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---- 261.表裏背反[3日目午前] ひゅっ 「む」 デビルチを探して付近を見回っていたグラサンモンクはかすかな矢音を聞きつけて反射的に身を低くした。 そして素早く周囲を見回す。 人影は見あたらない。そしてどうやら彼に向かって矢が飛んでくる様子もない。 となると…狙いは仲間達か。 彼は舌打ちして全速力で駆け戻りつつ怒鳴った。 「伏せろ!」 ♀アコと♀マジはとっくに身を低くしていた。 だが悪ケミだけは彼女たちの様子を笑いながら1人のんきに座っている。 彼は駆け寄りざまに押し倒した。 「あ、ちょっと。こらっ!したぼくがこんなコトしていいと思ってるのっ!?」 当然のように彼女はとても分かりやすい勘違いをした。 グラサンモンクは必死になだめる。 「待て、勘違いだ。暴れるな」 「したぼくが命令するな~っ!このこのこのっ」 覆い被さった彼の頭が下からポカポカ殴られる。 「痛くはないがやめろ、誤解だ。敵が居る。伏せててくれ」 「このこのっ…え?敵?」 だだっ子のように拳を振り回していた悪ケミは周囲をきょとんとした顔で見回す。 とっくに伏せていた♀マジと♀アコがこくこく頷き返す。 「うん。矢が飛んできたよ」 「全然外れたけどね」 2人の視線を追うとかなり離れた場所に矢が刺さっていた。 「えーと」 悪ケミは少し考える。 そして 「えい」 グラサンモンクの目に向かってチョキを突き出した。 「うお!?」 目つぶしはサングラスの表面に当たってかつんと軽い音を出しただけに終わり、実害はない。だがグラサンモンクは思わずのけぞった。 その隙に彼を突き飛ばして悪ケミは起きあがる。 「何をする」 「なにをする、じゃないわよ。あんた達バカじゃないの。弓矢で狙われてるんならにゅーま使いなさいよにゅーま」 彼女はやたら偉そうに胸を張って♀アコとグラサンモンクへ指を突きつけた。 「そっか。アコ系にはそんな魔法もあったね」 納得して♀マジも体を起こす。 だが♀アコは頬を掻いた。 「あ、ごめん。あたしニューマ覚えてないの」 「実は俺も、な」 「え」 指を突きつけた姿勢のまま悪ケミは硬直する。 「ほら、あたしモンク志望だから。ヒールとブレスと速度増加覚えるとそっちまで手が回らないのよ」 「ヒールか速度諦める手もあったんだがな」 「…ええーっと…」 しばらくふらふらと指をさまよわせた悪ケミは、やがてその指をグラサンモンクにビシッと突きつけた。 「たてになって」 「盾か。まあ構わないが」 グラサンモンクは悠然と悪ケミの前に立つ。 不意打ちにしては初撃の狙いは大きく外れ、ドタバタの間にいくらでもできたはずの追撃も来なかった。どうも真剣に彼らの命を狙う気はないらしい。 とするともしかして矢文か何かだったのか? そう思って矢を確かめに行こうとしたその時。 「助けて!」 女性の悲鳴と共に茂みが鳴った。 ♀ケミは茂みを掻き分けてよろよろと走り出す。 自分が矢を放ったところは見られなかったらしい。 最初の勝負所を乗り越え、次が本番だった。 わざとらしくない程度に疲労を見せ、緊張も隠さず表に出す。 「助けて!♂スパノビさんが――」 そう叫んだところで思いがけず下草が足に絡まった。 「きゃっ!?」 土煙を上げて倒れ込む。 ほとんど街暮らししか経験のない彼女は、ここまでの野山歩きで思っている以上に疲労していた。 「大丈夫!?」 「な、なんとか…」 怪我の功名と言うべきか。派手に転んだことで目前のグループに動きが生じる。 真っ先に駆けつけた♀アコが彼女を助け起こした。 「怪我してるじゃない…ってうわ」 「え?そんなひどいですか?」 顔を覗き込むやいなや奇声を漏らされ、♀ケミは思わず頬を押さえた。 肩に刺さった矢より♂ローグの矢がかすっただけの顔をひそかに気にしていたらしい。 そんな彼女を無視し♀アコは拳を固く握って言った。 「くっ…なんかすごく負けた気がするっ。女としてっ」 「…あの?」 