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199.鳥使いと虫使いと[定時放送後] ---- 「…え、なに?」 日も落ち、視線の通らなくなった森の中。 野営の支度になるべく乾いた落ち葉を探していた♀ハンタが突然声を上げた。 木の枝で周囲をカモフラージュしていた♀スパノビも即座に立ち上がり、辺りへ警戒の視線を飛ばす。 その耳に遠くでギャアギャアと複数の鳥が鳴き交わす声が届いた。 「鳥さんですね?何か居ますか」 「…ううん。それが…よくわかんないの」 ♀ハンタは虚空へ向かってちちち、と舌を鳴らすような声を出し、首を傾げる。 「なんだか、怖いモノ?があっちにいる…らしいんだけど」 彼女は北を指さした。 「殺人者ですか」 「うう~ん」 ♀スパノビの問いに♀ハンタの首の傾きが深くなる。 「たぶん…違うと思う。…細かい質問は難しいからよくわからないけど…」 「なるほど」 鳥の言葉が分かると言っても限度はあるんですね、と♀スパノビは心の中でメモを取った。 おそらく人間との会話のように共通の言語でしゃべっているわけではなく、お互いの意図を読みとっているのだろう。 しかし彼女と鳥とでは知識や解釈力に大きな差があるので、どうしても鳥の言葉を聞くだけの一方通行になりやすい。そういうことではないか。 ♀スパノビは質問の方向を変えてみることにした。 「では人間以外で野鳥が怯える物というと何が考えられますか?」 「一番は鷲なんかの猛禽です」 今度は即座にはっきりした答えが返る。 「夜は蛇やイタチも天敵になりますけど、あそこまで大騒ぎすることはあんまり」 「ふむう。けれど夜中に大型鳥類という可能性は低くないですか?」 鳥目という言葉があるぐらいで鳥類は暗さに弱いはずだ。♀スパノビは常識的な疑問を口にした。 ♀ハンタは顔を左右に振る。 「そうでもないです。フクロウの仲間は夜の方が得意だし、ダンジョンへも連れて行くファルコンは…」 そして声が尻すぼまりに小さくなった。 「ファルコンですか」 『その可能性』を♀スパノビは考えてみる。 ファルコンという、おそらくこの島では見なれない種類の鳥。しかもほとんどの鳥は暗くて細部を確かめられない。夜中に飛ぶ鷹など小鳥にとっては理解不能の怪物でしかないだろう。 つまり鳥たちの説明があやふやな説明はつく。 問題はこの島にファルコンが居る可能性それ自体だ。 ♀ハンタがそうだったように、♂ハンタもその鷹は奪われたはず。となれば自力で大陸から飛んできたか、GMが連れてきたかのどちらかしかない。 「…なるほど」 彼女は頷いた。 ♀ハンタが不安そうに見つめている。 ファルコンが居るという可能性に思い至ってしまった以上、彼女にとってそれを無視することは難しいだろう。忘れさせようとしても逆効果だ。 「♀ハンタさん。ファルコンが居るという可能性に賭けてみましょうか」 「え?…うん!」 「ただし、です」 満面に喜色を浮かべて立ち上がった♀ハンタを♀スパノビは一旦押し止める。 「気をつけて下さい。あなたのふぁるである可能性はあまり高くありません。一番ありそうなのはGMの仲間にハンターが居て、そのファルコンという可能性です」 「あ…」 たちまち♀ハンタの意気がしぼんだ。 ♀スパノビは 「もっともそれはそれで彼らの居場所を見つけられるので構いません。むしろ気をつけるべきは他の参加者に武器として支給されていた場合です」 「♂ハンターさんが敵かも知れないから…ですか?」 「いえ。どの職業でもです。あなたのように自在には扱えなくても、支給したのであればある程度誰にでも従うよう訓練されているでしょうから」 「そんなあ…」 そこまで否定的な材料を並べた♀スパノビは、しょんぼりしてしまった♀ハンタを元気づけるように明るい声を出した。 「けど貴女の力は誰も想定してないでしょう。友好的ならもちろん、敵対的でも手なずけられるかも知れません。それにふぁるではないと決まったわけでもありません。