので。  ──そりゃ、俺だって人物鑑定に自身なんか無いけどさぁ。アンデットみたいな目をした奴と同行したい、だなんて思わないよ。  と言う事である。  ♂クルセの言葉が何処まで真実なのか、と言う点はとりあえずうっちゃって少し離れた場所に座している♀騎士に目をやる。  釣り目で、意思の強そうなイメージ。だけど、如何にも自分に自身が持てない性質なのだろうか、と思う。  普段ならば、他人のそういう事に口出しをするのは苦手だが、今はそうも言ってられない。  背中から撃たれるなんて♂モンクにとっては真っ平ごめんだった。 「あー、すまん。ちっといいか?」 「ん…どうしたの?」 「言いたく無いなら、喋らなくてもいいんだ。けど、一緒に行く以上互いの事は知っておくべきだろ?」  幾つか適当な語彙を探してみるが、勿論彼はそういった文学作品とは無縁の野生児である。  そも、そんな器用な真似が出来るならば、今頃目の前の不安定な少女と懇ろ(ねんごろ)になっていただろう。 「じゃあ、俺の聞きたい事って言うのはどうも君が──その、だ。自分に自信が無いと言うか。  一人じゃどうしようもないような、そんな問題を抱えてるみたいに見えるんだ」  切り出した言葉はどうやら♀騎士の傷口を器用に、しかし深く探り当てたようで、♂モンクは少し後悔していた。  きりっ、とした表情が嘘だったみたいに俯いて、長い髪のかかった顔からは♀騎士が動揺しているのが見て取れた。  少し、青ざめているかもしれない。 「私は──」  勿論、♂モンクは知らない事だったが、彼女は真面目な騎士だった。  だから、彼の言葉──と言うよりも、仲間である、少なくともそう彼女が思える相手に嘘をつく事は♀騎士には無理な相談だった。 「わたしは──っ」  けれど、流石に人間の心の機微に疎い♂モンクも♀騎士が両腕で自分の肩を抱き子供みたいに震え始めたのを見て、 自分の言葉が彼女にとっては拷問にも等しいものなのだ、と気づいた。  天秤のイメージが瞬間的に脳裏に投影されて浮かび上がる。  それが示した結論は生き残りたいならこのまま彼女の傷を抉れ、と言う事だった。  ──苦悩って言うのはこういう感覚だったっけ。  と彼は思った。目の前の♀騎士は、と言うと今にも癇癪を起して泣き出しそうな顔で。 「あー、いや。うん。気にするなよ」  だから結局、彼は自分の天秤に乗せるものを命の価値に摩り替えて言った。  彼の内側にほんの少しばかり残っている矜持、と言うものは自分よりも目の前の泣きそうな女の子を選び取っていた。  自分に言い聞かせる。これはきっと、ほんの少し俺の生き残る可能性を減らしただけさ。  勿論、強がりだ。  見れば、♀騎士はぽかん、とした顔で彼を見ている。  冗談の一つでも♂モンクは口にしたい気分だったが、口が回らなかった。  それから、♀騎士は戸惑った様な顔で、しかしすぐに「ごめんなさい、でもありがとう」と言った。 <♂モンク> 髪型:アサデフォ 所持品:黙示録・四葉のクローバー 備考:諸行無常思考、楽観的 刃物で殺傷 ♀騎士と同行 現在地:E-7 (F-7付近) <♀騎士> 髪型:csf:4j0i8092 所持品:S1シールド、錐 備考:殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない 笑えない ♂モンクと同行 赤みを帯びた黒色の瞳 現在地:E-7 (F-7付近) <♂クルセ> 髪型:csm:4j0h70g2。 所持品:S2ブレストシミター(亀将軍挿し) ソード 備考:最低限の傷の手当て済 更にヒールによる治療。体力消耗が激しいものの、傷は行動に多少支障が出る程度に回復。 現在地:E-7から出発。行き先未定。 ---- | [[戻る>2-144]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-146]] |
 145 鉄面皮 ----  面白く無し、と♂クルセイダーは鉄面皮の裏で考えていた。  原因は目の前の二人、である。  彼はさも当然の様に(彼にはそう見えた)声をかけて来た♂モンクに応じ、一時彼らと共に座り込んでいた。  僧兵曰く、彼を治療したいと言った♀騎士に感謝しろ、と言う事らしかった。  今更口にするまでも無いが、ここは殺戮の庭である。  だと言うのにだ。これは一体なんたる偽善か、そうでなければ愚鈍であろうか。  彼は勿論、冷静ではある。  意識ははっきりとしているし、殊にこのゲームにおいてならば彼に勝る経験を積んだ者などいるまい。  例えば、只殺すだけでは最後まで生き残る事は出来ない、と理解している点。  他にも、諸々の生存論理がある。  しかし──正直に言えば、彼は眼前の♂モンクと♀騎士が妬ましかった。  直ぐにでも切りかかりたくはあったが、彼の経験と知恵は自らの衝動を愚かだ、と戒めた。  