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213.異端 [2日目夜~深夜] ---- 最初に起きたのは、♀マジだった。 ♀マジを背負いながら、騎士を乗せたペコペコさながらの疾走を披露した♀アコはよほど疲れたのか、いまだ轟沈していた。 ともかく先に起きた♀マジは、痛む片方の足を気にしつつ、先ほど急に直った♀アコの首輪について一考するのだった。 どうにも引っかかることがあったのである。 それは、この首輪がそう簡単に壊れるだろうか? ということ。 首輪は現在島で行われている殺し合いを殺し合いとして成立させるための、なによりの鍵だ。 壊れてしまいました、では済まない。 それに、この殺戮ゲームが過去に何回も行われているということから考えても、変だった。 管理側から渡された地図を見るに、自分たちの現在地が管理側に情報として送られていることは間違いない。 とすると、♀アコが禁止区域に入って無事だったことが伝わっていないはずがない。 こういった大掛かりな仕掛けを要する舞台では、ささいな綻びからすべてが台無しになってしまうことは数多い。 もし♀アコの首輪が壊れていたとしたら、管理側がそれを放置しているなどということは考えられないのだ。 つまり管理側は♀アコの首輪が壊れていたことに気づいていなかったことになる。 しかし、それはおかしい。 どう考えても位置情報がつつぬけであるのに、禁止区域を通ったことが気づかれていないはずがない。 そこである仮説が浮かびあがった。 もしかすると管理者側に送られていた♀アコの位置情報が間違っていたのではないか? 突然に直った首輪、禁止区域、地図、送られる位置情報。 それらの事柄が♀マジの中でひとつの解を作りあげるのに、時間はかからなかった。 ───位置情報を送っているのは首輪じゃない 瞬間、♀マジに電流走るっ………!    ざわ…           ざわ… 「ちっがーーーーう! それはボクじゃなくてアイツのすることだよ!」 思わず叫んでしまった。とにかく♀マジはある結論に至った。 すなわち、位置情報を管理側に送っているのはこの地図であり、 首輪もまた地図から送られてくる位置情報によって禁止区域かどうかを判断しているということだ。 すべては♀アコのおかげである。 ♀アコ以外の誰が自分にとっての生命線である地図を手放しての行動など、取れただろうか。 胸のつかえがなくなった♀マジはあらためて♀アコをゆすり起こした。 さすがに見通しの良い場所にこれ以上とどまる危険性を考慮したのだろう。 寝ぼけまなこでぽんやりとする♀アコに、♀マジがまくし立てた。 「ちょっと、ボクの実験につきあってよ」 唐突な♀マジの言葉に、♀アコはもう一度寝なおそうと思った。 どうやらこの場の危険を考えたわけでもなく、ただ単に首輪に関する検証をしたかっただけらしい。 さすがに胸はまな板でも異端学派の魔導師だ。 ふたたび船を漕ぎはじめた♀アコをたたき起こすと、♀マジは首輪と地図の考察を語った。 ♀アコは講釈の最中に、何度落ちそうになったかわからなかったが、ともかく一応は耳に入れた。 入れているそばから反対の耳から出ていったことは、言うまでもなかったが。 「どう? ボクの言ったことわかった?」 「ゴメン、もっとわかりやすーく説明して」 このやりとりと講釈が1セットで都合3回ほど繰り返されたのだから♀マジも不幸としか言いようがない。 もちろん、聞かされる側の♀アコも不幸だった。 「どう? わかった?」 4回目の説明を終えて、♀マジの声がとげとげしい。 あきらかにこれ以上を要求することは、アコライトの身で単身ゲフェンダンジョンに突入するくらいデンジャーである。 ♀アコはどうにか理解できたことだけを、あげつらった。 「OKOK、ようするに地図を持って禁止区域に入ると首輪がどかんなわけね」 赤点ぎりぎりの回答だったが、♀マジが怒り出さなかったので、どうやら追試はまぬがれたようだ。 ♀アコはほっと胸をなでおろした。あやうく知恵熱を出して寝込むところだったのだ。 さっそく首輪と地図の検証実験が開始された。 ♀マジは♀アコに自分の地図を渡して、自らは禁止区域におそるおそる近づいていった。 ところがどこまで歩を進めても、首輪はなんの反応も示さなかった。 ♀マジの推察はどんぴしゃりだったのだ。 高額で売れるカードでも拾ったみたいにうれしそうな顔をして、♀マジが帰ってきた。 そこへ♀アコが冷静なツッコミをいれた。 「それで、そのことがわかっていいことあるの? あんまり意味なくない?」 ♀マジは言葉に詰まった。むむむとうなって、なにかを考えているようだ。 「どちらかに地図をあずけておけば、もう片方は自由に行動ができるよ」 「なにか役立つの?」 うなりかたが、むぐぐに変わった。 「禁止区域からボクが魔法を使えば、ボクは安全なところから攻撃できるよ」 「あたしがちっとも安全じゃないじゃない」 ♀マジは今度はくちびるをとがらせた。 「そうだ、勝てそうにない相手の地図を奪って禁止区域に投げこめば、どんな相手にだって勝てるよ!」 ものすごい名案を思いついたように、ぺったんこの胸をそらした♀マジに、♀アコはひややかな視線を送った。 「その勝てそうにない相手からどうやって地図を奪うっていうのよ」 ぷちん、と♀マジのなにかが切れる音がした。 「うるさい、このINT1の自称ぽっちゃり型! せっかく人が首輪の謎に一歩近づいたんだから、すなおに喜べばいいんだよ!  もしかしたらすっごい役に立つかもしれないじゃないか」 これに♀アコが黙っているはずがない。 「胸にいくはずの栄養がぜんぶ脳にまわっちゃったマジシャンは、かわいそうよね。  いくらすごいことを思いついたって、役に立たなければ、なんにも意味ないわよ。  ほんと、天才ってかわいそうよね、紙一重で」 ばちばちと視線がぶつかり合って火花をとばした。 例によってたわいもないふたりの舌戦と呼ぶにもおそまつな闘いが開始されたのである。 いい加減慣れたのか、子デザはというと、♀アコの鞄からペットフードを引っぱりだして、はむはむと美味しそうに食べていた。 決着はやはり毎度のことながら引き分けだった。 ぜぇはぁとお互いに息を切らして地面にへたりこんだ二人は、それぞれに再戦の約束をして大の字に寝ころがった。 「ここから脱出できると思う?」 草の上に仰向けのまま星の満ちた夜空を見て、♀マジがぽろりとこぼした。 「ワープポータルでも使えれば、なんとかなるかもね。でも、大陸にもどったところでどうせ動員令に逆らったおたずねものだろうけど」 「それはボクには関係ないかな。もとからおたずねものだもん」 さすがに♀アコの声色が変わった。 「どういうこと? すねに傷を持ってるようには見えなかったけど?」 「ボクはマジシャンギルドの連中いわく異端学派だからね。もっともボク自身は異端なんて思ってない。  世界の真理を追究することのどこが異端なんだかさっぱりわからないよ」 ♀マジはあっさりと答えた。あまりにもあっさりとそう告げられたので♀アコはおかしくて笑ってしまった。 「なるほど。異端な人っていうのは、自分が異端なことに気づかないってわけね」 「じゃあ、どこが異端で、どうしていけないことなのか教えてよ」 「そんなのは無理」 ♀アコもまたあっさりと答えた。 ところが文句を言おうとした♀マジの言葉をさえぎって、♀アコは話を続けた。 「あたしの話をちゃんと聞きなさいよ。ここからが肝心なんだからね。  いい? あたしはね、世界の真理とかそういう難しいことはどうでもいいし、それを求めることが悪いことだなんて思わない。  だってあたしは神さまに仕える身分だからね。そういうところ、神さまは平等なのよ。  ただ神さまを信じて、自分の行いを信じて、まっすぐに生きていればいいわけ」 「なんだかずいぶん適当な考え方じゃない?」 「世の中は不公平だと思う。どんなに神さまを信じていたって、こんなところで殺し合いに巻き込まれちゃうんだからね。  あんただって世界の真理を求めることが異端でさえなければ、責められもしなかったでしょ。  でも、世の中ってそういうものだと思う」 そんな達観してなんていらるはずがない。♀マジはそう言おうと思った。 けれどその前に、♀アコがさらに話を続けた。 