「222」(2005/11/01 (火) 15:12:27) の最新版変更点
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222.ラグナロク(on a line)
Dead list(1st jobs+α)
♂ノービス ♀ノービス
♂剣士 ♀剣士
♂商人 ♀商人
♀アーチャー ♂アコライト
♀アコライト ♂マジシャン
♀マジシャン ♂シーフ
♀シーフ
Dead list(2nd jobs)
♂ナイト ♀ナイト
♂BS ♀BS
♂ハンター ♀ハンター
♂プリースト ♀プリースト
♂ウィザード ♀ウィザード
♂アサンシ ♀アサシン
♂クルセイダー ♂アルケミスト
♀アルケミスト バード
ダンサー ♂モンク
♀モンク ♂セージ
♀ローグ
Dead list(special+α)
悪魔プリ バドスケ
ときラグ主人公 ドッペルゲンガー
ウォルヤファ アラーム
ペコペコ管理兵(騎士) ペコペコ管理兵(クルセイダー)
子バフォ 禿ちゃん
♂GM アリス
エクスキュージョナー ♂GM(2nd)
始まりは五十人。
けれど、今はたったの五人。
間違いばかり犯して。
すれ違う意見で互いに殺しあって。
それでも、生き残る為に、大切な誰かの為に戦い続けてきて。
──さぁ、そろそろ終焉を始めるとしよう。
…
白い、気が狂いそうなぐらい白い女。
そいつは眩しい光を背に、口を裂けそうなほど吊り上げて笑っていた。
「秋菜ぁぁぁぁぁっ!!」
叫んで、対峙していた♂ローグが叫んで突撃する。
勿論、これは囮だ。彼にとって、接近する利点は無い。
迎え撃とうとした秋菜に、黒衣の騎士が背後に、♀クルセが横合いに回りこむ。
援護射撃。炎の矢が降り注ぐ。
秋菜の攻撃手段は、数々のスキルとバルムンによる剣技。
どちらも致命的ではあったが、彼等に勝算があるとすれば、接近戦だった。
距離が離れれば、遠距離攻撃の手段に乏しいこちら側は一方的になぶり殺しにされる。
詠唱の隙も与えずに殺す。圧倒的な火力差を覆すならば、それしかない。
しかし、相手は正しく世界の理の向こう側の化け物。
それでも、倒せるという保障など何処にも無い。
「ツマラナイですねっ」
秋菜は、信じがたい事に炎をバルムンで弾き飛ばした。
一瞬の間。剣を振り上げている僅かな隙に♂ローグのツルギが疾る。
「なっ!?」
だが、秋菜は動じない。まるで、予め見越していたかのようにツルギを回避。
そのまま大上段に構えた剣を、ローグの腿を薙ぐ様に振りながら、背後に振り返る。
鮮血。もし、彼でなければ、僅かに飛び退く事も出来ずに両足を両断されていただろう。
正しく人外の太刀筋。
ギリギリの所で飛び退いた彼を尻目に、秋菜は目前に迫る二人を迎え撃つ。
石畳を蹴り、黒衣の騎士が切りかかる。
「BAN執行しますっ!!」
「シィッ!!」
裂帛の気合と共に、バルムンが、ツヴァイハンダーが。
弾かれた様に瞬時に最高速度にまで加速し、ぶつかり合う。
神の剣は剛の剣の上に在る。大剣の半分程の質量しか無いにも関わらずバルムンは、
人の限界すらも超えた速度で振るわれ、深淵の騎士を転倒させる。
そして、そのまま体を回転させると、懐に飛び込んでいた♀クルセを掌で吹き飛ばした。
「がはっ…」
呻いて、♀クルセが膝をつく。
その口からは、血が。ごほごほと、咽帰る度、滴り落ちる。
秋菜の一撃ははただの掌打ではない。発剄だった。
「くっ…ブランディッシュスピアッ!!」
「あははっ。あははははっ。あははははははははははははははははははははっ!!」
哄笑。嘲笑。♀クルセから秋菜を遠ざけるべく、衝撃を伴い、ツヴァイハンダーが走る。
しかし、最初から秋菜は、♀クルセを無視していて。
地を蹴り、飛ぶ。
「な……」
そして、黒衣の女が見たのは。
迫る三日月の笑み。血濡れの神剣。
そいつは宙を舞い、彼女の奥義を避け。
剣を振り上げ、愉快そうに、とても愉快そうに笑っていた。
「さあさあさあさあ。BAN!!BAN!!貴女もこれでお終いですよっ!!