行ってみる価値はあると思います」 「…ただし、しっかり気をつけて。ですね」 「はい。その通りです」 理解の早い『妹』へ♀スパノビはにっこりと笑いかけた。 ◇◇◇◇◇ なま暖かい風が吹く。 その風はかすかに焦げ臭いにおいを帯びていた。 「これは…まずいかもしれませんね」 ♀スパノビは呟いた。 あえて♀ハンタには言わなかったが、『怖いモノ』が人間でも鳥でもない可能性も当然あった。どうやらそちらの方だったらしい。 戻るように言おうと♀ハンタの方を振り向く。だが♀ハンタは別の方向を見て口を覆っていた。 「どうしましたか」 四方へ視線を配りながら訊ねる。 しかし♀ハンタは答えずにふらふらと歩き出した。 「待って下さい、危ないです。どうかしたんですか」 「あれ…あれ……」 震える指が指し示す先には黒く焼けこげた鳥の死骸があった。 まだ新しい。臭いの元はそれのようだ。 「まさか、ファルコンですか?」 ♀スパノビも少々危惧を覚える。これがファルコンであれば訓練された鷹を手もなく殺せる脅威が近くに存在し、しかもこちらは有望な戦力を失ったことになる。 だが♀ハンタは首を小さく横に振った。 「…たぶん夜鷹だと思います」 「夜の鷹、ですか?ファルコンとは違うのですか?」 今度はこっくりと頷く。 「鷹と言ってもずっと小柄で、夜中に飛んでる虫を食べるおとなしい鳥です」 「そうですか」 ♀スパノビは少しだけ胸をなで下ろした。 危険には違いないが、最悪の結果ではないようだ。 だが鳥を友とする♀ハンタにとってはかなりのショックだったらしい。 「…いったい誰がこんなことを…」 震える声で呟く。 ♀スパノビもそれは気になっていた。 食べるためならまだ分かる。だがその様子はないし、食用にはもっと適した野鳥が居るだろう。 また死体が焦げるような攻撃では、近くに誰か居れば夜目にはっきり映ったはずだ。 よほど自信過剰な参加者か、それとも参加者ですらないのか。 「やれやれ。人じゃと言うから戻ってみれば、おなごではないかえ」 突然の声に驚きつつ♀スパノビは素早く振り返った。 さっきから警戒はまったく緩めていない。にもかかわらず声の主は先に彼女たちを見つけたようだった。 ややあって少し先の茂みが揺れ、弓手の姿をした娘が現れる。 「アーチャー…さん?」 「おんしらに用はない。消えよ」 「違うようですね」 口調とそこに表された強烈な自負に、ただの弓手ではないと判断して♀スパノビは後ずさりする。おそらく彼女が夜鷹を撃ち落とした『怖いモノ』なのだ。 そして♀ハンタもそのことに気付いてしまった。 「…あなたが…あなたが、鳥さんを殺したんですか!?」 「そうじゃが?」 「♀ハンタさん」 ♀スパノビは抑えた声で黙らせようとするが、♀ハンタは人が変わったかのように怒りを隠さない。 「どうしてこんなことを!」 「愚かにも我が眷属を喰らいおったからじゃ。おんしらとて部下やペットを殺されれば怒ろうが」 (眷属?) 普段あまり聞くことのない単語を耳にして♀スパノビは眉根を寄せた。 その間にも弓職2人の会話は続く。 「この子達は虫しか食べません!」 「その虫よ。仮初めとは言え、我が座所に虫を喰らう異種族は要らぬ」 「鳥さんが虫を食べるのは自然の摂理です。そうやって木々が食べ尽くされないように保たれてるんです!」 「やかましい小娘じゃの」 弓手の娘の声に苛立ちが混じった。 そして感情の高ぶりと共に薄紫の光がその体を包み、ゆっくりと背中側に集まってゆく。 その瞬間、♀スパノビの脳内でパズルのピースが1つに組み上がった。 「いけません、♀ハンタさん。逃げますよ」 「弱肉強食の理ごとき、我とて知っておるわ。じゃがマンティスやアルゴスがおれば釣り合いは保たれる。鳥など要らぬのじゃ」 彼女の背に集まった紫色の光は透き通った美しい羽を形作る。 「それはアーチャーさんではありません。羽虫の女王、ミストレスです」 「…え?」 ♀ハンタは我に返る。 その目前でミストレスの体から放たれる微光が今度は両手に集まり、圧縮されて強い光を放ち始めた。 