「2-233」(2006/08/09 (水) 17:11:28) の最新版変更点
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232.迷いの森 [2日目夜]
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光の届かない夜の森を男は歩いていた。
手の届く距離ですら目を凝らさなければ見えないほどである。足取りは慎重だった。
つま先をゆっくりと前に伸ばし、そろりと地面につける。進めた足に体重を預けるのにじゅうぶんな感触を確認して、次の足を送る。
一歩、また一歩と繰り返し、道なき森を歩いていた。
男はこの森をできるだけ早く抜けたかった。
D-6まで移動して、自らの手で殺めてしまった♂ケミを少しでも早く弔ってやりたい。
その思いが、本来であれば動くべきではないはずの夜の森をひた歩く原動力となっていた。
他人が聞けば、自分で殺しておいて何をいまさら? と男に侮蔑の眼差しをそそいだかもしれない。
だが♂ケミを弔うという行為が、男には───♂騎士にはどうしても必要だった。
♂ケミを埋葬することで自分が背負った友殺しという罪と真正面から向き合う。
そうしなければ彼は前に進むことができないのだ。
それは肉体的な意味ではない、心がである。
殺される。死にたくない。気がつけば殺していた。
相方としてかけがえのない存在であったはずの♀プリも、友としてかけがえのない存在になってくれるはずだった♂ケミも、自分が殺してしまった。
ただ生きていたい。目の前にいる彼らがおそろしい。それだけの理由で殺してしまったのだ。
まったくの被害妄想だった。疑心暗鬼にとりつかれたとしか考えられなかった。
いずれのときも♂騎士を襲ったのは、狂おしいまでの脅迫観念だった。
不安を、焦燥を、恐怖を抑えることができず、黒い衝動が心に満ちあふれた。
殺さなければ、殺される。だから殺した。
しかし実際には♀プリも♂ケミも、♂騎士に対する殺意など、ただのひとかけらも持ち合わせてはいなかった。
おそらく彼らは最後まで、どうして自分が殺されなければならなかったのか理解できずに死んでいったに違いない。
信頼していたものに殺されたという絶望を胸に抱いて、彼らは死んだのだ。
いや、もしかすると♂騎士に刺されたときですら、彼らは自分たちの方にこそ悲があったのではないかと思い悩んだかもしれない。
それほどに心根のやさしいものたちだった。
そんな彼らの命を奪っておいて自分だけがのうのうと生きている。
許されていいはずがなかった。地獄の底に落ちるべきだと断言できた。
けれどそれは今ではない。今は死ぬときではない。どうせ死ぬのなら、この島で救うことのできるものたちのために身を粉にし、すべてを終わらせたあとに死ぬべきた。
すべてを終わらせてから、騎士として死ぬべきだ。
しかし、ほんとうにそれが自分の望みなのだろうか?
♂騎士は歩みを止めた。
先の接触のおり、♂クルセイダーは♂騎士に言った。
「弱い奴は、強くなれるまで悩み続けていればいい。望む生き方を見つけられるかどうかはお前次第だ」と。
果たして自分にとっての望む生き方とは、いったいどのようなものなのだろう。
ため息が洩れた。
死にたくない。命を手放すことなんてできないと泣き叫ぶ自分。
泥水をすすってでも生きていたいと強く願う自分。がむしゃらに生にしがみつこうとする自分。
心の奥底には確かに、あきれるほどに生を望む自分がいた。
なんと情けなくて、なんと無様な騎士だろう。これでは欲望のままに生きているローグとなにも変わりはしない。
いや、ローグよりもはるかに性質が悪い。
心を預けてくれたものを疑って殺し、魔が差したんだと言いわけをして弔う。それでいて善人ぶった顔をして仲間に取り入り、また殺すのだ。
それも生きたいという本能だけで。
こんな自分は騎士ではない。もしかすると人ですらないのかもしれない。
心はとっくに悪魔によって食い散らかされ、彼らの良いように操られているのではないだろうか。
♂騎士は頭を抱え唸った。
騎士として生き死ぬこと。悪魔に魂を売ってでも生き延びること。自分はいったいどちらを望んでいるのだろう。
♂ケミを弔ってやりたいのは罪と向かい合い騎士として前に進みたいからなのか。それとも罪から少しでも逃れたいだけなのか。
どろどろの思考に目まいがして、♂騎士は身近な木に体を預けた。
心が悲鳴をあげていた。
♂ケミを弔うというのは、彼に詫びようとする心からの気持ちであるはずだった。
自分がしでかしたことを厳粛に受け止め、それでも生きていくために必要なことだと思っていた。
違う。気づいてしまった。
なんのことはない。自分は死にたくないだけのだ。それでいて人を殺したくもないのだとはっきり自覚した。
できるかぎり罪悪を犯すことなく、さらに生き残りたい。
乾いた笑いがこぼれた。