正直、♀ケミは女性から敵意に近い妬みの視線を受けることには慣れている。 だがまさかこんな場合に、これほど真っ向から批評されるとは思ってもみなかった。 (ずいぶん余裕じゃない。まさか見抜かれてる?) ♀ケミは動悸を押し隠して他の面々を見回す。 だが次に近寄ってきたマジシャンらしき少女もなにやら真剣な顔で彼女の胸元を見つめたかと思うと、 「本物、だよね?」 「きゃっ!?」 両手で彼女の胸の膨らみを鷲掴みにした。 そして真顔で考え込む。 「どうすればこんなに育つのかな?」 「あの、それより…」 「だいじょーぶっ」 困惑を深める彼女を遮って、少し離れて見ていた少女が無駄に偉そうにふんぞり返る。 「おんなの勝ちは顔でも胸でもないわ!だいじなのは知性と強要のかしもだすこーきなびぼーよ!この私のよーにっ」 「……」 ♀ケミはもはや何と言っていいのか分からなくなって絶句した。 『知性と教養のかもし出す高貴な美貌』が大事だと言うのなら、それは女は顔だという意味ではないのか?それとも自分には分からない何かの符丁なのだろうか。 何かひどい間違いをしでかしたような気がして彼女は肩を落とした。 その様子をどう思ったか、最後の1人が重々しく口を開く。 「落ち着いたか?何があった」 「あ、そうなんです!」 救いの神とばかりに♀ケミはその言葉に飛びついた。 どうやら常識的な会話の通じる相手のようだ。 「助けて!矢が、♂スパノビさんが!」 パニックに陥っている人間らしく不十分な説明をわめきながら男にすがりつく。 案の定彼は意味を取り違えた。 「♂スパノビ?そいつにやられたのか」 「違います!私をかばってくれたんです!早く!」 ♀ケミはこのモンクこそが少女達を率いているのだと思って腕を引く。 だが彼女の言っていることを先に理解したのはそれまで女の価値がどうのと騒いでいた少女達だった。 「弓矢で襲われて、そいつがキミを逃がすために残ったんだね?助けに行こう」 「うん。流れやが飛んできたぐらいだもん、そんなに遠くないはず」 「わかった」 的確で素早い推測と判断。 どちらかというとモンクの方が彼女たちに従っている感じもする。 (まさか、ね) 驚きと警戒の必要を感じながらも♀ケミは彼女たちを案内しに走り出した。 「♂スパノビさん!?」 ♀ケミが♂スパノビの所へ戻ったとき、大男は苦しげに目を閉じて横たわっていた。 呼びかけにもすぐには反応がない。 歩くのもつらそうだったし、演技中に本当のことを言われても困るので残したのだが、もしや本当に死んでしまったかと背筋を冷たい物が走る。 「待って、動かさないで。まだ息があるわ」 ♀アコが彼女を押しのけ、♂スパノビの傍らにしゃがみ込んだ。 そしてその体に突き刺さった矢を無造作に引っこ抜く。 「っ!」 開いた傷口から鮮血が噴き出し、見ていた♀ケミは一瞬顔をそむけた。 「あの、もうちょっと優しく」 「ヒール!ゆっくりやっても一緒よ。なら早い方がいいでしょ」 「それはそうですけど…」 ♀アコの豪快な治療に難色を示す♀ケミ。だが 「待ってよ。心配なのは分かるけどさ、今は急がないと」 ♀マジが♂スパノビから抜いた矢を渡しながら真剣な顔で言う。 「コレが毒矢だったら一刻を争うだろ」 「毒?」 ♀ケミは素早く反応した。 血まみれの矢ではよく分からないというフリをして、近くの地面に刺さった矢を引き抜いて見比べる。 もちろん後から抜いたのは彼女があらかじめその辺りに数本撃ち込んで置いた内の『本物』だ。 彼女は小さくうなってみせてから二本ともアルケミストの少女へ渡した。 「どう思いますか?」 「…うん。どくね」 悪ケミは一瞥して顔をしかめ、鼻を近付けて匂いを嗅ぐとすぐに頷いた。 「たぶんあさしん特製のきっつーい奴。ま、こうゆー反応のはげしい薬ってくーきに触れてるとどんどん効果が落ちちゃうから、私なら毒矢には使わないけど」 (はい、よくできました) 道具も文献もないこの状況でどこまで分析できるかは完全に当人次第だ。 はっきり言って♀ケミにも布に染み込んだ毒の種別まで見分ける自信はない。 