「遅いわ。おんしら、ここで死んで行くがよい」 言葉と共に紫電の光球が打ち出される。 ♀スパノビはとっさにダマスカスを投じた。 バヂバヂバヂッ 凄まじい音を立てて短剣がはじき飛ばされる。 直撃を受ければただでは済むまい。 これまでにスキルの直撃を受けたことも与えたこともなく、魔法で殺された♀アサの死体を見ただけの彼女はそう考えた。 「こっちへ」 ♂Wizから逃げ切ったときのように、♀ハンタの手を引いて立木をミストレスの射線に挟む。 そしてお互いの位置関係を考えながらそのまま逃げようとする。だが 「逃がさぬ」 次弾が次の盾と考えていた樹に先に着弾した。 経路を読まれ、先に射撃位置を取られたらしい。そう気付くと即座に位置を計算し直し、別方向へ走ろうとする。 「今度はこちらかえ」 バリバリバリッ! 「わっ」 「きゃっ」 飛び出そうとする鼻先を雷光がかすめた。 動きを完全に読まれている――?いや、それ以上だ。 背にした太い幹でこちらからはまったく見えないのに、ミストレスにはこちらの動きが見えているらしい。 だが、いかに虫種族といえど障害物の向こう側まで見通す力はないはず。 (いったいどうやって?) 焦ろうとする心を必死になだめ、相手の様子を思い出す。 何かおかしな所はなかったか。 (!そういえば、現れたとき…) 人じゃと言うから戻ってみればおなごではないか。ミストレスは確かそう言った。 つまり彼女を呼んだ何者かが居るのだ。 そしてその何者かはどうやら人間の男女をうまく区別できていない。 つまり、虫だ。 ならば。 「ニューマ!」 声と共に吹き上げる風が♀ハンタ達を取り囲んだ。 いつもなら矢はおろか投げ槍や銃弾までそらしてしまうほどの強風が取り巻くのだが、今はごく普通のつむじ風程度に過ぎない。 その威力の弱さに♀スパノビの眉根が寄る。しかし、それでも期待していた効果は得られたようだ。 ♀ハンタの手を引いて囁く。 「走ります。速度増加!」 「あ…うん」 ここまで温存していた魔法を使い、木陰を飛び出す2人。 今度は機先を制されることはなく、次の木に隠れた後になって雷球が放たれる。 「おのれ。小賢しい」 ミストレスの苦々しげな声が届いた。 「何したんですか?」 ♀ハンタが不思議そうに訊ねる。 「ニューマで羽虫を吹き払ったんですよ。こちらの動きを知られていましたからね」 問題はどうも魔法の効き目が悪いことです。♀スパノビは胸の内で呟いた。 ニューマが弱かったのは何かの間違いかと思ったが、速度増加もほとんど効果が実感できなかった。 完全ならそのまま逃げ切れたかも知れないが、目算が狂ってしまったのが痛い。 近くには隠れられるほどの大木が少なく、無理すれば狙い撃ちになるおそれがあった。 考えている暇もない。 「♀ハンタさん、お願いがあります」 彼女は苦衷を面に出さず振り返った。 「なに?お姉ちゃん」 「森を起こして下さい」 「…え??」 ミストレスは2人の隠れた木を大きく回り込む。 配下の虫達が吹き払われたところで彼女の優位は毛ほども揺るがない。 魔力は大幅に制限されているが、ユピテルサンダーと同じ特性を持つ雷球に一度捕らえてしまえば♀アサのように完封できる。 「さっさと出てこぬか」 彼女は幹をかすめるように右手から紫電を放ち、左手を構えてその逆方向へ回り込んだ。 しかし飛び出しては来ない。 接近戦に賭ける気か。ミストレスは嘲笑を唇の端に刻んだ。 人間の魔法使いが使うユピテルサンダーとは違い、彼女の雷球に呪文詠唱は必要ない。接近戦でも充分使えるのだ。 右手に魔力光を凝縮しながら今度はまっすぐ木に近付く。 その時。 「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」 幹の向こうから引き裂かれる鶏のような叫びが上がった。 「…なんじゃ?仲間割れか?」 ミストレスは思わず立ち止まる。 そして、森が目覚めた。 ギャッギャッギャッキキキキキフィッフィッフィッ バサバサバサッ 騒々しい鳥の鳴き声と羽ばたきが空気を満たす。 