あははっ、あはははははははははははっ!!」
慌てて、大剣を引きもどそうとするけれど──それは、余りに遅く。
そして既に詠唱の時間も無く。
「させるかっ!!」
──どずん。
避けようの無い致命の一撃を阻止したのは、投げ放たれた一本のツルギであった。
♂ローグの握っていたそれが、バルムンを振り上げた秋菜の片腕を貫いていた。
「秋菜よぅ…あんまり人を嗤ってると痛い目みんだろ。解ったか?」
太ももを裂かれ、その痛みに歯を食いしばりながらも、♂ローグは不敵な笑みを浮かべ、言いはなった。
対する秋菜は、崩れたバランスを空中で建て直し、降り立つと、不快そうな顔をして彼を睨んだ。
腕を貫いていたツルギを片腕で抜くと、忌々しげに石畳に突き立てると、ひーるっ、と一言呟いた。
白い光が、ぱっくと赤い傷が咲いた秋菜の腕を包むと、見る間にそれが消えていく。
やがて、僅かな跡を残して、赤はなくなってしまった。傷が癒えたのだ。
「な……」
呆然と、♀セージが呟き、♂ローグは腹立たしげな目をする。
二人は、目の前の女を見ながら、本当に自分達は、この化物を倒せるのだろうか、と考えていた。
走る。砦の中を。彼が目指すものに向って。
♂アーチャーは、彼方から響いてきた轟音に、戦いが既に始まっている事を知った。
急がなければならなかった。
もし、自分があの場に居たとしても、出来る事は少ない、そう思っての行動だったが、
今にしてみれば、どちらでも構わなかったのではないか、とも思う。
足を動かしながらも、首を横に振る。
自分の判断は決して間違いではない。
例え、秋菜が本物の化物だとしても。
その体が、城壁よりも硬い、という事はありえない。
漸く階段を上りきる。砦のテラスは、しかし酷く薄暗い。
空には、黒い雲。不吉だ、一瞬彼はそう思った。
けれど。同時に彼は、一片の希望を見つけていた。
大きな、大きな石弓と矢。
それは、城攻めに使われるバリスタと呼ばれる兵器だった。
♂アーチャーは、一息にそれに走り寄る。
希望は未だ絶えていないと信じながら。
…
秋菜は、♀セージ達の攻撃をいなし続けていた。
それ故に、既に彼等が正攻法では自分を確実に殺しえない事に感づいていた。
唯一警戒すべきは♀セージ。彼女さえ殺してしまえば、どうとでもなるだろう。
所詮は、只の有象無象ですねっ。
だが。
彼女とて馬鹿では無い。
深淵の騎士のブランデッシュスピアや、♀クルセのグランドクロスをまともに受ければ、無事ではすむまい。
死に物狂いで襲い掛かってくる深淵の騎士や♀クルセは少々目障りではあった。
少し本気で行きますかっ。
それは、少々残念な結論ではあった。
何故かは判らないが、目の前の人間達は酷く秋菜を苛立たせていたからだ。
出来うる限りの苦痛を。出来うる限りの絶望を。
目障りな彼等に味わわせてやれないのは、一種悲しくさえあった。
──ふと、彼女の脳裏を掠めるのは。
煩く、秋菜を諌め続けていた一人の白い男。
白い女は、その想像に唇を歪めた。
ああ、そんな男も居た筈だ。名前も覚えてはいないのだが。
煩い、と言えば、そいつもそうだった。
きっと、自分は彼を殺したかったのだろう。
目の前の連中と同じぐらい、目障りだったから。
けれど。
彼はどうやら、この連中に。
あはは。あはははは。あはははははは。
とても、とても可笑しい。
とても、とても悔しい。
今更、その白い男が、憎くてたまらない。
嗚呼、憎い。憎い憎い。憎い。
憎い憎い憎い憎い──そう、愛しいぐらいに。
──あれ?
秋菜は、可笑しくなった自分の思考を止めて、周囲を見た。
もう誰でもよかったが、一体誰から殺そうか。
無造作に火の矢を払いながら考える。
♀クルセが剣を杖に立ち上がり、深淵の騎士はツヴァイハンダーを構えていて、♂ローグはスティレットを手にしていた。
その向こうで、♀セージが睨みながら秋菜を見ている。
深淵の騎士は。他にまだ生き残りがいる状況では、やや殺しにくく感じられた。
♀セージは、遠すぎる。指弾で打ち抜いても良かったが、肉を千切る感覚を味わいたい。
残された選択肢は二つ。
男にすべきか、女にすべきか。
それが問題だった。
…
秋菜を取り囲んだ三人の陣形は、微妙に変化していた。
それぞれが距離を詰め、丁度♀セージの前に壁になる様にして立っている。
「…♂ローグ」
「ん、何だ?」
囁くような言葉に、ローグは小さく答える。
「秋菜を倒せると思うか?」
「どうだかなぁ…正直、このままだと生き残る事も難しそうだ、ったく」
短い沈黙の後、表情を変えずに彼は首を横に振った。
その様子に、♀クルセは少し考え込む様な表情を見せる。
じり、と秋菜が半歩踏み出した。
──残された時間は余りに少ない。
「どうしたんだ? らしくねぇぜ」
「……」
だから、♀クルセは、黙ったまま何も言わない。
只、じっと秋菜を見据えたまま、海東剣を握り締める。
彼女の得意は槍だ。剣も使えない事は無かったが、それで秋菜に十字は刻めまい。
彼女は、その瞬間。
少しばかり、残念な気がした。
何故なら、自分がこれからするべき事は、きっと、男との約束を破る事だから。
♂ローグの視線には構わず──じっと、息を潜め、機会を彼女は待つ。
かつ、かつ、かつ、かつ。
秋菜が、近づいてくる。
勝機が今は無いのならば、作ればいい。
戦い、とはそういう物だ。
ただ、それは口で言うほど簡単では無いのだけれど。
傷つき、息も絶え絶えの彼女に出来る方法は限られている。
例えば。
ああ、本当に。
彼と一緒に帰れない事が、♀クルセにはとても残念だった。
その時は、只単純に、そうとだけ思っていた。
「…っ!!」
目を見開いて、前に飛び出す。
決意の剣だけで、彼女は秋菜に勝てる、と思っていた。
まるで、物語のヒーローの様に、どうにかなると信じていた。
だけど、それは間違いだ。
──今必用なのは、貫く矢。ヒールの暇も無く、秋菜を殺しつくせる捨て身の一撃。
「ああああああっ!!」
叫んで、誰よりも早く剣を振り上げる。
但し、これは囮だ──そう、必用なのは、僅か一瞬。
矢が、秋菜に突き立つ、一瞬だけでいいのだ。
「なっ…!!」
♂ローグと、深淵の騎士、そして♀セージが異口同音に、叫ぶ。
♀クルセに反応した秋菜が、バルムンを振る。
ずっ、と言う音。剣を握り締めた両手。その手首に、焼き切れる様な痛み。
見るまでもない、もう剣は握れないだろう。
でも。その代わりに。
彼女は時を手に入れたのだと、思った。
「これで…終わりだ、秋菜ーーーっ!!」
そして光が。つまり、己すらも焼き尽くしかねないグランドクロスが。
白が全てを塗りつぶしていく。
彼女は、それで満足なつもりだった。
自分は、すぐにでも秋菜に殺されるだろう。
それでも。決して後悔など無かった。
だって、私は──
「♀クルセェェェェェェェェッ!!」
男の叫びが埋没しかけた彼女を、現世に引き戻した。
どうして、彼女はそう言いたかった。けれど、声は出ない。
予期していた胸を貫く痛みの代わりに、手の無い腕が、誰かに引き寄せられる感覚。
──そして、彼女はずぶり、と誰かの体にバルムンが突き刺さる音を聞いた。
「え…?」
最初に、彼女の喉を付いて出たのは、惚けたような呟き。
白い視界に世界が塗り込められていく。
「…ぅ…あっ…」
嗚咽が、漏れる。
馬鹿げた絵だった。
それを信じたくなかった。
生きて帰って欲しかったのに。
かみさまは、ざんこくだ、と思った。
「♂…ローグ…っ」
両手を広げ。グランドクロスに身を焼かれ。
彼女を庇うために無防備になった腹をバルムンに貫かれて。
──そうして、彼は、彼女の目の前に、立っていた。
何事も無かったみたいに見える背中を向けたままで。
<秋菜 グランドクロスにより重症? 但し、戦闘は続行可能 その他変化無し>
