「2-189」(2006/03/24 (金) 02:22:33) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
189.デバッガー
----
森の頂ともとれるその場所には、一本の巨木がそそり立っていた。
木は樹齢がどれほどなのか検討もつかないほど雄大で、多少の雨風ではびくともしそうになかった。
木根の太さも半端ではなく、それがうねるように地面を這っているさまは、誰が見ても圧巻であり、自然の力というものを肌で感じずにはいられない光景だった。
根っこが作った天然のうろもやはり相当に大きく、人が二人はいってもまだお釣りがくるほどの空間となっており、
雨をやり過ごす二人にとってこれ以上の避難所はないと言って良かった。
♀スパノビと♀ハンターの二人は紆余曲折の末に、最初に雨避けをしたこの場所までもどっていたのだった。
雨宿りのために他の誰かがこの木に近づいて来る危険は考慮しないでもなかったが、むやみやたらと歩いて回れるような天候ではなかった。
♀ハンターの鳥と会話ができるという能力のおかげでこの場所が雨をやり過ごすには一番良いということもわかっていたし、
いざとなれば危険は鳥たちが知らせてくれることだろう。♀スパノビはそう判断したのだった。
降り続く雨の音を聞きながら腰を木の根に乗せ、動かずにじっと座っている二人の間を流れる空気は、いささか重たかった。
雨という天気が人を憂鬱にさせるということも理由の一つだったが、
どうしようもなく気分が重いのは、先ほど二人が♀セージの変わり果てた姿を見てしまったからだった。
もちろん二人はそれが♀セージだったことなど知りはしないのだが、
それでもかつては人だったものが黒い炭のようになっていたことは、♀ハンターにショックを与えるのにじゅうぶんだった。
♀スパノビにとっては初めて見た死体ではなかったこともあり、
さらに彼女は見かけとは裏腹にちょっと普通ではない人生を歩んできていたので、別段落ち込んだりすることはなかったのだが、
となりに座る女の子はとても♀スパノビのように達観していられない様子だった。
ぼんやりと地面をながめる瞳は冬の空のようにかげり、少しの覇気も感じられない。
背中を丸めこむようにして座っている姿からは、隠し切れないのか、不安という感情があふれだしていた。
仕方がないことですけど、とちらりと彼女を見やって♀スパノビは思った。
それにしても前途は多難だった。雨で足止めをされていることなど問題にならないほどに、未来への糸口は見つかっていない。
実際、機転さえ利かせればどのような難関ですら突破してきた経験のある♀スパノビがため息のひとつでもつきたいと思ったのは、これがはじめてのことだった。
どんなゲームだって人が作ったものならバグがつきものだ、とはじめのうちは楽観的に考えていたものの、
さすがに過去に三回も行われているだけあって、デバッグはかなり進行しているようだ。
(知識は悪ではない。使う者によって善悪がわかれるのだ)
(なんて言葉を昔どこかで耳にしたことがありますけど、いやはや、こうなってくると知識そのものが悪であるような気がしてきますね)
ため息を無理矢理に抑えこんで、♀スパノビはもう一度彼女の様子を心配そうにうかがった。
♀ハンターは小声でなにかを言っているようであった。
彼女の小さめの口から鳥のさえずりに似たきれいな音がこぼれ、♀スパノビの耳を撫でた。
はじめて聞いたその音は、春風のようにやわらかで、晴れ渡った日の草原に寝そべっているような安らぎを与えてくれる音だった。
「その歌はなんです? なんだか心がとってもあたたかくなりましたよ」
にこりと笑いかけた♀スパノビを見て、♀ハンターは嬉しかったのかほんのり頬を赤く染めた。
「昔ね、あたしが泣いてると、おかあさんいつもこうやってあたしを安心させてくれたの。
落ち込みそうになったら思い出して真似してみるんだけど、むずかしくて」
ぼそぼそと恥ずかしそうに小声で話す♀ハンターを見て、♀スパノビは彼女のことがとてもかわいらしく思えた。
そして、これほど純粋で無垢な彼女をこのゲームに送りこんだハンターギルドのことが憎らしく思えた。
気がつくと♀スパノビは彼女がここに送りこまれた理由を尋ねていた。
「♀ハンターさんはいったいどうしてここに連れてこられたんですか?」
「えっと・・・・・・白い服を着た人たちに無理矢理・・・・・・」
「それだと理由がさっぱりわからないですね。うーん、まぁ、私も似たようなものでしたけど、ひどい話ですよね」
不満そうな顔をわざと作ってみせてから♀スパノビはまたにっこりと笑った。
♀ハンターの歌声に力をもらったその笑顔は、初夏の日ざしのようにまぶしい笑顔だった。
「そうです、うじうじしてる場合じゃありませんでした。私たちはなんとしてもここから脱出しなければいけません」
両手で握りこぶしを作って自分自身と♀ハンターを励ますような動きを見せてから、♀スパノビは立ち上がった。
雨が止んでいたことに気がついたからだったが、それ以上にあらためてがんばろうと強く思ったからだった。
「島中の鳥さんにお願いして聞いてくれませんか? 白い服を着た人たちを見たことがあるかどうか。そして見たことがあるならどこで見たのか。
もしかしたら、なにかがわかるかもしれませんよ」
その言葉に、♀ハンターはうなずき、鳥のようにさえずりはじめた。
「人間が見つけられるバグはないかもしれません。
だけど鳥さんなら人では見つけられなかったバグを見つけられるはずです。私はそう思います」
自信に満ちた顔つきで、♀スパノビは木々の隙間からのぞく夕焼けの空を見上げていた。
<♀ハンター 現在位置・・・F-7>
<所持品:スパナ 古い紫色の箱 設置用トーキーボックス フォーチュンソード>
<スキル:ファルコンマスタリー ブリッツビート スチールクロウ>
<備考:対人恐怖症 鳥と会話が出来る ステ=純鷹師 弓の扱いは??? 島にいる鳥達が味方>
<状態:びしょ濡れ。♀スパノビを信頼>
<♀スパノビ 現在位置・・・F-7>
<外見:csf:4j0610m2>
<所持品:S2ダマスカス シルクリボン(無理矢理装着) 古いカード帖(本人気付いていない) オリデオコンの矢筒>
<スキル:集中力向上>
<備考:外見とは裏腹に場数を踏んでいる(短剣型)>
<状態:びしょ濡れ。♀ハンターの生い立ち、鳥との会話能力を知る>
----
| [[戻る>2-188]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-190]] |
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: