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Assassinate[不明] ---- じりじりと肌を刺す強い日差し。 天に架かる太陽が、恵みではなく悪意となる地。砂漠。 日に灼かれ、色あせた熱砂は降り注ぐ光を同じ強さで照り返す。 さらに乾いた風が焼けた砂を巻き上げ、針となって全身を突き刺す。 毒虫さえも夜を待って砂の下に潜み、動く物と言えば砂そのものの怪物のみ。 砂漠の中心、アサシンギルドの置かれた土地はそんな場所なのだ。 土地の民であれば全身を服で覆い、頭にも布を巻くところだろう。 凶暴な日光に耐えるにはそれしかないのだ。 しかし今、日差しの下を進む半裸に近い姿の男女の列があった。 ドサッ 列の中程で女が倒れた。 しかし前後の男女と手錠を縄で繋がれており、そのまま砂の上を引きずられる。 「…せめて倒れた者の落伍を許せ。これでは他の者も長く保たん」 列の先頭近く、武装した一団に囲まれた男がかすれ声を出した。 彼を捕らえた鎖の端を手に、無表情な男が答える。 「あなたが目的を話して下されば、すぐにでも。アサシンマスター」 「…もう答えたはずだ」 ギルドマスターは連行される部下達へ視線を送り、苦渋に満ちた声を出した。 アサシン達は徹底的な武装解除を受けており、何一つ隠し持てないよう靴まで奪われている。 アサシンギルドでの戦いとここまでの強行軍で、もはや全員がいつ倒れてもおかしくない状況にあった。 「ではこのままプロンテラまで同行願うだけです」 「……」 無情な答えにギルドマスターは歯ぎしりする。 比較的丁重に扱われている彼でも、むき出しになった腕や首筋はすでに火傷のような状態になっている。 衣服の多くを奪われた部下達はその比ではあるまい。 彼らは今この瞬間も責め苦を受け、着実に死への道を辿りつつあるのだ。 …自分のために。 彼の背からふっと力が抜ける。それを見て取って無表情な男が質問した。 「あなたの目的は?」 迷った末、ギルドマスターは押し殺した声をしぼり出す。 「……お前達の殺戮ゲームを止めることだ」 「なぜ?」 即座に飛んだ次の質問に対し、ギルドマスターはかろうじてひび割れた唇へ嘲笑を浮かべて見せることに成功した。 「…お前達の行為は、時代に必要とされていないからだ。そうでなくても人の死が溢れている、この時代にはな」 「では、どうやって止めるつもりでした?」 皮肉めいた言いにも相手の無表情は動かず、ただ淡々と質問を重ねる。 ギルドマスターはしばらく答えなかった。しかし繋がれたアサシン達からさらに倒れる者が出るに至って苦々しげに口を開く。 「……♂アサシンに島の基本構造を聞き出させ、ゲーム中に破壊するはずだった」 「他には?」 「それだけで充分だ。この国に今すぐ同じ物を建設する余力はない」 「それを信じろと?」 「事実だ」 「……」 吐き捨てるような彼の言葉に対し、男は沈黙で答えた。 ギルドマスターが苛立たしげにうなる。 「質問には答えたぞ。部下を解放しろ」 男は無表情な顔に苦笑とも嘲笑とも取れる小さな笑みを浮かべた。 「あなたの要求は倒れた方を置いて行くことではなかったのですか?それにまだあなたの言葉が真実だという確証がありません」 そして再び冷酷に問う。 「もう一度聞きます。あなたの目的は?」 瞬間。 ピシッ 炎天が凍てついた。 「っ!」「な…」 殺気。殺気。殺気。 血も凍るほどの殺気。 そこに至って初めて灰色の人影に気付く。 どれほどの時間気配を消したままそこにいたのだろう。 砂丘の陰、風化した骨の間、何もない砂の上。 3つの影が当たり前のように周囲を取り囲んでいた。 ズッ 「ぐ…っ」 殺気と人影に気を取られた刹那。砂を割って飛び出した数個の紫影が杖を持った男女を切り裂く。 さらに三方の影が半弧状の衝撃波を放った。 「ソウルブレイカー!」 無防備なところに猛打を浴びた弓使いが崩れ落ちる。 そして気を取り直した一行が武器を構える前に襲撃者達は姿を消した。 「密集!対アサシン戦!」 奇襲によって遠距離戦力を半減させられた一団を統率し、男が無表情を捨てて叫んだ。 