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169.Murderer's show down [2日目午後~夜] ---- それは何合目になろうか。 お互いの手にした刃が咬み合い火花を散らす。 弾かれるようにお互い飛びすさり、間合いを開く。 「はっ!しぶといじゃねぇか…この死に損ないがぁっっ!!」 ♂ローグがさも楽しそうに吠える。 その獲物を狙う爬虫類を思わせる視線を冷静に見返し、次の刹那に備える。 旗色は刻一刻と悪くなっている。 左胸に受けた傷からどんどん体温が流れ落ちていく。 顔を濡らす雨のおかげで一見判らないが、脂汗が次から次へと沸き出し、血の気が失せた顔には重い疲労の色が滲んでいた。 「その死に損ない相手にすら手間取っている君が…人殺しを名乗るのかい?」 嘲るように問う。 が、相手も余裕の笑みを崩ず、挑発には乗ってこない。 すでに判っているのだ。 この死合は時間がかかればかかるほど忍者に死の天秤が傾いて行くのを。 双方クローキング、トンネルドライブという隠形移動の技を持つ以上、先に身を隠した方が不利になる。 技を維持する精神力が途切れた瞬間に、姿を消した相手に無防備な背中を晒す羽目になるからだ。 ♂ローグには一撃必殺のバックスタブがあるが、背後を取らせなければ驚異にはならない。 距離を取っての弓の攻撃では、この遮蔽の多い林には避ける方法が幾らでもある。 (だが…) 逆手に構えたグラディウスをちらりと見る。 (せめて…手にした得物がカタールであれば…な…) 内心舌打ちをする。 対して自分にも一撃で相手を屠れる技がない。 ソニックブロウもグリムトゥースも使えない。これらの技はカタールを手にした時に最大限の威力を発揮するように作り上げられている。 毒を操る術はおそらくこちらが上だが、毒の扱いはお互い精通している。まず効かないと考えていいだろう。 決め手を欠いたまま、小手先のせめぎ合いを続けるしかないのだ。 目の前の殺人狂の実力は決して低いものではない。手負いの我が身では勝負はすでに付いていると言える。 だが、距離を稼ぐ事には成功した。もはや悪ケミの姿が視界から消えてしばらく立つ。 後は出来る限り時間を稼ぎ、自らの策を確実なものにすれば良いだけである。 私の目的は敵を倒す事ではない。友を逃がす事なのだ。 「く…くくく…っ」 不意に♂ローグが笑う。 我慢して押し殺していた笑みが溢れ出る様に、徐々にトーンを上げながら哄笑へと変わっていく。 「ひゃはははははははははぁ!!」 「…何を笑う?」 さも可笑しいと言わんばかりに、天を仰いで笑い続ける♂ローグ。 耳障りなその笑い声に、つい反応して問いかける。 その問いに、顔を上げたまま目だけを向け、にやりと頬を歪ませながら言葉を繋ぐ。 「てめぇの考えなんぞお見通しなんだよ」 そのままの姿勢で♂ローグは続ける。 「一緒にいたお嬢ちゃんを逃がす為の時間稼ぎのつもりなんだろ?  昨日今日会ったばかりの相手に随分と入れ込んでるようだな、おい。  そんなに具合が良かったのかい?」 くひひと下卑た笑いを浮かべる♂ローグ。 忍者は無言で返し、先を続けさせる。 「さぁてクエスチョンだ。これなんだと思う?」 そう言って懐から何かを取り出す。 それを見て忍者の心拍が跳ね上がる。 「馬牌…だと…」 「ひゃははっ。ご名答ってな。んじゃこいつに仕込まれた魔術も判るよなぁ?」 絶句している相手に、してやったりと言わんばかりの視線を送る。 飾り紐を指に掛け、陶器製の円盤をくるくると回して弄ぶ。 「てめぇを片付けたら、あのお嬢ちゃんと鬼ごっこの開始だぜ。  多少の時間稼ぎ程度で俺様から逃げられると思うなよ?  