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188.製薬と誓約と ---- 「それなら、半分ずつ使えばいいじゃない」 ♀商人は、ぼそりと呟いた。 「一個全部使えば、全快する。でも、半分なら半分は回復するんじゃ……?」 「それは、盲点ですね……。普通は一個全部使うことを考えますから」 ♂セージが♀商人の言葉にため息をついた。 「でも、どうやって? 」 ♂シーフは実を持ったまま涙目で♀商人を見る。 「実は一つしかない。分けたら、効果がないかもしれないじゃないか」 「あ、そっか……」 イグドラシルの実は全部口にすることで、効果がある。 半分しか口にしないとどんな効果があるかわからない。 ♀商人は♂シーフの台詞に少し首をかしげて、自分の荷物をあけはじめた。 自分は、青箱二つを開封していない。 少しは、役に立つ物が入っていてくれればいいけれど。 中身は…… 「乳鉢……と……マステラ……」 どこに入っていたのかというほどの乳鉢が箱の中から現れその場に溢れ、もう一つの箱からはマステラの実が数個。 どちらも、今は必要ないものだ。 「最悪……」 がっくりと肩を落としてふさぎこむ彼女の前から、♂ケミは乳鉢とマステラを拾い上げた。 「乳鉢があるなら……イグ実とマステラをすりつぶして半分にできるかもしれない。やるだけやってみるしかない」 イグドラシルの実を♂シーフから預かると、乳鉢で丹念にすり潰した。 マステラもそれに加えて、中にある種もしっかりとすり潰して、一つの液体を作る。 そして、それをポーション瓶に詰めて♂シーフに渡した。 「……なんで、僕に……」 「マステラと乳鉢は♀商人さんからだけど、ベースとなるイグドラシルの実はあんたの持ち物から出てきた。つまり選択権はあんたにある」 使用する判断は、元々の持ち主の彼に委ねたのである。 そして♂シーフはそのポーションを持ったまま苦悩した。 半分使えば理論上は確かに半分回復し、危機は脱出することはできるかもしれない。 しかし、実際に半分しか使用しなかったら、効果はないのではないのだろうか。 自分の選択に二人の命がかかっている。 父と母の時と同じように。 悩みすぎてはいけない。 それで、自分は大切な人を亡くしたのだから。 あの事件はその後、自分がローグを目指すきっかけになった。 犯人がローグの若い男だったから、同じローグになれば何か手がかりが見つかるかもしれないと思った。 でも、ローグになる前に自分はここに放り込まれた。 きっと向いてなかったんだろう。 性格判断からだと、マジシャンの方が向いてるって言われていたから。 そんなことよりも。 今、しなければいけないこと。 この二人のどちらにこれを使うか。 「おい、♂シーフお前が使わないなら、俺が使うぞ」 ♂プリが、ポーション瓶に手をかける。 「……わかりました。じゃあ、二人に半分ずつ使って下さい。それでどちらも助けられなかったらその時はその時です。僕にどちらかを選ぶなんてできませんから」 そうだ。 どちらを選んでも、きっと後悔する。 それなら、少しの望みにかけよう。 それで後悔しよう。 +++++ その場所は、大きな川が流れていた。 川原に♀WIZは佇んでいる。 全身を苛んでいた傷はなく、痛みも疲れもない。 「……何で、ここに私は……」 ふと、気がつく。 ここは死者が最後に渡るという、生者と死者との別れを意味する場所ではないか。 「……」 やはり死んでしまったのかと、苦笑すると川原を歩き出す。 きっとどこかに、川を渡る場所があるのだろう。 「……あれは……」 ♂騎士が、川の中を歩いていくのを見つけた。 ♀WIZは慌てた。 彼が死んでしまったら、あのアルケミストが…… 「ダメです、行ってはいけません」 ♂騎士に追いすがり、手を引いて引き止める。 「離してくれ。あそこに♀プリが……っ」 ♂騎士が指差す方向を見ると♀プリが、対岸に立っている。 「俺は、あいつに謝らなきゃいけないんだ。あんな顔のままにしておけないんだ!」 そう、♀プリのその表情は暗く、悲しむような瞳でこちらを見ていた。 「あれは……あなたは死ぬべきじゃないと言ってるんですよ」 ♀WIZは、♂騎士の手を引き岸に戻る。 