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134.悪魔対悪女


♂マジの遺体を埋葬する悪魔プリ。
だが、♂マジの行為を責める気は起きなかった。
『私だって……同じですから』
思い人を無くした時の絶望はそれを味わった者にしかわからない。
自分の場合はすれ違いと勘違いの為せる技であったが、彼女の場合はそうではなかったのだから。
「ふふっ……いつのまにか私、彼の事を彼女って思ってます。……でも、確かに彼は彼女でした」
埋葬が終わり、祈りを捧げる悪魔プリ。
それは悪魔プリにとって、いや全てのプリーストにとって欠かすことの出来ない行為であるが故に、容易に予測可能の絶対的な隙となってしまったのだ。
「ひうっ!?」
背中に短刀を突き立てられる悪魔プリ。
それを為した♀ローグは、力一杯その突き刺さった短刀、ダマスカスを下に押し下げ、悪魔プリの背中を縦に引き裂く。
悪魔プリは即座に護身の為の行動に移る。
速度増加を唱え、振り向きもせずに一直線にその場を離れる悪魔プリ。
追いすがる♀ローグだったが、スキルの効果か少しづつ距離を離される。
舌打ちすると、その場に立ち止まる♀ローグであったが、その気配を感じるなり悪魔プリもその場に立ち止まり、初めてそこで振り返った。
「ローグさん……ですか。いきなり何をするのですか?」
背中の傷口からは絶え間なく血が流れ、少し青い顔をしているが悪魔プリは厳しい表情でそう言った。
♀ローグはそんな悪魔プリをせせら笑う。
「何をする? 戦場でやる事なんて決まってるでしょ?」
「私はここを戦場などと思っておりません」
「それはあなたの勝手。そこの♂マジが自殺するのも、私があなたを殺すのも勝手。いいじゃない、みんなそれで望みが果たせてるんだから」
悪魔プリは敢えて返事はしなかった。タブレットを構えると自らに各種支援スキルを唱える。
「キリエエルレイソン、ブレス、イムポシティオマヌス、ヒール!」
一気にそこまで唱えるが、それ以上は♀ローグが許さなかった。
心の中で舌打ちしながら、バックステップで一瞬にして間合いを詰める♀ローグ。
『ちっ、やっぱり殴りね。さっきの動きといい……前衛慣れしてるわね』
キリエ越しに斬りつける♀ローグ、キリエには限界があると知っての事だが、その間に悪魔プリはグロリアまできっちり唱え終わる。
悪魔プリの腕がどれほどの物か?
試す意味もあった正面からの斬り合いであるが、すぐに♀ローグは形勢不利との判断を下す。
現状は互角の斬り合いをしていられるが、相手には回復能力がある。
制攻撃の分があるにしても、長期戦は不利だ。
そう考えた♀ローグは、眼前でトンネルドライブを敢行。悪魔プリの一瞬の隙に賭けるが、間髪入れない悪魔プリのルアフ、後ろに回り込みきれない。
逆に、背後を見せる形になってしまった♀ローグの後頭部にタブレットの一撃が加えられる。
「ぐっ!」
僅かな悲鳴をあげて、地面を転がる♀ローグ。
しかし好機にも関わらず悪魔プリは畳みかけるような真似はしない。
あくまで落ち着いてキリエ、そしてヒールを二回程自分にかける。
それを見た♀ローグの全身を冷汗が流れる。
『マズイわね、こいつ相当な手練れよ……』
だが、同時に沸き起こる黒い情熱。
「でも……いいわよあなた……殺し合いなんだから……こーでなくっちゃね!」
立ち上がって目線の位置に短剣を構えると、すぐに悪魔プリに駆け寄る♀ローグ。
悪魔プリはタブレットを構えて迎え撃つ。
ダマスカスがタブレットに当り火花を散らす、それと同時に♀ローグはいつのまにか手にしていた砂の塊を悪魔プリに向けて投げつけた。
『!?』
顔面全体に砂を撒かれる悪魔プリ、しかし半眼になりながらも♀ローグから目を離す事はしない。
その♀ローグの姿が視界からかき消える。
『同じ手をっ!』
ルアフを使い、衝撃音と共に♀ローグの姿が現われる……はずであったのだが、何処にも♀ローグは見えない。
正面には居ない、という事はバックスタブ狙いと読んだ悪魔プリは後ろも見ずにタブレットを真後ろに向けて振るう。
そして、タブレットが悪魔プリの真横まで振られた時、悪魔プリは自分の失敗に気付いた。
♀ローグは姿勢を思いっきり低くし、悪魔プリの真正面膝下の高さまで頭を落して、そこに四つんばいになっていたのだ。
『引っかかったわね!』
だが、そこでも♀ローグは直接攻撃に移らない。
狙いは無造作に振り回されているタブレット。不意をつけた事でそれは簡単にはじき飛ばす事が出来た。