じりじりと追いつめて疲れ果てるまで追い立ててやる。  泣き叫びながら命乞いをするお嬢ちゃんを裸に剥いて嬲って犯して…殺してやるよ」 手にした包丁に舌を這わし、愉悦の表情を浮かべる。 「ああ、どうやって殺してやろうか。  考えただけでも勃っちまうぜぇ。  両手両足を切り取って、芋虫みてぇに地べたを這わせてやるのもいい。  目ン玉潰してから追いかけ回すのも悪くねぇ。  言う事聞けば助けてやると期待を持たせて、徹底的に犯した後でゆっくり切り刻むのも好みだけどな。  両足潰して禁止領域に置き去りってのも楽しそうだが、やっぱとどめは自分で刺してぇし。  シメはやっぱりばらばらに切り分けてやらねぇと。  女の体は柔らかくて張りがあるから切り応え抜群だもんな。  ああそうだ、てめぇにゃお嬢ちゃんの首でも土産に持ってきてやろうじゃねぇか。」 おおよそ普通の人間とは嗜好がずれているらしい。 聞いているだけで気分の悪くなる様な想像を、心底楽しみ、それを実行しようとしている。 「下衆が」 「ひゃはははははぁ!  てめぇの死体と仲良く並べてやるよ!  歯ぎしりしながら死んどけや!!」 馬牌を懐に戻すや否や、弾かれたように飛び出す♂ローグ。 一瞬で間合いを詰め、左から右へと包丁を走らせる。 横凪の一閃をグラディウスで受け流し、そのまま鳩尾めがけ抜き手を放つ。 ♂ローグは受け流された勢いのまま、体を半回転させ突きをかわし、重い蹴りを打ち込む。 バックステップで蹴り足を避ける忍者。 蹴りが流れ、一瞬体を崩した♂ローグめがけて体当たりをするように刃を突き出す。 が、それも読んでいたと言わんばかりに互いの得物を咬み合わせ、受け止める。 ぎゃり… 鋼が擦れ合う音を立てながら、力比べに入る。 「ったくマジでしぶてぇなぁっ!!糞野郎がぁっ!!!」 体重を掛けて忍者の体を押し戻し、さっと間合いを開ける♂ローグ。 お互い一挙一足の距離を保ったまま、にらみ合いに戻る。 ぴん…と張りつめた空気が雨音すら消し去っていく。 膠着した殺し合い。 飾られた絵画の様に一寸の揺らぎもなく。 途方もなく長く、刹那ほどに短い時間の中で。 最後の一手が打たれようとしていた。 がさり… 護る為にその身を盾にした男は、絶望の足音を聞いた。 屠殺の快楽に取り憑かれた男は、満面の笑みを浮かべた。 それは濡れた草を踏みしめるブーツの音。 逃げたと思った悪ケミがいつの間にか近くまで来ていたのだ。 おそらく剣戟の音を頼りにこちらを目指しているのだろう。きょろきょろと首を巡らしている。 悪ケミはまだ彼等に気が付いていない。 すでに毒蛇の餌場に足を踏み入れているというのに。 すでに死神の大鎌がその首に掛かっているというのに。 (何故…) 忍者は思う。 またその一方で、 (やはり…) と思う。 彼女は口では世界せーふくなどと言ってはいるが、可笑しいほどに悪人にはなりきれない。 逃げろと言った所で、はいそうですかと知り合いを見捨てて逃げられる様な子ではないのだろう。 そんな優しい子だからこそ、私は彼女に希望を託し、礎にならんとしている。 「ひゃはははぁ!てめぇもいい加減馬鹿かと思えば、そのツレも大馬鹿女と来たモンだっ!!」 ♂ローグがバックステップで忍者の間合いから離れる。 すでにその手には矢をつがえたクロスボウが構えられている。 その挙動を押さえるには、バックステップ分の距離が絶望的に遠い。 狙いは…悪ケミ。 先ほどの♂ローグの叫びを耳にし、こちらに気付いたのであろう。 狙われているのが自分であると認識して、驚愕とも恐怖とも付かない表情に顔を歪ませている。 この一手は罠である。 だが忍者には罠に乗る以外の選択肢が残されていない。 自らの体を♂ローグと悪ケミを繋ぐ射線上に滑り込ませる。 ドスドスッ!! 