だがこの少女はそれをやってのけた。 しかも危険な毒だが効果がなくても不思議はないという印象評価まで付けて。百点満点に近い。 心中含み笑いしていると♀アコが声を上げた。 「終わりっ。とりあえず傷ふさいだだけだけど、たぶんもう大丈夫」 「ありがとうございます」 演ずるまでもなく安堵のため息が漏れる。 そんな彼女に、振り返った♀アコは何か獲物でも見つけたような笑顔を向けた。 「次はあんたね」 「え?…あ。わ、私は大丈夫です」 ♀ケミは今見た荒っぽい治療を思い出して思わず後ずさる。 その肩が背後から捕まえられた。 「ハイハイ。わがまま言わない」 「だいじょーぶ。ずっと前にともだちが『いたいのは最初だけ』って言ってたし」 「あの、それ使いどころが違…」 両脇を固められた♀ケミに♀アコがじりじりと近付き 「いったぁ~~~~い!」 数秒後、辺りに悲鳴が響いた。 「痕跡はあったがもう誰も居ない。相手はどんな奴だ?」 彼女たちを置いて少し先まで警戒に行っていたグラサンモンクが質問した。 ♀ケミは返答する前にちょっと涙目で治療跡を押さえ、上目遣いに見ながら拗ねるように言う。 「…あなたに治して欲しかったです」 色気ビーム発射。 実際♀アコの治療は痛かったのだし、堕とすための伏線はいくら張っておいても損はない。 黒いサングラスに隠れて表情はよく分からなかったが、グラサンモンクの首が少し揺れる。多少は動じたようだ。 それでひとまず満足し、深追いは避けて質問に答える。 「ええと、女性のようでしたけどはっきりは見えませんでした。こちらの矢が届かない距離から射すくめられまして」 ここへ来るまでにいろいろ考えて決めた説明がこれだった。 彼らが♀ハンターと面識がある可能性があるので名前は直接出さない。 代わりに誤導するためのヒントはあれこればらまいた。 そして頭のいい少女達はそのヒントを確実に拾ってくれる。 「弓の射程伸ばす技術もってたんだ」 「それに毒には詳しくないみたいだからとーぞくじゃないわね。はんたーかな」 ♀ケミは心中ほくそ笑んだ。 多少なりとも警戒している者を作り話で騙し切ることは難しい。 だがそれが用意された話ではなく自分で導き出した結論である場合、頭のいい人間でも結構簡単に信じ込んでしまう。 たとえそれが間違った前提に基づく結論であっても。 誰しも他人の誤りには気付けても自分の誤りは認めたくないからだ。 彼女はもう一押しする。 「ハンターさんなら昨日の夕方、遠目に見かけました。でも違うと思うのですけど…」 「どうして?」 「1人じゃなかったんです。男女のハンターが1人ずつに、確かスーパーノービスの女の子が一緒でした」 「あのね」 ♀マジが首を振る。 「♂ハンターと♀スパノビなら死んでるよ?放送は死んだ順で言うみたいだし、多分ほとんど同時に死んだんじゃないかな」 「ええ、可哀想に…」 「じゃなくてさ、ちょっとは疑おうよ。この島でハンターが2人居たら怖い相手なんて居ないだろ。それにボクならスパノビなんてほっといてハンターを狙う」 「はあ」 言っている意味がよく分からないという顔で曖昧な相槌を打ってみせると、グラサンモンクが説明するように呟いた。 「仲間を装って不意打ちか。あり得る話だ」 「そんな…」 ごく控えめに、ショックと言うよりは落胆の表情を作る。 少女とは言え女が3人もいるのだ。馬鹿だと思われるだけならいいが、カマトトぶっていると思われると以後の演技がやりにい。 特にこの子達はかなり頭が切れるようだし、と彼女たちの顔を見回す。 するとずっと黙っていた♀アコが突然しゃがんで子デザに話しかけた。 「ごめんよパトラッシュ。あたしにはもうよく分からないよ」 「ワフン」 例外は居たらしい。 ♀マジが何やら達観した顔で♀アコに説明する。 「つまり女のハンター見たら要注意。誰かと一緒でもね」 「ん。わかった」 本当にそれでいいの、と逆に♀ケミがツッコミを入れたくなるぐらい素直に♀アコが頷く。 さらになぜか悪ケミまでうんうんと大きく頷きながら話し出した。 「じゃ、こっちの番。