バトルROワイアル@Wiki 091


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091.其を思ふ曲~夢語りと母親



「ったく…アタシに一体何の恨みがあるのよ、あの馬鹿っ。見張り人に押し付けて、自分一人は先に寝てるし」

ブツクサ文句を言いながら、♀アーチャーは背を木に預けて、座っていた。

それから、言葉通りに、憎憎しげな視線の先に、枯葉の上に寝転がった男がありありと。

弓手として鍛えられた自分の、良く見える目がなんとも疎ましかった。

公平にジャンケンで決めた、といっても疲れている自分を放っといて、目の前で鼾(イビキ)までかかれていると、腹も立つ。

因みに、順番は弓手=>クルセ=>子バフォ=>ローグ。どう考えても不公平な気がしてならなかった。

アラームが見張りを出来ないのは仕方が無いとしても。ローグが一番最後ってのは納得がいかない。

ああ、苛々する。あーもう。最初は感謝したけれど、今は本当に腹が立つ。

「もー、ギッタギタのボコボコのズタズタのボロボロにしてやりたいわ…」

もう、秋菜とかいう女よりも先に、だ。最優先目標。是が非でも確殺。もう、DS連発で瞬殺。

「…ふぅ」

どうしようもない怒りをぶつけていて、溜息一つ。

そういえば、一度溜息を付くと一つ幸せが逃げる、なんて事を誰かが言っていたのを思い出した。

思わず、自嘲する。幸せが逃げるのなら、教えて欲しいものだ。

今の自分の何処が幸せだというのか。

こんな場所で、あんなに理不尽な事を言われて。

「すぐ死ぬかもしれないってのにね」

そういえば、昔から溜息ばかり付いていた気がした。

きっと、それは気のせいなんだろう。

けれど、口にせずには居られなかった。

「なぁんだ。昔っから…幸せ逃してばっかだったんだ」

突拍子も無く、だからこんな事になったのかもしれない、という思考が浮かぶ。

しかし、何処かそれは現実味を帯びていて。

「はぁぁぁぁ…何考えてんだろ。アタシってば、本当に馬鹿ね」

もう一つ、幸せが逃げ出す。やっぱり馬鹿だ。

こんなのだから、あの商人にだって騙されたんだろう。


「ん…むにゅ… ん…ううん」

そんな事を言っていると、アラームの寝言が聞こえた。

小さく丸まって…子バフォを人形の様に抱きしめて、眠っている。

まるっきり、只の子供だった。

その様子を見ていると…ほんの少し、勇気が沸いた気がした。

こんな子だって居るんだ。あたしも文句なんて言ってられない。

弓手は、微笑む。
「…ありがとね。勇気、くれて」

お礼の代わりに、クリップが一つついた、綺麗な髪の毛を撫でてやる。

もぞ、と身じろぎ一つ。疲れ過ぎて睡眠が浅くなっていたのか、それだけでアラームは目を覚ましていた。

ぼんやりとした焦点の合わない目が弓手の方を向き…やがてしっかりと像を結ぶ。

「お姉ぇ…ちゃん?」

「ごめんっ、起こしちゃった? すぐ寝ていいから」

寝ぼけ眼を擦るアラームに、すまなさそうに言う。

「ううん…大丈夫、らいじょうぶです」

ふぁ、と眠そうに一度欠伸。眠気を覚ますように、自分の頬を張る。

「見張りですか?」

それから、たとたどしくそんな事を尋ねた。

「うん」

「退屈じゃないですか?」

一瞬、何を言っているものか、とも思ったが確かに、退屈だった。

「まぁ…そうかもね」

「それじゃあ、何かお話しませんかっ?」

「眠れないの?」

こくこく、とアラームは首を縦に振るものの、瞼の調子は上下していて。

どう見ても、嘘。

「だいじょぶです。これくらいへっちゃらへーのへーなのです」

けれど、強く小さな拳まで握り締めて言われたら…断り切れそうにもない。

暇であったのは事実だから、退屈しのぎ程度にはなるだろう、と考えを改める。

