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198.涙 [2日目深夜] ---- 「どうしてあんなことしたのよ・・・」 ぽつりと悪ケミストがつぶやいた。 運悪く♂ローグに出会い、追われるはめになったが、大きなパーティーに出会えた時は、まだ運が残っていたと感じた。 しかしその中の♂アコライトが、こちらに血相を変えて向かってきたのには、にわかに信じられなかった。 ♂アコライトをグラサンモンクが発勁で倒し、彼は呆然としている自分の手を引っ張ってその場から逃げ出した。 深い森に入り、木々の間を抜け、闇の中にその身を沈めていく。 彼は濡れた土を避け足跡を残さないように、湿った草や落ち葉の多い道を選び、逃げ続けた。 背後の気配が完全になくなったことを、グラサンモンクが確信するまで、こちらの息が切れかけるまで、森の中を走り続けた。 走り続けながら「なぜ?」と考えた。「どうして?」と疑問に思った。 なぜ、♂アコライトが攻撃してきたのかわからなかった。 どうして、グラサンモンクが♂アコライトを辛そうに撃退したのかわからなかった。 違う、走っている間は酸素不足で脳がきちんと動いてなかっただけなのだ。 こうして落ち着いて考えてみれば、すでに答えは出ていたのだ。 悪ケミストは考える。 あの時の少年の叫びで自分のしたぼくが本当に「うらみ」を抱かれていることを知った。 いや知っていた。出会った時からそんなことわかっていた。 ただ忘れていただけなのだ。忘れてしまっていただけなのだ。 出会った時グラサンモンクは言っていたはずではないか「護るつもりが殺してしまった」と・・・ 「自分を殺し少年に亡骸を渡せ」とも・・・ あの♂アコライトがあの会話の時の少年なんだろう。 気づくべきだった。安易に動くべきではないと気づくべきだった・・・ (こんなの主人失格じゃない・・・) 何かで「うらみ」を抱かれ、それを晴らすでもなく受け容れるでもなく、ただ死を選ぼうとしたグラサンモンク。 彼を「したぼく2号」にしたのは、生きることを放棄してその楽な死を選ぼうとした態度に、 腹が立ったからではないのか? それなのに・・・ 『よし! 今から♂シーフ探索にいくよ!!』 『夜は危険だ。視界も悪く動きづらい。それに朝まで待つんじゃなかったのか?』 『そう考えてたんだけどね。軽く寝て考えたんだけど、単体行動の多い夜ならマーダーも動きを潜めてるはず。 ある意味昼より安全かも知れないでしょ?』 『それも一理あるが、少し身体を休めておいたほうがいい』 『大丈夫、大丈夫!』 そうだ。普通に考えてこの殺戮の行われている島で、視界も悪く、動きづらい夜に動くことは自殺行為だ。 だが、誰も動かないであろう夜だからこそ、安全に動けると踏んだのだ。 しかしそれは、今思えばタダの浅はかな、思いつきだった。 グラサンモンクは「そんなことよりもっと休んだほうがいい」と何度も指摘した。 それなのに主人である自分は判断を誤った。 忍者が死んだことをあの定時放送で実感してしまった。 ダンボールの家の中で、ずっとそれを考え続けていた。 それを忘れたいためにとにかく動きたかった。 何でもいいから、とにかく何かをしていたかった。 安全とか安全じゃないとか、そういう理屈とか関係ない。 ただ・・・動いていたかったのだ。 「すまない・・・あれはオレの過ちだ・・・」 隣に座っているグラサンモンクのほうから声がする。 見るとその表情はサングラスに隠れ、わからなかった。 しかし悪ケミストには彼が泣いているように思えた。 涙を流しているワケではない。 声が落ち込んでいるようなワケではない。 ただ、淡々としている声。 それがどことなく泣いているように思えたのだ。 「なにいってるのよ! 今のは独り言!! 第一したぼくのクセに責任感じてんじゃないのよ!! したぼくはご主人の命令を聞く義務があるの! そして主人には責任を負う義務があるの!! 人の仕事を取るんじゃないわよ! したぼくのクセに!!」 悪ケミストは叫んだ。叫ばずにはいられなかった。 そうだあれは全部自分の責任だ。 忍者が死んだ実感から、気を紛らわせたくて移動を望んだ。 そのせいで、グラサンモンクは「うらみ」を持たれている♂アコライトに出会った。 自分をまもるためにグラサンモンクは♂アコライトを攻撃した。 攻撃するべき敵ではないのに、攻撃することになってしまった。 昼でも出会う可能性があるとか、グラサンモンクが過去に何か間違いを犯していたとか関係ない。 