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224.目覚め [2日目深夜] ---- サラサラサラサラ 草の擦れ合う音がする中、くるぶしまで届くような丈の草原をゆっくり南下する。 月明かりがあるとはいえ、見える範囲は決して広くない。 足音がするような歩き方をしないとはいえ、ここまでの長さに成長した雑草を相手に忍足をするほうが無理だというものだ。 それゆえに彼は、その囁き声に気付くのに遅れてしまった。 あるいは、拍子抜けのあまり気が緩んでいたのかも知れない。 しかし、彼はエキスパートだった。 次の瞬間、背負っていたクロスボウを素早く構えた。 その獰猛な笑みとともに。 ♂スパノビは意を決して♀BSの肩をそっと揺さぶった。 「ん・・・・?」 疲労していたとはいえ、不覚にも眠っていたようだった。 「ど・・・」 しゃべりかけた♀BSに対し♂スパノビは必死の形相で首を振り、ある方向を指差す。 様子がおかしい。 ♀BSは♂スパノビの指差す方向を凝視してみた。 自分のへし折った炎の槍のかすかな光の向こうに何者かが動く影。 「おで・・・怖い」 ♂スパノビは体を動かさず、♀BSに囁いた。 こんな時刻に単独で動く人間。身こなしを見る限り盗賊あがりだろう。そして、♂スパノビの怯え。 結論は一つ。あそこにいるのは、仲間を傷つける可能性のある、敵だ。 その瞬間、♀BSは眠気が吹き飛ぶのを感じた。そして、素早く頭を回転させる。 「相手は1人、こっちは2人いる。いくら向こうが手練れでも同時に畳み掛ければ十分に勝機はあるはずだよ」 トーンを落とした声で♀BSは言う。 「あたいが先陣をきるからあんたはフォローを」 「わかっだ」 ♂スパノビは言われるがまま頷く。 「相手は1人・・・あいつをやるよ!」 ♀BSの自分に言い聞かすような言葉は図らずも、♂スパノビのどこかにスイッチを入れてしまった。 「ぼずの命令・・・あいつを、やる」 二人は音もなく立ち上がる。かたや闘将のごとく。かたや幽鬼のごとく。 自分の勘が正しいことは即座に証明された。 背後の、それほど遠いわけでもない場所から立ち上がる2つの影を見付けたからだ。 「気を緩めた瞬間に急襲ってかぁ。面白い」 ♂ローグは即座に相手の戦力を分析する。 ぱっと見る限りは2人である。 ほかにも伏せている可能性がないわけではないが、回り込まれた可能性は皆無だ。 油断していたとはいえ、警戒していたのは事実である。 また、自分の足音すら隠し切れない草原、遠くまで見通せない薄暗さでは狙撃の可能性も限りなく低い。 「おいおい、思ったより無謀だなあいつら。なにか奥の手でもあんのか?」 独りごちる♂ローグに向かって影の片方が間合いを詰めるように走り出した。 「ち、前衛と後衛か?だが!」 手元にあるのは準備されたクロスボウ。 ほんの一呼吸ほどで詰まるほどの間合い、が逆にその距離だからこそ必殺の一撃にもなりうる。 限界まで張られた弦が高い音とともに矢を弾き出す。 打ち合わせ通り走り出した♀BSの背中を見ながら、立ち尽くす。 頭の中でこだまする教官の声。 ”お前、もしかして生まれつきのバトルオーダートリッパーか?” そして♀BSの言葉。 ”あいつをやるよ!” そのとき、彼の体は意思とは裏腹に外部の状況に反応していた。 ♀BSの反応は早かった。 立ち上がり、向こうの影が弓を構えていると知った途端走り出した。 扱いやすく力のないものでも強烈な一撃を繰り出すことができる石弓。 完全に接近してしまわないと安心できるものではない。 しかし、♀BSが♂ローグの顔の傷を確認できる場所に到達した瞬間、矢は放たれた。 彼女ではなく、その背後に立ち尽くす♂スパノビにめがけて。 「しまっ」 ゴゥ! ♂スパノビの足元から細い枯葉が舞い上がる。 矢の風切り音はその音に飲み込また。影に揺らいだ気配はない。 「ニューマだと?」 しかし、遠くに構ってられるほどの余裕はない。 目前にせまったワイルドな女、♀BSが手に持った斧を振りかぶったからだ。 「ちっ」 素早くバックステップをし、距離を取る。 空ぶった斧を既に構えなおし再び間合いを詰めようとする♀BSが見える。 