182.デッドマン・ウォーキング
「ふぅん……不死者の身体ってのも意外と動くもんだね。
やっぱり素材が新鮮だと違うのかね?」
身体の感触を確かめながら、♀ローグは冗談混じりに言った。
返魂の札の力によって不死者として蘇ったとはいえ、ゾンビのような貧弱な身体能力しか残っていないのではお話にならない。
その点が♀ローグにとって最大の懸念材料であったが、どうやらその心配は要らないようだ。
身体は思いのほか軽く、死ぬ前と変わらぬ鋭い動きも可能であった。
「まあ、それでこそ大博打うった価値があるってものよ。
それにしても、バドスケめ……思いっきりぶん殴ってくれちゃって。
うわっ、こりゃ酷いわ。脳みそはみ出してんじゃないの!?」
手をやってみて気づいたことだが、バドスケの渾身の一撃を受けた♀ローグの頭は、まさしくザクロのようにという表現がふさわしく、ぱっくりと傷口をさらしていた。
不死者となったせいか痛みは無く――逆に言えばそのせいで傷口に気づかなかったわけだが――、
出血も止まっているが、どうにも精神衛生上よろしくない。
「とりあえず血は洗うとして、隠すなりしないとね、こりゃ」
この近くには池があったはずだ。♀ローグはそちらへ向かって歩き出した。
「さてっと、まあこんなもんかね」
水と赤ポーションで血を洗い落とし、荷物袋を引き裂いて作った包帯をロープで巻きつけただけの乱暴な処置だが、傷口を隠すことはできた。
この作業の過程で、♀ローグにわかったことがいくつかある。
一つ。やはり痛覚は失われているということ。
念のためダマスカスで腕を軽く切り付けてもみたが、痛みも無ければ血が滲みすらしなかった。
そもそも、心臓は鼓動すらしていないのだ。
二つ。味覚も失われていた。
袋の荷物をぶちまけたついでに食料をかじってみたが、まるで砂を食べているような感覚で、口に出来たものではなかった。
不死者も腹が減るのかどうかは今のところわからないが、これは♀ローグの気分を暗澹とさせた。
三つ。
これが最も重要な点かもしれないが、どうやら聖なるものに弱くなっているようだ。
荷物の底から出てきたロザリオに少し触ってみた途端、失われたはずの痛みと、熱さがびりびりと走り、思わずそれを放り出してしまった。
生き残りにはクルセイダーやプリーストがまだいたはずだ。
そいつらと戦う時には十二分に注意しなければならない。
「不死者には不死者のルールがあるってことか。
ま、いいさ。障害が無かったらゲームは楽しくないってもんだ」
変わらぬ不遜な笑みを浮かべ、♀ローグは歩き出した。
自分がどんなものに変化しようと、この狂ったゲームで存分に遊べれば、彼女にとってはそれで十分なのだ。
<♀ローグ 所持品/ダマスカス 現在地/プロ北(prt_fild01)
不死者となる。獲物を求め移動開始>
○頭部に大きな傷(布で隠している)
○ロザリオは放置
○不死者のルール ※判明しているもの
- 痛覚なし、出血もしない
- 味覚なし、普通の食料は受け付けない
- 聖属性に弱い
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