「そうねぇ…何、話そっか?」

幾つか、この女の子にも合いそうな話題を検索。そうして、一つの候補。

「ねぇ。アラームに夢ってある? アタシには、とっても大きいのがあるんだけど」

にぱっ、と笑い顔。自慢みたいで嫌味かもしれない。一瞬、そんな考え。

けれど、アラームは目をきらきらさせて、弓手を見ていた。

「お姉ちゃん、それってどんな夢っ?」

「あたしの夢はね~」

んっふっふっふ、とか判りやすく勿体つける。

「世界一の弓手になる事。これねっ」

冗談めかして言ってやる。けれど、アラームの顔は少し曇っていた。

「動物さんや…色んな生き物を…撃つの?」

しまった。クレイモアだった。当然、色んな生き物っていうのには…認めたくないが人間も入ってるのだろう。

「ま、まぁ…そりゃ生きて行くために、少しはね。いっておくけど、人なんて絶対撃たないから」

慎重に言葉を選んでいくつもりで、喋る。少し失敗したかもしれない。

「でもね、それよりもっと…ただ単に、上手になりたいから、って言った方が合ってるかも。
なんて言ったらいいかなぁ…ほらっ、料理とか裁縫とかもそうだけど、上手に出来るようになったら嬉しいじゃない」

特に後半の『料理』の辺りでこくこくと納得した様に頷いていた。


「それじゃ、今度はアラームの番ね」

少し、意地悪く言うと、困ったような顔。

「ほらほらー…早くお姉さんに白状しちゃいなさーい?そうしちゃえば楽になるわよ?」

「ぅぅぅ…や、止めてよぅ。言うからっ」

その様子が可笑しくて、つい、頭をぐりぐりと撫でると、益々困った顔。

けれども、もみくちゃにされていたアラームが、そう言ったから、すぐに止める。

居住まいを正して、アラームはまるで何かの発表会の様な顔をして。

「…笑わないでね?」

「笑わないってば」

そしてすうっ、と息を吸う。


「『楽園』が…出来たらいいな…って。それが、わたしの夢」

「楽園…?あー…確か、アコとかが読んでる聖書に出てくるのみたいな?
ほら、『大いなる救世主天より来たりて、全ての悲しみは過去のものとならん』…だっけ」

見ると、アラームはさっぱり理解できていない様子で。

あー…まぁ、気にしなくてもいいよ。うん。それで?」

だから、弓手はもう一度尋ねる。

「ローグさんも、お姉ちゃんも、バドスケさんも…人も、魔物も…みーんな、みーんな…幸せになれたらいいなぁ…って」

言いながら、いつの間にか泣き笑いのような顔。ぐすっ、ぐすっと嗚咽が聞こえ出す。

弓手にしてみても、それは馬鹿みたいな夢。それこそ、神様でもないと出来ないような。

でも、そんな事を考えて、現実から逃げてる訳ではないんだろう。

だって、少女は泣いている。この場所が、その夢からは世界で一番遠い場所だと、判っているから。

「ひっく…ぐすっ…ごめんなさい…ひっく」

誰に対してか謝る。馬鹿。謝る必用なんて無いのに。

弓手は、見ていられなくなってアラームを抱きとめた。

「いいのよ。もう、いいから。もうゆっくり休みなさい。ね?」

そうとだけ言って、泥まみれのサマードレスの背中を摩る。

嗚咽が聞こえなくなるまで、弓手はそうしていた。

──そうしてアラームが感じたぬくもりは。

「…あのね」

「何?」

──ずっと昔に忘れた、優しい人のそれに似ていて。


「お姉ちゃん…なんだか、お母さん…みたい」


──その腕の中、安心していられたから。


「馬鹿、そんなに老けてないわよ。老けてるのはローグだけで十分。いいから、もう寝なさい?」

「…うんっ」

──ゆっくりと、彼女の意識は、優しさの中に溶けていった。

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