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213.狼煙   先ず最初に♂ローグを出迎えたのは、拍手だった。 ♀ノービスを切り殺した時と、まるで変わらない衣装の秋菜が、進んでくる彼を見つめながら、手を叩いていた。 ぱちぱち。ぱちぱちぱち。 その周囲では、生気の無い顔をしたGM達が同じように、全く同一のリズムで手拍子を打っている。 ぱちぱち。ぱちぱちぱち。 耳障りな音だ。ローグは顔をしかめる。 塗装も無い簡素な木組みの棺を、ずるずると引きずりながら歩く彼は、秋菜の前で足を止めた。 「おめでとーございまーすっ。最後の最後であの大番狂わせ。もーっ、秋菜、惚れ惚れしちゃいましたっ♪」 「んなこたどうでもいい。とっとと、このクソ忌々しい首輪を外してくれねぇか?」 朗らかに言う秋菜に、♂ローグは窮屈そうに首輪を弄びながら続ける。 「こんなもん着けてると蒸れていけねぇよ」 「ハイハイ。秋菜、わっかりましたぁ♪」 ぴょんぴょんと、跳ねる様な足取りで女はローグに近づく。 そして、彼が引いていた棺桶を見ると、初めてそれに気づいた様な顔を見せる。 「それ、♀セージさんですかっ?」 「…ああ」 「やっぱり、人間自分が一番可愛いですもんねー 悪巧みも聞いてましたよっ♪ 君の為なら死ねる、ラヴィ!!って言っちゃったのに殺しちゃうなんて、これで漸くローグの面目躍如って感じですぅ」 「オイオイ…そりゃ俺がローグらしくなかった、ってか?」 少し、心外そうな顔で応えた♂ローグに、秋菜は満面の笑みを浮かべた。 「勿論ですよーっ。経歴や性格から言っても秋菜予想では、♂ローグさんはかなりの本命だったんですよぅ。 麻薬密売に窃盗や暴行、果ては人身密売の運び屋から請負殺人…どんどん殺しまわってもおかしくは無いですよっ 人を踏みつけ踏みつけ生き残る…そうしてたら、私だって♂BS君の小細工、こっちで解いてもよかったかもっ。 そんな極悪人なのに正直、途中までは人のいいオジサン、って感じでしたからっ」 「そいつぁ光栄だが…俺はこれでもまだ三十路前だぜ?」 「二十越えれば皆オジサンオバサンですっ、でも、わったしは永遠の十七歳っ…っと、話が逸れちゃいました、秋菜失敗っ♪」 舌を半分程出し、全く悪びれない様子で秋菜は言う。 一歩のローグは、深い溜息を付いていた。 「兎も角、そんなに♀セージさんの事好きだったんですねっ。でも、残念でしたっ。殺しちゃったらそれまでですからっ♪ でも、ま、仕方ないですよねっ、これも極悪人のローグさんが普段の悪いんですよっ。 ほーんと、♀アーチャーさんにアラームちゃんも悪い人には着いて行っちゃいけないって習わなかったんですかねっ」 ぷんぷん、と擬音付きで怒った様なポーズを女は見せた。 「コブ付きの方が騙し易いじゃねーかよ…それより首輪はどうなった?」 へっ、と笑いながら♂ローグは言う。 その言葉に、困った様な薄っぺらい表情を作ると、秋菜は目の前の♂ローグの首に手を遣った。 何か女が言葉を呟く。それから、彼女の手が動くと、皮の首輪はいともあっさりと外れた。 「よーやく取れたぜ」 コキコキと、ローグは首を回す。 それから、振り向いて棺桶を見た。 「あーっ、ダメですよっ。その棺桶はここに置いていって下さいっ。♂ローグさんが殺人罪に問われたら可哀想ですからっ」 「…ま、仕方ねぇ、な。抱く暇が無かったのは残念なんだが…死姦の趣味はねーし。捨てれるモンは、捨てちまおう」 「いい心がけですよーっ、と言いたいところですけど、ポイ捨てはちょっと感心できないかもしれませんねっ。 ゴミはゴミ箱にちゃーんと捨てて下さいっ…ま、もう箱に入っちゃってますけどねっ」 「せめてもの手向けに、♀セージにこの砦くれてやりたいんでね。俺にだって、そういう気持ちぐらいあるぜ?」 けらけらと自分の駄洒落に笑う秋菜に♂ローグは言う。 それから、一度溜息を付いて彼は言葉を吐き出した。 「…なぁ、一つだけ良いか?」 「えー」 「優勝者の特権、て奴で頼むわ、な?」 「仕方無いですねぇ…何ですっ?お任せ下さいっ、GM頑張りますっ♪」 懐から煙草を取り出し、♂ローグは火を付ける。 