「すべてを決められるのはけっきょく自分自身なのよ。神さまじゃない。周りでもない。  自分だけが自分の進む道を決められるの。だからあたしは世の中ってやつが好きだわ。  ほかの誰でもない、自分さえこうだと信じて進めば、進むことができるからね」 「なんだかまるで神さまを信じてないみたいだ」 ♀マジがたまりかねて笑った。 「神さまはね、あたしが信じるかぎりちゃんといるのよ。でも手を差し伸べてくれるかどうかは別ね。  自分のちからで精いっぱいがんばって、がんばって、その先に、もしかしたらすこしくらいは手助けしてくれるのかもしれない。  神さまってのはそれくらいしかしてくれないと思ってる」 「神さまってのはあんがい薄情なんだ?」 「ううん、違う。そうじゃなくて、神さまはね、人間が精いっぱいがんばるために、手を貸さないようにしてるのよ。  だってそんなに簡単に神さまが力を貸してくれたらなまけちゃうでしょ」 随分と変わった考えをするアコライトもいたものである、と♀マジは思った。 いや、もしかするとアコライトやプリーストたちはみんな、こういう考え方なのかもしれない。 みんなこうやって日々を懸命に生きているのかもしれない。 だからこそ、神さまは彼らに奇蹟を使う資格を与えてくれるのだろう。 「だからね、迫害されても逃げたらいいわ。おたずねものになっても逃げたらいい。  それこそ王国から逃げ出して、どこか別の国に行ったってかまわないわ。  だって神さまは信じているかぎり、ちゃんとあたしを見ていてくれるから」 「うーん、キミのほうがよっぽど異端なんじゃない? キミがここに送られてきた理由がわかった気がする」 ♀マジはくすくすと笑いながら、そう言った。 これには♀アコもきょとんとしてしまった。自分ではその理由がわからなかったからである。 「どういうこと?」 「教えない。教えないことに意味があるから」 言えるはずがなかった。♀アコの答えに自分が救われたなんてことは、ぜったいに言えないことだった。 きっと彼女はあまりにもまっすぐで、あまりにもまぶしいから、この島に送られたんだろう。 どこにいても輝かずにはいられない、人を惹きつけずにはいられない彼女の存在は、いまの王国にとって危険以外のなにものでもない。 だからこそ、♀マジはかたくなに言葉を濁した。 異端派とさげすまれた魔術師としての自分が、どうしてそんなことを告げられようか。 「だけど、あと2日しかないよ。なんとかなると思う?」 しかたなく、苦しまぎれを口にした。 「あと2日しかないんじゃなくて、まだ2日も残ってるの。  それにさっきの首輪の情報は、かならずどこかで役に立つわ」 さっきは意味ないって言ったくせに。♀マジはそう思ったが、すぐにあらためた。 どちらかというと、こっちの答えが彼女の本音だと思ったのだ。 「知性のかけらもない体力ばかのくせに・・・・・・」 そうつぶやいて、眠りに落ちていった。 ♀マジは最後に心の中でそっと彼女にお礼をした。ありがとう、と。 ♀マジにとって♀アコは、異端である自分を肯定してくれたはじめての人だった。 <♀アコライト&子犬> 現在位置:E-9 容姿:らぐ何コードcsf:4j0n8042 所持品:集中ポーション2個 子デザ&ペットフードいっぱい スキル:ヒール・速度増加・ブレッシング 備考:殴りアコ(Int1)・方向オンチ  首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:体力SP赤ゾーンから緑へ <♀マジ> 現在位置:E-9 所持品:真理の目隠し 備考:ボクっ子。スタイルにコンプレックス有り。氷雷マジ。異端学派。  ♂マジを治療できる人を探すことはすっかり忘れている。褐色の髪(ボブっぽいショート)  首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:足に軽い捻挫、普通に歩くのは問題無し ---- | [[戻る>2-212]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-214]] |
