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277. 失われた剣(三日目午前) ---- (この通路、どこまで通じているのかしら) 慎重に奥へと進みつつ♀Wizは首をかしげる。 GMが現れたということは、やはり彼らの本拠地まで通じているのか。 確かに今朝の放送で本拠があると言っていたE-5までそれほど遠くはない。 だけど。 (そうするとこんな物があった理由がわからないんですよね) 右手の杖を一回転させる。 隠れ家の入り口に侵入者のための武器を置いておく馬鹿は居ない。 腐乱死体を放置したりもしない。 不衛生だし、誰だってそんな悪臭のする物を近くに置きたくはないだろう。 かといって参加者を近づけないための細工にしては死体が白い衣装を着ていたのがおかしい。 GMの死体と見れば調べたくなるのが当然だ。実際彼女達がそうしたように。 つまり、ここは本拠ではない。 (じゃあ、誰がなんのために?) 元の島民が残したと考えるのはあまりにも馬鹿馬鹿しい。 冒険者には資材やモンスターを持ち込む手段がない。 やはりGMか、あるいはBR賭博のイカサマに加担する兵士の仕業か。 (そういえば) そこで彼女はさっき倒した男を思い出した。 (GMもジョーカー1人ではないのですね) ということはイカサマに関わってる者がGMの可能性もあるのか。 ありそうな話だ。装備を持ち込んだり邪魔な参加者を抹殺したりするのも兵士より容易だろう。 そういったGMがこの地下道を作って何か画策し、利害の対立する誰かと争ったのではないか。 (さっき倒した男もたぶんそうなのでしょうね) 当たり前のようにそう考える。 その瞬間、何かが引っ掛かった。 何か大事なことを忘れている気がする。 なんだろう。 考えがすぐにまとまらない。冷静なつもりでもまだ動揺しているらしい。 (落ち着きなさい) 彼女は自分に言い聞かせた。 そしてどこに違和感を感じたのか思いだそうとする。 (…さっきのGMもイカサマに関ってると考えたところよね?) 別におかしくはない。合ってる保証もないが。 気のせいかしら。そう思いかけて♀Wizは首を振った。 いや。違う。 問題は内容じゃない。 理由だ。 なぜあの男がイカサマに関与していると感じたか。 (――――!) 思考のベクトルを変えたとたん、雪崩のように推測が進んだ。 彼女と♂シーフは自分達の陥った状況についてはっきり口にしていない。 にもかかわらずあのGMが現れた。 それもいやに素早く。 だからGMはこの場所に関係していると感じたのだ。 だが彼は明らかに♂シーフの異常や♀Wizの力が戻っていることを予想していなかった。 つまりこの地下室とそこにある物について知らなかったことになる。 ならば、なぜ彼は来たのか。 ♀Wizは地図を引っ張り出した。 相変わらず自分の位置表示は消えている。 これだ。 彼女達はGM側の地図からも消え、その異変を調べるためにあの男が来たのだろう。 当然ジョーカーや他のGMも知っているはず。 (いけない!) ♀Wizは♂シーフとの最後の会話を思い出しながら元来た方向へ走り出した。 派遣したGMが死んだと判断されるまでどれぐらい余裕があるだろう。 それまでにしなければならないことがある。 彼女は戦いのあった場所まで戻るとすぐにひざまずいて何かを始めた。 ほどなくして。 「そこまで。手を上げなさい」 ♀Wizは背後からの声に動きを止めた。 両手をゆっくり肩まで上げ、そろそろと振り返る。 「…また新しいGMですか」 そこには白い衣装に身を包み、剣を握った銀縁眼鏡の男が立っていた。 しかも今回は左右背後に弓を構えた兵士を連れている。 兵士に守られて眼鏡の男は言った。 「そのまま。動けば撃ちます」 弓使いを含め複数。悔しいが勝ち目はないに等しい。 ♀Wizはあふれ出しそうになる殺気を押さえ、つとめて静かに尋ねた。 「なぜGMがこれほど手出しするのですか?最初の説明と違うでしょう」 「反抗すれば処刑するとも言ったはずです」 眼鏡のGMは鼻で笑い、剣を突きつけた。 「GM森から奪った剣を置きなさい」 「…仕方ありません」 ♀Wizは腰の後ろに差していた豪華な剣を鞘ごと抜き、しぶしぶ地面に置く。 GMはそれが間違いなく森の下げていたものであることを確認して一歩壁際に寄り、背後へ向け顎をしゃくった。 「出口まで下がりなさい」 ジョーカーやさっきのGMに比べると無駄口がない。 質問を禁じたことと言い、これ以上情報を与えたくないということだろうか。 それなら。 「これで島に残るGMは2人だけになってしまいましたね」 すれ違いざま、♀Wizは皮肉っぽく言った。 「なに」 男が鋭く反応する。 「なぜ人数を知ってるんです」 ビンゴ。 彼女は挑発ぎみに笑ってみせた。 