「──このゲームの目的ってな、一体何だ?」 「目的ですかぁ…そうですねぇ」 少し考える様な仕草。 何処まで話したものか、とでも考えているのだろうか。 知らず、表情を硬くする♂ローグを尻目に、秋菜はあっけらかんと言い放つ。 「えーいっ、出血大サービスっ。どーせ、一生関わりなんて無いですしっ、ぜーんぶ教えてあげますっ♪ ほーら、有難うって言って下さいよっ。じゃないと、プンプンしちゃいますよっ?」 「…あんがとよ」 うんうん、と満足そうに頷き、女は続ける。 「そーですねぇ。一口で言うなら…世界を変え得る者の排除、ですかっ。 ほら、私達GMは、世界を維持し守る事が使命ですからねっ。 そんな人は、徹底的に根こそぎ粉砕殺戮排除しちゃうんです。えっへん!! 殆どの人は、一回の参加で壊れちゃいますしっ。 まぁ…時には、ドッペルゲンガーさんや♀剣士さんみたいに生き残って帰れても変わらない人もいますけどっ。 そういう人は、もう一度参加してもらえばいいだけですっ♪ ま、やり方に私の趣味がたっくさん入ってる事は認めちゃいますけどねっ」 「世界を変え得る者…? 何だ、そりゃ?」 「言葉通りの意味ですよぉ。将来的に見て良くも悪くも、今の世界のバランスを崩しかねない人の事ですっ。 殆どの人はローグさんみたいにフツーの人なんですけど、何人か混じってるんですよっ。例えばアラームちゃんやDOPさん」 もー、橘さんがヘマやるからっ、と秋菜は続けた。 「…なぁ。何たって、んな事する必要があるんだよ?」 その問いに、秋菜はにこやかに、本当に幸せそうに、笑う。 眼を輝かせ、じっと♂ローグを見つめた。 それは、『自分』しか見えていない。 眩いばかりの狂気を孕んだその眼に気圧され、ローグは思わず身を引いた。 「だって私は、私を信じていますからっ。私の夢は、ずっとこの世界がこの世界のままである事。 ローグさんみたいな人じゃなければ人に殺される事も、人を殺す事も無い優しい世界。 そう…自分を信じて、努力をずっと続けていれば…夢は、何時か必ず叶いますからねっ♪」 気が狂いそうなぐらい美しい笑顔だった。不愉快そうな顔で、♂ローグは咥えていた煙草を吐き捨てる。 泥で汚れた靴で、それを踏み消した。   「そいつぁどうも──クソッタレた考えだなぁ、オイ」 「ええー、酷い、酷いですよっ」 とって付けた様な、大仰な表情で秋菜は悲しんでみせた。 「俺は手前の考えなんざ知ったこっちゃねぇし理解する気もねぇな」 「んー…ちょっぴり意外かも。♀セージさんなら兎も角、♂ローグさんならそんなに怒る事は無いって思ってたんですがっ」 「さてなぁ、どうしてだろうなぁ」 その態度に、秋菜は顔を上に向け、何かを考え始める。 しかし、それよりも早く♂ローグは口を開いた。 「それによ。お前ぇは一つ勘違いしてるぜ? ──俺はよ、まがいもんだが託されちまってるんでな」 一旦、言葉を切ると男は、秋菜に不敵な笑みを浮かべてみせる。 「──手前をブチ倒せ…ってよ」 男はもう一本煙草を取り出し口に加えた。 火打石でゆっくりと時間をかけて、火を付ける。 すっ、と唇を歪めると、笑みの形を作りながら紫煙を盛大に吐き出した。 「…ま、幸い今は私機嫌が良いですしっ、謝れば許してあげますよっ」 「誰が謝るかよ、クソ女が。それによ、奥の手ってのが俺にはあるんでな」 喜悦混じりの酷薄な笑顔が、秋菜の顔に張り付く。 顔が触れ合う程、♂ローグに近づき、囁くように言葉を放つ。 「仕方ありませんねっ。よよよ、優勝者を手にかけるのはこの秋菜、残念至極ですけど…BANしちゃいま…」 言葉を紡ぎかけた時だ。♂ローグの顔が秋菜の視界から掻き消える。 バックステップだ。一気に、秋菜との相対距離が離れていく。 ──そう。全ては生き残る為。そして全ては策の為の芝居。 彼は、飛びずさりながら、快心の笑みを浮かべていた。 ♂ローグの奥の手。それは勿論。 「クルセェェェェェェェェッ、今だっ!! やれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 男の幸運と女の不運。 それは、時間にして僅か数秒程のタイムラグだった。 ♂ローグのバックステップを認識するのに0.5秒。 