まずじこしょーかいね。私は悪ケミ。でそっちがしたぼく二号とその他おーぜい」 「ヒトの名前勝手に省略するな!」 「いーの。そこは大事じゃないんだから。でね…」 ♀マジと♀アコの文句や自己紹介をBGMに、悪ケミと名乗った少女はマジックのキャップで地面に文字を書き出した。 最初は何を始めたのかと思った♀ケミも、次第に書かれる内容の重要さに引き込まれて行く。 盗聴。爆破の仕組み。位置確認の方法。そして反撃の手段。 (これは…すごいわ) 彼女は身体が震えだすのを止められなかった。 今後の選択の幅が一気に広がり、その選択権は彼女に与えられたのだ。 最後の1人になる可能性より反撃が成功する可能性が高いならそれに荷担してもいい。 上手く行きそうもないなら裏切ってもいい。 しかも戦闘力のない彼女が彼ら自身を殺す簡単な方法まで教えてくれた。 地図を奪い、クロスボウで禁止区域へ撃ち込むだけでいいのだ。 「ありがとう。私は♀アルケミスト、彼は♂スーパーノービス。よろしくお願いします」 彼女は心の底から新しい『仲間』達に感謝した。 <♀アルケミスト> 現在地:E-7 所持品:S2グラディウス ガーディアンフォーマルスーツ(ただしカードスロット部のみ) クロスボウ 矢筒 毒矢数本 望遠鏡 寄生虫の卵入り保存食×2 外見:絶世の美女 性格:策略家 備考:製薬型 やっぱり悪 ♂スパノビ・悪ケミらと同行 首輪や地図の秘密を知り悪だくみ中 状態:各軽傷や矢傷は治療済 <♂スパノビ> 現在地:E-7 所持品:スティレット ガード ほお紅 装飾用ひまわり 古いカード帖 スキル:速度増加 ヒール ニューマ ルアフ 解毒 外 見:巨漢 超強面だが頭が悪い 備 考:BOT症状発現? ♀BSの最期の命令に従っている ♀ケミ・悪ケミらと同行 仲間を見つけたい 状 態:HPレッドゾーン、ヒールを受けてやや回復?意識は朦朧としている <悪ケミ> <現在位置:E-7> <所持品:グラディウス バフォ帽 サングラス 黄ハーブティ 支給品一式 馬牌×1> <外見:ケミデフォ、目の色は赤> <思考:脱出する。> <備考:サバイバル、危険物に特化した頭脳、スティールを使えるシーフを探す、子バフォに脱出を誓う、首輪と地図と禁止区域の関係を知る> <したぼく:グラサンモンク> <参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目> <♀アコライト&子犬> 現在位置:E-7 容姿:らぐ何コードcsf:4j0n8042 所持品:集中ポーション2個 子デザ&ペットフードいっぱい スキル:ヒール・速度増加・ブレッシング 備考:殴りアコ(Int1)・方向オンチ    首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:デビルチとの戦闘で多少の傷 <♀マジ> 現在位置:E-7 所持品:真理の目隠し とんがり帽子 外見:褐色の髪(ボブっぽいショート) 備考:ボクっ子。スタイルにコンプレックス有り。氷雷マジ。異端学派。    首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:足に軽い捻挫、普通に歩くのは問題無し <グラサンモンク> <現在地:E-7> <所持品:緑ポーション5個 インソムニアックサングラス[1] 種別不明鞭> <外見:csm:4r0l6010i2> <スキル:ヒール 気功 白刃取り 指弾 発勁 金剛 阿修羅覇王拳> <備考:特別枠 右心臓> <状態:負傷は治療、悪ケミを護る、♂WIZ殺害後♀マジを治療、デビルチ・♀ハンターを警戒> <参考スレ:【18歳未満進入禁止】リアル・グRO妄想スレッド【閲覧注意】> <作品「雨の日」「青空に響く鎮魂歌」よりモンク(♂モンクと区別するため便宜的にグラサンモンクと表記)> <残り16名> ---- | [[戻る>2-260]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-262]] |
