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187.The Cold Equations ----  目の前には死に体を晒した一組の男女がいる。  一人は、以前出会いながらも道を違えた♂騎士。全身に無数の傷を負って血の海にその身を横たえている。ちょっと見ない間に痩せこけた頬も、細かく震える紫色の唇も彼が逃れられない死神の手につかまっていることを明白に示している。それはいくら止血をしても換わらない事実なのだろう。  もう一人は、この島に来てからずっと一緒に行動してきた♀ウィザード。♂プリーストの手によって止血されたとはいえ手足に走る裂傷が痛々しい。が、それ以上に痛々しいのは全身をくまなく覆う無数の凍傷だ。間違いなく 冷却系の大魔法ストームガストによるものだ。こちらもどうして生きていたのか不思議なくらいの惨状を呈している。  そこまで考えて、♂シーフは思考の方向を変えた。逆に生きていたほうがつらい現実というものがある。縁の深い人間は死ぬとわかっていても治療に手を尽くさなくてはならない。そして死に水を取るまで、あるいは埋葬をするまでその場に残らざる得ない。最高の足止めだ。  惨状を目にするなりへたり込んでしまった♀商人はもとより、手当ての終わった♂騎士のそばから離れようとしない♂アルケミストも、♀ウィザードの手当てに翻弄される♂プリーストも何らかの決着がつくまでは決して動けないだろう。ただ一人、この男を除いては。 「♀ウィザードさん、なにか、伝えておかなくてはならないことはありますか?」  麻痺してしまった感情の中で♂セージの声が無情に響く。この人は、この状況でも感情を動かしていない。片膝をつき、口付けを交わせるような距離まで顔を近づけても眉ひとつ動かさない。死に逝く女からただ情報だけを引き出そうとしている。  逆にその感情を一切はさまない態度を信頼したのか♀ウィザードは無理やりに笑みを作ると、彼女の戦いの顛末を言葉少なに語った。 「…♂騎士さんの相手…♂クルセイダーは、何とか、撃退…しました」 「ええ、知っています。あなたの相手は、ウィザードですね?誤解されたのですか?」  ♂シーフたちが♂プリーストに追いつき帰りが遅い♀ウィザードを探し始めたとき、彼女を最初に見つけたのは♂セージだった。だから、戦闘のあった場所の様子からある程度何が起こったか気づいていたのだろう。  荒い息の下で♀ウィザードは軽くかぶりを振る。 「……いいえ…あの人は、…決して諦めない…そして、決して…相容れることも…できません…」  ♀ウィザードは何を思い出そうとしているのかいったん目を閉じる。その様子に肝を冷やした♂プリーストが治癒の呪文を唱えるが、声には覇気がない。♂シーフと、♂セージと、そこに横たわっている♂騎士と、♀ウィザードと。今日一日ですでに四人。能力が制限されるこの島で、四人もの人間の治療は殴りプリである彼にはかなり荷が重いはずだ。その証拠に額には脂汗が浮き出ているし、顔色だって青いを通り越して土気色になっているではないか。  自身のことを省みずにヒールを続ける♂プリーストを慈しむような目で♀ウィザードは見つめて、胸元からロザリオを取り出すとその無骨な手に握らせる。それで、♂プリーストはもうヒールを使えなくなった。♀ウィザードがもう助からないことを実感しまったのだ。  ♀ウィザードは深く息を吸ってはっきりとした言葉を口にする。まるで最期の言葉のように。 「♂ウィザードは彼の目的のために殺人を犯し続けます。  けれど、その道は修羅の道です。何とか、とめてあげてください…」  ほぅ、と息をつくと彼女は消え入りそうな声で言う。 「…少し、…眠たいの…。寝かせて…もらっても……いい、かしら?」 「ええ、どうぞ。眠り姫の不寝番は私たちでしますから、どうぞいい夢をみてください」  こんなときにも軽口を叩く♂セージに感謝しながら彼女はゆっくりとまぶたを閉じる。まぶたを閉じながら最後まで彼女が見つめていたのは、顔や態度は似ても似つかないくせに一本気なところは夫とそっくりな♂プリーストの姿だった。 「♂セージ、♂アルケミスト!何とかならねぇのか!」  ヒールの乱打に疲れ果てた♂プリーストが怒鳴る。まだ生きている、だのに手の施しようがない目の前の現実に牙をむくように怒鳴る。 「凍傷や火傷、失われた血液、それに自身の力で治してしまった傷跡がヒールではどうにもならないのは、  貴方が一番よく知っているでしょう?そういったものを治すのはアルケミストの領分です」  今にも暴れだしそうな勢いの♂プリーストをなだめつつ、♂セージは♂アルケミストへと話を振った。 「できるものならやっている!俺だってもう目の前で人にしなれるのはいやだ!  この人だってあんたらにとっては大切な人なんだろう?