<♂ローグ 秋菜のバルムンに、腹部を貫かれる。重症>
<♀クルセ 両手消失>
<♀セージ&深淵の騎士子&♂アーチャー 変化無し>
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222.ラグナロク(on a line)
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♂ノービス ♀ノービス
♂剣士 ♀剣士
♂商人 ♀商人
♀アーチャー ♂アコライト
♀アコライト ♂マジシャン
♀マジシャン ♂シーフ
♀シーフ
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♂ナイト ♀ナイト
♂BS ♀BS
♂ハンター ♀ハンター
♂プリースト ♀プリースト
♂ウィザード ♀ウィザード
♂アサンシ ♀アサシン
♂クルセイダー ♂アルケミスト
♀アルケミスト バード
ダンサー ♂モンク
♀モンク ♂セージ
♀ローグ
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ペコペコ管理兵(騎士) ペコペコ管理兵(クルセイダー)
子バフォ 禿ちゃん
♂GM アリス
エクスキュージョナー ♂GM(2nd)
始まりは五十人。
けれど、今はたったの五人。
間違いばかり犯して。
すれ違う意見で互いに殺しあって。
それでも、生き残る為に、大切な誰かの為に戦い続けてきて。
──さぁ、そろそろ終焉を始めるとしよう。
…
白い、気が狂いそうなぐらい白い女。
そいつは眩しい光を背に、口を裂けそうなほど吊り上げて笑っていた。
「秋菜ぁぁぁぁぁっ!!」
叫んで、対峙していた♂ローグが叫んで突撃する。
勿論、これは囮だ。彼にとって、接近する利点は無い。
迎え撃とうとした秋菜に、黒衣の騎士が背後に、♀クルセが横合いに回りこむ。
援護射撃。炎の矢が降り注ぐ。
秋菜の攻撃手段は、数々のスキルとバルムンによる剣技。
どちらも致命的ではあったが、彼等に勝算があるとすれば、接近戦だった。
距離が離れれば、遠距離攻撃の手段に乏しいこちら側は一方的になぶり殺しにされる。
詠唱の隙も与えずに殺す。圧倒的な火力差を覆すならば、それしかない。
しかし、相手は正しく世界の理の向こう側の化け物。
それでも、倒せるという保障など何処にも無い。
「ツマラナイですねっ」
秋菜は、信じがたい事に炎をバルムンで弾き飛ばした。
一瞬の間。剣を振り上げている僅かな隙に♂ローグのツルギが疾る。
「なっ!?」
だが、秋菜は動じない。まるで、予め見越していたかのようにツルギを回避。
そのまま大上段に構えた剣を、ローグの腿を薙ぐ様に振りながら、背後に振り返る。
鮮血。もし、彼でなければ、僅かに飛び退く事も出来ずに両足を両断されていただろう。
正しく人外の太刀筋。
ギリギリの所で飛び退いた彼を尻目に、秋菜は目前に迫る二人を迎え撃つ。
石畳を蹴り、黒衣の騎士が切りかかる。
「BAN執行しますっ!!」
「シィッ!!」
裂帛の気合と共に、バルムンが、ツヴァイハンダーが。
弾かれた様に瞬時に最高速度にまで加速し、ぶつかり合う。
神の剣は剛の剣の上に在る。大剣の半分程の質量しか無いにも関わらずバルムンは、
人の限界すらも超えた速度で振るわれ、深淵の騎士を転倒させる。
そして、そのまま体を回転させると、懐に飛び込んでいた♀クルセを掌で吹き飛ばした。
「がはっ…」
呻いて、♀クルセが膝をつく。
その口からは、血が。ごほごほと、咽帰る度、滴り落ちる。
秋菜の一撃ははただの掌打ではない。発剄だった。
「くっ…ブランディッシュスピアッ!!」
「あははっ。あははははっ。あははははははははははははははははははははっ!!」
哄笑。嘲笑。♀クルセから秋菜を遠ざけるべく、衝撃を伴い、ツヴァイハンダーが走る。
しかし、最初から秋菜は、♀クルセを無視していて。
地を蹴り、飛ぶ。
「な……」
そして、黒衣の女が見たのは。
迫る三日月の笑み。血濡れの神剣。
そいつは宙を舞い、彼女の奥義を避け。
剣を振り上げ、愉快そうに、とても愉快そうに笑っていた。
「さあさあさあさあ。BAN!!BAN!!貴女もこれでお終いですよっ!!