立て続けに撃ち込まれた2本の矢が、右肩、右脇腹へと突き刺さり、のけぞる様に倒れ込む忍者。 「いやああああぁぁっっ!!」 悪ケミの悲鳴が空気を震るわす。 倒れ込む際に一瞬見えた♂ローグの顔がにぃと歪んだ笑みを浮かべていた。 その顔を脳裏に浮かべながら、忍者は小さく呟いた。 ───悪いが…最後の一手はこっちが貰う 忍者は倒れ込みながらも悪ケミに向かってそれを放り投げる。 ♂ローグにも一瞬の油断が有ったのだろう。宙を舞うそれを見ても咄嗟に動き出せなかった。 悪ケミの手元に吸い込まれるように投げ込まれたそれは… 2つの…馬牌。 「走れえええぇぇっっ!!」 「てめぇっっ!!」 ♂ローグが悪ケミに向けて走り出す。 その眼前にグラディウスを投げつけ、一瞬足が止まった所へ跳ね起きた勢いのまま飛びつく忍者。 横合いから体当たりを食らい、♂ローグと忍者はもつれる様に倒れ込む。 「行くんだ!!君には目的があるのだろう!!」 ♂ローグの凶刃が閃く。 顔に、腕に、首筋に、振り下ろされるたびに鮮血を撒き散らしながら、それでも♂ローグを押さえ込む腕に力を込める。 「生き延びて、世界せーふくを成すんだろう!!」 「でもっ!!」 「行くんだああぁぁっ!!」 悲痛なまでの叫びに、何かを言いかけて…ぐっと言葉を飲み込む。 手にした馬牌の一つを両手で折る。青い魔力の迸りと共に甲高い馬のいななきが響き渡る。 泥と雨と、涙にまみれた顔を上げて、悪ケミは走り出した。 その儚くも決意に満ちた悪ケミの顔を見て、忍者は満足そうに微笑んだ。 在りし日の忍者を名乗る青年が示してくれた「思い」 自ら忍者を名乗り次の者に託したかった「思い」 彼の様に形見を残せた訳では無いのだけれども。 ───私にも…できたのだろうか ◇◇◇ 「ち…あの抜き手は最初から馬牌狙いだったってワケかよ」 ようやく覆い被さっていた忍者の体を蹴飛ばして、体を起こす♂ローグ。 何度包丁を叩きつけたか判らない。すでにぼろきれの様になったそれを見て唾を吐く。 虫の息と言うのであろう。むしろまだ生きている事が不思議な位であった。 「胸くそ悪ぃぜ…お嬢ちゃんにも逃げられちまうしよぉ」 立ち上がり、血と泥にまみれた服を見て小さく舌打ちをする。 腹いせにぼろきれの頭が有ったであろう部分に、足を振り上げ、下ろす。 めきゃっと言う音と、びくりと跳ねるその体の最後の足掻きが、足を伝って体を通る感触に少しだけ気が晴れる。 「まぁいいさ…てめぇが必死に逃がしたお嬢ちゃんも…必ず俺が殺してやらぁ」 ───ひゃはははははははははぁ!! 夜の帳が降りる中、返り血で赤黒く染まった死神が…いつまでもいつまでも笑っていた。 <忍者> 現在位置:I-6 所持品:グラディウス、黄ハーブティ 外見特徴:不明 思考:悪ケミについていく。殺し合いは避けたい 状態:死亡 <♂ローグ> 現在位置:I-6 所持品:包丁、クロスボウ、望遠鏡、寄生虫の卵入り保存食×2、青箱×1 外見:片目に大きな古傷 性格:殺人快楽至上主義 備考:GMと多少のコンタクト有、自分を騙したGMジョーカーも殺す 状態:全身に軽い切り傷。 <悪ケミ> 現在位置:I-6(西に向かって逃走中) 所持品:グラディウス、バフォ帽、サングラス、黄ハーブティ、支給品一式、馬牌×1 外見特徴:ケミデフォ、目の色は赤 思考:脱出する。 備考:首輪に関する推測によりモンクを探す サバイバル、爆弾に特化した頭脳 参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目 <残り28名> ---- | [[戻る>2-168]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-170]] |
