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251.異端ゆえに ---- 広大な草原に一人の男が佇んでいる。薄汚れたローブを纏い、顔色は死人のように青白い。 黒髪の男は、とんがり帽子と片目眼鏡はしてはいないものの、♂WIZである。 「さて・・・、そろそろ時間切れになるのですがね・・・。」 と、一人つぶやく。彼はここがどこかも、自分がどういう存在かも理解している。だから、時間になるまで、ただ待ち続けているのだが、折角だからとここの主に会うことにしていた。彼がここに来てから随分経つが、その主は一向に姿を現さない。だがそれは、彼がここに来る原因を考えれば致し方ないことだ。 「まあ、慣れない事はするな、ということですかね・・・。」 ♂WIZは何をするでもなく、ただただ待ち続けていた。 「ここは・・・。どこだろう・・・・。」 少女は気が付けば、広大な草原に立っていた。ひざの高さまである草が風にゆられている。体の一部と言ってもいい♀マジシャンの衣服は身に着けているが、真理の目隠しはいつの間にか外していたらしく、どこにもない。 彼女が周囲を見渡すと、この草原に誰かが立っているのを見つけた。後姿でよく分らないが、草原を吹き抜ける風にローブが揺らめいている。少女は引きつけられる様に男に近づいていった。 「あ、あの・・・。」 距離は3メートル位か、ここまで近づく前に、誰が立っているのかは分っていた。彼が自分にしたこと、彼から流れてきた過去、無慈悲に打ち砕かれた未来、狂気に駆り立てられた現在・・・。それらを問いただしたかった。なぜそこまでになってしまったのか、知りたかった。それが彼に対する恐怖心を抑え込み、ためらいながらも声を掛けさせた。 ♂WIZは呼びかけられると、ゆっくりと振り返った。少し少女の顔を眺めた後、話し出した。 「やっと来てくれましたか・・・。もうじき時間切れになるところでしたよ。」 そう言って表情を和ませた。この島で彼を見た者ならば誰もが驚いただろう。いつも険しく鋭い目で周囲を観察し、笑うといったら狂気に駆られたヒステリックなものでしかなかった。それが、とある女性と一緒のときに時折見せる穏やかな表情を見せたのだ。目の当たりにした♀マジも唖然としている。 「あなたと落ち着いて会話をするのは久しぶりですね。初日の夕方以来ですか・・・。口にしてみるとそれほどでもありませんが、随分長かったような気が・・・。」 と♂WIZが話すのを止め、周囲を見渡した。なんら変化が無いのを確認してから、何かに驚いている少女に声を掛ける。 「どうかしましたか?何か驚くようなことでもありましたか?」 ♂WIZの問いかけに、♀マジは我を取り戻した。全く予期せぬ出来事に頭の中が真っ白になり、何を問いただすつもりだったのかもわからなくなる。 「え?えぇ、キミもそんな顔するんだなぁって・・・。」 「そんな顔?・・・、あぁ、そうかもしれませんね。確かにあなたと居た時はもっと険があったかもしれませんね・・・。ですが、今ではあの自分で認識できる『狂気』がありませんから、普段どおりの表情だと思いますよ。」 「えっ?そうなの?てっきり前に見ていたのが普段の表情だと思ってたよ。急にニタニタしたり、人が目の前にいるのに一人の世界に篭ったり・・・。ホント○○○○としか思えなかったよ。」 「○○○○・・・、ですか・・・・・・。そんなつもりはなかったのですが・・・。まあ、あの時は確かに『狂気』に取り付かれていましたから、そう見えたかもしれませんが・・・。」 額にしわを寄せて唸る♂WIZ。その顔に♀マジはつい吹き出してしまった。 「あははははっ。だってそうとしか見えなかったよ。でも、今はちゃんとした顔だね。そんな顔できるなんて、思わなかったな。」 「まあ、私でも四六時中難しい顔をしているわではありませんから、落ち着いているときがあってもいいとは思うんですがね。」 とは言いながらも、自分の顔をつい触ってしまう♂WIZ。♀マジもさっきまで抱いていた恐怖心が完全に無くなっていた。 「でも、ボクは今のほうが安心できるなあ。少しはまともっぽいし・・・。」 ♂WIZは「少しは・・・、ですか。」なんていいながらちょっとがっかりしている。 ♀マジはふとした疑問を口にした。 「でもさ、なんで急にまともになったの?その『狂気』はどこ行っちゃったわけ?」 「えぇ、ですがその前に・・・。私はいつでもまともですから、そこは勘違いしないように・・・。 