261.表裏背反[3日目午前] ---- ひゅっ 「む」 デビルチを探して付近を見回っていたグラサンモンクはかすかな矢音を聞きつけて反射的に身を低くした。 そして素早く周囲を見回す。 人影は見あたらない。そしてどうやら彼に向かって矢が飛んでくる様子もない。 となると…狙いは仲間達か。 彼は舌打ちして全速力で駆け戻りつつ怒鳴った。 「伏せろ!」 ♀アコと♀マジはとっくに身を低くしていた。 だが悪ケミだけは彼女たちの様子を笑いながら1人のんきに座っている。 彼は駆け寄りざまに押し倒した。 「あ、ちょっと。こらっ!したぼくがこんなコトしていいと思ってるのっ!?」 当然のように彼女はとても分かりやすい勘違いをした。 グラサンモンクは必死になだめる。 「待て、勘違いだ。暴れるな」 「したぼくが命令するな~っ!このこのこのっ」 覆い被さった彼の頭が下からポカポカ殴られる。 「痛くはないがやめろ、誤解だ。敵が居る。伏せててくれ」 「このこのっ…え?敵?」 だだっ子のように拳を振り回していた悪ケミは周囲をきょとんとした顔で見回す。 とっくに伏せていた♀マジと♀アコがこくこく頷き返す。 「うん。矢が飛んできたよ」 「全然外れたけどね」 2人の視線を追うとかなり離れた場所に矢が刺さっていた。 「えーと」 悪ケミは少し考える。 そして 「えい」 グラサンモンクの目に向かってチョキを突き出した。 「うお!?」 目つぶしはサングラスの表面に当たってかつんと軽い音を出しただけに終わり、実害はない。だがグラサンモンクは思わずのけぞった。 その隙に彼を突き飛ばして悪ケミは起きあがる。 「何をする」 「なにをする、じゃないわよ。あんた達バカじゃないの。弓矢で狙われてるんならにゅーま使いなさいよにゅーま」 彼女はやたら偉そうに胸を張って♀アコとグラサンモンクへ指を突きつけた。 「そっか。アコ系にはそんな魔法もあったね」 納得して♀マジも体を起こす。 だが♀アコは頬を掻いた。 「あ、ごめん。あたしニューマ覚えてないの」 「実は俺も、な」 「え」 指を突きつけた姿勢のまま悪ケミは硬直する。 「ほら、あたしモンク志望だから。ヒールとブレスと速度増加覚えるとそっちまで手が回らないのよ」 「ヒールか速度諦める手もあったんだがな」 「…ええーっと…」 しばらくふらふらと指をさまよわせた悪ケミは、やがてその指をグラサンモンクにビシッと突きつけた。 「たてになって」 「盾か。まあ構わないが」 グラサンモンクは悠然と悪ケミの前に立つ。 不意打ちにしては初撃の狙いは大きく外れ、ドタバタの間にいくらでもできたはずの追撃も来なかった。どうも真剣に彼らの命を狙う気はないらしい。 とするともしかして矢文か何かだったのか? そう思って矢を確かめに行こうとしたその時。 「助けて!」 女性の悲鳴と共に茂みが鳴った。 ♀ケミは茂みを掻き分けてよろよろと走り出す。 自分が矢を放ったところは見られなかったらしい。 最初の勝負所を乗り越え、次が本番だった。 わざとらしくない程度に疲労を見せ、緊張も隠さず表に出す。 「助けて!♂スパノビさんが――」 そう叫んだところで思いがけず下草が足に絡まった。 「きゃっ!?」 土煙を上げて倒れ込む。 ほとんど街暮らししか経験のない彼女は、ここまでの野山歩きで思っている以上に疲労していた。 「大丈夫!?」 「な、なんとか…」 怪我の功名と言うべきか。派手に転んだことで目前のグループに動きが生じる。 真っ先に駆けつけた♀アコが彼女を助け起こした。 「怪我してるじゃない…ってうわ」 「え?そんなひどいですか?」 顔を覗き込むやいなや奇声を漏らされ、♀ケミは思わず頬を押さえた。 肩に刺さった矢より♂ローグの矢がかすっただけの顔をひそかに気にしていたらしい。 そんな彼女を無視し♀アコは拳を固く握って言った。 「くっ…なんかすごく負けた気がするっ。女としてっ」 「…あの?」 正直、♀ケミは女性から敵意に近い妬みの視線を受けることには慣れている。 