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212.宿り木 [2日目深夜] ---- 彼女はギャンブルというものが嫌いだった。 かつて彼女をかどわかした男が、無類の賭博好きだったからかもしれない。 それとも彼女自身が、賭け事のたぐいで損をした経験ばかりだったからかもしれない。 いずれにしても、良い思い出がないことだけは、たしかであった。 だから彼女はこれまで古いカード帖を開封したことなど、ただの一度もなかった。 自分の運のなさは青い箱や、紫の箱で懲りていたし、自分が開けたところで、どうせろくなものしか出やしないと決めつけていたのである。 露店にならべ、色目を使って気を惹いた男たち相手に高値で売りつけるのがせいぜいであった。 もちろん売ったのは古いカード帖だけではなく、金払いの良さそうな男はたらし込み、骨の髄までしゃぶり尽くした。 そうやって彼女は、所属するギルドのメンバーには内緒で、こっそりと私腹を肥やしていたのである。 ただ、こといまにおいては、話が違った。 仮に古いカード帖を露店にならべたところで、この島では買ってくれる人間などいやしない。 追いはぎのように奪っていくものならいるだろうが、それなら自分で開けたほうがマシというものである。 それと、この島に送られてから開封した青い箱に、落胆するようなものが入っていなかったのも、彼女を勇気づける一因となった。 カード帖からカードを取り出す決心をした彼女は、生まれてはじめての一大イベントに、すこしだけ心をおどらせた。 まったく経験のない男に、色事を教えるときの高揚感にどこか似ている気がした。 (あなたはどんな色音を洩らすのかしら?) すっとつまみ出したカードの絵柄を確認して、彼女は唇のはじをひきつらせた。 期待していたのは、携帯している唯一の武器であるグラディウスに挿すことのできるカードであった。 ところが出てきたカードに描かれていたのは、白髪を彼女の髪と同じくらいに伸ばした、時計の形をしたモンスターだったのである。 (最低・・・・・・) 彼女はやはり自分が運のないことを知らされ、ぼやいた。 時計台に巣食うモンスターであるクロックの力を宿したカードは、鎧にしか挿すことができない。 そんなことはアルケミストである彼女にとって、常識である。 せめてロングコートかシルクローブでもあればと思った。 そう、クロックカードそのものは、けしてハズレではない。 冒険者にとって必需品とまでは言えないが、危険に身をさらしたときに一定確率でオートガードを発動してくれるという効果自体は悪いものではなかった。 (まって・・・・・・まだ・・・・・・あきらめるには、はやいわ・・・・・・) それから彼女はゲームのはじまりに、管理側から渡された鞄から古くて青い箱をひっぱり出した。 自分に配給された2つの箱のうちの、1つである。 もうひとつはグラディウスであったから、うまくいけば防具が出てくるかもしれない。 なかなか開ける機会がなかったのだが、もうそんなことは言っていられなかった。 ここでカードスロットのついた鎧が出ないようでは、運は完全に彼女を見放したといっても良い。 どのみちこのままの装備で、しかもひとりでは、生き延びられるはずもないのである。 つやのある睫毛をまぶたごと伏せて、それから彼女は意を決したように目を見開き、青箱の蓋をずらした。 箱から出てきたものを確認し、瞳がきらきらと輝いた。 こんな小さな箱の中に衣類が入っているのだから、まるで魔法である。 ところが、箱に納まっていた服をあらためて眺めた彼女の瞳からは、さきほどの輝きは失われていた。 だからといって、失望しているわけでもなさそうである。 理由は単純であった。 彼女がつまみ上げている服が、サイズも大きく、肩幅も広い、男性用の礼服だったからである。 それはフォーマルスーツという代物であった。 フォーマールスーツをしげしげと見て、彼女は深いため息をついた。 カードスロットのついている鎧が欲しかったのだから、むしろ小躍りするくらい喜ぶべきことなのではあるが、すなおには喜べなかった。 それというのも、このスーツを着るという行為が、彼女の最大の武器である女体というものを包み隠してしまうからである。 悩ましいことこの上なかった。 クロックカードを挿したフォーマルスーツを着ることで、いざというときに助かるかもしれない。