バトルROワイアル@Wiki 092


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092.其を思ふ曲~昔語りとまがい物の騎士



その男は、二つに増えた寝息を聞きながら、音を立てずに横たえていた体を起こし、目を開いた。

現状は予想の範囲内。最も、そうはいっても延々くり返された弓手の愚痴には流石に辟易していたりもするが。


「…案の定かよ。もうちったぁ頑張ると思ってたんだがな」

ローグの視線の先には、身を互いに預け合う様に眠る少女が二人。

ゆっくりと立ち上がると、そこらに転がっていた偽装毛布を被せてやる。

「ったく」

やれやれ、と溜息を一度。眠っている弓手とアラームから離れ、どっかと地面に座る。

「…起きてんだろ?子バフォにクルセの姐さん。今更、俺まで狸寝入りで騙そうってのは無しだぜ?」

あらぬ方向を向けられた、誰に言うでもない独り言。しかし、むくりと起き上がる気配が二つ。

「お主も人の事は言えぬであろうに」

苦笑している様な子バフォの声を聞いた。

二つの気配はそろそろと移動し、悪漢の近くに腰を下ろす。

「さて…ま、当初の予想通りになっちまった訳だ」


「お主の予見、見事に当った、という事であるな」

頑丈そうだが、恐らく弓手は見張りの途中で寝込むだろう。

だから、もしそうなったら二人と一匹でそれを引き継ごう、と。


「やれやれ…参ったぜ。本当によ」

何度目にもなる愚痴。しかし、何時の間に自分がこうも甘くなったのか。

本当に不思議でならない。

「そう言われるな…貴方のお陰で私は助かった」

「そらどーも」

本当は孤独を愛してるんだがな。クルセに対する返答に、心中密かに思う。

と…不意に、ローグは今の今までゴタゴタ続きですっかり忘れていた事柄を思い出した。

「あー…そうだ。そういや、子バフォ。お前のご主人、名簿に名前あったのか?」

確か、アラームと合流したときに、ぱらぱらと斜め読みしていた筈だ。

「いいや。幸い、無かったな」

「そりゃぁ、良かったな。…つーかさ。一体どんな奴? お前のご主人って」


悪漢の言葉に、子バフォは口篭った。むぅ…という声。

反応に困っている。何やら、悩んでいる。


「一言で言うならば…変わった方、か。色々とな。そして、優しい方だ」

そうして、慎重に答えを選んでいた子バフォの第一声はそれだった。
「酷い貧乏でもあったしな…我も、よく困らされたものだ」

二人して明日の食事の心配をする事も珍しくなかった、と続ける。

「おまけに、妙な薬を作っては失敗し、毎日の様に騒ぎを起しておったしな。
普通の物を普通に作りさえすれば、人一倍の腕前であったというのに」

言葉は、ある種愚痴とさえ受け取れる。しかし、一言一言には酷く深い感慨が滲み。

ローグが、クルセがただ黙ってそれを聞いている。

「…だがな」

言って、一度子バフォは言葉を切った。

「我が主は…今まで、只の一度も我を下僕や、愛玩動物としては見ておらなんだ。

ただ、分け隔て無く、我を友としてさえ扱っておられた」

当人にその自覚があるかどうかは、知り得る所ではないが、そう言って子バフォは、己の主に苦笑いを浮かべる。

「信じられるか? 我は魔で、主は人だ。それでも、我の為に血を流し、我の為に泣いてさえくれたのだ。
只、己にかけがえの無い者だ、という理由だけでな」

「士は、己を知る為の者に死ぬ…か?」

クルセが問う。

「そうだ。それ故、我は我が主に従い、我が主と共に在る」


そこまで饒舌に言ってから、この山羊にしては珍しい事に、何とも気まずそうな様子で自分の言葉を切った。

喋り過ぎたか。そんな心情が見て取れるような様子。

だが、笑う者も、言葉を発する者も、誰一人として居ない。

沈黙が、現れた。


「む…むぅ。これでは我の喋り損ではないか」

返答は無い。しかし、子バフォは何故か笑った。

「道連れだ。お主にも何か喋ってもらおうか、悪党?」

「…俺か?俺なのか?っていうか、山羊。クルセの姐さんだっていんだろがよ」

「すまん、少し寝させてもらう。もう少しで私の受け持ちだ」

縋る様な目で見ているローグの希望を、しかしクルセはいとも簡単に打ち砕く。

「まぁ、我はどちらでも構わんがな」

などと口にするものの、にやにやと笑いながら山羊は悪漢を見ていた。

「クソッタレ…敵前逃亡たぁ士道不覚悟だぞ、畜生め」

「生憎と、クルセイダーのそれは騎士のとは違うのでね。ともかく、頑張れ」

切腹しやがれ、などと悪態を付くローグをあっさりとやり込め、クルセはマントを毛布代わりに地面に寝転がる。


