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174

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174.父と娘と



夢を見ていた。

悲しい、夢だった。

別れの、夢だった。

夢を夢だと気づく事が出来る夢。

呼び名が白昼夢だったか、明晰夢だったかは覚えていないが。

だからこそ余計に悲しかった。

私は、川のほとりで膝を抱えて座っていた。

そこらにある砂利を拾って投げると、ぽちゃんと言う音がする。

川の向こう岸には、懐かしい顔の男が立っていた。

「泣き顔の騎士子タンハアハア」

ウルサイ。そんな、変わらない顔をしないでくれ。

もっと、寂しそうな顔をしてくれ。笑って川の向こうに立たないで。

「でも、笑ってる騎士子タンはもっとハアハア」

そして、見っとも無い泣き顔だろう私を、そんな困ったような顔で見ないでくれ。

無理矢理でも、笑わずにはいられなくなるから。

例え、無理にでも、笑わずにはいられなくなるから。

けれども。

ぱしゃぱしゃと、深い筈の川を乗り越えて。

どうしてだろう。

川に隔てられている筈の彼は、私のすぐ近くまで苦も無くやってくるとにっこりと微笑んでみせた。

最高の笑い顔、というのがあるのなら、これがそう。

…きっと、この思考を人に知られたら大笑いされるんだろうな。

「泣くなよ?泣いちゃダメだ。心配するだろ?」

言葉に含まれているそれは、『しなくてはならない』では無い。義務ではない。

もっと、優しいものだった。聞いたことの無い真面目な口調で、彼は柄にも無い言葉を口にしている。

只、存在の全肯定。義務や責任や。そんなモノを遥かに超えた先にある赦し。

私の嫌悪する部分さえ否定せず、全てを受け入れる。

彼の紡いだ言葉は、私を苛む罪を赦し。彼の流した血は、私に一つの契約を成さしめる。

直ぐ前まで来ていた彼は。

蹲って泣いている私の前でしゃがみ込む。

そして、すっ、と手を伸ばすとわしわしと、頭を撫でてきた。

…髪がぐしゃぐしゃに乱れるなぁ。

鼻の奥が、熱くなる。

みっともない位に泣きじゃくっているだろうに、頭の中にはそんな他愛も無い事しか浮かんでいなかった。

「俺は。泣いている騎士子たんより、笑ってる騎士子たんの方が、好きだからなっ」

明晰な思考はそこで途絶えた。私は。私は。

泣きながら、彼に抱きついていた。

きっと。わたしは。許して欲しかったんだと、思う。

私は。馬鹿みたいに真面目に、一つの事ばかりを考えて。私は私を捨てて、私は私の誓いを果たさなければならなかった。

でも私は。何処までも愚かで弱い。

一つの事に拘る余りに、他の全てを失っていく。

結局、そのたった一つの誓いでさえ、果たすことは出来ないのかもしれない。

ああ、だから。

だからこそ私は、赦しが欲しかった。他の誰かから。何の打算も何もなく。

只一言、その言葉を言って欲しかった。

恨みの言葉や、嘆きの言葉ではない。只、赦す言葉を。

抱きしめて、泣いて、泣いて。

それから、私は笑った。心から、一点の曇りもなく、私は笑った。

意識が、闇に落ちていく。

そんな事にも気づかないで、私は笑っていた。

『ハレルヤ。ハレルヤ。ハレルヤ。

いと高き所より主は来たれり。主と御子キリストが治める国は地上に来たれり。

王の中の王。主の中の主。我等の主は永久に地上におわしてその王国を治めん』

聞いたことも無い、古い古い聖句が響いている。

今のそれに似ているけれども、少しも一致していない聖句。

他の誰でもない。人を作り世界を作り給もうた見知らぬ誰かを称える詩。

私は、知らず涙を流す。彼は。嗚呼、私の全てを許した彼は。


従者を失った王等、只の雑兵でしかない。

彼は、そんな事を考えながら、重い足取りで進んでいた。

元々の疲弊のせいもあるが、何よりも背中に負っている♀騎士が原因である。

「我ながら、偽善めいた真似をするものだな」

彼は、ぽつりと呟く。首筋には、♀騎士の涙が伝っていた。

暖かい涙。それは元々からして人ではない彼には縁のない物だ。

ゲッフェンのドッペルゲンガーは。

人の心を移す鏡であると同時に、夢魔達の王でもあるから。

詰る所、夢を操ることなど彼にとっては容易いこと。

最も、今の彼は力を遮られていて。

短距離で使える同属同士のリンクを介してさえ、こんな偽善めいた真似をする事しか出来ない。

あの『化物共』でない人の信じていた神を持ち出すなど、偽善の最もたる所。

とは言え、何かに縋るのであれ、他の何であれ…僅か、半日程前に見せた狂態。

あのようになられない程度に精神が安定してくれるのならば構うまい。彼は、そう自分を納得させた。

「泣く娘を安心させるも父親の務め。…とは言え」

勿論、自分は本当の意味でこの娘での父親ではあり得ない。

血を分け、自分の力を分け与え、幻魔としたところで。

この娘の中に宿る記憶までも、消す事は出来まい。

自分は良くも悪くも純然たる鏡。写す事は出来ても、作り出すことは出来ない。

「まぁ、いい」

自分には、自分の役目がある。

それと同じく、復讐を誓っている濁った鏡には濁った鏡の役目が与えられることだろう。

未だ、それは判らぬが、いずれははっきりとすることだ。

「どのような結末を迎えるかは判らぬ。だが」

今は、只歩くだけだ。とうの昔に、ダイスは既に投げられている。

背中に子を負うたまま、彼は再び森の中を歩き始めた。



<DOP&♀騎士 状態、持ち物、目的は変わらず。大きな橋 moc_fild 02をアルベルタ寄りに移動中

注記:精神的に♀騎士は♂騎士にかなりの部分依存して精神を安定させている?>


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