彼の叫びの意味を理解するのに1秒。 そして、秋菜が振り向いた先。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 そこに居た人物の姿と絶叫を認識するのに…一秒。 僅か2.5sec。しかし、それが全てを決定した。 運命の女神は、その瞬間確かに微笑んだのだ。 「なっ…アンタはっ!!?」 秋菜が振り向いた先。そこには、棺を蹴り開けて身を起していた♀クルセイダー。 一瞬、理解が及ばなかった。だが、女の思考を超越して彼女はそこに在った。 そして、爆発寸前の光。臨界を迎えたそれは。 「グランド──クロスッ!!」 即ち──天を焼かんばかりに眩い光。 そして、それは告げる光でもある。 衝撃を伴う輝きに、秋菜とGM達の体が包まれ、彼らは身を庇いながら後ずさる。 やがて光が収まり、♀クルセが♂ローグの元に駆け寄ると、彼らを睨みながら、剣…バルムンを抜いていた。 応えるように、二人も又、各々の剣を抜き放つ。 ♂ローグが前に、♀クルセが僅か後ろに。 「ルール違反…ですねっ。これはもうBANしかないですっ♪」 呟く女の周囲には、焼け爛れた肌を見せながらも、身動ぎ一つしない生ける死者の群れ。 一方の秋菜は、彼らに身を庇わせたのか、目立った手傷は無い。 ♂ローグは、しかしツルギから片手を離すと、笑い、煙草を摘み上げる。 それから肺を一杯に満たしていた紫煙を、ゆっくりと吐き出した。 貌には、大輪の笑みを。策は、どうやらここまで成功だ。 その眼には、こちらに駆けて来るペコに跨った一騎の影。数人の姿。 彼の煙は、やがて大気に溶けて消える。 そう。希望の灯火は、煙草の朱の様にか細く。 ──しかし、戦の狼煙は高く天に上っていった。   <♂ローグ 所持品&状態変わらず 場所ヴァルキリーレルム> <♀クルセ 同上> <秋菜 所持品 バルムン 状態 ♀クルセのグランドクロスにより軽症> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[212]] | [[目次]] | [[214]] |
213.狼煙   先ず最初に♂ローグを出迎えたのは、拍手だった。 ♀ノービスを切り殺した時と、まるで変わらない衣装の秋菜が、進んでくる彼を見つめながら、手を叩いていた。 ぱちぱち。ぱちぱちぱち。 その周囲では、生気の無い顔をしたGM達が同じように、全く同一のリズムで手拍子を打っている。 ぱちぱち。ぱちぱちぱち。 耳障りな音だ。ローグは顔をしかめる。 塗装も無い簡素な木組みの棺を、ずるずると引きずりながら歩く彼は、秋菜の前で足を止めた。 「おめでとーございまーすっ。最後の最後であの大番狂わせ。もーっ、秋菜、惚れ惚れしちゃいましたっ♪」 「んなこたどうでもいい。とっとと、このクソ忌々しい首輪を外してくれねぇか?」 朗らかに言う秋菜に、♂ローグは窮屈そうに首輪を弄びながら続ける。 「こんなもん着けてると蒸れていけねぇよ」 「ハイハイ。秋菜、わっかりましたぁ♪」 ぴょんぴょんと、跳ねる様な足取りで女はローグに近づく。 そして、彼が引いていた棺桶を見ると、初めてそれに気づいた様な顔を見せる。 「それ、♀セージさんですかっ?」 「…ああ」 「やっぱり、人間自分が一番可愛いですもんねー 悪巧みも聞いてましたよっ♪ 君の為なら死ねる、ラヴィ!!って言っちゃったのに殺しちゃうなんて、これで漸くローグの面目躍如って感じですぅ」 「オイオイ…そりゃ俺がローグらしくなかった、ってか?」 少し、心外そうな顔で応えた♂ローグに、秋菜は満面の笑みを浮かべた。 「勿論ですよーっ。経歴や性格から言っても秋菜予想では、♂ローグさんはかなりの本命だったんですよぅ。 麻薬密売に窃盗や暴行、果ては人身密売の運び屋から請負殺人…どんどん殺しまわってもおかしくは無いですよっ 人を踏みつけ踏みつけ生き残る…そうしてたら、私だって♂BS君の小細工、こっちで解いてもよかったかもっ。 そんな極悪人なのに正直、途中までは人のいいオジサン、って感じでしたからっ」 「そいつぁ光栄だが…俺はこれでもまだ三十路前だぜ?」 