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106

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106.ゆめときぼうと


♀プリと♂ノビは二人で並んで走っていた。
イズルートを出る時、背後で爆発音が響いたのも知っている。だが、振り返る事はしなかった。
プロンテラ周辺地域を離れ、更に森の奥地へ。
そしてゴブリン森まで入った所で二人とも限界だったか、その場に座り込む。
荒い息を漏らす二人、だが二人とも一言も発しないで、今度はその場から動こうとはしなくなってしまった。
長い沈黙、それは♂ノビの小さな嗚咽の声で破られた。
♀プリは黙って♂ノビの体を抱え、ゆっくりとその頭を撫でてやるのだった。

そんな事をどれだけ続けていただろうか? そんな二人に声をかけてくる者が居た。
「……す、すみませ~ん。何か食べる物持ってませんでしょうか~? 私……おなかぺこぺこでもう……ダメですぅ~」
全身を埃まみれにした♀商人が、二人の前に姿を現したのだ。

♂ノビが鞄からパンをいくつか取り出し渡すと、♀商人はよっぽどお腹が空いていたのか、もの凄い勢いでそれらを平らげた。
「は~、生き返りました~♪ ありがとうございますっ! あなたは私の命の恩人ですぅ!」
オーバーに感激してみせる♀商人を見て、二人は少しだけ顔を綻ばす。
「あー! そうだ! もしよければお二人とご一緒させてもらえませんか!」
と言ってしまって、はたと気付いたようにしゅんとした顔になる。
「……そうでした。私達殺し合いしなければならないんですよね……ごめんなさい、私……ずっと一人で心細くて……だから久しぶりに人に会えたからつい甘えちゃって……」
♀商人の言葉に♀プリは顔を伏せる。
だが、♂ノビは決然とした表情で♀商人に言い放った。
「そんな事しないよ! 誰も殺さないし誰も殺させない!」
♀商人は♂ノビの言葉に目をぱちくりさせている。
「ボクは絶対こんな事許さない!」
♂ノビの言葉に、♀プリも決意を込めて頷くのだった。


シフ子とときらぐ主人公の二人組は、森を彷徨い続けていた。
「ねえ、それで君、今何処に向かってるかわかってる?」
「……あのさあ、そもそも何処に出たのかもわからないのにそんな簡単に……あ」
そう彼が言うと森が開けた。
そこには複数のテントを張っただけの簡易な集落があった。
シフ子はこの場所に見覚えがあった。
「ここって……もしかしてゴブリン村?」
すぐにときらぐ主人公も相づちを打つ。
「そうだよ、ゴブリン村だ! でも、ここにもモンスターは居ない……ってあれ?」
不意にときらぐ主人公の目に集落の一つから、煙があがっているのが見えた。
驚いたのはシフ子も同様だ。
「嘘! 誰か居るの!? ちょ、ちょっとちょっとこれまずくない?」
「そ、そんな事言ったって……」
「ほらっ! 君男の子でしょ! アタシはか弱い女の子だからこういう時は後ろから……」
「わっ、わー! 押さないでよ! ってそんなにくっつかれたらむ、むむむむねが……」
「へ?」
僅かな沈黙。
そして突然の悲鳴と共に突き倒されるときらぐ主人公。
「っきゃー! いきなり何言い出すんだい君は!」
「知らないよ! 大体こんな非常時にいきなりむ、むむむむねをおしつけて……」
「わー! そんなに胸胸って連呼しないでよー!」
二人のやりとりが突然止まる。
それは集落のテントの一つから微かに笑い声が聞こえてきたからだ。
「く、くっくっくっく……」
「くすくす……も、ダメ……ごめんなさ~い、笑っちゃダメってわかってるんだけど……」
「ごめん……ボクももー限界……あーーーーーはっはっはっは!」
「笑っちゃダメっていったの♂ノビ君じゃない~……あっはっはっはっはっは!」
二人は呆気に取られた表情のときらぐ主人公とシフ子。
すぐにその笑い声の主はテントの中から出てきた。
「普通こんな所でそんな漫才するかな~。君たち一体何してるんだい」
「お、お腹痛いですぅ~。怖がって隠れてたのに、いきなり漫才始めるなんて思ってもみなかったよ~」
まだ笑っているのは♂ノビと♀商人。
その後ろから出てきた♀プリは穏やかに笑いながら言った。
「私達にあなた方と戦う意志はありません。もし、あなた方もそうなら私達と一緒に行動しませんか?」
いきなりの申し出に戸惑う二人だったが、♀プリの次の言葉に更に仰天する。
「私達一人一人では無理でも、ここに集まったたくさんの人達が協力すればきっとここから抜け出せるはずです。一緒に……その方法を探してみませんか?」
即座に♀商人が言葉を継ぐ。
「おいしいご飯もありますよぅ~。是非ご一緒しましょー♪」
その言葉に即答したのはお腹の音。

ぐ~~~。

ときらぐ主人公は無言でシフ子を見る。
「なんでアタシを見るんかな!? い、いいいい今のは君の音じゃないか!」
「え? だって僕はまだそんなにお腹空いてないし……」
「それでも君の音なのっ! 絶対そうっ!」
「ええええ? 違うよ! ご飯は出かける時にきちーっと食べて来たしお腹空いてなんてないよ」
「嘘っ! ぜーーったい嘘付いてるっ! あんなおいしそうな匂いしてきてるってのにお腹空かない訳ないっ!」
やはり無言でシフ子を見るときらぐ主人公。
「う~~~…………あー! もういいよ! ごめんなさい! アタシはお腹空いてますっ!」
そんなやりとりを見て、やっぱり笑い転げる♂ノビと♀商人。
♀プリまでが、口元に手をあてて笑いを堪えている。
そんなやりとりを木の上から眺める影があった。
その影はかつて自分がそうであった姿をそこに見つけたのだ。
「あたし……戻れるかな? ううん、あの人達の側に居ればきっと戻れる! 殺しも殺されもしないあそこに戻れるんだ!」
明けない夜なんて無い。きっとこの先には自分が目指すモンクへの道が開けているに違い無い。
♀モンクは木から飛び降りて五人の元へと駆けていった。


<♂ノビ&♀プリースト、♀商人、ときらぐ主人公&シフ子とゴブリン村にて合流>

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