「2-215」(2006/06/19 (月) 07:01:40) の最新版変更点
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215.強攻 [2日目深夜]
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『OKOK、ようするに地図を持って禁止区域に入ると首輪がどかんなわけね』
「───なるほど」
文書化された盗聴記録に目を通し終えても、GMジョーカーは微笑の表情をすこしも崩さなかった。
切れ長の目はいつも笑っているように見えて、奥にある瞳はけして笑ってなどいない。いつも通りの表情だった。
GM橘はもはや気にしなかった。
接する時間が長くなれば長くなるほど、考えていることがわからなくなる。
GMジョーカーという男は、そういったたぐいの人間である。とにかく本心を隠すことに長けているのだ。
彼の口にする言葉や態度、表情、しぐさ。そのすべてを信じてはいけない。疑ってもいけない。
なぜなら彼は仮面の下で舌なめずりをしながら、相手がどのように反応するかを覗き込んでいるからだ。
たとえるなら巣を作り、獲物がかかるのをひたすら待ちわびる蜘蛛である。
GM橘は眼鏡のブリッジを、すっと押し上げた。
「それで♀アコと♀マジについては、どのような処置を行えばよろしいでしょうか?」
GM橘も無表情を繕った。とくに意見を言うこともせず、上司の反応を待った。
本音を言えば、わずかでも自分の計画を脅かす危険性のある存在など即座にBANしてしまいたかったが、胸のうちに留めた。
せっかく手ごまが思惑通りに動きはじめたのだ。ここは我慢のときだと判断した。
GMジョーカーはいかにも考え込んでいるという姿勢をとっていた。どこかの彫像で見たことのある姿勢そのままだった。
どこの誰の作品だったかまでは思い出せなかったが、それにしてもわざとらしい。
相手の感情を揺するためだけの行為であることは、間違いなかった。GM橘は胸中で毒づいた。
まったくもってGMジョーカーは癪に障る男だと。
殺せるものなら、いっそ。何回そう思っただろうか。
そのたびにGMジョーカーの、♀モンクを一蹴したあの凶悪なまでの強さを思い返し、ひややかな汗をかいた。
いくら自分たちGMが制御装置の影響を受けていないとはいっても、
残影を駆使してきた♀モンクに対してあれほど余裕のある対応をとれたのは、ひとえにGMジョーカーの実力と言える。
1対1で戦っても勝てない。それだけはどうしようもない事実として認識していた。もちろん歯噛みするほどくやしかった。
無反応なGM橘をつまらないと思ったのか、それとも別の思慮があるのか、GMジョーカーはようやく返答した。
「どうしたらよいと思います?」
GM橘はあやうく癇癪を起こすところだった。
さんざんに人を待たせたあげく、質問に質問で返してくるのだから性質が悪いことこの上ない。
人を怒らせて、本音をさらけ出させようという考えが見え見えなだけに、腹立たしかった。
このまま返事をしたのでは声が震えてしまうので、GM橘はとりあえず眼鏡をはずした。
レンズの汚れを拭くことで、落ち着きなおそうと考えたのだ。
当たり前だが、レンズは汚れてなどいない。几帳面な彼は、レンズをいつも一滴の曇りもない状態に保っていた。
GMジョーカーはにやにやと顔だけで笑っていた。GM橘は眼鏡をかけなおした。
「私は、彼女たちはそのままにしておいた方が良いと考えます。
ひとつの理由は、彼女たちが盗聴に気がついていないことです。
なにかを企んだところですべて筒抜けですから、今は放置しておいて問題ないでしょう。
逆にそのおかげで他の参加者の嘘を見抜けるかもしれません」
「とすると、参加者の一部は盗聴に気がついていると考えているわけですか?」
「♂セージあたりが気がつく可能性はじゅうぶんにあると思われます。
なにしろ家系的にも優れた血を持っているようですから」
眼鏡越しのGM橘の視線がGMジョーカーを鋭く刺した。GMジョーカーはあいかわらずのうすら笑いを浮かべた。