「サイト!」「ルアフ!」「集中力向上!」 人質と男を中心に円陣が組まれ、隠れたアサシンを見つけだす為のスキルが連呼される。 しかし、それにあぶり出されたのはアサシン達だけではなかった。 やや離れた位置にプリーストが3人、並んで現れる。 「「アスペルシオ!」」「聖体降臨!」 彼らの呪文によって追撃はすべて無効化された。 その間に襲撃達は充分な距離を取って気配を断ち、それを確認したプリースト達もテレポートして逃げる。 「武器持ち替え。盾構え。ニューマとアンクル、ファイアウォールを」 男は素早く防御を指示する。 待ち構えていたのがアサシンだけではないと言うことは、この襲撃が突発的な物ではなく計算された罠に違いないと言うことだ。 それはとりもなおさず、懸念していた反逆の根が広く根深い物であることを示している。 「アサシンども、降伏しろ!貴様らのギルドマスターと仲間は我々の手にある!降伏しなければこれより1分ごとに1人殺す!」 当然ながら即答はない。 (ワープポータルの用意をしておけ) 男は小声で指示を出し、中央に固められた人質に歩み寄る。そして再び声を上げた。 「まず1人殺す!降伏しないなら全員死ぬまでそこで見ていろ!」 「貴様っ」 ギルドマスターが睨むが、男は動じない。 最悪の形ではあるが、男としてはギルドマスター1人連れ帰ればそれでいいのだ。他のアサシンは彼に対する人質に過ぎない。 そして1人であればポータルで連れ帰れる。わざわざ砂漠を徒歩で横断する必要も無い。 人質と砂漠横断はギルドマスターに対する拷問道具に過ぎず――失うことで事実追求は遅れるだろうが、これほど周到な罠に掛かったとあっては仕方ない。 「では…」 『――――、――』 人質全員の命を絶ち、ポータルで帰還する。その腹を決めたとき異国の言葉が砂漠に響いた。 ミッドガッツの言葉に直すとこうなる。 「脱皮しろ、サイドワインダー」 その言葉を聞いた瞬間、歯ぎしりしていたアサシンギルドマスターの頭がビクリと動いた。 「今のは何と言ったのですか?」 男が不審げに問うが、気にした様子もない。 「うおおぉぉっ!」 つながれた鎖を両手で握り、死にものぐるいの力でバックステップした。 鎖の先を手に巻いていた男があまりの勢いに引きずられる。 「何を!」 もちろん男を引きずり、円陣を組んだ男女の体に遮られて大して下がれない。 無理矢理もう一度跳ねるが、ファイアウォールに弾かれ、罠に挟まれて動きが止まる。 それでも円陣の外に飛び出してはいた。 「ええい…っ!制圧射撃!」 男はギルドマスターを押し倒し、襲撃者が近寄れないよう自分たちの周囲に矢と魔法の雨を降せる命令を下す。 しかし 「――――!」 今度はギルドマスターの口から異国の言葉が響いた。 「「「「「ベナムスプラッシャー!!」」」」」 「馬鹿な…」 ギルドマスターの声に応え、幾重にも重なった叫びに男は当惑した。 叫んだのは人質の半数近く、およそ10名ほど。 おそらくベナムスプラッシャーを会得している者全員なのだろう。 しかし、そんなものを使えるはずがないのだ。 ベナムスプラッシャーの使用にはレッドジェムストーンが必要であり、さらに対象がある程度傷を負っている必要がある。 そのどちらの条件も満たしていない。身体検査には完璧を期して肛門まで調べたし、ギルド襲撃時に負った傷は治療した。 まして自分たちはアサシンと戦うために来たのだ。大半が鎧にアルギオペカードを使っている。 毒による攻撃など効くはずもない。 (――?) 何かが引っかかった。 しかしその意味に気付く暇はなかった。 ボバッ!ボボンッ!バシャッ! 人質達の肉体が凄まじい勢いではじけ、猛毒を帯びた血煙が一帯に充満する。 「があああぁぁぁっっ!」 10発近いベナムスプラッシャーの多重発動。 ロードナイトであっても生き残れる物ではない。 巻き込まれた武装集団が白目を剥き、泡を吹いて次々に倒れる。 敵を巻き込んでの自爆。 これこそがベナムスプラッシャーという術本来の用途だった。 ジェムストーンとは術の反動を吸収する、いわば安全装置である。敵もろとも死のうという時にそんな物は必要ない。 