生き残りたい、殺しもしたくないなどとは二人も殺しておいて言えた台詞ではない。
臆病で、卑怯で、矮小で、身勝手で、憐れとしか言いようがなかった。
とんでもない騎士もいたものだと自身を揶揄した。
顔を伏せ、泣くように両手をのぞきこんだ。
愛した人たちの血に染まった両手が、犯した罪の重さに震えていた。
醜い手だった。どこまでも醜く、汚らわしい。唾棄すべき手だった。
その手で顔を覆い、言ってはならない願いを口にした。
「生きたい……」
自分は騎士ではない。認めるしかなかった。
慕ってくれた人を手にかけておきながら贖罪もせず、自らの生を懇願することなど騎士にあるまじき行為である。
殺したくない。殺されたくもない。
欲張りな自分に、あきれかえって苦笑した。
この自分の感情を、ありのままを♂プリに伝えたら、彼はなんと言うだろう。
♂ケミを殺したことはすまなかったと思う。それでも俺は生きたい。そう伝えたら彼はどんな顔をするのだろう。
寝言を言うなと怒るのだろうか。そのていどの男だったかと鼻で笑うのだろうか。
それとも、あの豪胆な笑顔で、力をあわせて一緒に生き抜こうと受け止めてくれるのだろうか。
騎士である前に人間。♂騎士は、そう言ってくれた彼の言葉を今更ながらに思い返していた。
顔をあげた♂騎士は再び夜の森を歩きはじめた。D-6にたどり着くために。♂ケミを弔うために。
そして、自分と同じように生きることをあきらめない仲間と、ともに生き残るために。
精いっぱい生きようと思った。
たとえ自分が許されることのない罪人だとしても、殺してしまった彼らの分まで精いっぱい生きようと。
決意の瞳が赤く燃えていた。
<♂騎士>
現在地:D-4→D-6を目指す
所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個
外 見:深い赤の瞳
状 態:痛覚を完全に失う、体力は半分ほど、個体認識異常(♂ケミ以外)正気を保ってはいるが、未だ不安定
♂ケミを殺してしまった心の傷から、人間を殺すことを躊躇う それでも生きたいと思う自分をあきれながらも認める。
備 考:GMの暗示に抵抗しようとするも影響中、混乱して♂ケミを殺害 体と心の異常を自覚する
♂ケミのところに戻り、できるなら弔いたい
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233.大自然の呼び声 [3日目未明]
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ずびし。
♂セージの脳天に鋭いチョップが入った。
「ついてこないで」
♀商人は冷たく言う。
「そうは言ってもですね」
♂セージは眠そうに目をしばたかせつつ抗弁した。
「やはり1人になるのはよくありませんよ」
「すぐに戻るってば」
彼女はいらだたしげに男を押し戻す。
ただし寝ている仲間を起こさないように小声で。
「しかし排泄中は最も無防備になる瞬間のひと・・・ぶっ」
言葉の途中で靴を投げつけられ♂セージは倒れた。
投げつけた姿勢のまま♂商人は肩を怒らせ荒い息を吐く。
「分かってるなら来るなっ!」
要するに見張り番の最中にトイレへ行きたくなったのだ。
彼女は投げつけた靴を拾って木立に入る。
「いい?絶対にこないでね」
「仕方ありませんね。声の届く範囲にいて下さい」
♂セージは倒れたまま答えた。
「まったく。もーちょっとデリカシーあれば完璧なのになあ」
ぶつぶつ言いながら♀商人は藪をかきわける。
結局、彼女はかなり奥まで分け入っていた。
声が届く距離では音も聞こえてしまうかも知れない。
乙女の恥じらいのなせるわざである。
「・・・・・・」
♀商人は来た方向を振り返った。
そろそろ東の空も白み始める時刻とは言え、木立の中はまだまだ闇に等しい。
視線も気配も届かないのを確認して彼女はしゃがみ込んだ。
※♀商人のお願い。目と耳をふさいでてね※
数分後。彼女は顔を上げた。
かすかな葉擦れの音。
まっすぐに近付いてくる。
彼女は慌てて服を整え、靴を脱いだ。
やがて目前まで迫った気配の顔のあたりを狙って叩きつける。
「天誅!」
「うおっ!?」
彼は大げさに飛び退いた。
「んもう、来ちゃ駄目っていったでしょ!」
仲間からは充分離れているので今度は気兼ねなく声を張り上げる。
「・・・そりゃまあ心配してくれるのは嬉しいけど・・・」
一方、彼は左腰に手をやって用心深く問いかけてきた。
「何者だ?」
その言葉でやっと♀商人はおかしさに気付く。
なんだか♂セージと様子が違う。
「ええっと、誰?」
「・・・♂騎士。そっちは」
「♀商人。って、え?ええええええっ!?」
反射的に答えてから♀商人は狼狽した。
わずかな明かりに覗く真っ赤な眼。
腰の手は剣の鞘に掛かり、すでに鯉口を切っている。
♂セージは言っていた。
♂騎士は狂戦士化しているかもしれない。
ズッ、と摺り足で踏み出す音。
「来ないでっ!」