手負いの一人では前衛二人を仕留め切れない。  大方、返り討ちに会うだろう。足りないものが余りにも多すぎた。  第一、今の状況は♂クルセにとって、とても都合が良い。  それなりに深かった傷は、と言うと♂モンクによってある程度治癒されてもいるのだし。 「──すまないな。手間をかけさせた」  ぞんざいに礼を言うと、♂モンクも彼に応じるように「ああ」とだけ言う。  警戒されている、と思った方が良いのだろう。  娘は愚かだが、僧兵は俺を疑っているらしい、と彼は認識していた。  賢い。その選択は確かに最良とは言わないもののベターではある。  だが、彼にとってそれはどうでも良い事。  僧兵には娘と言う枷がある。今の問題は別にあった。 「所で──」  そう切り出し、♂クルセは話題を持ちかける。 「少し情報を交換したい。お互い、生き残るにはその方が都合がいいだろう。…構わないか?」  自身の真っ黒い腹の内を知っている♂クルセにとってそれはなんとも白々しい台詞であったけれども、 ♂モンクと♀騎士にとってはそうではなかったのだろう。  或いは、殺人鬼といえば直ぐにでも切りかかってくる人間を思い浮かべているのか。  それから、♂クルセイダーはここまでで自分が♀ローグ、♀アコライトと刃を交えた事。  その悉くが現状を理解できず狂っていただろう事などを簡潔に、しかし解り易く述べた。  含んでいるのは六割の真実と四割の嘘。  ♀騎士は蒼い顔をしていて、♂モンクがしきりにそれを落ち着かせている。  彼はそれを見て、この二人が恐らくは現実に打ちのめされているのだろうな、と思った。  何も生き残るのに必用なのは何も剣の力だけでは無い。 「済まない。いきなりだったとは言え…人を、危めてしまった」  そして、俯き今殺せない事の鬱憤で手を震わせて見せつつ彼は告げた。 「そう…か。そりゃ、そうだよな。うん、うん」  ほら見たことか。折角疑っていたのに異常な状況に放り込まれたショックで碌に判断が働かなくなってしまっている。  生き残る事が困難になりそうなら乞食や騙りの真似事だってしてやるさ。  ♂クルセイダーは、腹芸を見抜けぬまま騙される♂モンクに思う。  (最も、彼は♀シーフや♀ノービスの事を知らないのだけれど) 「俺達の方は──すまない、まだアンタ以外には誰にも会って無いんだ。♀アコライトに会わないように注意するよ」  済まなさそうに♂モンクは言うのを見て、♂クルセは頷く。 「あの、すみません。いいですか?」  と、会話が一区切り付くや否や、傍らで聞いていた♀騎士が割って入る。  暫しの間を空けて、♂クルセは返事を返した。 「悪いが、一緒に行けと言うなら駄目だ。一応、俺にも目的があってね」 「そう…ですか。すみません、勝手なお願いしようとして」  勝手、と言うよりも不安から来る暗愚だろう、と♂クルセは思ったが勿論口には出さない。  一人で居るのが嫌で、数合わせ(にんぎょうあつかい)の他人を近くに侍らせたいのか。  じぐり、と心の深い部分が湿った音を立てるのを彼は聞いていた。  実に不快だった。彼は、そう言う人間がこのゲームで最後に取る行動について良く知っている。 「落ち込むなよ…何だ。あんまり人数が増えても…その、な」 「……どうして。皆、こんなの嫌に決まってるわ。だから、皆で協力すればきっと──」  きっと、ここから無事に帰れる、とでも思っているのか。  内心せせら笑いながら、しかし助け舟を出してやる。 「ああ。俺だって本当は一緒に行きたい。けど探してる人が居るんだ。だから、行けない」 「探してる人…どんな?」  答える為に、悲しげに顔を歪めた。  ──不思議と、時間は過ぎたのにこれだけはどうしても嘘が付けない、と♂クルセイダーは思う。  それが実際には故人である、と言う只一点を除いて。 「俺の、恋人だよ」  飾る事無く短く答えた。どんな人だったのかは磨耗していてもう殆ど思い出せなかったけど。  只、酷く懐かしいイメージだけは理解できた。  何処にでも転がっていた懐かしいイメージ。彼はその残滓で、自己の保存によってそれに縋りつく事だけが生き甲斐だった。  言うと、自分の荷物をしょって立ち上がる。  引き止められるかもな、と一瞬彼は思ったが、台詞に面食らいでもしたかどちらの言葉も背中には無かった。 「じゃあ、俺は行くぞ。世話になった」  さて、この二人は今殺すべきではないし、体力も戻っていないから。  それにあれじゃあ、狂気に飲まれて遠からず死ぬ。  少し何処かで休んで次の誰かを探しに行こう。  ♂クルセイダーは相変わらずの鉄面皮の下でそんな事を考えていた。 ♂モンクは、と言うと如何にも先程立ち去ったクルセイダーの男の顔が頭の中から薄れずにいた。  勿論、それは戦場での恋、と言う訳では無いのであった。  