これは自明である。 けれど、男性用の服を着ることで、官能的なからだのラインは失われてしまう。これも自明であった。 (神さまがいるとしたら、神さまはよほど私のことが嫌いみたいね) いらついたのか、彼女は愛すべき髪をくしゃくしゃとかき乱した。 フォーマルスーツが出てきたことが、よほど腹立たしかったのであろう。 (明日で3日目よ・・・・・・私の色仕掛けにだまされるような男がいるとして、果たしていままで生き残っていられたかしら・・・・・・) 彼女は思考を生きるという1点に集約させた。いまは名誉も富もいらない。 ただ生き抜くというためになにができるのかを考えなければならない。 (カードスロットさえ使えれば・・・・・・いいのよね・・・・・・それなら) なにを思ったのか、彼女はフォーマルスーツをグラディウスで切り裂きはじめた。手馴れたものである。 あっというまにカードスロットらしき部分を残して、フォーマルスーツはただの布くずとなった。 うすく笑みを浮かべて、彼女はそのスロットにクロックカードを挿しこむと、腰帯に挟んだ。 つまりはカードの効果を利用しつつ、肉体を武器にすることもあきらめなかったのである。 つくづく女という生き物はしたたかである。 (夜は寝たほうがいいわね・・・・・・すべては明日・・・・・・宿り木になってくれそうな男を見つけるのも、明日) そして彼女は森の中で、身を隠すことのできる寝床にちょうど良い場所を見つけた。 偶然にもそこは、♀ハンターと♀スーパーノービスが雨宿りとして使っていた場所であった。 <♀アルケミスト> <現在地:F-7 ♀ハンターと♀スーパーノービスが雨宿りをしていた木のうろ> <所持品:S2グラディウス 毒薬の瓶 ガーディアンフォーマルスーツ(ただしカードスロット部のみ)> <外見:絶世の美女> <性格:策略家> <備考:製薬型 やっぱり悪> <状態:軽度の火傷。騒動に乗じてPTを抜ける> ---- | [[戻る>2-211]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-213]] |
212.宿り木 [2日目深夜] ---- 彼女はギャンブルというものが嫌いだった。 かつて彼女をかどわかした男が、無類の賭博好きだったからかもしれない。 それとも彼女自身が、賭け事のたぐいで損をした経験ばかりだったからかもしれない。 いずれにしても、良い思い出がないことだけは、たしかであった。 だから彼女はこれまで古いカード帖を開封したことなど、ただの一度もなかった。 自分の運のなさは青い箱や、紫の箱で懲りていたし、自分が開けたところで、どうせろくなものしか出やしないと決めつけていたのである。 露店にならべ、色目を使って気を惹いた男たち相手に高値で売りつけるのがせいぜいであった。 もちろん売ったのは古いカード帖だけではなく、金払いの良さそうな男はたらし込み、骨の髄までしゃぶり尽くした。 そうやって彼女は、所属するギルドのメンバーには内緒で、こっそりと私腹を肥やしていたのである。 ただ、こといまにおいては、話が違った。 仮に古いカード帖を露店にならべたところで、この島では買ってくれる人間などいやしない。 追いはぎのように奪っていくものならいるだろうが、それなら自分で開けたほうがマシというものである。 それと、この島に送られてから開封した青い箱に、落胆するようなものが入っていなかったのも、彼女を勇気づける一因となった。 カード帖からカードを取り出す決心をした彼女は、生まれてはじめての一大イベントに、すこしだけ心をおどらせた。 まったく経験のない男に、色事を教えるときの高揚感にどこか似ている気がした。 (あなたはどんな色音を洩らすのかしら?) すっとつまみ出したカードの絵柄を確認して、彼女は唇のはじをひきつらせた。 期待していたのは、携帯している唯一の武器であるグラディウスに挿すことのできるカードであった。 ところが出てきたカードに描かれていたのは、白ひげを彼女の髪と同じくらいに伸ばした、時計の形をしたモンスターだったのである。 (最低・・・・・・) 彼女はやはり自分が運のないことを知り、ぼやいた。 時計台に巣食うモンスターであるクロックの力を宿したカードは、鎧にしか挿すことができない。 