精神集中を行い、気配を絶つ。 ターゲットを見失った♀BSはしばし逡巡するが、後ろも見ずに叫ぶ。 「♂スパノビ、ルアフを!」 返事もなく後ろの影は青白い光の玉を纏い、♀BSに走り寄る。 トンネルドライブを行使し、矢をつがえながら回り込もうとしていた♂ローグは舌打ちする。 「思った以上に厄介だな」 すばやく姿をあらわし、今度は♀BSめがけて矢を放つ。 しかし、先ほどと同じく♂スパノビはそれに反応しニューマを行使する。 二人は背中合わせになり、♂ローグの襲撃に備え始めた。 闇を切り裂き矢が飛来する。 常人とは思えない反応でそれにあわせてニューマをはる♂スパノビ。 その体躯を守るように青白い光が絶え間なく旋回している。 島に来る前に見たニューマとは比べ物にならないほどのお粗末なものだったが矢の狙いが定まらないのか致命的な1撃はいまのところない。 しかし、矢はニューマの切れ目に飛んでくることもあれば、気が緩みそうになる瞬間に飛んでくることもあった。 そのタイミングに規則性はなく、ニューマで防いではいるものの完全ではなくこちらにダメージを蓄積させている。 このまま、防戦が続けばいずれはこちらがやられてしまうだろう。しかし、向こうも焦れてきているはずだ。 お互い決定打に欠ける状態、忍耐や精神力を要求されてると言える。 相手が決着に向けて動き出せば、あるいは疲労によるゆらぎがあれば、その隙に勝機を見出せる。 「あたいらは、まだ負けてないよ」 再び足もとから上昇気流が巻き起こる。体のワキを矢が掠めていく。 もう何度この繰り返しを行っただろうか・・・。 そっと背後を見てみると無表情な♂スパノビの横顔が見える。頬に矢傷があるものの、その顔に疲労の色はない。 スパノビの精神力の脆弱さは有名なくらいである。 精神集中を要する単調作業にこれだけの時間もったことの方が驚嘆に値するだろう。 「粘るな・・・」 姿を隠せる分圧倒的に分があるが、人数の差は埋めがたい。 2人で動かず防戦に徹しているということは、この場に他の仲間はいないというだろう。 もしくは・・・援軍待ちの可能性もある。 あまり長引かせるのも得策ではない。 矢にも限りがある。あまり無駄弾を撃つほど余裕があるとはいえない。 ましてや、今夜の内に出来うる限り障害はなくしておきたいのである。 そのためにも遠近で攻める手段を手放すわけにはいかない。 ならば・・・。 ルアフの効果が切れたとき。その時が狙い目だ。 魔法は同時には行使できない。ニューマとルアフの一瞬の隙をつく。 この意図された膠着はその狙いを誤魔化すためのブラフでもある。 狙いに気づかれることはまずないだろう。 もちろん、矢傷によって倒れることが理想的ではあったが。 視界の中で草原に舞う草がなくなる。 もう少しだ・・・・。 じりじりと移動をしながら狙いをつける。これまでの数回も、ニューマがなければ致命傷になるように狙ってきた。 周囲を明るく照らす、青白い光が消える。 いきなり暗くなったせいで視界が闇に包まれる。 しかし、体はそれとは関係なく動く。 直前の狙いそのままに素早く矢を放つと同時にクロスボウを投げ捨てる。 腰に吊るしてあったポイズンナイフを構え、矢の命中も確認せず一気に走り出す。 目が闇に慣れていなかろうと淀みのない動き。 「本当の殺し合いはこれからだぜ!」 ふっと闇が押し寄せる。 風が舞い上がる気配。 そして、衝撃。 上下感覚がなくりなり、自分が立っているかどうかも判別できない。 地面がぐらぐら揺れているように感じる。 今度は閃光。 そばで剣戟が聞こえる。 ♂スパノビが応戦しているのだろう。 あれだけ怯えていたのが嘘のような攻防である。 ♀BSは、そこでようやく自分が倒れ伏してるのに気付いた。 青白い光に照らされて4本の足が少し向こうで踊っているように見える。 1対1では不利だ。ましてや、相手はここまで一人で生き残ってきたであろう人間だ。 起き上がろうと体を動かすと左の脇腹に鋭い痛みが走る。 左の下半身もしびれがある。 しかし、このままじゃ仲間に出会うどころかむざむざ二人ともやられてしまうだけだ。 そう思うと再び闘争本能に火が点くのを感じる。痛みも忘れることができる。 