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257. 表裏一体 [3日目朝] ---- 終わった。 顔にはめられた望遠鏡を外し、♀ケミはひとつ息をついた。 彼女は♂ハンターたちとミストレスの戦いを、肉眼では到底捉えられない距離から見ていたのだった。 事情を知らない彼女からすればその状況には不可解な点が多々あったが、目的には関係の無いことだ。 ハンターの所在を男女両方とも確認できたのは幸運だった、と♀ケミは思う。 ♀ハンターは♂プリに背負われて逃げた。ということは、死んではいないということだ。 ♂ハンターは……どう考えても生きてはいまい。 ――ご立派な考えや意志を持ってたところで、死んだらどうにもならない。何の意味もないのよ。 かつて見た、悲壮な決意に満ちた♂ハンターの瞳を♀ケミは思い返す。 彼がどんな思いや目的を持って戦っていたのか、彼女は知らない。知る必要も無いと考えていたし、興味も無かった。 「……さてと」 ♀ケミは自らの肩に刺さった矢に視線を向ける。続いて意識を失い、微かな呼吸を繰り返す♂スパノビを見た。 この傷を利用し、他のPTに取り入る。 相手が♀ハンターを知らないこと。これは絶対条件だ。 そうなると、♀ハンターと共に行動している♂プリはもちろん、男女両騎士と♂モンクたちも候補から外れる。 もちろん彼ら以外の人間が、♀ハンターと面識があるという可能性もゼロではない。 だが、そうであっても現在行動を別にしているのだから、別れた後に♀ハンターがマーダーになったなどといくらでも理由はつけられる。 第二に、できるだけ♀ケミ自身とも面識がないことが望ましい。 彼女がかつて混乱に乗じてPTを抜けたことから、不信を買いやすいからだ。 もっとも、一番まともな戦力の♀BSが命を落としているのだから、あの時別れたメンバーのどれだけが生き残っているかは怪しいものだが。 あとは、男性が多ければ言うことはないが、あまり贅沢も言っていられないだろう。 ――♀ハンターが♂プリと一緒に行動しているのが少しやっかいね。 ……そうね、PTの中に潜りこんで、信用させたところで殺す卑怯で恐ろしい女だとでも言おうかしら。 そこまで考えて、まるで自分のことのようだと♀ケミは苦笑した。 だが、卑怯だとの謗りを受けたとしても、臆する気持ちはない。 命がかかっているのに、信じるだの仲間だの、綺麗事を言っている連中が馬鹿なのだ。 ♀ケミの視界の端に、その『馬鹿』な理由だけで彼女を庇った♂スパノビの姿が映る。 彼女の施した治療で、か細く命を繋いでいる彼を睨むように見ながら、♀ケミは唇を噛んだ。 「……そう、馬鹿なのよ。私は絶対に、そんな風にはならない」 ♂スパノビから視線を外し、♀ケミは自らに言い聞かせるように呟いた。 そして、再び望遠鏡を目にあて、辺りを見渡しはじめた。取り入る人間たちを探すために。 しばらくして、鋭い瞳が望むものを捉える。 「う、う……」 順調な事の運びに唇の端を吊り上げたところで、背後から聞こえた呻き声に彼女は慌てて振り向いた。 「♂スパノビさん、気がつきましたか」 声をかけるが、♂スパノビからの返事はない。 まだ意識が朦朧としているのか、視線もどこかおぼつかなかった。 ある程度処置はしたとはいえ、♂スパノビの傷は深い。 放送の時間が近い状況で、わざわざ向こうが移動するかどうかは怪しい。 そんな相手が近づいてくるのを待っていては、衰弱が酷い彼は保たないかもしれない。 そうなれば……そうなれば? ……取り入る際の説得力が欠けることになる。だから自分は彼を助けようとしている……それだけのこと。 心の迷いを振り払うかのように、♀ケミは思考を打ち切った。 ♂スパノビに無理をさせて移動するのは賭けだが、待っていては♂プリに先に接触されるおそれもある。 彼が向かっていった方向からして可能性は低いだろうが、万が一ということもあるだろう。 ――それに、取り入るための道具として使うなら、向こうと接触するまで保ってくれればいいのだ。 「……立てますか?」 そう聞くと、♂スパノビは立ち上がろうと体を動かした。 その瞬間ぐらりと彼の体が揺れ、慌てて♀ケミはその体を支えた。 「あまり大きな動きをしないで。傷が開きます。ゆっくり……」 ♀ケミに肩を貸されるというより、ほぼ圧し掛かるような形で♂スパノビはやっと立つことができた。 もちろん自身も怪我をしている上に、巨体を支える♀ケミの負担は並大抵のものではない。 「……いたい」 「私の分の支給品だけでは、♂スパノビさんの怪我は到底治せないんです。  私は、命がけで庇ってくれたあなたを死なせたくありません。  動くのは辛いでしょうが、他の人の力を借りにいきましょう。仲間を増やして生き残ることは、♀BSさんの望みでもあるはずです」 呻く♂スパノビを、♀ケミは優しい声で励ます。 ――あなたに死なれては困るのよ。私が生き延びるための駒のひとつなんだから。 同時に、彼女は心の中で妖しく笑う。 その表と裏の行動を、♀ケミはいつもの人を騙す謀略からくるものだと信じている。 どちらも自分の本心などとは、思いたくなかった。 <♀アルケミスト> 現在地:F-6(E-6付近)→? 所持品:S2グラディウス ガーディアンフォーマルスーツ(ただしカードスロット部のみ) クロスボウ 矢筒 毒矢数本 望遠鏡 寄生虫の卵入り保存食×2 外見:絶世の美女 性格:策略家 備考:製薬型 やっぱり悪 ♂スパノビと同行 他のPTに接触するために動く 状態:軽度の火傷、頬に浅い切り傷、肩に矢 <♂スパノビ> 現在地:F-6(E-6付近)→? 所持品:スティレット ガード ほお紅 装飾用ひまわり 古いカード帖 スキル:速度増加 ヒール ニューマ ルアフ 解毒 外 見:巨漢 超強面だが頭が悪い 備 考:BOT症状発現? ♀BSの最期の命令に従っている ♀アルケミストと同行 他のPTに接触するために動く 状 態:HPレッドゾーン、傷に応急処置はしてあるが、まともに歩けない <残り16名> ---- | [[戻る>2-256]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-258]] |

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