「二十越えれば皆オジサンオバサンですっ、でも、わったしは永遠の十七歳っ…っと、話が逸れちゃいました、秋菜失敗っ♪」 舌を半分程出し、全く悪びれない様子で秋菜は言う。 一歩のローグは、深い溜息を付いていた。 「兎も角、そんなに♀セージさんの事好きだったんですねっ。でも、残念でしたっ。殺しちゃったらそれまでですからっ♪ でも、ま、仕方ないですよねっ、これも極悪人ローグさんの普段が悪いんですよっ。 ほーんと、♀アーチャーさんにアラームちゃんも悪い人には着いて行っちゃいけないって習わなかったんですかねっ」 ぷんぷん、と擬音付きで怒った様なポーズを女は見せた。 「コブ付きの方が騙し易いじゃねーかよ…それより首輪はどうなった?」 へっ、と笑いながら♂ローグは言う。 その言葉に、困った様な薄っぺらい表情を作ると、秋菜は目の前の♂ローグの首に手を遣った。 何か女が言葉を呟く。それから、彼女の手が動くと、皮の首輪はいともあっさりと外れた。 「よーやく取れたぜ」 コキコキと、ローグは首を回す。 それから、振り向いて棺桶を見た。 「あーっ、ダメですよっ。その棺桶はここに置いていって下さいっ。♂ローグさんが殺人罪に問われたら可哀想ですからっ」 「…ま、仕方ねぇ、な。抱く暇が無かったのは残念なんだが…死姦の趣味はねーし。捨てれるモンは、捨てちまおう」 「いい心がけですよーっ、と言いたいところですけど、ポイ捨てはちょっと感心できないかもしれませんねっ。 ゴミはゴミ箱にちゃーんと捨てて下さいっ…ま、もう箱に入っちゃってますけどねっ」 「せめてもの手向けに、♀セージにこの砦くれてやりたいんでね。俺にだって、そういう気持ちぐらいあるぜ?」 けらけらと自分の駄洒落に笑う秋菜に♂ローグは言う。 それから、一度溜息を付いて彼は言葉を吐き出した。 「…なぁ、一つだけ良いか?」 「えー」 「優勝者の特権、て奴で頼むわ、な?」 「仕方無いですねぇ…何ですっ?お任せ下さいっ、GM頑張りますっ♪」 懐から煙草を取り出し、♂ローグは火を付ける。 「──このゲームの目的ってな、一体何だ?」 「目的ですかぁ…そうですねぇ」 少し考える様な仕草。 何処まで話したものか、とでも考えているのだろうか。 知らず、表情を硬くする♂ローグを尻目に、秋菜はあっけらかんと言い放つ。 「えーいっ、出血大サービスっ。どーせ、一生関わりなんて無いですしっ、ぜーんぶ教えてあげますっ♪ ほーら、有難うって言って下さいよっ。じゃないと、プンプンしちゃいますよっ?」 「…あんがとよ」 うんうん、と満足そうに頷き、女は続ける。 「そーですねぇ。一口で言うなら…世界を変え得る者の排除、ですかっ。 ほら、私達GMは、世界を維持し守る事が使命ですからねっ。 そんな人は、徹底的に根こそぎ粉砕殺戮排除しちゃうんです。えっへん!! 殆どの人は、一回の参加で壊れちゃいますしっ。 まぁ…時には、ドッペルゲンガーさんや♀剣士さんみたいに生き残って帰れても変わらない人もいますけどっ。 そういう人は、もう一度参加してもらえばいいだけですっ♪ ま、やり方に私の趣味がたっくさん入ってる事は認めちゃいますけどねっ」 「世界を変え得る者…? 何だ、そりゃ?」 「言葉通りの意味ですよぉ。将来的に見て良くも悪くも、今の世界のバランスを崩しかねない人の事ですっ。 殆どの人はローグさんみたいにフツーの人なんですけど、何人か混じってるんですよっ。例えばアラームちゃんやDOPさん」 もー、橘さんがヘマやるからっ、と秋菜は続けた。 「…なぁ。何たって、んな事する必要があるんだよ?」 その問いに、秋菜はにこやかに、本当に幸せそうに、笑う。 眼を輝かせ、じっと♂ローグを見つめた。 それは、『自分』しか見えていない。 眩いばかりの狂気を孕んだその眼に気圧され、ローグは思わず身を引いた。 「だって私は、私を信じていますからっ。私の夢は、ずっとこの世界がこの世界のままである事。 ローグさんみたいな人じゃなければ人に殺される事も、人を殺す事も無い優しい世界。 そう…自分を信じて、努力をずっと続けていれば…夢は、何時か必ず叶いますからねっ♪」 気が狂いそうなぐらい美しい笑顔だった。不愉快そうな顔で、♂ローグは咥えていた煙草を吐き捨てる。 泥で汚れた靴で、それを踏み消した。   