だがまさかこんな場合に、これほど真っ向から批評されるとは思ってもみなかった。 (ずいぶん余裕じゃない。まさか見抜かれてる?) ♀ケミは動悸を押し隠して他の面々を見回す。 だが次に近寄ってきたマジシャンらしき少女もなにやら真剣な顔で彼女の胸元を見つめたかと思うと、 「本物、だよね?」 「きゃっ!?」 両手で彼女の胸の膨らみを鷲掴みにした。 そして真顔で考え込む。 「どうすればこんなに育つのかな?」 「あの、それより…」 「だいじょーぶっ」 困惑を深める彼女を遮って、少し離れて見ていた少女が無駄に偉そうにふんぞり返る。 「おんなの勝ちは顔でも胸でもないわ!だいじなのは知性と強要のかしもだすこーきなびぼーよ!この私のよーにっ」 「……」 ♀ケミはもはや何と言っていいのか分からなくなって絶句した。 『知性と教養のかもし出す高貴な美貌』が大事だと言うのなら、それは女は顔だという意味ではないのか?それとも自分には分からない何かの符丁なのだろうか。 何かひどい間違いをしでかしたような気がして彼女は肩を落とした。 その様子をどう思ったか、最後の1人が重々しく口を開く。 「落ち着いたか?何があった」 「あ、そうなんです!」 救いの神とばかりに♀ケミはその言葉に飛びついた。 どうやら常識的な会話の通じる相手のようだ。 「助けて!矢が、♂スパノビさんが!」 パニックに陥っている人間らしく不十分な説明をわめきながら男にすがりつく。 案の定彼は意味を取り違えた。 「♂スパノビ?そいつにやられたのか」 「違います!私をかばってくれたんです!早く!」 ♀ケミはこのモンクこそが少女達を率いているのだと思って腕を引く。 だが彼女の言っていることを先に理解したのはそれまで女の価値がどうのと騒いでいた少女達だった。 「弓矢で襲われて、そいつがキミを逃がすために残ったんだね?助けに行こう」 「うん。流れやが飛んできたぐらいだもん、そんなに遠くないはず」 「わかった」 的確で素早い推測と判断。 どちらかというとモンクの方が彼女たちに従っている感じもする。 (まさか、ね) 驚きと警戒の必要を感じながらも♀ケミは彼女たちを案内しに走り出した。 「♂スパノビさん!?」 ♀ケミが♂スパノビの所へ戻ったとき、大男は苦しげに目を閉じて横たわっていた。 呼びかけにもすぐには反応がない。 歩くのもつらそうだったし、演技中に本当のことを言われても困るので残したのだが、もしや本当に死んでしまったかと背筋を冷たい物が走る。 「待って、動かさないで。まだ息があるわ」 ♀アコが彼女を押しのけ、♂スパノビの傍らにしゃがみ込んだ。 そしてその体に突き刺さった矢を無造作に引っこ抜く。 「っ!」 開いた傷口から鮮血が噴き出し、見ていた♀ケミは一瞬顔をそむけた。 「あの、もうちょっと優しく」 「ヒール!ゆっくりやっても一緒よ。なら早い方がいいでしょ」 「それはそうですけど…」 ♀アコの豪快な治療に難色を示す♀ケミ。だが 「待ってよ。心配なのは分かるけどさ、今は急がないと」 ♀マジが♂スパノビから抜いた矢を渡しながら真剣な顔で言う。 「コレが毒矢だったら一刻を争うだろ」 「毒?」 ♀ケミは素早く反応した。 血まみれの矢ではよく分からないというフリをして、近くの地面に刺さった矢を引き抜いて見比べる。 もちろん後から抜いたのは彼女があらかじめその辺りに数本撃ち込んで置いた内の『本物』だ。 彼女は小さくうなってみせてから二本ともアルケミストの少女へ渡した。 「どう思いますか?」 「…うん。どくね」 悪ケミは一瞥して顔をしかめ、鼻を近付けて匂いを嗅ぐとすぐに頷いた。 「たぶんあさしん特製のきっつーい奴。ま、こうゆー反応のはげしい薬ってくーきに触れてるとどんどん効果が落ちちゃうから、私なら毒矢には使わないけど」 (はい、よくできました) 道具も文献もないこの状況でどこまで分析できるかは完全に当人次第だ。 はっきり言って♀ケミにも布に染み込んだ毒の種別まで見分ける自信はない。 だがこの少女はそれをやってのけた。 しかも危険な毒だが効果がなくても不思議はないという印象評価まで付けて。