「ルアフ!ニューマ!」 ポッ さらに♀スパノビの声と共に薄明かりが灯った。 鳥の一部が光に驚いて飛びたち、逆に羽虫達は光に引かれてニューマに吹き飛ばされる。 「おのれっ」 耳に響く鳥の大合唱、そして脳裏に直接響く虫達の悲鳴。 ミストレスは耳を押さえて顔を歪めた。 普段、彼女たち虫種族が地中の相手を見つけられるのは、聴覚や嗅覚といった視覚以外の感覚情報に敏感なためである。 しかしそれが今は障害になっていた。 「……!」 かすかに何か声が聞こえ、闇の中を青白い光が離れて行くのが見える。 「逃さぬ!」 ミストレスは左右の雷球を連続して放った。 バヂバヂッ 「くあっ」 「お姉ちゃん!」 逃げる♀ハンタの横を2発の雷球がかすめ、一方に触れた♀スパノビがはじき飛ばされた。 駆け寄ろうとする彼女を♀スパノビは厳しい表情で止める。 「いけません。逃げて下さい」 こうなる危険性も承知でルアフを用いたのだろう。 だが♀ハンタはそのまま駆け寄った。 「お姉ちゃんを置いてけないよお」 自分でも情けないと思う声が漏れる。 駆け寄ったのも♀スパノビの身を案じてと言うより1人にされることを恐れての反射的行動だった。 それでも♀スパノビは気丈な笑顔を作って見せる。 「次が来ます。走って」 そして痺れが解けた手足を奮って立ち上がった。 「終わりじゃ」 後方ではミストレスが両手に雷光を集め終わろうとしていた。 はじき飛ばされたおかげで距離が開いたこと、そしてミストレスが左右双方の雷球を使っていたことで立ち上がるまでのわずかな時間は稼げた。だが、もはや逃げる余裕はない。 「歯を食いしばって下さい。わざと跳ね飛ばされますよ」 「…はい」 彼女たちは覚悟を決めた。 直撃を受けてまた立ち上がれるかどうかは分からない。それでもやるしかなかった。 ミストレスの右手がまっすぐに2人へ向けられる。 バリバリバリバリッ 「え?」 衝撃は来なかった。 発射の瞬間何かがミストレスの右腕を叩き、方向を逸らしたのだ。 「ええい、邪魔するかおんし!」 ミストレスが上空を舞う「それ」へ向かって左手の雷球を放つ。 「それ」はあざやかに宙返りを決め、木の枝を盾に魔法を避けた。 ♀ハンタは叫ぶ。 「ふぁる!」 ぴーぃ ふぁるはひと声鳴き返し、尾羽を振った。 『よう、でっかい声だったな。敵ってのはそれか?』 <♀ハンター> 現在地:E-5南端 所持品:スパナ、古い紫色の箱、設置用トーキーボックス、フォーチュンソード スキル:ファルコンマスタリー、ブリッツビート、スチールクロウ 備考 :対人恐怖症、鳥と会話が出来る、純鷹師、弓の扱いは不明、島にいる鳥達が味方 状態 :半乾き? ♀スパノビを信頼、ふぁると遭遇 <♀スパノビ> 現在地:E-5南端 外見 :csf:4j0610m2 所持品:S2ダマスカス(未回収)、シルクリボン(無理矢理装着)、古いカード帖(本人気付いていない)オリデオコンの矢筒 スキル:集中力向上、ニューマ、速度上昇 備考 :外見とは裏腹に場数を踏んでいる(短剣型) 状態 :半乾き? ♀ハンターの生い立ちや鳥との会話能力を知る、JTにより負傷 <ミストレス> 現在地:E-5南端 外見 :髪は紫、長め 姿形はほぼ♀アーチャー 所持品:ミストレスの冠、カウンターダガー 備考 :本来の力を取り戻すため、最後の一人になることをはっきりと目的にする。つまり他人を積極的に殺しに行くことになる。なんらかの意図があって♂ハンターを誘惑。その理由は不明 <ふぁる> 現在地:E-5南端 所持品:+2バイタルシュールドボウ[3]、リボンのヘアバンド スキル:ブリッツビート スチールクロウ 備考 :なんだかんだいいながら♀ハンターが心配で堪らない、ツンデレ?GM側の拠点を発見するも重要視せず無視、♀ハンターと遭遇 ---- | [[戻る>2-198]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-200]] |