「そいつぁどうも──クソッタレた考えだなぁ、オイ」 「ええー、酷い、酷いですよっ」 とって付けた様な、大仰な表情で秋菜は悲しんでみせた。 「俺は手前の考えなんざ知ったこっちゃねぇし理解する気もねぇな」 「んー…ちょっぴり意外かも。♀セージさんなら兎も角、♂ローグさんならそんなに怒る事は無いって思ってたんですがっ」 「さてなぁ、どうしてだろうなぁ」 その態度に、秋菜は顔を上に向け、何かを考え始める。 しかし、それよりも早く♂ローグは口を開いた。 「それによ。お前ぇは一つ勘違いしてるぜ? ──俺はよ、まがいもんだが託されちまってるんでな」 一旦、言葉を切ると男は、秋菜に不敵な笑みを浮かべてみせる。 「──手前をブチ倒せ…ってよ」 男はもう一本煙草を取り出し口に加えた。 火打石でゆっくりと時間をかけて、火を付ける。 すっ、と唇を歪めると、笑みの形を作りながら紫煙を盛大に吐き出した。 「…ま、幸い今は私機嫌が良いですしっ、謝れば許してあげますよっ」 「誰が謝るかよ、クソ女が。それによ、奥の手ってのが俺にはあるんでな」 喜悦混じりの酷薄な笑顔が、秋菜の顔に張り付く。 顔が触れ合う程、♂ローグに近づき、囁くように言葉を放つ。 「仕方ありませんねっ。よよよ、優勝者を手にかけるのはこの秋菜、残念至極ですけど…BANしちゃいま…」 言葉を紡ぎかけた時だ。♂ローグの顔が秋菜の視界から掻き消える。 バックステップだ。一気に、秋菜との相対距離が離れていく。 ──そう。全ては生き残る為。そして全ては策の為の芝居。 彼は、飛びずさりながら、快心の笑みを浮かべていた。 ♂ローグの奥の手。それは勿論。 「クルセェェェェェェェェッ、今だっ!! やれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 男の幸運と女の不運。 それは、時間にして僅か数秒程のタイムラグだった。 ♂ローグのバックステップを認識するのに0.5秒。 彼の叫びの意味を理解するのに1秒。 そして、秋菜が振り向いた先。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 そこに居た人物の姿と絶叫を認識するのに…一秒。 僅か2.5sec。しかし、それが全てを決定した。 運命の女神は、その瞬間確かに微笑んだのだ。 「なっ…アンタはっ!!?」 秋菜が振り向いた先。そこには、棺を蹴り開けて身を起していた♀クルセイダー。 一瞬、理解が及ばなかった。だが、女の思考を超越して彼女はそこに在った。 そして、爆発寸前の光。臨界を迎えたそれは。 「グランド──クロスッ!!」 即ち──天を焼かんばかりに眩い光。 そして、それは告げる光でもある。 衝撃を伴う輝きに、秋菜とGM達の体が包まれ、彼らは身を庇いながら後ずさる。 やがて光が収まり、♀クルセが♂ローグの元に駆け寄ると、彼らを睨みながら、剣…バルムンを抜いていた。 応えるように、二人も又、各々の剣を抜き放つ。 ♂ローグが前に、♀クルセが僅か後ろに。 「ルール違反…ですねっ。これはもうBANしかないですっ♪」 呟く女の周囲には、焼け爛れた肌を見せながらも、身動ぎ一つしない生ける死者の群れ。 一方の秋菜は、彼らに身を庇わせたのか、目立った手傷は無い。 ♂ローグは、しかしツルギから片手を離すと、笑い、煙草を摘み上げる。 それから肺を一杯に満たしていた紫煙を、ゆっくりと吐き出した。 貌には、大輪の笑みを。策は、どうやらここまで成功だ。 その眼には、こちらに駆けて来るペコに跨った一騎の影。数人の姿。 彼の煙は、やがて大気に溶けて消える。 そう。希望の灯火は、煙草の朱の様にか細く。 ──しかし、戦の狼煙は高く天に上っていった。   <♂ローグ 所持品&状態変わらず 場所ヴァルキリーレルム> <♀クルセ 同上> <秋菜 所持品 バルムン 状態 ♀クルセのグランドクロスにより軽症> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[212]] | [[目次]] | [[214]] |

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