助けられるもんならとうの昔に助けてるさッ!  俺には何もないんだ…、白ポーションも白ハーブすらない…。  ポーションがなくちゃ俺には何もできないんだ…。こんな傷、イグドラシルの実があれば一発だってのに…」  はたと、顔を見合わせる一同。それは盲点だ。  神の奇跡で癒されない傷でも世界の中心たる世界樹、その実という最上級の神秘ならば簡単に癒せるだろう。 「♂プリーストさん、貴方、箱の中身は」 「ゼロピと頭の上のもんだ。そういうてめぇはその短剣となんだ?」 「非常に無粋なものですよ」  そう苦笑交じりにいって♂セージは自身の荷物から麻袋を取り出すと♀商人の前に放り出した。おずおずといった動作でその中身を確かめた♀商人はその本能から一瞬顔を輝かせ、すぐに泣き出しそうな表情になる。 「これ、このゼニー一体いくらあるの?」 「途中で数えるのやめました。100万ではきかないでしょう」 「……この殺人島で大量の金たぁ、GMもやることがえげつねぇな」 「…ああ、使えもしない大量の金を抱えて死ねってことだろ…  どうやったらそんな悪趣味なこと、考え付くんだ?」  首都を主な戦場にしていた♂アルケミストも♂プリーストの言葉に同意する。けれど、♀商人はこの金の使い道について心当たりがあった。だから、言う。 「このお金、わたしが預かってもいい?ほら、動きの邪魔だし、わたしにはカートもあるし…」 「どうぞ、貴女が一番有…」 「ああ、そんなこたぁどうでもいい!♂アルケミスト、お前はどうなんだ?」  ♂セージの答えも待たずに♂プリーストは荷物検めの矛先を♂アルケミストに向けた。 「馬鹿かあんた!俺がそんなもの持っていたら真っ先に使ってるだろ!」 「あ。すまねぇ……」  喧騒の中、♂シーフは呆然としていた。  これは、なんて悪夢だろう。  彼は思い出す。自身が両親と死に別れた日のことを。その日は天気のいい日だったと思う。母と二人で父の帰りを待っていた彼は突然、母にベッドの下へと押し込まれた。家への闖入者は一人、その男は母を切り刻むと運悪く帰ってきた父も切り刻んだ。そして、家の中を探し回り彼を見つけると下衆な笑いを浮かべてこう言った。 『坊主、親父は好きか?おかんは好きか?だったらこの実を使って傷を癒してやりな』  小さかった手に渡されたのはずっしりと重いイグドラシルの実。 『ただし、助けられるのはどっちか一人だけだ、よぉっく考えな!』  そういってその男は、殺人鬼は去っていった。  後に残されたのは♂シーフと瀕死の両親。そのどちらかの命をつなぎとめることのできる万能の傷薬。  彼は、  考えて…。  考えて考えて…。  考えて考えて考えて…。  そして、どちらともを殺してしまった。  両親は彼がどちらを助けるべきか考えている間に息を引き取ってしまったのだ。  歳以上に聡い彼だからこそ陥った罠ともいえる。彼の精神年齢がもっと低かったのならば、感情に任せてどちらかにイグドラシルの実を使っていただろうからだ。 「おい!おい♂シーフ!しっかりしろ!お前の青箱の中身はなんだったんだ!?」  ♂プリーストの切羽詰った声とがくがくとゆすぶられる感覚が彼を現実へと引き戻した。  ああ、悪夢じゃないのかと思い、そして、震える唇を動かして何とか現状を動かす言葉を口にする。 「…あります、あるんです、イグドラシルの実」  実は♂シーフはこのゲームが始まってすぐ青箱の中身を確認していた。それが武器や防具でないことを確認して、♂プリーストに発見されるまでずっと隠れていたのだ。 「すげぇぞ、おい!  だったらなんでもっと早くいわねぇんだよ!♀ウィザードも♂騎士も助けられるじゃねぇか!」  満面の笑みで肩をバンバン叩く♂プリーストと視線をあわせるにあわせられず♂シーフはぽつりと言う。周囲のみなもきっと安堵の吐息を漏らしていることだろう。だけど、言わないわけにはいかない。 「…………ないんです…」 「なんだって?」  かすれるような声がよく聞き取れなかった♂プリーストがもう一度♂シーフの言ったことを聞こうとする。全員の視線が集まる中、♂シーフは血を吐くような声で叫んだ。 「一つしかないんですッ!!」  目の前には死に体を晒した一組の男女がいる。  一人は♂騎士。  もう一人は♀ウィザード。  僕にはどちらかしか助けることは出来ない…。 <♀WIZ> 現在位置:D-5(集落) 所持品:ロザリオ(カードは刺さっていない)、クローキングマフラー 案内要員の鞄(DCカタール入)     島の秘密を書いた聖書、口紅 外見特徴:WIZデフォの銀色 備考:LV99のAGIWIZ、GMに復讐、♂プリ、♂シーフと同行 ♂クルセイダーを殺そうと、彼を追う 状態:重度の凍傷により瀕死 <♂プリースト> 現在位置:D-5(集落) 所持品:修道女のヴェール(マヤパープルc挿し)、でっかいゼロピ、多めの食料、赤ポーション5個 外見特徴:逆毛(修道女のヴェール装備のため見えない)、怖い顔 備考:殴りプリ ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行 状態:極度の疲労 <♂シーフ> 現在位置:D-5(集落) 所持品:青箱(開封済み)、イグドラシルの実、多めの食料 外見特徴:栗毛 備考:ハイディング所持 ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行    盗作ローグ志望でちょっと頭が良い <♂セージ> 現在位置:D-5(集落) 所持:ソードブレイカー 容姿:マジデフォ黒髪 備考:FCAS―サマルトリア型 ちょっと風変わり? ファイアウォール習得 GMジョーカーの弟疑惑    ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行 <♀商人> 現在位置:D-5(集落) 所持:青箱2(未開封)店売りサーベル、カート、100万はくだらないゼニー 容姿:金髪ツインテール(カプラWと同じ) 備考:割と戦闘型 メマーナイトあり? ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行    ♂セージに少し特別な感情が……? <♂騎士> 現在位置:D-5(集落) 所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個 備考:♂アルケミを真の意味で認める 時々GMの声が聞こえるが、それに抵抗する 状態:痛覚を完全に失う 傷はふさがっているが失血により瀕死状態 <♂アルケミスト> 現在位置:D-5(集落) 所持品:マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本 状態:やや混乱状態 右肩に浅い傷 必死に♂騎士の傷を塞ごうとしている 備考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る ファザコン気味? 半製造型 メマーナイトなし? ---- | [[戻る>2-186]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-188]] |
187.The Cold Equations ----  目の前には死に体を晒した一組の男女がいる。  一人は、以前出会いながらも道を違えた♂騎士。全身に無数の傷を負って血の海にその身を横たえている。ちょっと見ない間に痩せこけた頬も、細かく震える紫色の唇も彼が逃れられない死神の手につかまっていることを明白に示している。それはいくら止血をしても換わらない事実なのだろう。  もう一人は、この島に来てからずっと一緒に行動してきた♀ウィザード。♂プリーストの手によって止血されたとはいえ手足に走る裂傷が痛々しい。が、それ以上に痛々しいのは全身をくまなく覆う無数の凍傷だ。間違いなく冷却系の大魔法ストームガストによるものだ。こちらもどうして生きていたのか不思議なくらいの惨状を呈している。  そこまで考えて、♂シーフは思考の方向を変えた。逆に生きていたほうがつらい現実というものがある。縁の深い人間は死ぬとわかっていても治療に手を尽くさなくてはならない。そして死に水を取るまで、あるいは埋葬をするまでその場に残らざる得ない。最高の足止めだ。  惨状を目にするなりへたり込んでしまった♀商人はもとより、手当ての終わった♂騎士のそばから離れようとしない♂アルケミストも、♀ウィザードの手当てに翻弄される♂プリーストも何らかの決着がつくまでは決して動けないだろう。ただ一人、この男を除いては。 「♀ウィザードさん、なにか、伝えておかなくてはならないことはありますか?」  麻痺してしまった感情の中で♂セージの声が無情に響く。この人は、この状況でも感情を動かしていない。片膝をつき、口付けを交わせるような距離まで顔を近づけても眉ひとつ動かさない。死に逝く女からただ情報だけを引き出そうとしている。  逆にその感情を一切はさまない態度を信頼したのか♀ウィザードは無理やりに笑みを作ると、彼女の戦いの顛末を言葉少なに語った。 「…♂騎士さんの相手…♂クルセイダーは、何とか、撃退…しました」 「ええ、知っています。あなたの相手は、ウィザードですね?誤解されたのですか?」  ♂シーフたちが♂プリーストに追いつき帰りが遅い♀ウィザードを探し始めたとき、彼女を最初に見つけたのは♂セージだった。だから、戦闘のあった場所の様子からある程度何が起こったか気づいていたのだろう。  荒い息の下で♀ウィザードは軽くかぶりを振る。 