「あなたが他のGMではなく、戦力としては劣る兵士を連れてきたのでそう思っただけです」 要するにカマを掛けたのだ。 言外にそう告げられてGMはわずかに顔色を変えた。しかしすぐにそっけなく答える。 「関係ありません。ここでは兵士でも同じです」 その答えを聞いて今度は♀Wizが眉根を寄せた。 『ここでは兵士でも同じ』? 確かに弓を使えば兵士でも充分彼女を制圧できる。 だが『ここでは』という一言は、この場所では能力制限が解かれ、しかも彼がその事実を知っているということを示してないか。 その可能性に思い至りながらも彼女は意味を取り違えてみせた。 「隠れる物もない直線通路だから、ですか」 口を滑らしたにしても不用意すぎる。カマを掛け返してきたのかも知れない。 下手に追求すれば能力制限とGMの力の秘密について知っていると白状することになる。 それは彼女ばかりではなく、♂セージ達へも危険を及ぼすだろう。 今はそんな危険を冒すわけに行かない。 彼女の『勘違い』を聞いて眼鏡の男は肩をすくめ、追い払うように剣を振った。 「外へ出なさい。ここは破壊します」 その宣告に♀Wizは今度こそ顔色を変える。 「♂シーフ君はきちんと埋めてあげたいのですけど」 だが男は彼女の顔を見て薄く笑っただけだった。 「却下。こちらで処理します」 「…ではせめて遺品を」 彼女はGMの顔をにらみつけ、うなるように言う。 GMは少し何かを考える様子を見せ、やがてゆっくりとうなずいた。 「まあいいでしょう。ですが動かないように。私が取ります」 男は剣を下ろし、兵士に♀Wizから目を離さないよう指示して♂シーフの遺体に歩み寄った。 そして少年の遺体から短剣と鞄を奪う。 だが手首に巻きついた腕輪には触れようともしない。 ♀Wizの眼が一瞬光った。やはり、この男は何か知っている。 だが鞄の中をあらためていたGMはその視線に気付いた様子もなく、短剣を鞄に入れ彼女の足元へ投げよこした。 「それでいいですね」 「……どうも」 ♀Wizは敵意と不満を表情に浮かべながらもおとなしく♂シーフの鞄を拾った。 残念ながらここまでらしい。 彼女は竪穴の壁に作りつけられた梯子を登って地上へ出る。 その後を追って地下から呪文の詠唱と崩壊音が連続して響きだした。 ヘブンズドライブで直接地下を破壊しているらしい。 (同じやり方で埋めてあげようかしら) ちらりと物騒なことを考えて穴をのぞきこむ。 だが兵士たちの弓がしっかり彼女を狙っていた。 ということは魔法を使っているのはあのGMなのだろう。 今はまだ無理に戦うときではない。 その前に誰かに伝えておかなければいけないことがある。 ♀Wizは小屋を出た。 ♂シーフが森から奪った剣を持ち出すことはできなかったが、GMに関していくつかのことは分かった。 それらはきっと戦うとき役に立つ。 (あ、でも1つ忘れてました) ふと振り返る。 (今のGM、名前はなんて言うんでしょう) 「ハックション!」 舞い上がる砂埃を吸い込んで橘は派手にくしゃみした。 奥の実験室と腕輪は完膚なきまでに破壊し、地下道の入り口は崩した。 本物の橘の遺体は小屋ごと燃やしてしまおう。 それで制限解除効果も消えるはずだ。 彼が何をしたか立証できるだけの証拠はもはや存在しなくなる。 もちろん断片から推測することはできるだろう。だが物証がなくなり、彼がなぜそんなことをしたか分からなくなればそれでいい。 あとはジョーカーに粛清される前に適当なところで姿をくらますだけだ。 任務にかこつけて証拠を隠滅した橘はうっすらと笑った。 しかし証拠を消すことに気を取られるあまり橘はいくつかのことを見落としていた。 GM森はその最期において愛剣を奪われ、予備の剣で戦ったということ。 にもかかわらず黒焦げの遺体はその手に何も握らず、腰の質素な鞘に剣が収まっていたこと。 そして剣のつかと刀身を固定する目釘が抜け、床に転がっていたこと。 それらは♀Wizの残したある細工を示していた。 <♀WIZ> 現在地:謎の地下室 所持品:クローキングマフラー 未挿sロザリオ     ウィザードスタッフ DCカタール +7THグラディウス 多目の食料 容 姿:WIZデフォの銀髪 備 考:LV99のAGIWIZ GMに復讐 ♂シーフと同行 年の事は聞かないでね? 状 態:容態安定 ただし全身に傷跡が残る HPは半分くらい?     希望が見えてきて気持ちが前向きになるも♂シーフと死別して不安定に <GM橘> 現在地:謎の地下室 所持品:剣(バルムン?) GM森の剣 外 見:銀縁眼鏡、インテリ顔 備 考:殴りHiWiz ガンバンテイン ヘブンズドライブ ---- | [[戻る>2-276]] | [[目次>第二回目次3]] | [[進む>2-278]] |

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