あははっ、あはははははははははははっ!!」
慌てて、大剣を引きもどそうとするけれど──それは、余りに遅く。
そして既に詠唱の時間も無く。
「させるかっ!!」
──どずん。
避けようの無い致命の一撃を阻止したのは、投げ放たれた一本のツルギであった。
♂ローグの握っていたそれが、バルムンを振り上げた秋菜の片腕を貫いていた。
「秋菜よぅ…あんまり人を嗤ってると痛い目みんだろ。解ったか?」
太ももを裂かれ、その痛みに歯を食いしばりながらも、♂ローグは不敵な笑みを浮かべ、言いはなった。
対する秋菜は、崩れたバランスを空中で建て直し、降り立つと、不快そうな顔をして彼を睨んだ。
腕を貫いていたツルギを片腕で抜くと、忌々しげに石畳に突き立てると、ひーるっ、と一言呟いた。
白い光が、ぱっくと赤い傷が咲いた秋菜の腕を包むと、見る間にそれが消えていく。
やがて、僅かな跡を残して、赤はなくなってしまった。傷が癒えたのだ。
「な……」
呆然と、♀セージが呟き、♂ローグは腹立たしげな目をする。
二人は、目の前の女を見ながら、本当に自分達は、この化物を倒せるのだろうか、と考えていた。
走る。砦の中を。彼が目指すものに向って。
♂アーチャーは、彼方から響いてきた轟音に、戦いが既に始まっている事を知った。
急がなければならなかった。
もし、自分があの場に居たとしても、出来る事は少ない、そう思っての行動だったが、
今にしてみれば、どちらでも構わなかったのではないか、とも思う。
足を動かしながらも、首を横に振る。
自分の判断は決して間違いではない。
例え、秋菜が本物の化物だとしても。
その体が、城壁よりも硬い、という事はありえない。
漸く階段を上りきる。砦のテラスは、しかし酷く薄暗い。
空には、黒い雲。不吉だ、一瞬彼はそう思った。
けれど。同時に彼は、一片の希望を見つけていた。
大きな、大きな石弓と矢。
それは、城攻めに使われるバリスタと呼ばれる兵器だった。
♂アーチャーは、一息にそれに走り寄る。
希望は未だ絶えていないと信じながら。
…
秋菜は、♀セージ達の攻撃をいなし続けていた。
それ故に、既に彼等が正攻法では自分を確実に殺しえない事に感づいていた。
唯一警戒すべきは♀セージ。彼女さえ殺してしまえば、どうとでもなるだろう。
所詮は、只の有象無象ですねっ。
だが。
彼女とて馬鹿では無い。
深淵の騎士のブランデッシュスピアや、♀クルセのグランドクロスをまともに受ければ、無事ではすむまい。
死に物狂いで襲い掛かってくる深淵の騎士や♀クルセは少々目障りではあった。
少し本気で行きますかっ。
それは、少々残念な結論ではあった。
何故かは判らないが、目の前の人間達は酷く秋菜を苛立たせていたからだ。
出来うる限りの苦痛を。出来うる限りの絶望を。
目障りな彼等に味わわせてやれないのは、一種悲しくさえあった。
──ふと、彼女の脳裏を掠めるのは。
煩く、秋菜を諌め続けていた一人の白い男。
白い女は、その想像に唇を歪めた。
ああ、そんな男も居た筈だ。名前も覚えてはいないのだが。
煩い、と言えば、そいつもそうだった。
きっと、自分は彼を殺したかったのだろう。
目の前の連中と同じぐらい、目障りだったから。
けれど。
彼はどうやら、この連中に。
あはは。あはははは。あはははははは。
とても、とても可笑しい。
とても、とても悔しい。
今更、その白い男が、憎くてたまらない。
嗚呼、憎い。憎い憎い。憎い。
憎い憎い憎い憎い──そう、愛しいぐらいに。
──あれ?