「……いいえ…あの人は、…決して諦めない…そして、決して…相容れることも…できません…」  ♀ウィザードは何を思い出そうとしているのかいったん目を閉じる。その様子に肝を冷やした♂プリーストが治癒の呪文を唱えるが、声には覇気がない。♂シーフと、♂セージと、そこに横たわっている♂騎士と、♀ウィザードと。今日一日ですでに四人。能力が制限されるこの島で、四人もの人間の治療は殴りプリである彼にはかなり荷が重いはずだ。その証拠に額には脂汗が浮き出ているし、顔色だって青いを通り越して土気色になっているではないか。  自身のことを省みずにヒールを続ける♂プリーストを慈しむような目で♀ウィザードは見つめて、胸元からロザリオを取り出すとその無骨な手に握らせる。それで、♂プリーストはもうヒールを使えなくなった。♀ウィザードがもう助からないことを実感しまったのだ。  ♀ウィザードは深く息を吸ってはっきりとした言葉を口にする。まるで最期の言葉のように。 「♂ウィザードは彼の目的のために殺人を犯し続けます。  けれど、その道は修羅の道です。何とか、とめてあげてください…」  ほぅ、と息をつくと彼女は消え入りそうな声で言う。 「…少し、…眠たいの…。寝かせて…もらっても……いい、かしら?」 「ええ、どうぞ。眠り姫の不寝番は私たちでしますから、どうぞいい夢をみてください」  こんなときにも軽口を叩く♂セージに感謝しながら彼女はゆっくりとまぶたを閉じる。まぶたを閉じながら最後まで彼女が見つめていたのは、顔や態度は似ても似つかないくせに一本気なところは夫とそっくりな♂プリーストの姿だった。 「♂セージ、♂アルケミスト!何とかならねぇのか!」  ヒールの乱打に疲れ果てた♂プリーストが怒鳴る。まだ生きている、だのに手の施しようがない目の前の現実に牙をむくように怒鳴る。 「凍傷や火傷、失われた血液、それに自身の力で治してしまった傷跡がヒールではどうにもならないのは、貴方が一番よく知っているでしょう?そういったものを治すのはアルケミストの領分です」  今にも暴れだしそうな勢いの♂プリーストをなだめつつ、♂セージは♂アルケミストへと話を振った。 「できるものならやっている!俺だってもう目の前で人にしなれるのはいやだ!この人だってあんたらにとっては大切な人なんだろう?助けられるもんならとうの昔に助けてるさッ!俺には何もないんだ…、白ポーションも白ハーブすらない…。ポーションがなくちゃ俺には何もできないんだ…。こんな傷、イグドラシルの実があれば一発だってのに…」  はたと、顔を見合わせる一同。それは盲点だ。  神の奇跡で癒されない傷でも世界の中心たる世界樹、その実という最上級の神秘ならば簡単に癒せるだろう。 「♂プリーストさん、貴方、箱の中身は」 「ゼロピと頭の上のもんだ。そういうてめぇはその短剣となんだ?」 「非常に無粋なものですよ」  そう苦笑交じりにいって♂セージは自身の荷物から麻袋を取り出すと♀商人の前に放り出した。おずおずといった動作でその中身を確かめた♀商人はその本能から一瞬顔を輝かせ、すぐに泣き出しそうな表情になる。 「これ、このゼニー一体いくらあるの?」 「途中で数えるのやめました。100万ではきかないでしょう」 「……この殺人島で大量の金たぁ、GMもやることがえげつねぇな」 「…ああ、使えもしない大量の金を抱えて死ねってことだろ…  どうやったらそんな悪趣味なこと、考え付くんだ?」  首都を主な戦場にしていた♂アルケミストも♂プリーストの言葉に同意する。けれど、♀商人はこの金の使い道について心当たりがあった。だから、言う。 「このお金、わたしが預かってもいい?ほら、動きの邪魔だし、わたしにはカートもあるし…」 「どうぞ、貴女が一番有…」 「ああ、そんなこたぁどうでもいい!♂アルケミスト、お前はどうなんだ?」  ♂セージの答えも待たずに♂プリーストは荷物検めの矛先を♂アルケミストに向けた。 「馬鹿かあんた!俺がそんなもの持っていたら真っ先に使ってるだろ!」 「あ。すまねぇ……」  喧騒の中、♂シーフは呆然としていた。  これは、なんて悪夢だろう。  彼は思い出す。自身が両親と死に別れた日のことを。その日は天気のいい日だったと思う。母と二人で父の帰りを待っていた彼は突然、母にベッドの下へと押し込まれた。家への闖入者は一人、その男は母を切り刻むと運悪く帰ってきた父も切り刻んだ。そして、家の中を探し回り彼を見つけると下衆な笑いを浮かべてこう言った。 『坊主、親父は好きか?おかんは好きか?だったらこの実を使って傷を癒してやりな』  小さかった手に渡されたのはずっしりと重いイグドラシルの実。 『ただし、助けられるのはどっちか一人だけだ、よぉっく考えな!』  そういってその男は、殺人鬼は去っていった。  後に残されたのは♂シーフと瀕死の両親。