「あなたは、守る人がいるでしょう。だから、お帰りなさい。その人があなたを待っていますから」 「しかし!」 頑として聞かない♂騎士に♀WIZは言葉を荒げた。 「……騎士なら、しっかりしなさいよ! 騎士は人を守る者。死んだ人はもう守れないわ。生きてる人を守ることを考えなさい。あなたはこの川はまだ渡ってはいけないのよ」 はっとした表情を騎士は浮かべると薄くなって消えていく。 ホッとして、♀WIZは川を歩き始めた。 彼は、たぶん意識が戻ったのだろう。 これで思い残すことは…… 「……お前も帰れ」 川の向こう側で、見知った声がした。 「♂アサ?! どうして」 古い友人の♂アサが対岸から、苦虫を噛み潰したような表情で帰れ帰れと手を振る。 「そんなことはどうでもいい。お前のことを待ってるやつもいるだろう。だから帰れ」 「ちょ……」 +++++ 目の前には傷が半分癒え、寝息が穏やかになった二人の身体。 ♂プリーストはそれを見てホッとした直後に、♀WIZの隣で豪快に眠ってしまった。 よかった。 選択は間違っていなかった。 これでいいんだ。 あのときの自分も同じようにしていたら……きっと、こんなに後悔しなかっただろう。 一つのことにこだわらずに、柔軟な発想が大事なんだ。 「なんだか、吹っ切れてますね?」 ♂セージの台詞に♂シーフはただ、笑って何も言わなかった。 <♀WIZ> 現在位置:D-5(集落) 所持品:ロザリオ(カードは刺さっていない)、クローキングマフラー 案内要員の鞄(DCカタール入)     島の秘密を書いた聖書、口紅 外見特徴:WIZデフォの銀色 備考:LV99のAGIWIZ、GMに復讐、♂プリ、♂シーフと同行 ♂クルセイダーを殺そうと、彼を追う 状態:身体のあちこちにまだ傷は残る。瀕死からは脱出 <♂プリースト> 現在位置:D-5(集落) 所持品:修道女のヴェール(マヤパープルc挿し)、でっかいゼロピ、多めの食料、赤ポーション5個 外見特徴:逆毛(修道女のヴェール装備のため見えない)、怖い顔 備考:殴りプリ ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行 状態:極度の疲労 <♂シーフ> 現在位置:D-5(集落) 所持品:多めの食料 外見特徴:栗毛 備考:ハイディング所持 ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行    盗作ローグ志望でちょっと頭が良い <♂セージ> 現在位置:D-5(集落) 所持:ソードブレイカー 容姿:マジデフォ黒髪 備考:FCAS―サマルトリア型 ちょっと風変わり? ファイアウォール習得 GMジョーカーの弟疑惑    ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行 <♀商人> 現在位置:D-5(集落) 所持:乳鉢いっぱい、店売りサーベル、カート、100万はくだらないゼニー 容姿:金髪ツインテール(カプラWと同じ) 備考:割と戦闘型 メマーナイトあり? ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行    ♂セージに少し特別な感情が……? <♂騎士> 現在位置:D-5(集落) 所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個 備考:♂アルケミを真の意味で認める 時々GMの声が聞こえるが、それに抵抗する 状態:痛覚を完全に失う <♂アルケミスト> 現在位置:D-5(集落) 所持品:マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本 状態:やや混乱状態 右肩に浅い傷 必死に♂騎士の傷を塞ごうとしている 備考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る ファザコン気味? 半製造型 メマーナイトなし? ---- | [[戻る>2-187]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-189]] |
