「205」(2005/11/01 (火) 14:39:30) の最新版変更点
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205. 殺し屋達の挽歌 ~♀ローグ
あーあ、ここでお終いかい。
馬鹿みたいに青い空を見上げながら、呟いたつもりだった。
けれども、もう、彼女の喉は潰れてしまっていて。
ひゅう、と掠れた様な音が、その代わりだった。
自分の有様がどうなってるかなんて、考えたくも無かった。
脳味噌が頭からはみ出たり、ぶちまけられた腸の中に沈んでたりするんだろう。
大体、少し離れた場所には網タイツを穿いた見慣れた足が、内臓だかなんだか良く判らない肉をぶちまけて転がってる。
もちろん、アタシのだ。
ったく。末期の瞬間でも、意識だけははっきりと澄んでるなんてね。
神様ってクソは、このアタシに最後の最後に懺悔でもしろっていうのかねぇ。
何処までいったって悪党は悪党だっての。
懺悔でもしろっていうなら、せめて最上級の煙草ぐらい用意して欲しいよ。
あのクソアサシンにスラれてから、一回も一服してないんだから。
そういえば、そいつも、ぶっ殺す前に誰かに殺されたんだっけか。
傍らには、壊れたマンドリン。
その持ち主は、もう彼が護りたかった少女の元に行ってしまった。
まぁいいか、と思う。逝くとしたら、一人で逝くにちがいなかった自分の事。
壊れた楽器でも道連れがあるだけ、未だマシだ。
瞳孔拡大。黒が、視界を塞いでいく。
もう、限界が近いのかね。溜まりに溜まったゼニーの収め時って訳だ。
ま、糞汚れた、生きてるんだか死んでるんだかわからない命一つが、自分が殺した連中に吊り合うとは思わない。
だから、クソったれな神様の取立てを、最後の最後でもあたしは踏み倒した訳だ。
そいつは悪党の最後にゃ、この上無い位相応しい。
なんとなく眼だけを動かすと、ぱちぱちと音を立てて燃え盛る死体が見えた。
(奇跡だ。この耳はまだ音が聞けるらしい)
化物みたいなアイツかい。死んじまったか。ま、あっけないもんさね。
焼ける死体は、かっ、と眼を見開いて、前を向いていた。
何故だか、崩れかかったそれが酷く悔しそうな顔に見えて。
その死体には既に両手はなかったけれど。
もし、まだそれがあったなら、何かを掴むように真っ直ぐ前に伸ばしていたんだろう。
勿論、届かないけど。
…ったく。未練たらしいったらありゃしないね。
後悔する位なら、ハナっからすんなっての。
ま…アタシも無い訳じゃないけどね。
無けりゃあ、直ぐにでも眼を閉じる筈だし。
視界はどんどん黒く染まっていく。
走馬灯、っていうのはちっとも過ぎりゃしない。
元々、自分のムカシになんて何の執着も無かった訳だし。
でも。
──アンタは、何でそんなに悔しそうなのかねぇ。
焼けていく死体を思い、そんな言葉を浮かべる。
少し、そいつが羨ましい気がして、同時にそんな事を考えた自分に驚いた。
同時に、あの男の事も思い出す。自分には無いものを持っていただろうそいつがやっぱり、少し羨ましかった。
初めて気づいた。取り留めの無い思考が死に掛けた脳味噌の中を走っていく。
──もし。もしも、アタシが最初に、あの娘を殺さなかったなら。
自分にも、そいつらみたいな貌が出来ていたんだろうか。
必死な顔で、自分の事なんて忘れて。我武者羅に走って。
そんな自分の姿を思い浮かべると、やっぱりそいつも羨ましかった。
だから、自分は嘘つきだけど、これは珍しく本当らしい。
らしくもないね。
唇の端を僅かに歪めるイメージ。
本当に、苦笑できてるかどうかなんて知らないけれど。
アタシは、悪党だ。
悪党は悪党らしく。
嘲笑って、嘲笑って。自分すらも嘲笑って死ぬのが一番お似合いだ。
黒が。黒がどんどんと。
終に意識の中にまで入り込んでくる。
ここまで、だね。
──…、 、…、 。
そう思い体の力を抜いていると、ふと、声の無い歌が聞こえた。寂しく、悲しいハミング。
でも何処か懐かしい。聞いたことのある──けれど思い出せない。
勿論、それは幻聴には違いなかった。もう、何も聞こえない筈だ。
…ああ、そういえば。
最後に、本当に最後に。
一つだけ、残念な事があったんだっけ。
挽歌が、聞きたかったんだ。
ほら。道連れは居るけど。
こういうときは、そういうものって相場が決まってるじゃないの。
送り出される時には、どんな奴でもやっぱり歌でシメなくちゃね。
あんな事を呟いてみたけど本当に最後の最後には、やっぱり嘘はつけないものらしい。
幻聴でもいいや。贅沢は言えない立場だもの。
でも、ありがとう。ありがとね。
そして、黒が溢れた。
<♀ローグ 死亡 その他変化無し>
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