213.異端 [2日目夜~深夜] ---- 最初に起きたのは、♀マジだった。 ♀マジを背負いながら、騎士を乗せたペコペコさながらの疾走を披露した♀アコはよほど疲れたのか、いまだ轟沈していた。 ともかく先に起きた♀マジは、痛む片方の足を気にしつつ、先ほど急に直った♀アコの首輪について一考するのだった。 どうにも引っかかることがあったのである。 それは、この首輪がそう簡単に壊れるだろうか? ということ。 首輪は現在島で行われている殺し合いを殺し合いとして成立させるための、なによりの鍵だ。 壊れてしまいました、では済まない。 それに、この殺戮ゲームが過去に何回も行われているということから考えても、変だった。 管理側から渡された地図を見るに、自分たちの現在地が管理側に情報として送られていることは間違いない。 とすると、♀アコが禁止区域に入って無事だったことが伝わっていないはずがない。 こういった大掛かりな仕掛けを要する舞台では、ささいな綻びからすべてが台無しになってしまうことは数多い。 もし♀アコの首輪が壊れていたとしたら、管理側がそれを放置しているなどということは考えられないのだ。 つまり管理側は♀アコの首輪が壊れていたことに気づいていなかったことになる。 しかし、それはおかしい。 どう考えても位置情報がつつぬけであるのに、禁止区域を通ったことが気づかれていないはずがない。 そこである仮説が浮かびあがった。 もしかすると管理者側に送られていた♀アコの位置情報が間違っていたのではないか? 突然に直った首輪、禁止区域、地図、送られる位置情報。 それらの事柄が♀マジの中でひとつの解を作りあげるのに、時間はかからなかった。 ───位置情報を送っているのは首輪じゃない 瞬間、♀マジに電流走るっ………!    ざわ…           ざわ… 「ちっがーーーーう! それはボクじゃなくてアイツのすることだよ!」 思わず叫んでしまった。とにかく♀マジはある結論に至った。 すなわち、位置情報を管理側に送っているのはこの地図であり、 首輪もまた地図から送られてくる位置情報によって禁止区域かどうかを判断しているということだ。 すべては♀アコのおかげである。 ♀アコ以外の誰が自分にとっての生命線である地図を手放しての行動など、取れただろうか。 胸のつかえがなくなった♀マジはあらためて♀アコをゆすり起こした。 さすがに見通しの良い場所にこれ以上とどまる危険性を考慮したのだろう。 寝ぼけまなこでぽんやりとする♀アコに、♀マジがまくし立てた。 「ちょっと、ボクの実験につきあってよ」 唐突な♀マジの言葉に、♀アコはもう一度寝なおそうと思った。 どうやらこの場の危険を考えたわけでもなく、ただ単に首輪に関する検証をしたかっただけらしい。 さすがに胸はまな板でも異端学派の魔導師だ。 仮説を立てると、どうしても実験し、立証させたくなるらしい。 ふたたび船を漕ぎはじめた♀アコをたたき起こすと、♀マジは首輪と地図の考察を語った。 ♀アコは講釈の最中に、何度落ちそうになったかわからなかったが、ともかく一応は耳に入れた。 入れているそばから反対の耳から出ていったことは、言うまでもなかったが。 「どう? ボクの言ったことわかった?」 「ゴメン、もっとわかりやすーく説明して」 このやりとりと講釈が1セットで都合3回ほど繰り返されたのだから♀マジも不幸としか言いようがない。 もちろん、聞かされる側の♀アコも不幸だった。 「どう? わかった?」 4回目の説明を終えて、♀マジの声がとげとげしい。 あきらかにこれ以上を要求することは、アコライトの身で単身ゲフェンダンジョンに突入するくらいデンジャーである。 ♀アコはどうにか理解できたことだけを、あげつらった。 「OKOK、ようするに地図を持って禁止区域に入ると首輪がどかんなわけね」 赤点ぎりぎりの回答だったが、♀マジが怒り出さなかったので、どうやら追試はまぬがれたようだ。 ♀アコはほっと胸をなでおろした。あやうく知恵熱を出して寝込むところだったのだ。 さっそく首輪と地図の検証実験が開始された。 ♀マジは♀アコに自分の地図を渡して、自らは禁止区域におそるおそる近づいていった。 