188.製薬と誓約と ---- 「それなら、半分ずつ使えばいいじゃない」 ♀商人は、ぼそりと呟いた。 「一個全部使えば、全快する。でも、半分なら半分は回復するんじゃ……?」 「それは、盲点ですね……。普通は一個全部使うことを考えますから」 ♂セージが♀商人の言葉にため息をついた。 「でも、どうやって? 」 ♂シーフは実を持ったまま涙目で♀商人を見る。 「実は一つしかない。分けたら、効果がないかもしれないじゃないか」 「あ、そっか……」 イグドラシルの実は全部口にすることで、効果がある。 半分しか口にしないとどんな効果があるかわからない。 ♀商人は♂シーフの台詞に少し首をかしげて、自分の荷物をあけはじめた。 自分は、青箱二つを開封していない。 少しは、役に立つ物が入っていてくれればいいけれど。 中身は…… 「乳鉢……と……マステラ……」 どこに入っていたのかというほどの乳鉢が箱の中から現れその場に溢れ、もう一つの箱からはマステラの実が数個。 どちらも、今は必要ないものだ。 「最悪……」 がっくりと肩を落としてふさぎこむ彼女の前から、♂ケミは乳鉢とマステラを拾い上げた。 「乳鉢があるなら……イグ実とマステラをすりつぶして半分にできるかもしれない。やるだけやってみるしかない」 イグドラシルの実を♂シーフから預かると、乳鉢で丹念にすり潰した。 マステラもそれに加えて、中にある種もしっかりとすり潰して、一つの液体を作る。 そして、それをポーション瓶に詰めて♂シーフに渡した。 「……なんで、僕に……」 「マステラと乳鉢は♀商人さんからだけど、ベースとなるイグドラシルの実はあんたの持ち物から出てきた。つまり選択権はあんたにある」 使用する判断は、元々の持ち主の彼に委ねたのである。 そして♂シーフはそのポーションを持ったまま苦悩した。 半分使えば理論上は確かに半分回復し、危機は脱出することはできるかもしれない。 しかし、実際に半分しか使用しなかったら、効果はないのではないのだろうか。 自分の選択に二人の命がかかっている。 父と母の時と同じように。 悩みすぎてはいけない。 それで、自分は大切な人を亡くしたのだから。 あの事件はその後、自分がローグを目指すきっかけになった。 犯人がローグの若い男だったから、同じローグになれば何か手がかりが見つかるかもしれないと思った。 でも、ローグになる前に自分はここに放り込まれた。 きっと向いてなかったんだろう。 性格判断からだと、マジシャンの方が向いてるって言われていたから。 そんなことよりも。 今、しなければいけないこと。 この二人のどちらにこれを使うか。 「おい、♂シーフお前が使わないなら、俺が使うぞ」 ♂プリが、ポーション瓶に手をかける。 「……わかりました。じゃあ、二人に半分ずつ使って下さい。それでどちらも助けられなかったらその時はその時です。僕にどちらかを選ぶなんてできませんから」 そうだ。 どちらを選んでも、きっと後悔する。 それなら、少しの望みにかけよう。 それで後悔しよう。 +++++ その場所は、大きな川が流れていた。 川原に♀WIZは佇んでいる。 全身を苛んでいた傷はなく、痛みも疲れもない。 「……何で、ここに私は……」 ふと、気がつく。 ここは死者が最後に渡るという、生者と死者との別れを意味する場所ではないか。 「……」 やはり死んでしまったのかと、苦笑すると川原を歩き出す。 きっとどこかに、川を渡る場所があるのだろう。 「……あれは……」 ♂騎士が、川の中を歩いていくのを見つけた。 ♀WIZは慌てた。 彼が死んでしまったら、あのアルケミストが…… 「ダメです、行ってはいけません」 ♂騎士に追いすがり、手を引いて引き止める。 「離してくれ。あそこに♀プリが……っ」 ♂騎士が指差す方向を見ると♀プリが、対岸に立っている。 「俺は、あいつに謝らなきゃいけないんだ。あんな顔のままにしておけないんだ!」 そう、♀プリのその表情は暗く、悲しむような瞳でこちらを見ていた。 「あれは……あなたは死ぬべきじゃないと言ってるんですよ」 ♀WIZは、♂騎士の手を引き岸に戻る。 「あなたは、守る人がいるでしょう。だから、お帰りなさい。その人があなたを待っていますから」 「しかし!」 