そんなことはアルケミストである彼女にとって、常識である。 せめてロングコートかシルクローブでもあればと思った。 そう、クロックカードそのものは、ハズレではない。 冒険者にとって必需品とまでは言えないが、危険に身をさらしたときに一定確率でオートガードを発動してくれるという効果自体は、けして悪いものではない。 (まって・・・・・・まだ・・・・・・あきらめるには、はやいわ・・・・・・) それから彼女はゲームのはじまりに、管理側から渡された鞄から古くて青い箱をひっぱり出した。 自分に配給された2つの箱のうちの、1つである。 もう1つの中身がグラディウスであったことから、うまくいけば防具が出てくるかもしれない。 なかなか開ける機会がなかったのだが、もうそんなことは言っていられなかった。 ここでカードスロットのついた鎧が出ないようでは、運は完全に彼女を見放したといっても良い。 どのみちこのままの装備で、しかもひとりでは、生き延びられるはずもないのである。 つやのある睫毛をまぶたごと伏せて、それから彼女は意を決したように目を見開き、青箱の蓋をずらした。 箱から出てきたものを確認し、瞳がきらきらと輝いた。 こんな小さな箱の中に衣類が入っているのだから、まるで魔法である。 ところが、箱に納まっていた服をあらためて眺めた彼女の瞳からは、さきほどの輝きは失われていた。 まったく失望しているわけでもなさそうではあったが。 理由は単純であった。 彼女がつまみ上げている服が、サイズも大きく、肩幅も広い、男性用の礼服だったからである。 それはフォーマルスーツという代物であった。 フォーマールスーツをしげしげと見て、彼女は深いため息をついた。 カードスロットのついている鎧が欲しかったのだから、むしろ小躍りするくらい喜ぶべきことなのではあるが、すなおには喜べなかった。 それというのも、このスーツを着るという行為が、彼女の最大の武器である女体というものを包み隠してしまうからである。 悩ましいことこの上なかった。 クロックカードを挿したフォーマルスーツを着ることで、いざというときに助かるかもしれない。これは自明である。 けれど、男性用の服を着ることで、官能的なからだのラインは失われてしまう。これも自明であった。 (神さまがいるとしたら、神さまはよほど私のことが嫌いみたいね) いらついたのか、彼女は愛すべき髪をくしゃくしゃとかき乱した。 フォーマルスーツが出てきたことが、よほど腹立たしかったのであろう。 (明日で3日目よ・・・・・・私の色仕掛けにだまされるような男がいたとして、そんな男がいまもまだ生き残っているかしら・・・・・・) 彼女は思考を生きるという1点に集約させた。いまは名誉も富もいらない。 ただ生き抜くというためになにができるのかを考えなければならない。 (カードスロットさえ使えれば・・・・・・いいのよね・・・・・・それなら) なにを思ったのか、彼女はフォーマルスーツをグラディウスで切り裂きはじめた。手馴れたものである。 あっというまにカードスロットの部分だけを残して、フォーマルスーツはただの布くずとなった。 うすく笑みを浮かべて、彼女はそのスロットにクロックカードを挿しこむと、腰帯に挟んだ。 つまりはカードの効果を利用しつつ、肉体を武器にすることもあきらめなかったのである。 つくづく女という生き物はしたたかである。 (夜は寝たほうがいいわね・・・・・・すべては明日・・・・・・宿り木になってくれそうな男を見つけるのも、明日) そして彼女は森の中で、身を隠すことのできる寝床にちょうど良い場所を見つけた。 偶然にもそこは、♀ハンターと♀スーパーノービスが雨宿りとして使っていた場所であった。 <♀アルケミスト> <現在地:F-7 ♀ハンターと♀スーパーノービスが雨宿りをしていた木のうろ> <所持品:S2グラディウス 毒薬の瓶 ガーディアンフォーマルスーツ(ただしカードスロット部のみ)> <外見:絶世の美女> <性格:策略家> <備考:製薬型 やっぱり悪> <状態:軽度の火傷。騒動に乗じてPTを抜ける> ---- | [[戻る>2-211]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-213]] |

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