倒れても手から離すことのなかった斧を杖代わりに、争いあう男たちの傍らに立ち上がる。 <♂ローグ> 現在地:F-6 所持品:ポイズンナイフ クロスボウ(地面に打ち捨てられている) 望遠鏡 寄生虫の卵入り保存食×2 未開封青箱 外 見:片目に大きな古傷 備 考:殺人快楽至上主義 GMと多少のコンタクト有、自分を騙したGMジョーカーも殺す なるべく2人組を狙う 状 態:全身に軽い切り傷 <♀BS> 現在地:F-6 所持品:ツーハンドアックス 古いカード帖 外 見:むちむち カートはない 備 考:ボス 筋肉娘 覚悟完了 状 態:負傷箇所に痛みが残る。軽度の火傷。複数の矢傷。左脇腹に裂傷。毒? <♂スパノビ> 現在地:F-6 所持品:スティレット ガード ほお紅 装飾用ひまわり 外 見:巨漢 超強面だが頭が悪い 備 考:BOT症状は発現? 状 態:HPレッドゾーン? ・ニューマ ・ルアフ ---- | [[戻る>2-224]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-226]] |
225.悪魔との対話 [2日目深夜] ---- 「ふむ」 長い呪文を唱え終わった♂Wizは無感動な吐息をもらす。 デビルチがその顔を見上げた。 「どウした主人ヨ」 「やはり♂マジの反応は得られません」 どうやら探知魔法だったらしい。デビルチにすくめる肩はないので短い両手だけをひょいと広げてみせた。 「マあ死んダと放送さレてオったからナ」 「探知しやすそうな人は限られますし、どうせならもう少し実験に付き合って欲しかったですねえ」 ♂Wizはかなり身勝手な感想をつぶやく。 それには答えずデビルチは槍の切っ先を振り立てて尋ねた。 「ソれがどうカしたノか?今ハ次の手を考えルベきであロう?」 「ふむ。その通りです。が」 ♂マジが死んだということは、おそらくそちらにマーダーが居たという意味になる。 問題はいつごろ死んだかよく分からないことだ。 ♀Wizと戦ったのが夕刻。 それ以降は連戦とそれに次ぐ移動で探知することなどすっかり忘れていた。 最後の探知直後に殺されたとすればもちろん、放送直前に殺されたのだとしてもすでに数時間経っていることになる。 マーダーの現在地を探る手段としての意味は失われてしまった。 ならば 「彼の死体を探してみましょう」 「なぜダ?マさか墓ヲ作ってヤるなドと言い出す気デはあるまイな」 彼の言葉にデビルチがあからさまな懸念を示す。 ♂Wizは苦笑と不愉快の中間に位置する表情を作った。 「確かにまさかですね。私を何だと思ってるのですかデビルチ」 「強いモノほど一敗地にマみれるとトたんニ覇気を失うコとがアると聞いたゾ」 「ふむ、なるほど」 彼はデビルチの闇色の体に浮かぶ白い目を見据えた。 「今は戦いを求める気がないという意味ではその通りかも知れませんね」 「ナヌ」 デビルチはその手の槍を構える。 「そレは困る。契約ヲ違エる気か」 「おや。私とやり合う気ですか?」 答えて冷たい笑みを浮かべる♂Wiz。 一瞬の対峙後デビルチの腰が引けた。 「そンなツもりはなイが」 「冗談です」 ♂Wizは表情を消して歩き出す。 仕方なく従うデビルチに対し彼は背中ごしに語った。 「今は、と言うのは朝までの話ですよ。視界の良くないこの時間は接近戦能力に長けた者に有利ですし、連戦で気力を消耗しましたからね」 「…オどかすナ主人ヨ」 デビルチは心中胸をなで下ろした。 「その意味で隘路になっているこの位置はよくありません。だから少なくとも移動する必要があるのですよ」 「アいろ?」 「狭い道のことです。このE-6は島の南北をつなぐ唯一の通路ですし、ここを通る人は禁止区域を避けて比較的中央へ寄るはずです。つまり見た目以上に範囲は狭く、夜中でも誰かと遭遇する可能性を無視できません」 「ふム。コこを離れるべキ理由はワかった。だガいいのカ?♂マジの近くにハ汝にトっても危険ナ殺人者がおるのデはないイのカ?」 デビルチは指摘する。 力量に差はあっても魔法を主な戦闘手段とする点で♂マジと♂Wizはよく似ている。 つまり♂マジを真っ向勝負で倒せるのであれば♂Wizにとっても強敵である可能性が高い。 ♂Wizは首を振った。 「おそらく彼を殺した誰かはもうその近くに居ません」 「ナぜそウ思うのダ?」 「単純な心理です。マーダーであれば次の犠牲者を探すために移動するでしょうし、そうでない者が殺してしまったのなら一刻も早くその場を逃げだしたいと思うでしょう」 「そうイうものカ」 「ええ。普通の人は」 彼はデビルチにうなずき返し、そして軽く首を傾げる。 「もしかしてあなたはまだ地上に出て日が浅いか、あるいは生まれて間がないのではありませんか?」 「キくナ」 デビルチはそっぽを向いた。 ♂マジの死体は意外にあっさり見つかった。 彼が最後に向かった方角からほとんどずれていなかった上に素っ裸で倒れていたためである。 「こ奴ハ何を考エて脱いダノだ?噂に聞ク『ろしゅツきょ』トかいう奴カ?」 槍の先で死体をつつきながらデビルチが愉快そうに尋ねる。 ♂Wizは首を振った。 「いかに彼が変人でも、自分で脱いだとは考えにくいですね。殺害者が何か隠していないか調べたか、あるいは殺害手段をごまかすためにやったのではないでしょうか」 「ナんだツマらン」 不満そうなデビルチを横目に彼は♂マジの体をざっと調べた。 体に大きな傷はない。 少なくとも多量の出血はみられず、むしろ焦げ臭い匂いが目立つ。 「ドうなノだ?」 「おそらく死因は魔法によるものですね。それも外傷の小ささから見て電撃系です」 暗くてはっきりしませんが、と彼はつぶやいた。 「ただ…ふむ」 「どうシた主人ヨ」 「残った魔法使いの内、♀Wizと♂セージは島の北西にいました。となると残るのは♀マジだけ」 「こ奴ガ探しテおった者だナ」 「彼女に殺されたのでしょうかねえ。いささか驚きです」 ♂マジと♀マジの言動を思い返して彼は首を傾げる。 どちらもそれなりに見所のある頭脳の持ち主だったが、目的のため他者を犠牲にするだけの思い切りには欠けていたように思う。 納得できない様子の彼をデビルチが横目に見上げた。 「他に魔法ガ使える者はオらヌのか?電撃なラば我も使えるゾ?」 「――なるほど。そう言えばあなたやジルタスの例もありましたか。…他に電撃を使うモンスターと言うと風の悪霊や梟の悪魔、洛陽の猫人に…女王蜂もですか」 他にもまだ居たような気がしますねえ、と♂Wizは頭を振りデビルチに視線をやった。 「あなたに心当たりはありませんか?」 「知らヌ。我は箱ニ入れらレておっタのだゾ」 「ふむ」 彼はあごに手を当てて考え込む。 しかしすぐに首を振った。 何者の仕業か断定するにはあまりにも証拠が足りない。 「今のところ誰がやったとも言い切れませんね。明るくなったらもう一度よく調べてみましょう」 彼そう言って手近な木の下に乾いた場所を見つけ座り込んだ。 デビルチがちょこちょこ駆け寄ってくる。 「朝までココにとどマるのカ?」 ♂Wizは左腕の傷に応急処置をほどこし、木の幹に背を預けた。 「ええ。大魔法も使いましたしさすがに疲れました。見張りを頼みます」 「心得タ」 目をつぶる♂Wizへ敬礼するようにデビルチは槍を傾けた。 <♂Wiz> 位 置:E-6→E-7 装 備:コンバットナイフ 片目眼鏡 とんがり帽子    レッドジェムストーン1つ 血まみれのs1フード 外 見:黒髪 土気色肌 スキル:サイト サイトラッシャー ファイアーピラー クァグマイア    ファイアーウォール フロストダイバー アイスウォール モンスター情報    ストームガスト メテオストーム ソウルストライク ファイアーボール 備 考:「研究」のため他者を殺害 丁寧口調 マッド    デビルチと主従契約 軽度の火傷 左腕に刺し傷 ♂セージに対する敗北感 <デビルチ> 位 置:E-6→E-7 所持品:+10スティックキャンディ トライデント(デビルチ用) 備 考:悪魔 ♂WIZと主従契約 <残り24名> ---- | [[戻る>2-224]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-226]] |

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