頑として聞かない♂騎士に♀WIZは言葉を荒げた。 「……騎士なら、しっかりしなさいよ! 騎士は人を守る者。死んだ人はもう守れないわ。生きてる人を守ることを考えなさい。あなたはこの川はまだ渡ってはいけないのよ」 はっとした表情を騎士は浮かべると薄くなって消えていく。 ホッとして、♀WIZは川を歩き始めた。 彼は、たぶん意識が戻ったのだろう。 これで思い残すことは…… 「……お前も帰れ」 川の向こう側で、見知った声がした。 「♂アサ?! どうして」 古い友人の♂アサが対岸から、苦虫を噛み潰したような表情で帰れ帰れと手を振る。 「そんなことはどうでもいい。お前のことを待ってるやつもいるだろう。だから帰れ」 「ちょ……」 +++++ 目の前には傷が半分癒え、寝息が穏やかになった二人の身体。 ♂プリーストはそれを見てホッとした直後に、♀WIZの隣で豪快に眠ってしまった。 よかった。 選択は間違っていなかった。 これでいいんだ。 あのときの自分も同じようにしていたら……きっと、こんなに後悔しなかっただろう。 一つのことにこだわらずに、柔軟な発想が大事なんだ。 「なんだか、吹っ切れてますね?」 ♂セージの台詞に♂シーフはただ、笑って何も言わなかった。 <♀WIZ> 現在位置:D-5(集落) 所持品:ロザリオ(カードは刺さっていない)、クローキングマフラー 案内要員の鞄(DCカタール入)     島の秘密を書いた聖書、口紅 外見特徴:WIZデフォの銀色 備考:LV99のAGIWIZ、GMに復讐、♂プリ、♂シーフと同行 ♂クルセイダーを殺そうと、彼を追う 状態:身体のあちこちにまだ傷は残る。瀕死からは脱出 <♂プリースト> 現在位置:D-5(集落) 所持品:修道女のヴェール(マヤパープルc挿し)、でっかいゼロピ、多めの食料、赤ポーション5個 外見特徴:逆毛(修道女のヴェール装備のため見えない)、怖い顔 備考:殴りプリ ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行 状態:極度の疲労 <♂シーフ> 現在位置:D-5(集落) 所持品:多めの食料 外見特徴:栗毛 備考:ハイディング所持 ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行    盗作ローグ志望でちょっと頭が良い <♂セージ> 現在位置:D-5(集落) 所持:ソードブレイカー 容姿:マジデフォ黒髪 備考:FCAS―サマルトリア型 ちょっと風変わり? ファイアウォール習得 GMジョーカーの弟疑惑    ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行 <♀商人> 現在位置:D-5(集落) 所持:乳鉢いっぱい、店売りサーベル、カート、100万はくだらないゼニー 容姿:金髪ツインテール(カプラWと同じ) 備考:割と戦闘型 メマーナイトあり? ♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・♀商人と同行    ♂セージに少し特別な感情が……? <♂騎士> 現在位置:D-5(集落) 所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個 備考:♂アルケミを真の意味で認める 時々GMの声が聞こえるが、それに抵抗する 状態:痛覚を完全に失う <♂アルケミスト> 現在位置:D-5(集落) 所持品:マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本 状態:やや混乱状態 右肩に浅い傷 必死に♂騎士の傷を塞ごうとしている 備考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る ファザコン気味? 半製造型 メマーナイトなし? ---- | [[戻る>2-187]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-189]] |

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