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164.女王の往く道 [2日目午後(雨前)] ---- 忌々しい道化が。どのようにして血祭りにあげてくれようか。 麗しき女王蜂は、苛立ちを隠すこともせずに歩を進めていた。 殺気と怒りの色に、彼女を取り巻く羽虫たちも脅えるように距離をとっていた。 「この狭くもない島の中で器を早々に見つけ出すとは。さすが貴女と言うべきですかねぇ」 背後から聞こえた声は間違えるはずもない。憎き道化のものである。 ミストレスの殺気が一気に膨れ上がる。常人ならば一目見ただけで脱兎のごとく逃げ出すだろう。 「道化よ。器にまで封呪を施すなどという姑息な手を使いおって……よほど殺されたかったとみえる。  むざむざ殺されにくるとは都合がよいわ。おぬしには一瞬の死など生ぬるい。じわじわとなぶり殺しにしてくれようぞ」 ばちばちと音を立て、ミストレスの手に魔の雷が収束する。 それを見てもジョーカーは落ち着き払った様子で、両手を広げてみせた。 「おやおや、怒らせてしまいましたか。怒りの表情もまた美しい。  ですが女性を怒らせてしまったことは紳士として反省せねばなりませんねぇ」 なにが紳士だ。ミストレスの視線がさらに鋭くなる。 針のように刺してくるそれを受けて、ジョーカーは肩を竦めた。 「まぁ、冗談はここまでにしておいて。ひとつ申し上げておきましょう。  私を殺そうとしている所を見ると、貴女は勘違いをなさっているようだ」 「何?」 彼の言葉に、ミストレスは眉を顰めた。 彼女をなだめるような仕草をすると、彼は言葉を続けた。 「私を殺したところで、貴女にかけられた封呪は解けはしません。それどころかこの島から出ることが不可能になる。  この島にいる限り、貴女はあの山脈にいた時の様に、比類なき力で弱きものを統べることはできない。  その美しき羽はただの飾りとなり、貴女の身は地を這うばかり。  いわば籠の中の鳥――いや女王蜂でしたか。それにすぎなくなるということです。永遠に、ね」 「……命乞いにしては嘘が稚拙に過ぎるぞ」 「心外ですねぇ。そんなに信用されてないだなんて涙が出そうです」 「日ごろの行いが悪いからであろう」 皮肉たっぷりのミストレスの言葉にも、ジョーカーはおどけた態度を崩すことはない。 「ならば嘘か真か確かめてみればよいでしょう…私を殺して」 しかしそこまでの賭けが貴女にできるのならば、ですが。そう言外に潜ませ、道化は嗤った。 面白くない。ミストレスは今までにないほど不機嫌だった。 殺すことなどできるはずもないと高をくくられていることもそうだが、彼女の選ぶ道を巧みに誘導されている感があるところ。 誰にも縛られず、その力で全てを叩き伏せて道を開いてきた女王にとって、それが屈辱的であることは言うまでもなかった。 だが……万が一道化の言うことが真実だった場合。島から出ることもかなわず、彼女は永遠に元の力を取り戻すことができなくなる。 つまり永遠の弱者となるのだ。それは人間よりも遥かに高いプライドを持つ彼女にとって一番の屈辱であった。 「ふん……つまり我がこの馬鹿馬鹿しい茶番の勝者となる以外に、力を取り戻す術はないと言いたいのじゃな」 「わかっておられるのならば話が早い。よい判断です」 「おぬしの手の上で踊らされるのは気に食わない。が、このまま人間共と同じように地を這うままでおるのも御免なのでな」 ミストレスのその言葉に満足気に頷き、ジョーカーは言葉を続けた。 「そう……貴女のおっしゃる通り、貴女がこの舞台の最後の一人になればいい。  そうすればこの島から貴女は飛び立ち、美しく気高き女王蜂として再び君臨することができるでしょう」 封呪によって抑えられているとはいえ、正式な器に戻った女王蜂の魔力は人間の魔道師の及ぶところではない。 その力を持ってすれば容易きことでしょう。そう加え、道化は再び嗤ってみせた。 ――ま、そう簡単にはいかないでしょうけどね。 口では女王蜂を持ち上げてはいたものの、ジョーカーは内心でそう呟いていた。 彼は知っているからだ。追い詰められた人間たちは、時には考えられないような力を見せるということを。 「では、活躍を期待しておりますよ。最後の一人として、貴女がその美しい姿を再び見せてくれることを願います」 「戯言を。……まあよい。その暁にはおぬしを血祭りにあげてくれる。その減らず口を二度と叩くことができぬようにな」 去ろうとするジョーカーの背に、ミストレスは吐き捨てた。 それは怖い、と冗談まじりに呟き、彼は芝居がかった仕草で頭を下げ――まるで始めから存在しなかったかのように、姿を消した。 全くもって面白くない……が、我にとってこのような弱き力のまま醜く地を這うことを超える屈辱はない。 ひとまずはおぬしのふざけた脚本に付き合ってやろう。それがおぬしを愉しませようともな。 しかし、我がおぬしの手の上で踊らされてやるのはこれが最初で最後じゃ。 全てが終われば――我が怒りは跡形もなくおぬしを滅ぼすだろう。覚悟しておくがよい、道化よ。 一人残され、ミストレスは心中で呟く。 女王の気高き魂は、人に近い身にまで堕ちてもその輝きを失うことはない。 <ミストレス> 現在地:F-6(E-6側寄り) 容姿:髪は紫、長め 姿形はほぼ♀アーチャー 所持品:ミストレスの冠、カウンターダガー 備考:本来の力を取り戻すため、最後の一人になることをはっきりと目的にする。つまり他人を積極的に殺しに行くことになる。 ---- | [[戻る>2-163]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-165]] |

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