自分の浅はかな考えで、こうなる可能性をあげてしまったこと、それ自体が許せなかった。 「・・・全部・・・私の責任なんだから・・・」 そう・・・自分の責任だ・・・ しかし、グラサンモンクはかぶりを振り、 「違う・・・それでもオレの過ちなんだ。 あの時オレは気絶している少年を護るために拳を振るった。 そしてあの少年の大事な人もオレがあの少年を護るために力を振るった」 「それでどうしてあんたが恨まれるのよ・・・護ったんじゃないの? あの子を助けて護ったんじゃないの? それなのに・・・」 「あの少年の大事な人は倒れている少年をオレが殺したと思ったんだと思う。そしてオレは向かってくる 彼女を・・・ジルタスを敵だと思い込んで・・・」 悪ケミストは定時放送で流れた一人の女魔族を思い出した。 「それじゃ本当にただの誤解じゃない!! あんたは別に悪くないじゃない!! ただ護ろうとしただけじゃない!!」 「それでもオレが悪いんだ。オレがジルタスを殺した・・・それは事実なんだ」 悪ケミストはすぐに言葉を返せなかった。 そのまま黙っているとグラサンモンクが頭をぽんぽん、と軽く叩いてくる。 「・・・大丈夫だ。オレはさっきの戦いであの少年を殺していない。 そして君の子分になったからには君を護るため戦う。 君は死を選ぼうとしたオレに生きる意味と価値を教えてくれた・・・だからオレは生きるために戦う・・・!」 だから、とグラサンモンクは続ける。 「オレは君のおかげでオレ自身の間違いを受け容れて生きることに気づいた。 だから君はオレのために泣かなくていい。主人だからと言って、部下の責任を全部背負うことはないんだ」 「・・・え? あんた何を・・・?」 頬に触れてみるが別に涙は流れていない。 改めてグラサンモンクのほうを見ると、彼は口元に微笑を浮かべながら言った。 「君は君自身のために泣くべきだ。『せかいせーふく』をするものとしてのプライドも大事だが、 その前に一人の少女として泣くべき時には泣くべきなんだ」 その言葉を聞いた瞬間、悪ケミストの目から涙が溢れてきた。 一つ、二つと雫がこぼれ、とめどなく溢れて止まらない。 「・・・な・・・なによ・・・なんで涙が・・・私には泣いてるひまなんか・・・止まりなさいよ・・・私の涙・・・!」 グラサンモンクは泣きながら喚いている悪ケミストの頭を優しく撫でる。 その行為に完全に悪ケミストの理性は完全に消え去った。 変わりにに感情だけが滝のように溢れてくる。 悪ケミストは泣いた。もう嗚咽を隠しもせず、グラサンモンクの胸でひたすらに泣き続けた。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「眠ったか・・・」 気づくと泣き疲れたのか悪ケミストは眠ってしまっていた。 グラサンモンクは悪ケミストの頭を優しく撫でながら、君のプライドを崩すようなことを言ってすまない、と小さく呟く。 彼は闇の中を見つめた。悪ケミストの眠りを・・・命を護るという強い意志をそのサングラスに隠した視線に秘め、 ただ闇を見つめ続けていた。 <悪ケミ> <現在位置:F-7> <所持品:グラディウス バフォ帽 サングラス 黄ハーブティ 支給品一式 馬牌×1> <外見:ケミデフォ、目の色は赤> <思考:脱出する。> <備考:サバイバル、爆弾に特化した頭脳、スティールを使えるシーフを探す> <したぼく:グラサンモンク> <参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目> <グラサンモンク> <現在地:F-7> <所持品:緑ポーション5個 インソムニアックサングラス[1] 種別不明鞭> <外見:csm:4r0l6010i2> <スキル:ヒール 気功 白刃取り 指弾 発勁 金剛 阿修羅覇王拳> <備考:特別枠 右心臓> <状態:♂ローグを警戒、負傷は治療、悪ケミを護る> <参考スレ:【18歳未満進入禁止】リアル・グRO妄想スレッド【閲覧注意】> <作品「雨の日」「青空に響く鎮魂歌」よりモンク(♂モンクと区別するため便宜的にグラサンモンクと表記)> ---- | [[戻る>2-197]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-199]] |