169.Murderer's showdown [2日目午後~夜] ---- それは何合目になろうか。 お互いの手にした刃が咬み合い火花を散らす。 弾かれるようにお互い飛びすさり、間合いを開く。 「はっ!しぶといじゃねぇか…この死に損ないがぁっっ!!」 ♂ローグがさも楽しそうに吠える。 その獲物を狙う爬虫類を思わせる視線を冷静に見返し、次の刹那に備える。 旗色は刻一刻と悪くなっている。 左胸に受けた傷からどんどん体温が流れ落ちていく。 顔を濡らす雨のおかげで一見判らないが、脂汗が次から次へと沸き出し、血の気が失せた顔には重い疲労の色が滲んでいた。 「その死に損ない相手にすら手間取っている君が…人殺しを名乗るのかい?」 嘲るように問う。 が、相手も余裕の笑みを崩ず、挑発には乗ってこない。 すでに判っているのだ。 この死合は時間がかかればかかるほど忍者に死の天秤が傾いて行くのを。 双方クローキング、トンネルドライブという隠形移動の技を持つ以上、先に身を隠した方が不利になる。 技を維持する精神力が途切れた瞬間に、姿を消した相手に無防備な背中を晒す羽目になるからだ。 ♂ローグには一撃必殺のバックスタブがあるが、背後を取らせなければ驚異にはならない。 距離を取っての弓の攻撃では、この遮蔽の多い林には避ける方法が幾らでもある。 (だが…) 逆手に構えたグラディウスをちらりと見る。 (せめて…手にした得物がカタールであれば…な…) 内心舌打ちをする。 対して自分にも一撃で相手を屠れる技がない。 ソニックブロウもグリムトゥースも使えない。これらの技はカタールを手にした時に最大限の威力を発揮するように作り上げられている。 毒を操る術はおそらくこちらが上だが、毒の扱いはお互い精通している。まず効かないと考えていいだろう。 決め手を欠いたまま、小手先のせめぎ合いを続けるしかないのだ。 目の前の殺人狂の実力は決して低いものではない。手負いの我が身では勝負はすでに付いていると言える。 だが、距離を稼ぐ事には成功した。もはや悪ケミの姿が視界から消えてしばらく立つ。 後は出来る限り時間を稼ぎ、自らの策を確実なものにすれば良いだけである。 私の目的は敵を倒す事ではない。友を逃がす事なのだ。 「く…くくく…っ」 不意に♂ローグが笑う。 我慢して押し殺していた笑みが溢れ出る様に、徐々にトーンを上げながら哄笑へと変わっていく。 「ひゃはははははははははぁ!!」 「…何を笑う?」 さも可笑しいと言わんばかりに、天を仰いで笑い続ける♂ローグ。 耳障りなその笑い声に、つい反応して問いかける。 その問いに、顔を上げたまま目だけを向け、にやりと頬を歪ませながら言葉を繋ぐ。 「てめぇの考えなんぞお見通しなんだよ」 そのままの姿勢で♂ローグは続ける。 「一緒にいたお嬢ちゃんを逃がす為の時間稼ぎのつもりなんだろ?  昨日今日会ったばかりの相手に随分と入れ込んでるようだな、おい。  そんなに具合が良かったのかい?」 くひひと下卑た笑いを浮かべる♂ローグ。 忍者は無言で返し、先を続けさせる。 「さぁてクエスチョンだ。これなんだと思う?」 そう言って懐から何かを取り出す。 それを見て忍者の心拍が跳ね上がる。 「馬牌…だと…」 「ひゃははっ。ご名答ってな。んじゃこいつに仕込まれた魔術も判るよなぁ?」 絶句している相手に、してやったりと言わんばかりの視線を送る。 飾り紐を指に掛け、陶器製の円盤をくるくると回して弄ぶ。 「てめぇを片付けたら、あのお嬢ちゃんと鬼ごっこの開始だぜ。  多少の時間稼ぎ程度で俺様から逃げられると思うなよ?  じりじりと追いつめて疲れ果てるまで追い立ててやる。  泣き叫びながら命乞いをするお嬢ちゃんを裸に剥いて嬲って犯して…殺してやるよ」 手にした包丁に舌を這わし、愉悦の表情を浮かべる。 