ところがどこまで歩を進めても、首輪はなんの反応も示さなかった。 ♀マジの推察はどんぴしゃりだったのだ。 高額で売れるカードでも拾ったみたいにうれしそうな顔をして、♀マジが帰ってきた。 そこへ♀アコが冷静なツッコミをいれた。 「それで、そのことがわかっていいことあるの? あんまり意味なくない?」 ♀マジは言葉に詰まった。むむむとうなって、なにかを考えているようだ。 「どちらかに地図をあずけておけば、もう片方は自由に行動ができるよ」 「なにか役立つの?」 うなりかたが、むぐぐに変わった。 「禁止区域からボクが魔法を使えば、ボクは安全なところから攻撃できるよ」 「あたしがちっとも安全じゃないじゃない」 ♀マジは今度はくちびるをとがらせた。 「そうだ、勝てそうにない相手の地図を奪って禁止区域に投げこめば、どんな相手にだって勝てるよ!」 ものすごい名案を思いついたように、ぺったんこの胸をそらした♀マジに、♀アコはひややかな視線を送った。 「その勝てそうにない相手からどうやって地図を奪うっていうのよ」 ぷちん、と♀マジのなにかが切れる音がした。 「うるさい、このINT1の自称ぽっちゃり型! せっかく人が首輪の謎に一歩近づいたんだから、すなおに喜べばいいんだよ!  もしかしたらすっごい役に立つかもしれないじゃないか」 これに♀アコが黙っているはずがない。 「胸にいくはずの栄養がぜんぶ脳にまわっちゃっうっていうのも問題だわ。  いくらすごいことを思いついたって、それが役に立たなければ、なんの意味もないんだからね。  ほんと、天才ってかわいそう。なんとかと紙一重で」 ばちばちと視線がぶつかり合って火花をとばした。 例によって二人の舌戦と呼ぶにもおそまつな闘いが開始されたのである。 いい加減慣れたのか、子デザはというと、♀アコの鞄からペットフードを引っぱりだして、はむはむと美味しそうに食べていた。 決着はやはり毎度のことながら引き分けだった。 ぜぇはぁとお互いに息を切らして地面にへたりこんだ二人は、それぞれに再戦の約束をして大の字に寝ころがった。 「ここから脱出できると思う?」 草の上に仰向けのまま星の満ちた夜空を見て、♀マジがぽろりとこぼした。 「ワープポータルでも使えれば、なんとかなるかもね。でも、大陸にもどったところでどうせ動員令に逆らったおたずねものだろうけど」 「それはボクには関係ないかな。もとからおたずねものだもん」 さすがに♀アコの声色が変わった。 「どういうこと? すねに傷を持ってるようには見えなかったけど?」 「ボクはマジシャンギルドの連中いわく異端学派だからね。もっともボク自身は異端なんて思ってない。  世界の真理を追究することのどこが異端なんだかさっぱりわからないよ」 ♀マジはあっさりと答えた。あまりにもあっさりとそう告げられたので♀アコはおかしくて笑ってしまった。 「なるほど。異端な人っていうのは、自分が異端なことに気づかないってわけね」 「じゃあ、どこが異端で、どうしていけないことなのか教えてよ」 「そんなのは無理」 ♀アコもまたあっさりと答えた。 ♀マジは♀アコの即答に文句を言おうとしたのだが、♀マジの言葉をさえぎって、♀アコは話を続けた。 「あたしの話をちゃんと聞きなさいよ。ここからが肝心なんだからね。  いい? あたしはね、世界の真理とかそういう難しいことはどうでもいいし、それを求めることが悪いことだなんて思わない。  だってあたしは神さまに仕える身分だからね。そういうところ、神さまは平等なのよ。  ただ神さまを信じて、自分の行いを信じて、まっすぐに生きていればいいわけ」 「なんだかずいぶん適当な考え方じゃない?」 「世の中は不公平だと思う。どんなに神さまを信じていたって、こんなところで殺し合いに巻き込まれちゃうんだからね。  あんただって世界の真理を求めることが異端でさえなければ、責められもしなかったでしょ。  でも、世の中ってそういうものだと思う」 そんな達観してなんていらるはずがない。♀マジは立ち上がりそうになった。 けれどその前に、♀アコがさらに話を続けた。 「すべてを決められるのはけっきょく自分自身なのよ。神さまじゃない。周りでもない。  