「そしてもうひとつの理由ですが、いたずらに制裁を加えることは、女王陛下の楽しみを削いでしまうのではないかと危惧しました。
せっかくここまで順調に進んでいるのですから、最後のひとりになるまで、できればなにもせず見守りたいというのが私の考えです」
話を聞き終えて、GMジョーカーは小さく拍手をした。顔はよろこびに歪んでいる。
「すばらしい。あなたの考えは、私とまったく同じものです。実にすばらしい。はなまるをあげましょう」
GMジョーカーは立ち上がり、その場でくるりと回転した。手のひらを顔の前で合わせて、いまにも踊り出しそうな陽気さだ。
「そうです、大切なのはいかに滞りなくこのゲームを進めるかということです。
したがって私たちは、どうしようもなくなるぎりぎりのところまで手を出してはいけません。
もちろん細工をするなんていうのは、もってのほかです」
「細工の疑いがあるのですか?」
GM橘の反応にGMジョーカーは首を振った。
「いえいえ、そのような様子は今のところ見られません。ただ、今後起こらないとも限りませんのでね。釘を刺しておくに越したことはないということです。
間違っても故意に誰かを勝たせようなどとしてはいけませんよ」
いやらしい笑みを作ってGMジョーカーはくつくつと笑った。
その様子にGM橘は、自分の企みがGMジョーカーに、すでに嗅ぎ取られていることを確信した。
心音が、目の前の男に怯えるように高鳴った。どうすれば良いか、考え付かなかった。
「肝に銘じておきます」
そう言うのがやっとだった。
逃げ出すように退室したGM橘を見送り、GMジョーカーは笑いの仮面をはずした。ひとりの時間には必要ないからだ。
「橘もなかなか辛抱強い。ですが、これで嫌でも動かざるをえないでしょう。さて、共謀者は誰でしょうね」
氷のように冷たい目をして、GMジョーカーは机の上に転がっていたダーツの矢をひとつ取り、投げ放った。
矢はすとんと音を立てて、壁に突き刺さった。
壁には参加者の名簿が貼られており、GMジョーカーが放った矢は♂騎士のところに突き刺さっていた。
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215.狂気の瞳 [2日目 丑三つ時]
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人には縁というものがある。出会いも別れも、人と人とがつづきあっているからこそ生まれる。
あるものはそれを偶然とし、またあるものはそれを必然とした。
それもそうだろう。この広い世界では、たとえ天寿をまっとうできたとしても、生涯に出会うことのできる人数など知れている。
出会いを縁と呼ばずして、なんと呼ぶことができるだろうか。
偶然であろうと必然であろうと、そんなことは関係ない。ただ出会ったことに、意味があるのだ。
では彼と彼との再会にもまた、なんらかの意味があるのだろうか。
◇ ◇ ◇
傷だらけの男───♂クルセイダーは近づいてくる足音に、笑いだしたくなる気持ちを抑えた。
日が落ちてから、すでにかなりの時間が過ぎている。自分の手足が動かせるまでに回復したことから考えても、それはわかっていた。
それでもオートバーサークの反動からか、肉体は万全という状態からは程遠かった。だからこそ♂クルセイダーは、森に身を隠していた。
そこへ♂クルセイダーの事情など知る由もなく、何者かが近づいてきたのである。♂クルセイダーはこれを好機と捉えた。
日中ですら薄暗い森の中である。まして今は月と星の明かりがわずかに差しこむだけの夜。音がなければ相手の存在に気づけるはずもない。
当然♂クルセイダーは、わずかの音も立てなかった。息を殺して不意打ちの機会をうかがっていた。
足音が、相手がたった一人であることを教えてくれた。
その相手が自分のすぐ脇を通り抜けようとしたところで、♂クルセイダーは意を決した。
わずかの躊躇もせず、すばやい動作でシミターの刃を暗闇へ刺しこんだ。とても傷を抱えた男とは思えない、見事な動きだった。
とうてい避けようのない一撃だった。