「ああ、どうやって殺してやろうか。  考えただけでも勃っちまうぜぇ。  両手両足を切り取って、芋虫みてぇに地べたを這わせてやるのもいい。  目ン玉潰してから追いかけ回すのも悪くねぇ。  言う事聞けば助けてやると期待を持たせて、徹底的に犯した後でゆっくり切り刻むのも好みだけどな。  両足潰して禁止領域に置き去りってのも楽しそうだが、やっぱとどめは自分で刺してぇし。  シメはやっぱりばらばらに切り分けてやらねぇと。  女の体は柔らかくて張りがあるから切り応え抜群だもんな。  ああそうだ、てめぇにゃお嬢ちゃんの首でも土産に持ってきてやろうじゃねぇか。」 おおよそ普通の人間とは嗜好がずれているらしい。 聞いているだけで気分の悪くなる様な想像を、心底楽しみ、それを実行しようとしている。 「下衆が」 「ひゃはははははぁ!  てめぇの死体と仲良く並べてやるよ!  歯ぎしりしながら死んどけや!!」 馬牌を懐に戻すや否や、弾かれたように飛び出す♂ローグ。 一瞬で間合いを詰め、左から右へと包丁を走らせる。 横凪の一閃をグラディウスで受け流し、そのまま鳩尾めがけ抜き手を放つ。 ♂ローグは受け流された勢いのまま、体を半回転させ突きをかわし、重い蹴りを打ち込む。 バックステップで蹴り足を避ける忍者。 蹴りが流れ、一瞬体を崩した♂ローグめがけて体当たりをするように刃を突き出す。 が、それも読んでいたと言わんばかりに互いの得物を咬み合わせ、受け止める。 ぎゃり… 鋼が擦れ合う音を立てながら、力比べに入る。 「ったくマジでしぶてぇなぁっ!!糞野郎がぁっ!!!」 体重を掛けて忍者の体を押し戻し、さっと間合いを開ける♂ローグ。 お互い一挙一足の距離を保ったまま、にらみ合いに戻る。 ぴん…と張りつめた空気が雨音すら消し去っていく。 膠着した殺し合い。 飾られた絵画の様に一寸の揺らぎもなく。 途方もなく長く、刹那ほどに短い時間の中で。 最後の一手が打たれようとしていた。 がさり… 護る為にその身を盾にした男は、絶望の足音を聞いた。 屠殺の快楽に取り憑かれた男は、満面の笑みを浮かべた。 それは濡れた草を踏みしめるブーツの音。 逃げたと思った悪ケミがいつの間にか近くまで来ていたのだ。 おそらく剣戟の音を頼りにこちらを目指しているのだろう。きょろきょろと首を巡らしている。 悪ケミはまだ彼等に気が付いていない。 すでに毒蛇の餌場に足を踏み入れているというのに。 すでに死神の大鎌がその首に掛かっているというのに。 (何故…) 忍者は思う。 またその一方で、 (やはり…) と思う。 彼女は口では世界せーふくなどと言ってはいるが、可笑しいほどに悪人にはなりきれない。 逃げろと言った所で、はいそうですかと知り合いを見捨てて逃げられる様な子ではないのだろう。 そんな優しい子だからこそ、私は彼女に希望を託し、礎にならんとしている。 「ひゃはははぁ!てめぇもいい加減馬鹿かと思えば、そのツレも大馬鹿女と来たモンだっ!!」 ♂ローグがバックステップで忍者の間合いから離れる。 すでにその手には矢をつがえたクロスボウが構えられている。 その挙動を押さえるには、バックステップ分の距離が絶望的に遠い。 狙いは…悪ケミ。 先ほどの♂ローグの叫びを耳にし、こちらに気付いたのであろう。 狙われているのが自分であると認識して、驚愕とも恐怖とも付かない表情に顔を歪ませている。 この一手は罠である。 だが忍者には罠に乗る以外の選択肢が残されていない。 自らの体を♂ローグと悪ケミを繋ぐ射線上に滑り込ませる。 ドスドスッ!! 立て続けに撃ち込まれた2本の矢が、右肩、右脇腹へと突き刺さり、のけぞる様に倒れ込む忍者。 「いやああああぁぁっっ!!」 