198.涙 [2日目深夜] ---- 「どうしてあんなことしたのよ・・・」 ぽつりと悪ケミストがつぶやいた。 運悪く♂ローグに出会い、追われるはめになったが、大きなパーティーに出会えた時は、まだ運が残っていたと感じた。 しかしその中の♂アコライトが、こちらに血相を変えて向かってきたのには、にわかに信じられなかった。 ♂アコライトをグラサンモンクが発勁で倒し、彼は呆然としている自分の手を引っ張ってその場から逃げ出した。 深い森に入り、木々の間を抜け、闇の中にその身を沈めていく。 彼は濡れた土を避け足跡を残さないように、湿った草や落ち葉の多い道を選び、逃げ続けた。 背後の気配が完全になくなったことを、グラサンモンクが確信するまで、こちらの息が切れかけるまで、森の中を走り続けた。 走り続けながら「なぜ?」と考えた。「どうして?」と疑問に思った。 なぜ、♂アコライトが攻撃してきたのかわからなかった。 どうして、グラサンモンクが♂アコライトを辛そうに撃退したのかわからなかった。 違う、走っている間は酸素不足で脳がきちんと動いてなかっただけなのだ。 こうして落ち着いて考えてみれば、すでに答えは出ていたのだ。 悪ケミストは考える。 あの時の少年の叫びで自分のしたぼくが本当に「うらみ」を抱かれていることを知った。 いや知っていた。出会った時からそんなことわかっていた。 ただ忘れていただけなのだ。忘れてしまっていただけなのだ。 出会った時グラサンモンクは言っていたはずではないか「護るつもりが殺してしまった」と・・・ 「自分を殺し少年に亡骸を渡せ」とも・・・ あの♂アコライトがあの会話の時の少年なんだろう。 気づくべきだった。安易に動くべきではないと気づくべきだった・・・ (こんなの主人失格じゃない・・・) 何かで「うらみ」を抱かれ、それを晴らすでもなく受け容れるでもなく、ただ死を選ぼうとしたグラサンモンク。 彼を「したぼく2号」にしたのは、生きることを放棄してその楽な死を選ぼうとした態度に、 腹が立ったからではないのか? それなのに・・・ 『よし! 今から♂シーフ探索にいくよ!!』 『夜は危険だ。視界も悪く動きづらい。それに朝まで待つんじゃなかったのか?』 『そう考えてたんだけどね。軽く寝て考えたんだけど、単体行動の多い夜ならマーダーも動きを潜めてるはず。 ある意味昼より安全かも知れないでしょ?』 『それも一理あるが、少し身体を休めておいたほうがいい』 『大丈夫、大丈夫!』 そうだ。普通に考えてこの殺戮の行われている島で、視界も悪く、動きづらい夜に動くことは自殺行為だ。 だが、誰も動かないであろう夜だからこそ、安全に動けると踏んだのだ。 しかしそれは、今思えばタダの浅はかな、思いつきだった。 グラサンモンクは「そんなことよりもっと休んだほうがいい」と何度も指摘した。 それなのに主人である自分は判断を誤った。 忍者が死んだことをあの定時放送で実感してしまった。 ダンボールの家の中で、ずっとそれを考え続けていた。 それを忘れたいためにとにかく動きたかった。 何でもいいから、とにかく何かをしていたかった。 安全とか安全じゃないとか、そういう理屈とか関係ない。 ただ・・・動いていたかったのだ。 「すまない・・・あれはオレの過ちだ・・・」 隣に座っているグラサンモンクのほうから声がする。 見るとその表情はサングラスに隠れ、わからなかった。 しかし悪ケミストには彼が泣いているように思えた。 涙を流しているワケではない。 声が落ち込んでいるようなワケではない。 ただ、淡々としている声。 それがどことなく泣いているように思えたのだ。 「なにいってるのよ! 今のは独り言!! 第一したぼくのクセに責任感じてんじゃないのよ!! したぼくはご主人の命令を聞く義務があるの! そして主人には責任を負う義務があるの!! 人の仕事を取るんじゃないわよ! したぼくのクセに!!」 悪ケミストは叫んだ。叫ばずにはいられなかった。 そうだあれは全部自分の責任だ。 忍者が死んだ実感から、気を紛らわせたくて移動を望んだ。 そのせいで、グラサンモンクは「うらみ」を持たれている♂アコライトに出会った。 自分をまもるためにグラサンモンクは♂アコライトを攻撃した。 攻撃するべき敵ではないのに、攻撃することになってしまった。 昼でも出会う可能性があるとか、グラサンモンクが過去に何か間違いを犯していたとか関係ない。 自分の浅はかな考えで、こうなる可能性をあげてしまったこと、それ自体が許せなかった。 「・・・全部・・・私の責任なんだから・・・」 そう・・・自分の責任だ・・・ しかし、グラサンモンクはかぶりを振り、 「違う・・・それでもオレの過ちなんだ。 