「2-167」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

2-167」(2006/02/27 (月) 11:59:31) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

167.ギャンブル[2日目昼] ---- それは突然の邂逅だった。 大きな起伏の頂点へたどり着いた瞬間に起きた、お互いにとって必殺距離での。 一方はゲームに乗っており、もう一方もそのことを知っていた。 にもかかわらず、戦端は開かれなかった。 双方がお互いの実力差を正確に認識し、狩る側と狩られる側があまりにもはっきりしていたから。 「さて、あまり手を取らせないでいただけるとありがたいのですが」 その死神じみた男は言った。 こいつだ。こいつが♀マジの言っていたキ○ガイWizに違いない。 ♂マジは背筋を冷や汗が流れ落ちるのを感じた。 「キキキ。丸焼きト八つ裂キ、毒デ悶死のどレがイイ?」 「私に毒を使うスキルはないですよデビルチ君」 なんだ。なんなんだこいつは。 恐怖と混乱で思考が斜め上へと走り出す。 どうしてデビルチなんて連れているんだ。 召喚?召喚したのか? それともこの島には参加者以外にモンスターがうろついてるのか? どっちにしても最悪だ。 デビルチにまともに効く魔法なんてほとんどない。 「くぅっ…なんて…、なんて運が悪いんだ…っ!」 「ああ君、聞いていますか?おとなしく実験材料になってもらえますね?」 不運を嘆いている間にも、手にしたごつい短剣をゆらしながら♂Wizが向かってくる。 そうだ。デビルチ以前にこいつが問題じゃないか。 確かに♀マジの言っていたとおり、言動が常軌を逸している。 こいつは敵だ。敵なんだ。 悪意を持ってこちらを殺そうとする人間がここにいるんだ。 だが。 「戦う……?無理だ…っ!魔法の種類も…威力も、詠唱速度だって負けている……っ!…なら殴りかかるか…?…いや駄目だ……っ!どう考えてもSSの方が早い…っ!……やはり逃げるしか……。だがどうやって…?QMも、FWも…IWもあるかも知れないのに……っ!!」 「ふむ。まあ判断は正確のようですね」 「性格はイささカ問題ダがナ。キキキキキ」 「くぅ…っ。お前には、お前にだけは言われたくないぞ……っ!」 ♂マジは耳障りに笑うデビルチをにらむ。 しかしどう考えても勝ち目がない。 逃げる手だてもない。 駄目だ。 もう諦めるしかないのか。 攻撃を仕掛けて万が一を期待するか。 SSならあちらが反応するより早く完成するかも…。 「駄目だ…っ!」 万が一? 馬鹿なっ! 可能性のあるところにしか偶然は起きない。 勝算も考えずにただ偶然を期待するのは破滅への道だ。 考えろ、考えろ、考えろっ! 何か道がある。きっとあるはずだっ! 俺にあってあいつにない物が、勝機を生む何かがきっとある…っ! 諦めるな……っ!   ざわ…          ざわ… うなじの毛がそそけ立つ。 全身の肌が粟立つ。 何か。 何かがある。 何かが。 考える。 考える。 考える…っ! 「……そうか……」 ♂マジは青ざめた顔を上げた。 「――どうしました?」 彼の反撃を警戒して♂Wizが立ち止まる。 飛び掛かるには遠く、しかし決して逃げ切れない距離を残して。 ガチガチと音を立てそうな歯をかみしめて♂マジはゆっくり言葉を押し出した。 「あんた……あんたは……、なんでまだ魔法を撃たないんだ……?」 「そんなことですか」 ♂Wizは鼻で笑う。 「私が実は善人だとか、人を殺せないのではないかと期待したなら見当違いです。私は単になるべくきれいな生きたままの実験体が欲しいだけですよ」 「ナらバ己の体デもイイんじゃナイのカ主人ヨ」 「自分を解剖してしまっても研究が続けられるなら、それも手ですね」 「そうじゃないっ……そうじゃないんだ……っ!」 1人と1匹の狂気に満ちた会話に腰が引けつつも♂マジは言葉を繋ぐ。 「あんたのその目的は想像がついた……。