♂クルセイダーは、自分の一刀をかわされたことが、にわかには信じられなかった。
潜んでいることを感づかれた覚えはない。反応できるはずもない。はっきりと殺せたと思っていた。
しかし、現実は違っていた。
相手は♂クルセイダーが襲いかかったまさにその瞬間、まるで獣のように殺意を感じとり、即座に横とびしたのだ。
♂クルセイダーの剣は空を切り、襲撃は結果として失敗に終わった。
こうなると不利なのは♂クルセイダーの方だった。
怪我のせいで余力は乏しい。1対1とはいえ、苦戦は必死である。
初太刀を外すとは夢にも思っていなかった彼は、やむを得ずに相手の出かたをうかがった。
相手は背格好からして、男だった。刀剣を構えた姿勢から、剣士騎士のたぐいであることがわかった。
まっすぐで綺麗な構えだった。
「生きて、いたのか?」
こぼした♂クルセイダーの声に、男はぴくりと反応した。
顔は見えなかったが、♂クルセイダーは、やはりあの♂騎士だろうと思った。
それにしてはすさまじい回復である。
♂クルセイダーが知っている彼は、およそ一日で回復できるような傷ではなかった。
先ほどの動きにしても尋常なものではない。
疑問はつきなかったが、♂クルセイダーはさらに声をかけた。
「♂ケミはどうした? なぜひとりでいる。おまえは人をまもる騎士だろう」
おそらく♂騎士であろうその男は、なにも答えなかった。
「そうか、ではまもれなかったのだな。つまりおまえも、騎士にはなりきれなかった男というわけだ。俺と同じだな」
苦笑する声が洩れた。男に失望したのかもしれなかった。
男なら自分とは違う道を、騎士としての道を貫いてくれると信じていたのかもしれない。いや、信じたかったのだろう。
神を否定し、醜く生きるしかない自分とは違う世界で、男が騎士として死ねることをうらやましいとさえ思っていた。
うらやましかった。
───自分には二度と手に入らないものだったから
「・・・・・・ぁ・・・・・・・ぉ・・・・・・」
男の声がかすかに聞こえた。力ない、いまにも力尽きて倒れてしまいそうな、かぼそい声だった。
反して剣をにぎる構えには力が溢れていた。隙らしい隙も、微塵も見当たらなかった。声と姿勢がつり合っていないように思えた。
死にたいのに死ねない、アンデッドのような魔物とどこか重なる気がした。
男のただならない様子に、♂クルセイダーは背筋が寒くなったのを感じた。
久しく感じたことのない恐怖というものだった。
「どうした? 俺がわからないわけでもあるまい。それとも、友の死に正気を失ったとでも言うのか?」
言葉を口にして、♂クルセイダーは一歩後ろに下がった。意識して足を動かしたつもりはなかったが、本能がそうさせた。
気がつけば声を荒げていた。
「こたえろ! ♂騎士。おまえはどうしてここにいる!」
男は変わらず、ぼそぼそと口ごもるようになにかを喋った。
しかし♂クルセイダーは耳を澄ませ、今度ははっきりと聞いた。
「・・・・・・・だれだ?・・・・・・おまえ?・・・・・・」
冷や汗が背中をだらりと流れたのを感じながら、♂クルセイダーは目を凝らし、暗闇の中にいる男の顔を懸命に見た。
ぎらりと男の目がきらめいたのを見てとって、大きく後方へ跳んだ。
伝わってきたのはとてつもない殺意だった。
その瞳は血のように鮮やかな赤色で、♂クルセイダーを映していた。
人が持つ瞳のかがやきではなかった。
<♂クルセイダー>
現在地:E-4
髪型:csm:4j0h70g2
所持品:S2ブレストシミター(亀将軍挿し)
状態:左目の光を失う 脇腹に深い傷 背に刺し傷を負う 焼け爛れた左半身
オートバーサークによる反動
<♂騎士>
現在地:E-4
所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個
外 見:虚ろな赤い瞳
状 態:痛覚を完全に失う、体力は半分ほど、個体認識異常(♂ケミ以外)、精神不安定
備 考:GMの暗示に抵抗しようとするも影響中、混乱して♂ケミを殺害
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