百点満点に近い。 心中含み笑いしていると♀アコが声を上げた。 「終わりっ。とりあえず傷ふさいだだけだけど、たぶんもう大丈夫」 「ありがとうございます」 演ずるまでもなく安堵のため息が漏れる。 そんな彼女に、振り返った♀アコは何か獲物でも見つけたような笑顔を向けた。 「次はあんたね」 「え?…あ。わ、私は大丈夫です」 ♀ケミは今見た荒っぽい治療を思い出して思わず後ずさる。 その肩が背後から捕まえられた。 「ハイハイ。わがまま言わない」 「だいじょーぶ。ずっと前にともだちが『いたいのは最初だけ』って言ってたし」 「あの、それ使いどころが違…」 両脇を固められた♀ケミに♀アコがじりじりと近付き 「いったぁ~~~~い!」 数秒後、辺りに悲鳴が響いた。 「痕跡はあったがもう誰も居ない。相手はどんな奴だ?」 彼女たちを置いて少し先まで警戒に行っていたグラサンモンクが質問した。 ♀ケミは返答する前にちょっと涙目で治療跡を押さえ、上目遣いに見ながら拗ねるように言う。 「…あなたに治して欲しかったです」 色気ビーム発射。 実際♀アコの治療は痛かったのだし、堕とすための伏線はいくら張っておいても損はない。 黒いサングラスに隠れて表情はよく分からなかったが、グラサンモンクの首が少し揺れる。多少は動じたようだ。 それでひとまず満足し、深追いは避けて質問に答える。 「ええと、女性のようでしたけどはっきりは見えませんでした。こちらの矢が届かない距離から射すくめられまして」 ここへ来るまでにいろいろ考えて決めた説明がこれだった。 彼らが♀ハンターと面識がある可能性があるので名前は直接出さない。 代わりに誤導するためのヒントはあれこればらまいた。 そして頭のいい少女達はそのヒントを確実に拾ってくれる。 「弓の射程伸ばす技術もってたんだ」 「それに毒には詳しくないみたいだからとーぞくじゃないわね。はんたーかな」 ♀ケミは心中ほくそ笑んだ。 多少なりとも警戒している者を作り話で騙し切ることは難しい。 だがそれが用意された話ではなく自分で導き出した結論である場合、頭のいい人間でも結構簡単に信じ込んでしまう。 たとえそれが間違った前提に基づく結論であっても。 誰しも他人の誤りには気付けても自分の誤りは認めたくないからだ。 彼女はもう一押しする。 「ハンターさんなら昨日の夕方、遠目に見かけました。でも違うと思うのですけど…」 「どうして?」 「1人じゃなかったんです。男女のハンターが1人ずつに、確かスーパーノービスの女の子が一緒でした」 「あのね」 ♀マジが首を振る。 「♂ハンターと♀スパノビなら死んでるよ?放送は死んだ順で言うみたいだし、多分ほとんど同時に死んだんじゃないかな」 「ええ、可哀想に…」 「じゃなくてさ、ちょっとは疑おうよ。この島でハンターが2人居たら怖い相手なんて居ないだろ。それにボクならスパノビなんてほっといてハンターを狙う」 「はあ」 言っている意味がよく分からないという顔で曖昧な相槌を打ってみせると、グラサンモンクが説明するように呟いた。 「仲間を装って不意打ちか。あり得る話だ」 「そんな…」 ごく控えめに、ショックと言うよりは落胆の表情を作る。 少女とは言え女が3人もいるのだ。馬鹿だと思われるだけならいいが、カマトトぶっていると思われると以後の演技がやりにい。 特にこの子達はかなり頭が切れるようだし、と彼女たちの顔を見回す。 するとずっと黙っていた♀アコが突然しゃがんで子デザに話しかけた。 「ごめんよパトラッシュ。あたしにはもうよく分からないよ」 「ワフン」 例外は居たらしい。 ♀マジが何やら達観した顔で♀アコに説明する。 「つまり女のハンター見たら要注意。誰かと一緒でもね」 「ん。わかった」 本当にそれでいいの、と逆に♀ケミがツッコミを入れたくなるぐらい素直に♀アコが頷く。 さらになぜか悪ケミまでうんうんと大きく頷きながら話し出した。 「じゃ、こっちの番。まずじこしょーかいね。私は悪ケミ。でそっちがしたぼく二号とその他おーぜい」 「ヒトの名前勝手に省略するな!」 