199.鳥使いと虫使いと [定時放送後] ---- 「…え、なに?」 日も落ち、視線の通らなくなった森の中。 野営の支度になるべく乾いた落ち葉を探していた♀ハンタが突然声を上げた。 木の枝で周囲をカモフラージュしていた♀スパノビも即座に立ち上がり、辺りへ警戒の視線を飛ばす。 その耳に遠くでギャアギャアと複数の鳥が鳴き交わす声が届いた。 「鳥さんですね?何か居ますか」 「…ううん。それが…よくわかんないの」 ♀ハンタは虚空へ向かってちちち、と舌を鳴らすような声を出し、首を傾げる。 「なんだか、怖いモノ?があっちにいる…らしいんだけど」 彼女は北を指さした。 「殺人者ですか」 「うう~ん」 ♀スパノビの問いに♀ハンタの首の傾きが深くなる。 「たぶん…違うと思う。…細かい質問は難しいからよくわからないけど…」 「なるほど」 鳥の言葉が分かると言っても限度はあるんですね、と♀スパノビは心の中でメモを取った。 おそらく人間との会話のように共通の言語でしゃべっているわけではなく、お互いの意図を読みとっているのだろう。 しかし彼女と鳥とでは知識や解釈力に大きな差があるので、どうしても鳥の言葉を聞くだけの一方通行になりやすい。そういうことではないか。 ♀スパノビは質問の方向を変えてみることにした。 「では人間以外で野鳥が怯える物というと何が考えられますか?」 「一番は鷲なんかの猛禽です」 今度は即座にはっきりした答えが返る。 「夜は蛇やイタチも天敵になりますけど、あそこまで大騒ぎすることはあんまり」 「ふむう。けれど夜中に大型鳥類という可能性は低くないですか?」 鳥目という言葉があるぐらいで鳥類は暗さに弱いはずだ。♀スパノビは常識的な疑問を口にした。 ♀ハンタは顔を左右に振る。 「そうでもないです。フクロウの仲間は夜の方が得意だし、ダンジョンへも連れて行くファルコンは…」 そして声が尻すぼまりに小さくなった。 「ファルコンですか」 『その可能性』を♀スパノビは考えてみる。 ファルコンという、おそらくこの島では見なれない種類の鳥。しかもほとんどの鳥は暗くて細部を確かめられない。夜中に飛ぶ鷹など小鳥にとっては理解不能の怪物でしかないだろう。 つまり鳥たちの説明があやふやな説明はつく。 問題はこの島にファルコンが居る可能性それ自体だ。 ♀ハンタがそうだったように、♂ハンタもその鷹は奪われたはず。となれば自力で大陸から飛んできたか、GMが連れてきたかのどちらかしかない。 「…なるほど」 彼女は頷いた。 ♀ハンタが不安そうに見つめている。 ファルコンが居るという可能性に思い至ってしまった以上、彼女にとってそれを無視することは難しいだろう。忘れさせようとしても逆効果だ。 「♀ハンタさん。ファルコンが居るという可能性に賭けてみましょうか」 「え?…うん!」 「ただし、です」 満面に喜色を浮かべて立ち上がった♀ハンタを♀スパノビは一旦押し止める。 「気をつけて下さい。あなたのふぁるである可能性はあまり高くありません。一番ありそうなのはGMの仲間にハンターが居て、そのファルコンという可能性です」 「あ…」 たちまち♀ハンタの意気がしぼんだ。 ♀スパノビは 「もっともそれはそれで彼らの居場所を見つけられるので構いません。むしろ気をつけるべきは他の参加者に武器として支給されていた場合です」 「♂ハンターさんが敵かも知れないから…ですか?」 「いえ。どの職業でもです。あなたのように自在には扱えなくても、支給したのであればある程度誰にでも従うよう訓練されているでしょうから」 「そんなあ…」 そこまで否定的な材料を並べた♀スパノビは、しょんぼりしてしまった♀ハンタを元気づけるように明るい声を出した。 「けど貴女の力は誰も想定してないでしょう。友好的ならもちろん、敵対的でも手なずけられるかも知れません。それにふぁるではないと決まったわけでもありません。行ってみる価値はあると思います」 「…ただし、しっかり気をつけて。ですね」 「はい。