そのどちらかの命をつなぎとめることのできる万能の傷薬。  彼は、  考えて…。  考えて考えて…。  考えて考えて考えて…。  そして、どちらともを殺してしまった。  両親は彼がどちらを助けるべきか考えている間に息を引き取ってしまったのだ。  歳以上に聡い彼だからこそ陥った罠ともいえる。彼の精神年齢がもっと低かったのならば、感情に任せてどちらかにイグドラシルの実を使っていただろうからだ。 「おい!おい♂シーフ!しっかりしろ!お前の青箱の中身はなんだったんだ!?」  ♂プリーストの切羽詰った声とがくがくとゆすぶられる感覚が彼を現実へと引き戻した。  ああ、悪夢じゃないのかと思い、そして、震える唇を動かして何とか現状を動かす言葉を口にする。 「…あります、あるんです、イグドラシルの実」  実は♂シーフはこのゲームが始まってすぐ青箱の中身を確認していた。それが武器や防具でないことを確認して、♂プリーストに発見されるまでずっと隠れていたのだ。 「すげぇぞ、おい!  だったらなんでもっと早くいわねぇんだよ!♀ウィザードも♂騎士も助けられるじゃねぇか!」  満面の笑みで肩をバンバン叩く♂プリーストと視線をあわせるにあわせられず♂シーフはぽつりと言う。周囲のみなもきっと安堵の吐息を漏らしていることだろう。だけど、言わないわけにはいかない。 「…………ないんです…」 「なんだって?」  かすれるような声がよく聞き取れなかった♂プリーストがもう一度♂シーフの言ったことを聞こうとする。全員の視線が集まる中、♂シーフは血を吐くような声で叫んだ。 「一つしかないんですッ!!」  目の前には死に体を晒した一組の男女がいる。  一人は♂騎士。  もう一人は♀ウィザード。  僕にはどちらかしか助けることは出来ない…。 <♀WIZ> 現在位置:D-5(集落) 所持品:ロザリオ(カードは刺さっていない)、クローキングマフラー 案内要員の鞄(DCカタール入)     島の秘密を書いた聖書、口紅 外見特徴:WIZデフォの銀色 備考:LV99のAGIWIZ、GMに復讐、♂プリ、♂シーフと同行 ♂クルセイダーを殺そうと、彼を追う 状態:重度の凍傷により瀕死 <♂プリースト> 現在位置:D-5(集落) 所持品:修道女のヴェール(マヤパープルc挿し)、でっかいゼロピ、多めの食料、赤ポーション5個 外見特徴:逆毛(修道女のヴェール装備のため見えない)、怖い顔 備考:殴りプリ ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行 状態:極度の疲労 <♂シーフ> 現在位置:D-5(集落) 所持品:青箱(開封済み)、イグドラシルの実、多めの食料 外見特徴:栗毛 備考:ハイディング所持 ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行    盗作ローグ志望でちょっと頭が良い <♂セージ> 現在位置:D-5(集落) 所持:ソードブレイカー 容姿:マジデフォ黒髪 備考:FCAS―サマルトリア型 ちょっと風変わり? ファイアウォール習得 GMジョーカーの弟疑惑    ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行 <♀商人> 現在位置:D-5(集落) 所持:青箱2(未開封)店売りサーベル、カート、100万はくだらないゼニー 容姿:金髪ツインテール(カプラWと同じ) 備考:割と戦闘型 メマーナイトあり? ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行    ♂セージに少し特別な感情が……? <♂騎士> 現在位置:D-5(集落) 所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個 備考:♂アルケミを真の意味で認める 時々GMの声が聞こえるが、それに抵抗する 状態:痛覚を完全に失う 傷はふさがっているが失血により瀕死状態 <♂アルケミスト> 現在位置:D-5(集落) 所持品:マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本 状態:やや混乱状態 右肩に浅い傷 必死に♂騎士の傷を塞ごうとしている 備考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る ファザコン気味? 半製造型 メマーナイトなし? ---- | [[戻る>2-186]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-188]] |

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