自分だけが自分の進む道を決められるの。だからあたしは世の中ってやつが好きだわ。  ほかの誰でもない、自分さえこうだと信じて進めば、進むことができるからね」 「なんだかまるで神さまを信じてないみたいだ」 ♀マジがたまりかねて笑った。 「神さまはね、あたしが信じるかぎりちゃんといるのよ。でも手を差し伸べてくれるかどうかは別ね。  自分のちからで精いっぱいがんばって、がんばって、その先に、もしかしたらすこしくらいは手助けしてくれるのかもしれない。  神さまってのはそれくらいしかしてくれないと思ってる」 「神さまってのはあんがい薄情なんだ?」 「ううん、違う。そうじゃなくて、神さまはね、人間が精いっぱいがんばるために、手を貸さないようにしてるのよ。  だってそんなに簡単に神さまが力を貸してくれたらなまけちゃうでしょ」 随分と変わった考えをするアコライトもいたものである、と♀マジは思った。 いや、もしかするとアコライトやプリーストたちはみんな、こういう考え方なのかもしれない。 みんなこうやって日々を懸命に生きているのかもしれない。 だからこそ、神さまは彼らに奇蹟を使う資格を与えてくれるのだろう。 「だからね、迫害されても逃げたらいいわ。おたずねものになっても逃げたらいい。  それこそ王国から逃げ出して、どこか別の国に行ったってかまわないわ。  だって神さまは信じているかぎり、ちゃんとあたしを見ていてくれるから」 「うーん、キミのほうがよっぽど異端なんじゃない? キミがここに送られてきた理由がわかった気がする」 ♀マジはくすくすと笑いながら、そう言った。 これには♀アコもきょとんとしてしまった。自分ではその理由がわからなかったからである。 「どういうこと?」 「教えない。教えないことに意味があるから」 言えるはずがなかった。♀アコの答えに自分が救われたなんてことは、ぜったいに言えないことだった。 きっと彼女はあまりにもまっすぐで、あまりにもまぶしいから、この島に送られたんだろう。 どこにいても輝かずにはいられない、人を惹きつけずにはいられない彼女の存在は、いまの王国にとって危険以外のなにものでもない。 だからこそ、♀マジはかたくなに言葉を濁した。 異端派とさげすまれた魔術師としての自分が、どうしてそんなことを告げられるだろう。 「だけど、あと2日しかないよ。なんとかなると思う?」 しかたなく、苦しまぎれを口にした。 「あと2日しかないんじゃなくて、まだ2日も残ってるの。  それにさっきの首輪の情報は、かならずどこかで役に立つわ」 さっきは意味ないって言ったくせに。♀マジはそう思ったが、すぐにあらためた。 どちらかというと、こっちの答えが彼女の本音だと思ったのだ。 「知性のかけらもない体力ばかのくせに・・・・・・」 そうつぶやいて、眠りに落ちていった。 ♀マジは最後に心の中でそっと彼女にお礼をした。ありがとう、と。 ♀マジにとって♀アコは、異端である自分を肯定してくれたはじめての人だった。 <♀アコライト&子犬> 現在位置:E-9 容姿:らぐ何コードcsf:4j0n8042 所持品:集中ポーション2個 子デザ&ペットフードいっぱい スキル:ヒール・速度増加・ブレッシング 備考:殴りアコ(Int1)・方向オンチ  首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:体力SP赤ゾーンから緑へ <♀マジ> 現在位置:E-9 所持品:真理の目隠し 備考:ボクっ子。スタイルにコンプレックス有り。氷雷マジ。異端学派。  ♂マジを治療できる人を探すことはすっかり忘れている。褐色の髪(ボブっぽいショート)  首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:足に軽い捻挫、普通に歩くのは問題無し ---- | [[戻る>2-212]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-214]] |

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