秋菜は、可笑しくなった自分の思考を止めて、周囲を見た。
もう誰でもよかったが、一体誰から殺そうか。
無造作に火の矢を払いながら考える。
♀クルセが剣を杖に立ち上がり、深淵の騎士はツヴァイハンダーを構えていて、♂ローグはスティレットを手にしていた。
その向こうで、♀セージが睨みながら秋菜を見ている。
深淵の騎士は。他にまだ生き残りがいる状況では、やや殺しにくく感じられた。
♀セージは、遠すぎる。指弾で打ち抜いても良かったが、肉を千切る感覚を味わいたい。
残された選択肢は二つ。
男にすべきか、女にすべきか。
それが問題だった。
…
秋菜を取り囲んだ三人の陣形は、微妙に変化していた。
それぞれが距離を詰め、丁度♀セージの前に壁になる様にして立っている。
「…♂ローグ」
「ん、何だ?」
囁くような言葉に、ローグは小さく答える。
「秋菜を倒せると思うか?」
「どうだかなぁ…正直、このままだと生き残る事も難しそうだ、ったく」
短い沈黙の後、表情を変えずに彼は首を横に振った。
その様子に、♀クルセは少し考え込む様な表情を見せる。
じり、と秋菜が半歩踏み出した。
──残された時間は余りに少ない。
「どうしたんだ? らしくねぇぜ」
「……」
だから、♀クルセは、黙ったまま何も言わない。
只、じっと秋菜を見据えたまま、海東剣を握り締める。
彼女の得意は槍だ。剣も使えない事は無かったが、それで秋菜に十字は刻めまい。
彼女は、その瞬間。
少しばかり、残念な気がした。
何故なら、自分がこれからするべき事は、きっと、男との約束を破る事だから。
♂ローグの視線には構わず──じっと、息を潜め、機会を彼女は待つ。
かつ、かつ、かつ、かつ。
秋菜が、近づいてくる。
勝機が今は無いのならば、作ればいい。
戦い、とはそういう物だ。
ただ、それは口で言うほど簡単では無いのだけれど。
傷つき、息も絶え絶えの彼女に出来る方法は限られている。
例えば。
ああ、本当に。
彼と一緒に帰れない事が、♀クルセにはとても残念だった。
その時は、只単純に、そうとだけ思っていた。
「…っ!!」
目を見開いて、前に飛び出す。
決意の剣だけで、彼女は秋菜に勝てる、と思っていた。
まるで、物語のヒーローの様に、どうにかなると信じていた。
だけど、それは間違いだ。
──今必用なのは、貫く矢。ヒールの暇も無く、秋菜を殺しつくせる捨て身の一撃。
「ああああああっ!!」
叫んで、誰よりも早く剣を振り上げる。
但し、これは囮だ──そう、必用なのは、僅か一瞬。
矢が、秋菜に突き立つ、一瞬だけでいいのだ。
「なっ…!!」
♂ローグと、深淵の騎士、そして♀セージが異口同音に、叫ぶ。
♀クルセに反応した秋菜が、バルムンを振る。
ずっ、と言う音。剣を握り締めた両手。その手首に、焼き切れる様な痛み。
見るまでもない、もう剣は握れないだろう。
でも。その代わりに。
彼女は時を手に入れたのだと、思った。
「これで…終わりだ、秋菜ーーーっ!!」
そして光が。つまり、己すらも焼き尽くしかねないグランドクロスが。
白が全てを塗りつぶしていく。
彼女は、それで満足なつもりだった。
自分は、すぐにでも秋菜に殺されるだろう。
それでも。決して後悔など無かった。
だって、私は──
「♀クルセェェェェェェェェッ!!」
男の叫びが埋没しかけた彼女を、現世に引き戻した。
どうして、彼女はそう言いたかった。けれど、声は出ない。
予期していた胸を貫く痛みの代わりに、手の無い腕が、誰かに引き寄せられる感覚。
──そして、彼女はずぶり、と誰かの体にバルムンが突き刺さる音を聞いた。
「え…?」
最初に、彼女の喉を付いて出たのは、惚けたような呟き。
白い視界に世界が塗り込められていく。
「…ぅ…あっ…」
嗚咽が、漏れる。
馬鹿げた絵だった。
それを信じたくなかった。
生きて帰って欲しかったのに。
かみさまは、ざんこくだ、と思った。
「♂…ローグ…っ」
両手を広げ。グランドクロスに身を焼かれ。
彼女を庇うために無防備になった腹をバルムンに貫かれて。
──そうして、彼は、彼女の目の前に、立っていた。
何事も無かったみたいに見える背中を向けたままで。
<秋菜 グランドクロスにより重症? 但し、戦闘は続行可能 その他変化無し>
<♂ローグ 秋菜のバルムンに、腹部を貫かれる。重症>
<♀クルセ 両手消失>
<♀セージ&深淵の騎士子&♂アーチャー 変化無し>
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