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125.遺言


♂ノービスは、北へと向かっていた。
もう、涙は止まっている。いや、単に流し尽くしてしまっただけかも。
そんな事を考えながら、彼は歩いていた。
或いは、只、師匠と呼んだ女性の死体から少しでも離れたいだけか。
あの場所には、余りに沢山死が転がっていたから。
さっきの放送には『♀剣士』、という名。
それは、間違いなく少年を護り、そうして果てた女性の名だった。
彼女の遺言の様に大きく響いた爆音が、耳にこびりついている。
少年は、一人にになった。
もう、護ってくれる人は居ない。
そして、生き延びるための力も無かった。
彼が持っているのは、血溜まりの匂いがしたあの森で、沢山の死と裏切りを見つめて、漸く気づいた一つの真実だけ。
──生き残るために、生き抜く為に、強く強く自分の心を持たなければいけない。
今は、どうしようもなく、自分自身が不甲斐無いと感じ。
けれど、彼は歩くことを止めない。
何処に向っているのかは判らない。
けれど、一歩でも前に踏み出さないで居れば、それだけで『師匠』の遺言を裏切ってしまう気がして。
泣き崩れて、二度と立てない気がして。
その決意はどこまでも固く。
しかし、決意には余りに不似合いな程に彼は弱く不完全だ。
例えば、♂ノービスは歩いている彼は直ぐ後ろに近づいてきている気配にも気づけない。
「おい、そこのノービス」
気配に呼び止められ、振り返る。彼は、そこに固い顔をしたプリーストを見た。
「…何ですか? 言っておきますが、ゲームには乗ってないですよ、僕は」
少し、声が暗かったかもしれない。一瞬そんな事を考える。
だが、彼の目の前の男司祭は特に気にした風もなく…むしろ、何処か顔をほころばせてさえいた。
「奇遇だな、俺もだよ」
ただ、向ってきたら遠慮はしない、と付け加える。
そして、両手を開けて、敵意が無い事を示しながら一歩近づいてきた。
「でだ、物は相談なんだが…お前等のPTに俺も加えちゃくれないか?
残ってる二次の支援は俺ともう一人だけだし、お前等にとっても損な取引じゃないだろう」
「何を…」
 いきなり、司祭が切り出してきた提案に♂ノービスは面くらい、そう答えるのが精一杯だった。
「とぼけるなよ。PTメンバーも無しにただのノビが此処まで生き残ってこれる筈ないだろ。
スパノビだったなら話は別だけどな」
「……そうですね、確かにおっしゃる通りです。確かに僕には…貴方の言うような人達が『いました』」
今は、もう居ない。
師匠も、泣いていた女プリーストも。
森で出会った剣士と少女達も。
皆、死んでしまった。
理不尽に。何の尊厳も与えられず。
ただ、死んでしまった。
言葉の一つ一つに、知らず力が篭る。
白くなる程、掌を握り締めていた。
どれくらい、時間が経ったろう。急に、♂プリーストが手を合わせながら頭を下げた。
「すまん、許してくれ。早合点するのが俺の悪い癖なんだ。その、何だ…気に病まないで欲しい」
「…いえ、いいんです」
事実は、事実だった。
それに、悲しみに暮れなければならない理由など無かった。
例え、自分自身の弱虫な心は、今も尚、泣き続けているのだとしても。
「事実ですし…あなたの言うことも最もですから」
「そうか。わかったよ」
「じゃあ、僕はこれで失礼します」
 ノービスは、そこまで言ってから♂プリーストに背を向ける。
「おい、一人で行く気か?」
「僕が、貴方と組むメリットなんて何処にもありませんから」
「……」
答えたノービスに、つかつかと♂プリーストが詰め寄る。
ごいん、と拳骨で一度、歩み去ろうとしていた♂ノービスの頭を小突いた。
そして、痛む頭を押さえながら、真上にあるプリーストの顔を見上げる。
「馬鹿かお前。みすみす死にに行くつもりか?」
「…違います」
「いーや、違わないな。その顔に書いてある」
 びっ、と♂プリーストは少年の顔を人差し指で指した。
「……」
「大体な。なんというか、お前のPTメンバーだって、みすみす死なす為にお前といっしょに居た訳じゃないだろ。
何か、いってやりたい事の一つや二つだってあっただろうに、そんなこと全て無視してお前は死ぬのか?」
そこまで、黙ってプリーストの言葉を聴いていたノービスが、何か思い出した様な表情をして、鞄を開く。
その手には、数枚の紙。
「は…ははは… そうですね。其の通りです。馬鹿なのは…僕みたいです」
手にした紙を見、♀剣士の満面の笑顔を思い出して、♂ノービスは、漸く確信した。
 そうだ。馬鹿なのは自分の方だ。気づいた振りをして、気づかないでいたのは自分の方だ。
師匠は、少年に。
ぽたり、と枯れていた筈の涙が落ちて、紙の一番最初に書かれた文字が滲む。
丁寧な筆使いで書かれたそれは、一言、こうあった。
『お前は生き残ってくれ』、と。



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