「いーの。そこは大事じゃないんだから。でね…」 ♀マジと♀アコの文句や自己紹介をBGMに、悪ケミと名乗った少女はマジックのキャップで地面に文字を書き出した。 最初は何を始めたのかと思った♀ケミも、次第に書かれる内容の重要さに引き込まれて行く。 盗聴。爆破の仕組み。位置確認の方法。そして反撃の手段。 (これは…すごいわ) 彼女は身体が震えだすのを止められなかった。 今後の選択の幅が一気に広がり、その選択権は彼女に与えられたのだ。 最後の1人になる可能性より反撃が成功する可能性が高いならそれに荷担してもいい。 上手く行きそうもないなら裏切ってもいい。 しかも戦闘力のない彼女が彼ら自身を殺す簡単な方法まで教えてくれた。 地図を奪い、クロスボウで禁止区域へ撃ち込むだけでいいのだ。 「ありがとう。私は♀アルケミスト、彼は♂スーパーノービス。よろしくお願いします」 彼女は心の底から新しい『仲間』達に感謝した。 <♀アルケミスト> 現在地:E-7 所持品:S2グラディウス ガーディアンフォーマルスーツ(ただしカードスロット部のみ) クロスボウ 矢筒 毒矢数本 望遠鏡 寄生虫の卵入り保存食×2 外見:絶世の美女 性格:策略家 備考:製薬型 やっぱり悪 ♂スパノビ・悪ケミらと同行 首輪や地図の秘密を知り悪だくみ中 状態:各軽傷や矢傷は治療済 <♂スパノビ> 現在地:E-7 所持品:スティレット ガード ほお紅 装飾用ひまわり 古いカード帖 スキル:速度増加 ヒール ニューマ ルアフ 解毒 外 見:巨漢 超強面だが頭が悪い 備 考:BOT症状発現? ♀BSの最期の命令に従っている ♀ケミ・悪ケミらと同行 仲間を見つけたい 状 態:HPレッドゾーン、ヒールを受けてやや回復?意識は朦朧としている <悪ケミ> <現在位置:E-7> <所持品:グラディウス バフォ帽 サングラス 黄ハーブティ 支給品一式 馬牌×1> <外見:ケミデフォ、目の色は赤> <思考:脱出する。> <備考:サバイバル、危険物に特化した頭脳、スティールを使えるシーフを探す、子バフォに脱出を誓う、首輪と地図と禁止区域の関係を知る> <したぼく:グラサンモンク> <参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目> <♀アコライト&子犬> 現在位置:E-7 容姿:らぐ何コードcsf:4j0n8042 所持品:集中ポーション2個 子デザ&ペットフードいっぱい スキル:ヒール・速度増加・ブレッシング 備考:殴りアコ(Int1)・方向オンチ    首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:デビルチとの戦闘で多少の傷 <♀マジ> 現在位置:E-7 所持品:真理の目隠し とんがり帽子 外見:褐色の髪(ボブっぽいショート) 備考:ボクっ子。スタイルにコンプレックス有り。氷雷マジ。異端学派。    首輪と地図と禁止区域の関係を知る 状態:足に軽い捻挫、普通に歩くのは問題無し <グラサンモンク> <現在地:E-7> <所持品:緑ポーション5個 インソムニアックサングラス[1] 種別不明鞭> <外見:csm:4r0l6010i2> <スキル:ヒール 気功 白刃取り 指弾 発勁 金剛 阿修羅覇王拳> <備考:特別枠 右心臓> <状態:負傷は治療、悪ケミを護る、♂WIZ殺害後♀マジを治療、デビルチ・♀ハンターを警戒> <参考スレ:【18歳未満進入禁止】リアル・グRO妄想スレッド【閲覧注意】> <作品「雨の日」「青空に響く鎮魂歌」よりモンク(♂モンクと区別するため便宜的にグラサンモンクと表記)> <残り16名> ---- | [[戻る>2-260]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-262]] |

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