では、『狂気』が無くなった理由ですが、目的は果たせませんでしたが、望みが叶ったのですよ。私を駆り立てた『狂気』は望みが叶ったその時に消え失せたのです。」 ♂WIZの目的。それがどういう事かは♀マジも薄々は気が付いていた。しきりに人体の研究をしたがり、魂についても独自の理論で研究している。そして♂WIZから流れてきた過去に垣間見える金髪の女性・・・。魔術師の身で蘇生をさせるという発想は異端以外の何ものでもない。だが、♂WIZは、目的は果たせなかったと言った。なのに、望みは叶ったという。♀マジは首をかしげて「どういうこと?」と尋ねた。 「それはですね、私が死んでしまったため、とある女性を生き返らせることが出来なくなったのですが、死後彼女に会うことが出来て、望みを叶えることが出来たからですよ。」 「え・・・、死んだ・・・?」 衝撃的な内容を今日の夕食程度に気軽に話す♂WIZ。一方♀マジは理解が追いつかず固まってしまう。頭の中を硬直させている♀マジをそのままに、♂WIZは話を続ける。 「で、未練も何もなくなったので、『本体』はさっさと逝ってしまいました。ですから後は『私』が消えるだけなのですが、折角ですからあなたに会おうと思いましてね、それで待っていたわけです。」 死んだ?本体?私?♀マジは固まった頭に色々な内容が追加されるが、なんとか柔軟性を取り戻し、元来の理解力の良さで整理して質問しまくった。 「キミが死んじゃったのはなんで?で、キミは何者?本体ってどういう事?」 ふむ、と♂WIZは考え、整理し、順番に答えていった。 「まず、私が死んだのは魔術を行使している間に後ろから攻撃されたためです。まあ、警戒を怠った私のミスですね。 次に私は『本当』の私ではありません。本当の私は既にとある『川』を渡っています。 ここにいる私は、なんと言いますか、例えて言うなれば粘土に石を押し付けて、粘土に出来上がった石の表面というか、仮初めの存在なのです。私が使った魔術であなたの魂に私の魂がくっついた時にできたもの。ですので、本当の私の魂とは別の存在です。」 ♂WIZは一度話を区切り、間を空けてからまた続ける。 「で、初めに私が時間切れと言うのは、私を模っている『あなたの魂』があなた自身の形に戻ろうとするため、私という存在が無くなることなのですよ。まあ、本来の状態になるだけですので、何も問題はないですけどね。」 ♀マジはまたも突拍子も無い話に戸惑いながら頭の中を整理する。 「えと、つまり、キミは♂WIZを模したボク自身って事?」 「ええ、大体その解釈で合っています。強いて言えば、あなたの中の私ではなく、私の魂から写した私ですので、当人以外には違いなど分らないくらい模しているというところですね。」 「でも、キミは死んじゃったんだ・・・。」 「ええ、まあ。不本意ですが。」 落ち込んでいるように見える♀マジを不思議そうに見ながら♂WIZは続ける。 「ですが、それに何か問題が?私が言うのも何ですが、そのおかげであなたやあなたの友人も助かっているのですよ?」 平然とのたまう♂WIZ。自分が死んだことや、彼女達を殺そうとしたことなどは特に問題ではないらしい。 「う~ん・・・、それはそうだけどさあ、何か引っかかるんだよ。なんだろう・・・。」 「まあ、思い出せない内容など、大抵たいしたことではありません。気にしない方が・・・。」 喋っている♂WIZを遮って、♀マジが叫んだ。 「思い出したっ!!キミのことを矯正しようと思ったんだ!!」 「・・・・、矯正・・・、ですか・・・。」 話を遮られたあげく、出てきた言葉は『矯正』。今度は♂WIZが唸った。 「初めて会った時、キミは色々とダメだったから、ボクが鍛えようと思ったんだ。」 ダメ出しまで喰らって、目頭を押さえ難しい顔で考え込む♂WIZ。「まあ、それは、次の機会に・・・。」なんて歯切れ悪く受け流す。まあ、彼に次なんてものはないのであるが。 「さて、そろそろ時間ですね。」 ♂WIZは自分の手を見ながらそう言った。つられて♀マジも見てみると、右手が透けてきている。 「それでは最後に。私が被っていたとんがり帽子を持っていきなさい。あなたの助けになるでしょう。 それと、あなたがこの島から抜け出したいのであれば、♀WIZを探しなさい。彼女と戦ったときに、この島を抜け出す方法があると言って取引を持ちかけてきました。偽りかも知れませんが、全くの嘘とも言えません。」 だんだんと消えていく♂WIZ。