カートもゼニーも置いてきた彼女は反射的にもう片方の靴を投げた。
銀光がひらめく。
鈍い音とともに靴がたたき落とされた。
彼女は身を翻して逃げだそうとする。
だが、靴がない。
素足に石や木の根が食い込む。
「痛っ・・・くつ、靴っ」
その背を襲うかと思えた♂騎士はなぜか立ちすくんでいた。
「靴・・・?」
足元に落ちた靴と♀商人を見比べる。
「そう、靴っ。返してっ」
「・・・・・・」
無言で考え込んでいた♂騎士はやがて剣をゆっくり収めた。
そして靴を拾う。
「ほら」
靴を差し出す彼から♀商人は後ずさった。
「寄らないでっ」
怯える彼女へ♂騎士はため息混じりの悲しげな笑みを向けた。
「そっちに敵意がないらしいことは分かった。なら戦う意味はない」
そう言って靴を彼女の足元へ投げ返す。
「・・・なんで?」
♀商人は警戒しながらそれを拾い、聞き返した。
彼は答える。
「敵なら靴なんか投げない。もっと硬い物を選ぶし、裸足じゃ戦いにくい」
彼女は思わず呟いた。
「それが分かるのになんで♂ケミさんを・・・」
何も持ってなかったのに。という言葉は口の中で消えた。
♂騎士は息を飲む。
「・・・あの時居たのか」
そして寂しそうに言った。
「見えなかったんだ」
「どうして?暗かったから?」
不思議そうに聞く♀商人へ彼は首を振る。
「いや。姿は見えていた」
「でもそれが誰か、何を持ってるか、持ってないかもわからなかった」
♀商人は首を傾げ、靴を履き直した。
「この靴は見えるのに?」
♂騎士は首を縦に、そして横に振る。
「今は見えない」
「どういうこと?」
「わからない」
「・・・これはどう?」
♀商人はその大きな手袋を外して見せた。
そちらをちらりと見た♂騎士は無言で首を振る。
「じゃあ、こうしたら?」
彼女は手袋をぽんと投げ渡した。
受け取った♂騎士は何とも言えない表情を浮かべて言った。
「決闘の申し込みか?」
上流階級では手袋を叩きつけるとそう言う意味になる。
「ちーがーうー!」
両手足をじたばたさせて抗議する♀商人に彼は苦笑した。
「冗談だ。手袋だなって意味のな」
「シャレになってないからやめて」
彼女は深々と息を吐いた。
そして気を取り直し、手袋を取り返す。
「でも、やっぱり見えたんだ。私が持ってると見えないんだね」
♀商人の手元を見ていた♂騎士は、やがて大きくうなずいた。
「そういうことか」
「うん。たぶんそういうこと」
彼女もうなずき返す。
「俺は他人がちゃんと見れなくなってるんだな」
彼は深々とため息を吐き、手に顔を埋めた。
「どうして・・・」
見かねて♀商人は言った。
「GMに何かされたんじゃないかって。♂セージさんが」
「GM・・・橘や森にか?」
♂騎士は顔を上げ、すこし考え込んだ。
心当たりがあるような気もするし、ないような気もする。
一方の♀商人も首を傾げた。
「橘とか森って誰?GMって言ったらジョーカーじゃないの?」
「ああ、俺が最初に会ったのはその2人だったんだ」
彼は当然のように答えた。
♀商人も、ふうん、と相槌を打っただけで終わる。
「それより。詳しい話も聞きたいし、あいつをちゃんと弔いたい」
そう言って♂騎士は辺りを見回す。
「他の皆は?」
「ん。ちょ~っとあっちの方」
♀商人は背後の木立を示す。
「遠いのか?どうしてこんなとこに1人で・・・」
♂騎士は首を傾げながら踏み出した。
「ん?」
名状しがたい水っぽい足音。
彼は何かに気付いた様子で小さく鼻を鳴らす。
「なんだ。トイレか」
その瞬間、♀商人の顔が真っ赤に染まった。
「え・・・え・・・」
「え?」
「えんがちょ~~~~~~っ!!わ~~~~~~ん!」
「しまった!?すまん。ごめん。待ってくれ!」
泣きながら一直線に駆け去る彼女を追って♂騎士は必死に走り出した。
<♀商人>
現在地:D-6(仲間とやや離れた位置)
所持品:店売りサーベル、(以下仲間の所に置き去り)乳鉢いっぱい、カート、100万はくだらないゼニー
容 姿:金髪ツインテール(カプラWと同じ)
備 考:割と戦闘型 メマーナイトあり? ♂セージに少し特別な感情が……?
♀WIZ・♂シーフ・♂セージ・淫徒プリと同行→朝を待って♂セージ・淫徒プリと同行
♂騎士と遭遇
<♂騎士>
現在地:D-6
所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個
外 見:深い赤の瞳
状 態:痛覚を完全に失う、体力は半分ほど、個体認識異常(♂ケミ以外)正気を保ってはいるが、未だ不安定
♂ケミを殺してしまった心の傷から、人間を殺すことを躊躇う それでも生きたいと思う自分をあきれながらも認める。
備 考:GMの暗示に抵抗しようとするも影響中、混乱して♂ケミを殺害 体と心の異常を自覚する
♂ケミのところに戻り、できるなら弔いたい ♀商人と遭遇
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