あの時オレは気絶している少年を護るために拳を振るった。 そしてあの少年の大事な人もオレがあの少年を護るために力を振るった」 「それでどうしてあんたが恨まれるのよ・・・護ったんじゃないの? あの子を助けて護ったんじゃないの? それなのに・・・」 「あの少年の大事な人は倒れている少年をオレが殺したと思ったんだと思う。そしてオレは向かってくる 彼女を・・・ジルタスを敵だと思い込んで・・・」 悪ケミストは定時放送で流れた一人の女魔族を思い出した。 「それじゃ本当にただの誤解じゃない!! あんたは別に悪くないじゃない!! ただ護ろうとしただけじゃない!!」 「それでもオレが悪いんだ。オレがジルタスを殺した・・・それは事実なんだ」 悪ケミストはすぐに言葉を返せなかった。 そのまま黙っているとグラサンモンクが頭をぽんぽん、と軽く叩いてくる。 「・・・大丈夫だ。オレはさっきの戦いであの少年を殺していない。 そして君の子分になったからには君を護るため戦う。 君は死を選ぼうとしたオレに生きる意味と価値を教えてくれた・・・だからオレは生きるために戦う・・・!」 だから、とグラサンモンクは続ける。 「オレは君のおかげでオレ自身の間違いを受け容れて生きることに気づいた。 だから君はオレのために泣かなくていい。主人だからと言って、部下の責任を全部背負うことはないんだ」 「・・・え? あんた何を・・・?」 頬に触れてみるが別に涙は流れていない。 改めてグラサンモンクのほうを見ると、彼は口元に微笑を浮かべながら言った。 「君は君自身のために泣くべきだ。『せかいせーふく』をするものとしてのプライドも大事だが、 その前に一人の少女として泣くべき時には泣くべきなんだ」 その言葉を聞いた瞬間、悪ケミストの目から涙が溢れてきた。 一つ、二つと雫がこぼれ、とめどなく溢れて止まらない。 「・・・な・・・なによ・・・なんで涙が・・・私には泣いてるひまなんか・・・止まりなさいよ・・・私の涙・・・!」 グラサンモンクは泣きながら喚いている悪ケミストの頭を優しく撫でる。 その行為に完全に悪ケミストの理性は完全に消え去った。 変わりにに感情だけが滝のように溢れてくる。 悪ケミストは泣いた。もう嗚咽を隠しもせず、グラサンモンクの胸でひたすらに泣き続けた。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「眠ったか・・・」 気づくと泣き疲れたのか悪ケミストは眠ってしまっていた。 グラサンモンクは悪ケミストの頭を優しく撫でながら、君のプライドを崩すようなことを言ってすまない、と小さく呟く。 彼は闇の中を見つめた。悪ケミストの眠りを・・・命を護るという強い意志をそのサングラスに隠した視線に秘め、 ただ闇を見つめ続けていた。 &lt;悪ケミ&gt; &lt;現在位置:F-7&gt; &lt;所持品:グラディウス バフォ帽 サングラス 黄ハーブティ 支給品一式 馬牌×1&gt; &lt;外見:ケミデフォ、目の色は赤&gt; &lt;思考:脱出する。&gt; &lt;備考:サバイバル、爆弾に特化した頭脳、スティールを使えるシーフを探す&gt; &lt;したぼく:グラサンモンク&gt; &lt;参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目&gt; &lt;グラサンモンク&gt; &lt;現在地:F-7&gt; &lt;所持品:緑ポーション5個 インソムニアックサングラス[1] 種別不明鞭&gt; &lt;外見:csm:4r0l6010i2&gt; &lt;スキル:ヒール 気功 白刃取り 指弾 発勁 金剛 阿修羅覇王拳&gt; &lt;備考:特別枠 右心臓&gt; &lt;状態:♂ローグを警戒、負傷は治療、悪ケミを護る&gt; &lt;参考スレ:【18歳未満進入禁止】リアル・グRO妄想スレッド【閲覧注意】&gt; &lt;作品「雨の日」「青空に響く鎮魂歌」よりモンク(♂モンクと区別するため便宜的にグラサンモンクと表記)&gt; ---- | [[戻る>2-197]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-199]] |

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