そうなるかも知れない相手は♀騎士の方が随分と優れているに違いなかったからだ。  第一、そういう趣味は修道院所属であっても額面通りではない彼には一欠けらだって無い。  さて、♂モンクはこの地獄の鍋底で、自分が一体何をすべきかと言う事について今の今まで状況に流されるままだった。  当然ながら参加した以上生き残る事を希望している彼は、どちらかと言えば慎重に行動する事を望んでいたが、 先の一件でどうにも自らの連れ立った女性がそういった思慮に乏しいらしい、と無遠慮ながら考えざるを得なかった。  さっきの判断保留は、一応信頼しての事だったが、見事にそれは裏切られた訳で。  まるで一人でいる事が怖くて仕方が無いような、そんな怯えきった色が傍目から浮かんで見えたので。  ──そりゃ、俺だって人物鑑定に自身なんか無いけどさぁ。アンデットみたいな目をした奴と同行したい、だなんて思わないよ。  と言う事である。  ♂クルセの言葉が何処まで真実なのか、と言う点はとりあえずうっちゃって少し離れた場所に座している♀騎士に目をやる。  釣り目で、意思の強そうなイメージ。だけど、如何にも自分に自身が持てない性質なのだろうか、と思う。  普段ならば、他人のそういう事に口出しをするのは苦手だが、今はそうも言ってられない。  背中から撃たれるなんて♂モンクにとっては真っ平ごめんだった。 「あー、すまん。ちっといいか?」 「ん…どうしたの?」 「言いたく無いなら、喋らなくてもいいんだ。けど、一緒に行く以上互いの事は知っておくべきだろ?」  幾つか適当な語彙を探してみるが、勿論彼はそういった文学作品とは無縁の野生児である。  そも、そんな器用な真似が出来るならば、今頃目の前の不安定な少女と懇ろ(ねんごろ)になっていただろう。 「じゃあ、俺の聞きたい事って言うのはどうも君が──その、だ。自分に自信が無いと言うか。  一人じゃどうしようもないような、そんな問題を抱えてるみたいに見えるんだ」  切り出した言葉はどうやら♀騎士の傷口を器用に、しかし深く探り当てたようで、♂モンクは少し後悔していた。  きりっ、とした表情が嘘だったみたいに俯いて、長い髪のかかった顔からは♀騎士が動揺しているのが見て取れた。  少し、青ざめているかもしれない。 「私は──」  勿論、♂モンクは知らない事だったが、彼女は真面目な騎士だった。  だから、彼の言葉──と言うよりも、仲間である、少なくともそう彼女が思える相手に嘘をつく事は♀騎士には無理な相談だった。 「わたしは──っ」  けれど、流石に人間の心の機微に疎い♂モンクも♀騎士が両腕で自分の肩を抱き子供みたいに震え始めたのを見て、 自分の言葉が彼女にとっては拷問にも等しいものなのだ、と気づいた。  天秤のイメージが瞬間的に脳裏に投影されて浮かび上がる。  それが示した結論は生き残りたいならこのまま彼女の傷を抉れ、と言う事だった。  ──苦悩って言うのはこういう感覚だったっけ。  と彼は思った。目の前の♀騎士は、と言うと今にも癇癪を起して泣き出しそうな顔で。 「あー、いや。うん。気にするなよ」  だから結局、彼は自分の天秤に乗せるものを命の価値に摩り替えて言った。  彼の内側にほんの少しばかり残っている矜持、と言うものは自分よりも目の前の泣きそうな女の子を選び取っていた。  自分に言い聞かせる。これはきっと、ほんの少し俺の生き残る可能性を減らしただけさ。  勿論、強がりだ。  見れば、♀騎士はぽかん、とした顔で彼を見ている。  冗談の一つでも♂モンクは口にしたい気分だったが、口が回らなかった。  それから、♀騎士は戸惑った様な顔で、しかしすぐに「ごめんなさい、でもありがとう」と言った。 <♂モンク> 髪型:アサデフォ 所持品:黙示録・四葉のクローバー 備考:諸行無常思考、楽観的 刃物で殺傷 ♀騎士と同行 現在地:E-7 (F-7付近) <♀騎士> 髪型:csf:4j0i8092 所持品:S1シールド、錐 備考:殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない 笑えない ♂モンクと同行 赤みを帯びた黒色の瞳 現在地:E-7 (F-7付近) <♂クルセ> 髪型:csm:4j0h70g2。 所持品:S2ブレストシミター(亀将軍挿し) ソード 備考:最低限の傷の手当て済 更にヒールによる治療。体力消耗が激しいものの、傷は行動に多少支障が出る程度に回復。 現在地:E-7から出発。行き先未定。 ---- | [[戻る>2-144]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-146]] |

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