悪ケミの悲鳴が空気を震るわす。 倒れ込む際に一瞬見えた♂ローグの顔がにぃと歪んだ笑みを浮かべていた。 その顔を脳裏に浮かべながら、忍者は小さく呟いた。 ───悪いが…最後の一手はこっちが貰う 忍者は倒れ込みながらも悪ケミに向かってそれを放り投げる。 ♂ローグにも一瞬の油断が有ったのだろう。宙を舞うそれを見ても咄嗟に動き出せなかった。 悪ケミの手元に吸い込まれるように投げ込まれたそれは… 2つの…馬牌。 「走れえええぇぇっっ!!」 「てめぇっっ!!」 ♂ローグが悪ケミに向けて走り出す。 その眼前にグラディウスを投げつけ、一瞬足が止まった所へ跳ね起きた勢いのまま飛びつく忍者。 横合いから体当たりを食らい、♂ローグと忍者はもつれる様に倒れ込む。 「行くんだ!!君には目的があるのだろう!!」 ♂ローグの凶刃が閃く。 顔に、腕に、首筋に、振り下ろされるたびに鮮血を撒き散らしながら、それでも♂ローグを押さえ込む腕に力を込める。 「生き延びて、世界せーふくを成すんだろう!!」 「でもっ!!」 「行くんだああぁぁっ!!」 悲痛なまでの叫びに、何かを言いかけて…ぐっと言葉を飲み込む。 手にした馬牌の一つを両手で折る。青い魔力の迸りと共に甲高い馬のいななきが響き渡る。 泥と雨と、涙にまみれた顔を上げて、悪ケミは走り出した。 その儚くも決意に満ちた悪ケミの顔を見て、忍者は満足そうに微笑んだ。 在りし日の忍者を名乗る青年が示してくれた「思い」 自ら忍者を名乗り次の者に託したかった「思い」 彼の様に形見を残せた訳では無いのだけれども。 ───私にも…できたのだろうか ◇◇◇ 「ち…あの抜き手は最初から馬牌狙いだったってワケかよ」 ようやく覆い被さっていた忍者の体を蹴飛ばして、体を起こす♂ローグ。 何度包丁を叩きつけたか判らない。すでにぼろきれの様になったそれを見て唾を吐く。 虫の息と言うのであろう。むしろまだ生きている事が不思議な位であった。 「胸くそ悪ぃぜ…お嬢ちゃんにも逃げられちまうしよぉ」 立ち上がり、血と泥にまみれた服を見て小さく舌打ちをする。 腹いせにぼろきれの頭が有ったであろう部分に、足を振り上げ、下ろす。 めきゃっと言う音と、びくりと跳ねるその体の最後の足掻きが、足を伝って体を通る感触に少しだけ気が晴れる。 「まぁいいさ…てめぇが必死に逃がしたお嬢ちゃんも…必ず俺が殺してやらぁ」 ───ひゃはははははははははぁ!! 夜の帳が降りる中、返り血で赤黒く染まった死神が…いつまでもいつまでも笑っていた。 <忍者> 現在位置:I-6 所持品:グラディウス、黄ハーブティ 外見特徴:不明 思考:悪ケミについていく。殺し合いは避けたい 状態:死亡 <♂ローグ> 現在位置:I-6 所持品:包丁、クロスボウ、望遠鏡、寄生虫の卵入り保存食×2、青箱×1 外見:片目に大きな古傷 性格:殺人快楽至上主義 備考:GMと多少のコンタクト有、自分を騙したGMジョーカーも殺す 状態:全身に軽い切り傷。 <悪ケミ> 現在位置:I-6(西に向かって逃走中) 所持品:グラディウス、バフォ帽、サングラス、黄ハーブティ、支給品一式、馬牌×1 外見特徴:ケミデフォ、目の色は赤 思考:脱出する。 備考:首輪に関する推測によりモンクを探す サバイバル、爆弾に特化した頭脳 参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目 <残り28名> ---- | [[戻る>2-168]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-170]] |

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