溜息が一つ。それから、彼は子バフォに向き直った。


「言っとくけど、つまんねーぞ?」

「構わぬ。但し、嘘は言うなよ?」

「悪魔が釘を刺すかよ。つーか、どっちかってーとプリとか担当の台詞だろ、そりゃ」

仕方ねぇな。渋々、男は記憶を掘り返す。

が、適当な記憶が無い。断片は無数にあっても、それが一つの形に纏まらない。

悪戦苦闘し、結局投げ出した。

「…何話していいか判んねぇ」

「ふむ…では、さっきの弓手殿の話題を借りるか。夢ぐらいお主にもあろう?」

子バフォが言う。ローグは、それを聞くなり即答する。

「そりゃ勿論、大金持ちになってウッハウハになりてぇな。

後、毎日遊んで暮らして、浴びるみてぇに酒飲んで、楽しくおかしくやりてぇよ」

…んだよ。んなジト目で見やがって。わーったよ、真面目に答えるよ。

渋々、考える。


「ガキの頃のしか覚えて無ぇんだが、構わねぇか?」

頷いて山羊は答える。深く一度、溜息をついた。

正直、こっ恥ずかしい事この上ねぇが…まあ、付き合いって奴か。

自分をどうにか納得させ、それから彼は口を開く。

「俺は…そうだな。騎士に、なりたかった。…まぁ、結局なれなかったけどな」

思い出し思い出し、ゆっくりと言葉を吐く。


──ああ。あれは、今からしてみりゃ下らねぇ、ガキ特有の憧れだったんだろう。

プロの路地裏を残飯漁りに走り回ってた頃、毎日の様に行進していた騎士団が、酷く眩しく見えたんだった。

そういえば、あの頃の俺は、まだ今の俺とは違っていた気がする。


「ならば、何故ローグになどなった?騎士とは正反対の職だろうに」

「知らねぇよ。…いや」


──今みたいになったのは、何時からだったろうか?

昔は。まだ、俺にも家族って奴が居て、ゴミ漁りや盗みをしてなかった頃も、少なくとも今の俺みたいな悪党じゃなかったはず。

勿論、それからも一度だって悪党になりたかった訳じゃない。


ガキの頃の憧れなんてすっかり忘れて、盗みが得意だからってシーフになった時からだろうか。

それからローグになって。そりゃ、その頃には俺はすっかり悪党だったから、沢山の人間を殺したり犯したりしてきた。

後悔がある訳じゃない、俺だってれっきとした悪党だ。ついでに、そうやって他の奴から嫌われてた方が、ずっと楽だった。

そうして、どんどんと一人ぼっちになっていったんだけれど。

でも、楽だったから、俺はそうしたんだろうか。


──いや、違う。そうじゃない。

俺は。


「何時だって現実って奴に、押しつぶされ続けてきたから、なんだろうな」


──そうだ。夢って奴は、確かにあったんだ。

只、俺の手はそれを掴むには余りに短過ぎて、立っていた場所は夢から余りに遠かったんだ。

それを見ているのが嫌で、認められなくて、背を向けて逃げ出したんだ。

なるほど。結局俺は、強がってただけの、何処までも落ちこぼれた奴だった訳だ。

…糞。なんたって、今、この場所でこんなことを思い出す。

あのバカプリと出会って、目をじっと見られて。抵抗すらされないで。

そうかと思ったら、今度はアラームのガキが、俺みたいな奴の帰りをじっと待っていやがって。


「でも、ひょっとすると…どっかで」


──ああ、そうか。

俺は、漸く確信した。

本当に、あの馬鹿とガキに毒されきってしまっているらしい、と。

多分、もうどうしようもないくらいに。


「まだ、ガキの頃の夢を燻らせてるのかもしれねぇな。俺は」


きっと、だからこんな柄にも無い事を繰り返しているんだろう。

それが、俺が何時か思い描いていた夢の形の様な気がするから。

もう叶わない夢。例え、叶わない夢が叶って。もし、本当になれたとしても…


「…ま、なれたとしても、俺はきっと、まがい物の騎士なんだろうけどな」


腰から外して、脇に置いていたツルギを手にとり、何とは無しに、ローグはそれをちゃり、と鳴らす。

それから懐に手を遣り、そこから引っ張り出した湿った煙草を、何も考えずに口に運んだ。


「ぶぺっ!! しょっぺっ!!」

口に付けた瞬間、煙草を噴出す。自分が塩水に浸かっていた事を、すっかり忘れていた。

彼を見て、子バフォは何時かと同じような風に、笑う。ハードボイルドには、なり切れない。

それから、毛布の塊がもぞ、と動く。

それは『むにゃむにゃ…馬鹿いってんじゃないわよ…ぅぅん』などと零していた。

「…やれやれ。お互い、苦労するな?」

うるせぇ、余計なお世話だ。

そして、いつの間にかいつもの顔をして、ローグは子バフォを睨んでいた。


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