だから……取引しよう」 「取引の余地はありません。あなたが選べるのはいつどのように死ぬかだけです」 「いや…っ!できる……っ!!」 ♂マジはローブの下で『それ』を握りしめた。 「あんたは俺の……生きた体が欲しい。だから……殺せるけど、殺せない。俺は……死にたくない。けど……殺されない方法がない」 「キキ、そレハ困ったナ。どっチも手詰マりダ」 あざ笑うデビルチを無視して♂マジはローブの下から右手をゆっくりと引き出した。 「だから……取引だ。賭けをして……あんたが勝ったらおとなしく実験体になる。俺が勝ったら……見逃してくれ」 「――ふうむ」 彼の右手指の間に挟まれた3つのサイコロを見て、♂Wizはかすかに興味深そうな表情を浮かべる。 「断ったら?」 「全力で……戦う。この体が……消し炭になるまでっ」 「…なるほど。ですが、負けた側が約束を守る保証は?」 「賭けの間……俺は座る。逃げるにも戦うにも、一手遅れる。あんたは……」 言いかけて首を振った。 彼が生き残る道は、賭けに勝った上で♂Wizが約束を守る。その小さな可能性にしかないのだ。 その意味を理解して♂Wizは薄い笑みを浮かべた。 「いいでしょう。ルールは?」 「お互い3から18の数字に賭けて……サイコロを3つ振る。……出目に近い方が勝ち。あんたが先に選んでいい」 「…なに?」 ♂マジの提案を聞いて♂Wizが少し呆れたような表情をした。 少し遅れてデビルチが笑い出す。 「キキキ、まっタくノ五分カ。ズいぶン欲張るナ、気ニ入っタゾ。キキキキキ」 1から6の数字が刻まれた普通のサイコロであれば、3つ振った時に最も出やすい目は10と11。そして3~10の目が出る確率と11~18が出る確率は等しい。 当然お互いに10か11のどちらかを選ぶだろうから、勝つ確率は2分の1になる。 決定的に不利な状況を五分五分の賭けにするのは♂マジに都合良すぎるだろう。 デビルチの言ったのはそういう意味だった。 「なら……あんたは俺の後に、数字をもう1つ選べ。その代わり……サイコロは俺が振る」 ♂マジは譲歩してみせた。 これは♂Wizにサイコロを触らせないための、予定のセリフだった。 一旦サイコロを振ってしまえば、イカサマがばれても約束は約束と強弁できる。 それで♂Wizを怒らせたとしても、冷静なままの相手と戦うよりは生き残る可能性があるだろう。 しかし振る前にばれてしまっては賭けが成立しない。しかも仕掛けを見破ることで♂Wizは怒るどころか精神的優位に立つだろう。 だから絶対に♂マジがサイコロを振らなくてはいけないのだ。 「なるほど。いいでしょう」 そんな彼の内心を見透かしたかのように♂Wizは手を差し出した。 「ただ、サイコロを確かめさせてもらいますよ」 「……え?」 「当然でしょう?サイコロに望みの目を出す仕掛けがあっては困りますから」 「くっ……!」 ♂マジは奥歯を強くかみしめた。 万事休すか……? いや、まだだっ。 サイコロを手渡す瞬間、奴に手が届くっ! 不意打ちできれば……っ! 「デビルチ。彼のサイコロを確認してください」 「ヨし。マかせロ」 「……っ!」 あくまでも用心を怠らない♂Wizの一言に全身から力が抜けて行く。 最後の足掻きさえも見透かされた。 終わりだ……っ。 「ほレ、よこサぬカ。ひョロ夫メ」 トテトテと歩み寄ってきたデビルチが、力の抜けた彼の手からサイコロを奪う。 そして即座に転げ回って笑い出した。 「キーッキキキキキッ。なンじャこれハっ。1シか掘ってナいでハなイかーッ!キキキキキキキッ!」 「ぐう……っ!」 「…なるほど」 がっくりと膝をつく♂マジ。それを見下ろす♂Wizの声にはむしろ感心の色があった。 「3から18の数字、と言うことでそれが普通のサイコロだと刷り込んだわけですね。今の今まで数字そのものに細工があるとは考えていませんでした」 「う……く……っ」 「ですが約束は約束です。私は3を選びます。2つ目の数字は必要ありません。