もう両腕両足も透けてきている。 「まあ、未練があるとすれば、もう一度♂セージと戦いたかったですね。いくつか作戦も練ったのですがねえ。残念ですね、それだけは。」 大して残念そうでも無い口調で言う。 「それではお嬢さん、精々足掻いて下さい。くれぐれも私の『本体』のいるところには来ないように。では。」 最後の方など一方的に言うだけ言って♂WIZは消え去った。 広大な草原に一人残される。少しするとだんだん辺りが明るくなってきた。この感覚は覚えがある。自分が目覚めるときにこうなることが多い。♀マジはついさっきまで♂WIZがいた場所を眺めた後、ゆっくり目を閉じた。 「お、やっと起きた。あんたねえ、あんまり心配かけさせないでよねぇ。」 ♀マジにそう言ったのは♀アコだった。♀マジは体を起こすと辺りを見渡した。気を失っていた間に移動したらしく、♂WIZと鉢合わせた場所ではなくなっている。それに見慣れない人もいる。サングラスをかけ、バフォメット帽を被っている♀ケミらしき人。 「気が付いた?気分はどう?」 悪ケミが♀マジに尋ねる。♀マジは戸惑いながらも、大丈夫と答える。で、視線で♀アコに「この人は誰?」と尋ねた。♀マジの視線の意味を感じ取った♀アコが端的に答えた。 「悪ケミさんと今はいないけどもう一人グラサンモンクさんがいるわ。この二人が私たちの窮地を救ってくれた恩人よ。・・・で、はい、これ。」 そう言って♀アコは緑色の帽子を差し出した。戸惑いながらも受け取ると、 「あんたが一生懸命手を伸ばしてたから、一応持ってきたわ。あんな奴でもあんたは顔見知りみたいだったし・・・。あんまり持ってきたくはなかったけどね。」 「そっか、ありがと・・・。」 ♀マジは恐る恐るとんがり帽子を被り、自分の中に意識を向ける。もう♂WIZは存在しないが、彼が残した言葉は残っている、そのほとんどがたわいも無いものだが、最後に重要なものを残してくれた。♀WIZに会え。この島を出る手段を知りうる人物。 (ありがとう。そして、さようなら・・。)♀マジは心の中でそっとつぶやいた。 <悪ケミ> <現在位置:E-7> <所持品:グラディウス バフォ帽 サングラス 黄ハーブティ 支給品一式 馬牌×1> <外見:ケミデフォ、目の色は赤> <思考:脱出する。> <備考:サバイバル、爆弾に特化した頭脳、スティールを使えるシーフを探す、子バフォに脱出を誓う、首輪と地図と禁止区域の関係を知る> <したぼく:グラサンモンク> <参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目> <♀アコライト&子犬> 現在位置:E-7 容姿:らぐ何コードcsf:4j0n8042 所持品:集中ポーション2個 子デザ&ペットフードいっぱい スキル:ヒール・速度増加・ブレッシング 備考:殴りアコ(Int1)・方向オンチ  首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:デビルチとの戦闘で多少の傷 <♀マジ> 現在位置:E-7 所持品:真理の目隠し とんがり帽子 備考:ボクっ子。スタイルにコンプレックス有り。氷雷マジ。異端学派。  褐色の髪(ボブっぽいショート)  首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:足に軽い捻挫、普通に歩くのは問題無し ♀アコに蹴られて気絶 気絶中にグラサンモンクの治療を受けた 気絶復帰 <グラサンモンク> <現在地:不明> <所持品:緑ポーション5個 インソムニアックサングラス[1] 種別不明鞭> <外見:csm:4r0l6010i2> <スキル:ヒール 気功 白刃取り 指弾 発勁 金剛 阿修羅覇王拳> <備考:特別枠 右心臓> <状態:♂ローグを警戒、負傷は治療、悪ケミを護る、♂WIZ殺害後♀マジを治療、デビルチを追跡中 ただし立場上そんなに遠くまでは追わない> <参考スレ:【18歳未満進入禁止】リアル・グRO妄想スレッド【閲覧注意】> <作品「雨の日」「青空に響く鎮魂歌」よりモンク(♂モンクと区別するため便宜的にグラサンモンクと表記)> ---- | [[戻る>2-250]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-252]] |

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