敵に傷を負わせる必要もない。負傷した自分自身が目標なのだ。 「聖体降臨かっ」 ギルドマスターの上で、ただ1人生き残った男がうめく。 アサシン達を守るためと見せかけ、その場全員の鎧を祝福していたのだ。 鎧を聖属性にしてしまえば、毒属性の攻撃は多少弱まるものの有効になる。 「あとは貴様だ」 ギルドマスターは答えようとせず、口調と表情を冷酷な殺人者のそれへと一変させて男の首を絞め上げた。 「放せっ……ぐぁっ!」 慌てて振り払ったその背を刃が貫く。 さらに近づく複数の死の気配。 姿を消していた襲撃者達だと気付くより早く、彼は蝶の羽に手を伸ばした。 「あの男、死んだか?」 「さあな」 ギルドマスターの言葉にアサシンクロスはそっけなく答える。 確かに蝶の羽が発動する直前、いくつかの攻撃は届いた。だが本拠へ戻れたのなら蘇生も治療も受けられるだろう。死んだとは思いにくい。 ギルドマスターは苦笑した。 「俺は一応ギルマスという事になっている。もう少しうやまえ」 「さっきまではな」 「ふん」 やはりそっけない返答にギルドマスター…いや、ギルドマスターだった男は肩をすくめる。 彼は影武者だった。 『脱皮しろ、サイドワインダー』 このキーワードによって解けるまで、強力な暗示で心の底から本物と思いこんでいた。 だが、本当のギルドマスターは別の場所に居る。 当然だろう。アサシンギルドは計画殺人を生業とする犯罪組織なのだ。国家をはじめとして敵対する組織・個人には事欠かない。 そんなギルドのマスターが、いかにも重要そうな場所の中心に、いかにもお偉いさんですとばかりに鎮座しているわけがないのだ。 騎士団や教会とはわけが違うのである。 ではなぜ、影武者に過ぎない彼を救出に来たか。 これも答えは単純。 アサシンクロス達は彼を救出に来たわけではない。 彼らの任務は”影武者の知識を親衛隊の手に渡さないこと”だった。 本物でないとはいえ長期にわたって影武者を演じてきたため、外部に漏れてはならないことも多数知悉している。 救出できれば最上であるが、難しいと見れば即座に口を封じる予定だった。 影武者もそれを察したからこそ自力で逃げたのだ。 失敗した場合、部下の自爆に巻き込まれる覚悟の上で。 暗殺者とは本来そういう存在であり、彼は暗殺者の中の暗殺者だった。 彼の掲げていた平和主義や正義感も、影武者としての暗示と共に植え付けられた作り物の性格に過ぎない。 アサシンを冒険者として世間に送り出すに当たり、アサシンギルドがただの暗殺組織ではまずかったのだ。 そこで対外的アピールのため、影武者は『独善的ではあるが正義の人』として設定された。 …もっとも、結果的には冒険者となったアサシン個々の言動の方が何百倍もの意味を持っていた。 本来アサシンとは相容れるはずのない教会の人間――プリーストの手助けを受けられるのも、彼らの築いたコネあってのことだ。 とは言え、彼こそが冒険者アサシンの任命や育成を行っていることを考えれば、間接的に効果はあったといえるだろうか。 「俺の次の任務は聞いているか」 治療を終え、さらにすべての死体を蘇生不可能なまでに破壊してから影武者が訊ねた。 アサシンクロスは答える。 「地に潜み、BR参加の目的を果たせ。以上だ」 「了解した」 BRに参加者を出した目的。 すなわちアサシンの強さ、恐ろしさを王国に思い出させること。 BRでは失敗したとは言え、こうしてそれを補って余りあるほどの死を振りまいた。 この事実が、そしてこれから続く王国との暗闘が噂になれば目的は達せられるだろう。 直属の親衛隊ではなくとも、その配下を殲滅したのだ。躍起になって捕らえにくるに違いない。 そして彼としても、このままにして置くつもりはない。 「では、な」 「ああ」 影武者はアサシンクロスへ軽く片手を上げてみせ、そのまま背を向ける。 お互いそれ以上の言葉はなかった。 この日よりアサシンギルドマスターと呼ばれていた男は消息を絶ち、王国の闇で暗躍し始めた。 ---- [[戻る>第二回番外編]]

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