…さあ、数字を選んでサイコロを振って下さい」 「キ…キキ……笑いスギて腹がいタい…」 地面でひくひくと痙攣していたデビルチが起きあがって♂マジの手にサイコロを押し込む。 彼は思わず呟いた。 「お前の……そこは……腹じゃなくて口だろう……」 「キキキ。マダそのヨうな口をきケるか。実ニ気に入っタ、ニブルでハ仲良クしよウ」 彼の背を叩いてデビルチが離れる。 道は閉じた……。 もう…手は……。 「さて――アイスウォール!アイスウォール!アイスウォール!ファイアウォール!!」 キキキンッ!キンッ!どんっ! 考える間に♂Wizが呪文を連打し、♂マジの後方から側面にかけてを囲い込むように氷の壁がそそり立った。さらにその内側に炎の壁が立つ。 「無駄に時間稼ぎされてもつまりませんし。炎が消えても投げなかったら時間切れでいいですね?」 ♂Wizは顔色も変えずに言い放った。 逃げ道を塞がれ、時間稼ぎまでも封じられた。 駄目か……っ。 駄目なのか……っ! ここで終わりなのか……っ! 俺はここで死ぬしかないのか……っ! 心がゆっくりと暗く閉じて行く。 死… 死ぬ…。 死ぬ……? ……いいじゃないか……。 俺は……殺さないことを選んだ……。 死ねば……誰も殺さないで済む……。 楽に……なれるんだ……。 ……。 …… 『本当に?』 ……! 違う… 違う……っ! 俺は何を考えてる……っ! 生かすことを選んだなら…自分の死も認めるな……っ! 死なないために殺すのも……殺さないために死ぬのも……馬鹿げてる……っ! 俺は…。 俺は……っ! 「俺は……生きることを……、そのための選択を……諦めない………っ!!」 「む?」 ♂マジは気迫を全身にみなぎらせ、握りしめた拳を突き上げた。 警戒した♂Wizが詠唱の構えを取る。 それを無視して 「俺が選ぶ数は……4だ……っ!!」 彼は高々と上げた拳を振り下ろした。 アイスウォールの前に立った、消えかけのファイアウォールへ向け。 パチンッ 小さく弾ける音。 そして。 「…アりえヌ…」 「…見事です」 死神の主従が呆然と声を漏らした。 「俺の……勝ちだ……っ」 3個のサイコロの内、1個が割れ――破片は両方とも1の目が刻まれた面を上にして落ちていた。 すなわち、合計は4。 「ファイアウォールを通してアイスウォールにぶつけ、熱膨縮と衝撃で割る…ですか。可能性は1%も無かったでしょうに」 「それでも…可能性はあった……」 割れて4つになったピンゾロサイコロを拾い、♂マジはゆっくりと向き直る。 緊張は解いていない。 まだ、窮地を脱したわけではない。 「で……どうする…?」 身構える彼に♂Wizは肩をすくめてみせた。 「約束は約束です。今日明日は見逃しましょう。最終日になればそうも言っていられませんが」 その瞬間、緊張の糸が切れた♂マジは地面に崩れ落ちた。 やった…俺はやったぞ…、とうわごとのように呟く♂マジをつつきながらデビルチは♂Wizを見上げる。 「いイノか?」 「ええ。別の実験に付き合っていただくだけですし」 「な……っ。ぐぅっ……約束は約束だと言ったのに……っ」 平然と言ってのけた♂Wizに対し抗議の声を上げるが、一度切れた緊張の糸は簡単には戻らない。 腰を抜かしたままじたばたと後ずさる彼をデビルチが愉快げに揶揄した。 「キキキ。約束ハ貴様を見逃すコトだけダ。契約ノ内容はヨく確かめヌとナ」 「なに、危険はありませんよ。それとも命懸けで抵抗してみますか?」 賭けに勝って得た精神的優位をあっさり覆され、♂マジはがっくりと肩を落とす。 「いや……抵抗はしない……」 「賢明です。――モンスター情報!」 「……!?」 あまりにも予想外の魔法に♂マジは目を白黒させた。 「モンスター情報って……なんで……」 「実験に必要なのですよ。あと、いくつか質問に答えて下さい。魔術の専攻と教師は?」 「あ、ああ……、数理魔法学…変動確率論だ…。独学だよ……」 とまどいながらも答えた内容を聞いて♂Wizはかすかに笑った。 「これはまた趣味な分野を」 「くっ…だから言いたくなかったんだ……」 「いえ、誉めたのですよ。実験にはむしろ好都合ですから。