その通りです」 理解の早い『妹』へ♀スパノビはにっこりと笑いかけた。 ◇◇◇◇◇ なま暖かい風が吹く。 その風はかすかに焦げ臭いにおいを帯びていた。 「これは…まずいかもしれませんね」 ♀スパノビは呟いた。 あえて♀ハンタには言わなかったが、『怖いモノ』が人間でも鳥でもない可能性も当然あった。どうやらそちらの方だったらしい。 戻るように言おうと♀ハンタの方を振り向く。だが♀ハンタは別の方向を見て口を覆っていた。 「どうしましたか」 四方へ視線を配りながら訊ねる。 しかし♀ハンタは答えずにふらふらと歩き出した。 「待って下さい、危ないです。どうかしたんですか」 「あれ…あれ……」 震える指が指し示す先には黒く焼けこげた鳥の死骸があった。 まだ新しい。臭いの元はそれのようだ。 「まさか、ファルコンですか?」 ♀スパノビも少々危惧を覚える。これがファルコンであれば訓練された鷹を手もなく殺せる脅威が近くに存在し、しかもこちらは有望な戦力を失ったことになる。 だが♀ハンタは首を小さく横に振った。 「…たぶん夜鷹だと思います」 「夜の鷹、ですか?ファルコンとは違うのですか?」 今度はこっくりと頷く。 「鷹と言ってもずっと小柄で、夜中に飛んでる虫を食べるおとなしい鳥です」 「そうですか」 ♀スパノビは少しだけ胸をなで下ろした。 危険には違いないが、最悪の結果ではないようだ。 だが鳥を友とする♀ハンタにとってはかなりのショックだったらしい。 「…いったい誰がこんなことを…」 震える声で呟く。 ♀スパノビもそれは気になっていた。 食べるためならまだ分かる。だがその様子はないし、食用にはもっと適した野鳥が居るだろう。 また死体が焦げるような攻撃では、近くに誰か居れば夜目にはっきり映ったはずだ。 よほど自信過剰な参加者か、それとも参加者ですらないのか。 「やれやれ。人じゃと言うから戻ってみれば、おなごではないかえ」 突然の声に驚きつつ♀スパノビは素早く振り返った。 さっきから警戒はまったく緩めていない。にもかかわらず声の主は先に彼女たちを見つけたようだった。 ややあって少し先の茂みが揺れ、弓手の姿をした娘が現れる。 「アーチャー…さん?」 「おんしらに用はない。消えよ」 「違うようですね」 口調とそこに表された強烈な自負に、ただの弓手ではないと判断して♀スパノビは後ずさりする。おそらく彼女が夜鷹を撃ち落とした『怖いモノ』なのだ。 そして♀ハンタもそのことに気付いてしまった。 「…あなたが…あなたが、鳥さんを殺したんですか!?」 「そうじゃが?」 「♀ハンタさん」 ♀スパノビは抑えた声で黙らせようとするが、♀ハンタは人が変わったかのように怒りを隠さない。 「どうしてこんなことを!」 「愚かにも我が眷属を喰らいおったからじゃ。おんしらとて部下やペットを殺されれば怒ろうが」 (眷属?) 普段あまり聞くことのない単語を耳にして♀スパノビは眉根を寄せた。 その間にも弓職2人の会話は続く。 「この子達は虫しか食べません!」 「その虫よ。仮初めとは言え、我が座所に虫を喰らう異種族は要らぬ」 「鳥さんが虫を食べるのは自然の摂理です。そうやって木々が食べ尽くされないように保たれてるんです!」 「やかましい小娘じゃの」 弓手の娘の声に苛立ちが混じった。 そして感情の高ぶりと共に薄紫の光がその体を包み、ゆっくりと背中側に集まってゆく。 その瞬間、♀スパノビの脳内でパズルのピースが1つに組み上がった。 「いけません、♀ハンタさん。逃げますよ」 「弱肉強食の理ごとき、我とて知っておるわ。じゃがマンティスやアルゴスがおれば釣り合いは保たれる。鳥など要らぬのじゃ」 彼女の背に集まった紫色の光は透き通った美しい羽を形作る。 「それはアーチャーさんではありません。羽虫の女王、ミストレスです」 「…え?」 ♀ハンタは我に返る。 その目前でミストレスの体から放たれる微光が今度は両手に集まり、圧縮されて強い光を放ち始めた。 「遅いわ。おんしら、ここで死んで行くがよい」 言葉と共に紫電の光球が打ち出される。 ♀スパノビはとっさにダマスカスを投じた。 バヂバヂバヂッ 凄まじい音を立てて短剣がはじき飛ばされる。 直撃を受ければただでは済むまい。 これまでにスキルの直撃を受けたことも与えたこともなく、魔法で殺された♀アサの死体を見ただけの彼女はそう考えた。 「こっちへ」 ♂Wizから逃げ切ったときのように、♀ハンタの手を引いて立木をミストレスの射線に挟む。 そしてお互いの位置関係を考えながらそのまま逃げようとする。だが 「逃がさぬ」 次弾が次の盾と考えていた樹に先に着弾した。 経路を読まれ、先に射撃位置を取られたらしい。そう気付くと即座に位置を計算し直し、別方向へ走ろうとする。 「今度はこちらかえ」 バリバリバリッ! 「わっ」 「きゃっ」 飛び出そうとする鼻先を雷光がかすめた。 動きを完全に読まれている――?いや、それ以上だ。 背にした太い幹でこちらからはまったく見えないのに、ミストレスにはこちらの動きが見えているらしい。 だが、いかに虫種族といえど障害物の向こう側まで見通す力はないはず。 (いったいどうやって?) 焦ろうとする心を必死になだめ、相手の様子を思い出す。 何かおかしな所はなかったか。 (!そういえば、現れたとき…) 人じゃと言うから戻ってみればおなごではないか。ミストレスは確かそう言った。 つまり彼女を呼んだ何者かが居るのだ。 そしてその何者かはどうやら人間の男女をうまく区別できていない。 つまり、虫だ。 ならば。 「ニューマ!」 声と共に吹き上げる風が♀ハンタ達を取り囲んだ。 いつもなら矢はおろか投げ槍や銃弾までそらしてしまうほどの強風が取り巻くのだが、今はごく普通のつむじ風程度に過ぎない。 その威力の弱さに♀スパノビの眉根が寄る。しかし、それでも期待していた効果は得られたようだ。 ♀ハンタの手を引いて囁く。 「走ります。速度増加!」 「あ…うん」 ここまで温存していた魔法を使い、木陰を飛び出す2人。 今度は機先を制されることはなく、次の木に隠れた後になって雷球が放たれる。 「おのれ。小賢しい」 ミストレスの苦々しげな声が届いた。 「何したんですか?」 ♀ハンタが不思議そうに訊ねる。 「ニューマで羽虫を吹き払ったんですよ。こちらの動きを知られていましたからね」 問題はどうも魔法の効き目が悪いことです。♀スパノビは胸の内で呟いた。 ニューマが弱かったのは何かの間違いかと思ったが、速度増加もほとんど効果が実感できなかった。 完全ならそのまま逃げ切れたかも知れないが、目算が狂ってしまったのが痛い。 近くには隠れられるほどの大木が少なく、無理すれば狙い撃ちになるおそれがあった。 考えている暇もない。 「♀ハンタさん、お願いがあります」 彼女は苦衷を面に出さず振り返った。 「なに?お姉ちゃん」 「森を起こして下さい」 「…え??」 ミストレスは2人の隠れた木を大きく回り込む。 配下の虫達が吹き払われたところで彼女の優位は毛ほども揺るがない。 魔力は大幅に制限されているが、ユピテルサンダーと同じ特性を持つ雷球に一度捕らえてしまえば♀アサのように完封できる。 「さっさと出てこぬか」 彼女は幹をかすめるように右手から紫電を放ち、左手を構えてその逆方向へ回り込んだ。 しかし飛び出しては来ない。 接近戦に賭ける気か。ミストレスは嘲笑を唇の端に刻んだ。 人間の魔法使いが使うユピテルサンダーとは違い、彼女の雷球に呪文詠唱は必要ない。接近戦でも充分使えるのだ。 右手に魔力光を凝縮しながら今度はまっすぐ木に近付く。 その時。 「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」 幹の向こうから引き裂かれる鶏のような叫びが上がった。 「…なんじゃ?仲間割れか?」 ミストレスは思わず立ち止まる。 そして、森が目覚めた。 ギャッギャッギャッキキキキキフィッフィッフィッ バサバサバサッ 騒々しい鳥の鳴き声と羽ばたきが空気を満たす。 「ルアフ!ニューマ!」 ポッ さらに♀スパノビの声と共に薄明かりが灯った。 