悪魔プリは即座にタブレットを諦めると、タブレットを持っていた手で♀ローグの腕を掴む。
そして逆の手で♀ローグの襟をひっつかむと、♀ローグの体を腰に乗せ背負い投げの要領で投げ飛ばす。
♀ローグは腕を捕まれた瞬間に、悪魔プリの動きを察して地面を強く蹴る。
そして空中で大きく弧を描くように半回転すると、足から着地。
無防備な悪魔プリの首をダマスカスで狙うが、それはあっさりとキリエに弾かれた。
お返しとばかりに悪魔プリは左ストレートから右ローキックのコンビネーションを放つが、♀ローグは大きく後ろに飛んでこれをかわす。
一気に間合いを詰めるべく踏み込む悪魔プリ。♀ローグもそれに対するべくダマスカスを構えるが、悪魔プリは数歩進んだ所で立ち止まる。
『?』
♀ローグがその意図に気付かず怪訝な顔をするが、すぐに悪魔プリの意図に気付いた。
くるくると空中を舞っていたタブレットを見事片手でキャッチした悪魔プリは、変わらず厳しい表情のままで♀ローグを睨み付けるのだった。
♀ローグは悪魔プリの動きに舌を巻く。
『的確で俊敏な状況判断、そして完璧に近い体捌き……最高よあなた』
対する悪魔プリは冷静そのものの目で♀ローグを見る。
『戦闘の組み立てがうまいとかそんなんじゃ無いですね……この子、とんでもなく戦闘慣れしてます』
不意に♀ローグが悪魔プリに声をかける。
「ねえ、あんた強いじゃない。今まで何人ぐらい殺した?」
悪魔プリは油断無く構えながら答えた。
「一人も。あなたは?」
「三人。まともに勝負になったのはあなたが初めてよ」
「不意打ちしかけておいて、まともな勝負も何も無いと思いますが」
「不意打ちも勝負の内よ。だからこんなにフィールド広くとってあるんでしょうに」
「ヒドイ言いぐさですね。……みんなで助け合ってここを出ようとは思わなかったのですか?」
「思わない。だって楽しくない? 誰が一番強いか知りたくない?」
悪魔プリは嘆息する。
「あなた、少し頭冷やしたらどうですか? こんな状況のせいで判断能力が著しく低下しているように思われますが」
♀ローグはからからと笑う。
「そうね、本来なら戦闘がもつれた段階で一度引いて、次の機会を待つべきなんでしょうけど……熱くなりすぎたわね、もうこれ止まりそうもないわ」
「……残念です。それにどうやらあなたは決して見逃して良い相手では無いようですし、あなたが嫌と言ってもここで決着を付けさせていただきます」
♀ローグがからかう様に言う。
「あらら、プリースト様とも思えないお言葉ね」
「私は殴りプリーストですから。まだ見ぬ誰かを守る為に……その敵を倒します!」
悪魔プリがタブレットを手に♀ローグへと殴りかかる。
♀ローグは地面に片手をついた低い姿勢でそれを迎え撃つ。
悪魔プリは隙の無い踏み込みからの、一番かわしずらい正中線、体の中心部を狙った攻撃を繰り出す。
だが、♀ローグはそれを一切かわそうとせずに、そのまま地面に向かってインベナムを放つ。
頭頂部にタブレットの直撃を喰らい、♀ローグの頭部から赤黒い血が噴き出すが、それと同時に二人の周囲に撒き上がる毒混じりの土煙。
『なっ!? これじゃあなたも毒の効果を受けますよ!』
♀ローグの自爆技に戸惑う悪魔プリ。
だが、♀ローグは一切の躊躇無くこれを行い、そして毒で悪魔プリの視界が悪くなった瞬間を見計らってなんと、悪魔プリの股下をくぐってみせたのだ。
『しまっ……』
悪魔プリがしてやられたと思ったその時には、股下をくぐり終えた♀ローグが逆手に持ったダマスカスを振り返りもせず後ろ向きのままで悪魔プリの背中に突き立てていたのだった。
「ああああぁぁぁ!!」
叫び声と共に突き刺さったダマスカスを上に向かって切り上げる。
悪魔プリのキリエは、既にその防御限界を超えていたようだった。

俯せに倒れ伏す悪魔プリ。
それを見下ろしながら♀ローグは荒い息を漏らして言った。
「冷静に的確に動く奴はね。冷静で無い、的確でも無い動きは予想出来ないものよ」
自らに解毒を施し、倒れる悪魔プリのバッグから赤ポーションを数個抜き取ると一息に飲み干す。
「一応、後のフォローも考えてあるしね。じゃねプリさん、あなた今まで出会った奴の中で一番楽しかったわよ」
しれーっと悪魔プリの青箱を奪いながら、♀ローグはその場を後にしたのだった。


<悪魔プリ死亡>
<♀ローグ 大青箱入手>
<残り22名>

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