そんな物を専攻してる方が他にいるとは思えませんしね」 「……どういう意味だ……?」 「モンスター情報の結果とその情報があればあなたの魂を特定できる、という意味です。あなたには霊魂追跡の被験者第2号になっていただきますので」 ♂Wizにとって大事なことはただ一つ。 愛する人の『再生』である。 しかし、それを為すためには仮初めの肉体を作り出すだけでは足りない。 愛する人の魂を探し出し、製造した肉体に定着させなければならないのだ。 そこで彼はよく知った人物の魂を探知する術を考案した。 そして実験段階でいきなりつまづいた。 彼ほど人付き合いの悪い人間でも、知っている人間となると膨大な数に上るらしい。 最初の数度の実験ではあまりに多くの反応に脳が追いつかず、瞬時に昏倒した。 仕方なく倒れずに済むところまで術要素を削ったところ、今度は何も反応しなくなった。 つまり全然使い物にならなかったのだ。 しかし、この島では事情が異なる。 知っている人間の数がごく限られ、また魔法を極端に制限されているため術の範囲が島外まで及ばない。 したがって本土では気絶した初期設定でも普通に使うことが出来るのだ。 「霊魂って……やっぱり殺す気か…っ?」 「いいえ。それでは実験にならないのですよ、残念ながら」 焦る♂マジに対し♂Wizは背を向けた。 威力が落ちている以上、ニブルヘイムも探知範囲外である。 死者の魂を探すのが本来の目的なので♂Wizにとってはかなり残念なのだが、いろいろ条件を変えながら必要な要素を絞っていけば大陸でも使える術が完成するだろう。 「ですからせいぜい長生きして下さい」 「達者でナ」 「あ、ああ」 何の未練も見せずに立ち去ろうとする彼らを呆然と見送りかけ、♂マジはハッと気付いた。 自分が第2号と言うことは……すでに誰か1人探知できると言うことだ。 そんな相手は限られるんじゃないか? 「待て……待ってくれ。……もしかして、被験者第1号は…♀マジじゃないのか?」 「ええ。そうですよ」 案の定肯定した♂Wizに頭を下げる。 「位置が分かるなら……教えてくれ。はぐれたんだ」 「ふむ?――まあいいでしょう」 ♂Wizは手助けの是非を一瞬考えたようだが、すぐに聞き慣れない呪文を呟いて念をこらした。 やがて一方を指し示す。 「まだ術の距離感が完全ではありませんが、方向はおおよそあちらです」 「わかった…礼を言う」 ♂マジはもう一度だけ頭を下げた。 遠ざかるローブ姿を見送り、デビルチは自らの契約者を横目に見上げる。 「デ、あ奴の探シてオる者ハ本当にあチらにオルのカ?」 ♂Wizはまったく顔色を動かさず、ただひとこと問い返した。 「さあ?どう思いますか?」 <♂Wiz> 位置 :E-6 所持品:コンバットナイフ 片目眼鏡 とんがり帽子     レッドジェムストーン1つ 血まみれのs1フード 外見 :黒髪 土気色肌 スキル:サイト サイトラッシャー ファイアピラー クァグマイア ファイアウォール     フロストダイバー アイスウォール モンスター情報 備考 :「研究」のため他者を殺害 丁寧口調 マッド     ♀ノービスに執着(実験体として) ♂アサシンを殺害     デビルチと主従契約 <デビルチ> 現在地:E-6 所持品:+10スティックキャンディ 備考 :悪魔 ♂WIZと主従契約 <♂マジ> 位置 :E-6 → ♂Wizに聞いた方向へ 所持品:ピンゾロサイコロ(6面とも1のサイコロ) 3個(内1個は割れている)     青箱1個 スティレット 外見 :長髪 顔色悪い 状態 :左手負傷(スティレットによる自傷) 備考 :JOB50 ♀マジとはぐれ捜索中 カイジ <残り29名> ---- | [[戻る>2-166]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-168]] |

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
人気記事ランキング
目安箱バナー