鳥の一部が光に驚いて飛びたち、逆に羽虫達は光に引かれてニューマに吹き飛ばされる。 「おのれっ」 耳に響く鳥の大合唱、そして脳裏に直接響く虫達の悲鳴。 ミストレスは耳を押さえて顔を歪めた。 普段、彼女たち虫種族が地中の相手を見つけられるのは、聴覚や嗅覚といった視覚以外の感覚情報に敏感なためである。 しかしそれが今は障害になっていた。 「……!」 かすかに何か声が聞こえ、闇の中を青白い光が離れて行くのが見える。 「逃さぬ!」 ミストレスは左右の雷球を連続して放った。 バヂバヂッ 「くあっ」 「お姉ちゃん!」 逃げる♀ハンタの横を2発の雷球がかすめ、一方に触れた♀スパノビがはじき飛ばされた。 駆け寄ろうとする彼女を♀スパノビは厳しい表情で止める。 「いけません。逃げて下さい」 こうなる危険性も承知でルアフを用いたのだろう。 だが♀ハンタはそのまま駆け寄った。 「お姉ちゃんを置いてけないよお」 自分でも情けないと思う声が漏れる。 駆け寄ったのも♀スパノビの身を案じてと言うより1人にされることを恐れての反射的行動だった。 それでも♀スパノビは気丈な笑顔を作って見せる。 「次が来ます。走って」 そして痺れが解けた手足を奮って立ち上がった。 「終わりじゃ」 後方ではミストレスが両手に雷光を集め終わろうとしていた。 はじき飛ばされたおかげで距離が開いたこと、そしてミストレスが左右双方の雷球を使っていたことで立ち上がるまでのわずかな時間は稼げた。だが、もはや逃げる余裕はない。 「歯を食いしばって下さい。わざと跳ね飛ばされますよ」 「…はい」 彼女たちは覚悟を決めた。 直撃を受けてまた立ち上がれるかどうかは分からない。それでもやるしかなかった。 ミストレスの右手がまっすぐに2人へ向けられる。 バリバリバリバリッ 「え?」 衝撃は来なかった。 発射の瞬間何かがミストレスの右腕を叩き、方向を逸らしたのだ。 「ええい、邪魔するかおんし!」 ミストレスが上空を舞う「それ」へ向かって左手の雷球を放つ。 「それ」はあざやかに宙返りを決め、木の枝を盾に魔法を避けた。 ♀ハンタは叫ぶ。 「ふぁる!」 ぴーぃ ふぁるはひと声鳴き返し、尾羽を振った。 『よう、でっかい声だったな。敵ってのはそれか?』 <♀ハンター> 現在地:E-5南端 所持品:スパナ、古い紫色の箱、設置用トーキーボックス、フォーチュンソード スキル:ファルコンマスタリー、ブリッツビート、スチールクロウ 備考 :対人恐怖症、鳥と会話が出来る、純鷹師、弓の扱いは不明、島にいる鳥達が味方 状態 :半乾き? ♀スパノビを信頼、ふぁると遭遇 <♀スパノビ> 現在地:E-5南端 外見 :csf:4j0610m2 所持品:S2ダマスカス(未回収)、シルクリボン(無理矢理装着)、古いカード帖(本人気付いていない)オリデオコンの矢筒 スキル:集中力向上、ニューマ、速度上昇 備考 :外見とは裏腹に場数を踏んでいる(短剣型) 状態 :半乾き? ♀ハンターの生い立ちや鳥との会話能力を知る、JTにより負傷 <ミストレス> 現在地:E-5南端 外見 :髪は紫、長め 姿形はほぼ♀アーチャー 所持品:ミストレスの冠、カウンターダガー 備考 :本来の力を取り戻すため、最後の一人になることをはっきりと目的にする。つまり他人を積極的に殺しに行くことになる。なんらかの意図があって♂ハンターを誘惑。その理由は不明 <ふぁる> 現在地:E-5南端 所持品:+2バイタルシュールドボウ[3]、リボンのヘアバンド スキル:ブリッツビート スチールクロウ 備考 :なんだかんだいいながら♀ハンターが心配で堪らない、ツンデレ?GM側の拠点を発見するも重要視せず無視、♀ハンターと遭遇 ---- | [[戻る>2-198]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-200]] |

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