188.それぞれの殺し屋事情
♂BSは自らの首にブラッドアックスを当てる。
自ら鍛えた力ではないが、自分の力量は既に理解している。
全力でこれを引けば、簡単にその首は落ちる。
「…………あああぁぁっ!!」
腕に力が篭る。
しかし、その腕が動く事は無く、♂BSの首もそのままであった。
「死なせてくれよ……俺もう……嫌だよ……」
そしてまた歩き出す。行き先も、目的も無いままに。
散々考えたが、結論は出ない。
♀ローグはひょっとこみたいな顔になると、立ち上がる。
「どっちにしても、あのローグだけは生かしちゃおけないわねぇ」
同職だけにその手の内は良く知っているであろう。
ならば♂ローグは決して♀ローグを仲間にしようとは思うまい。
下手に他の連中に変な事言われる前にさっさと仕留めるのが吉だ。
そう考え、プロンテラ南へと先回りを試みる♀ローグ。
ヴァルキリーレルムを迂回して渓谷の橋、プロ西、バッタの巣へと抜けてプロ南へと至るルートを選択し、足早に走り出す。
「子連れなら私の方が早い。今度は……完璧に待ち伏せした方が良さそうだね」
前回の戦いで、♂ローグが油断ならない敵だという事はよくわかった。
だが、♂ローグが足手まといを本気で守る気なら打つ手はいくらでもある。
「……昔は多かったんだけどね、あの手のローグ。今でもまだ居るなんてね~」
悪党としての腐りきった生活の中で、それでも魂だけはぴっかぴかに輝いている奴。
「嫌いじゃないよ、あんた。でも……死にな。薄汚いクソみたいに、のたうち回って悲鳴を上げながら」
♂BSは砂漠の分岐を抜け、プロ南へと辿り着く。
そのまま歩き続けると次第にプロンテラの城壁が見えてくる。
そこで不意に♂BSは進路を変えた。
プロンテラ、そしてそこから続くヴァルキリーレルムは今の彼にとっては近づきたくない場所であるようだ。
そこからバッタの巣へと抜けて、道なりにプロ西に入る。
特に何か考えがあって北を目指しているのではない。
ただ、南には自分が殺した死体が多すぎる。
そのまま北に向かい、渓谷の橋に辿り着くとそこに水場があった事を思い出す。
今まで全く乾きも空腹も感じなかった♂BSだが、水場に向かい、そこで水を飲んだ。
いつも飲んでいた水なのに、久しぶりのせいか妙においしく感じた。
こんな状況なのに、おいしい水を飲めて嬉しいと思う自分が、とても嫌だった。
引きつった顔で♀ローグは草原に伏せていた。
『なんだってまたあのBSに会うのよっ!』
プロ西からバッタの巣へ抜ける途中で人影に気付いた♀ローグは、慌てて生い茂る丈の高い草むらに隠れた。
以前に出会った時は、なんでかわからない理由で捕捉された事を思い出し、緊張した面もちで♂BSを見守る。
だが、当の♂BSは♀ローグには全く気付かずに覚束ない足取りでそのまま通り過ぎて行ってしまった。
『チャンス……なんだけどね~。あのゴーストリングCなんとかなんないのかい』
彼我の戦力状況を考え、仕掛けるのは止めた♀ローグ。
『湖にでも叩き込むか?
……いや、あいつに挑むにはまだこっちの装備が整ってないね』
二度も見逃す事をいたく不満に感じながらも、その判断を下し、それに従える自分の理性を感じ、少し安心する♀ローグであった。
<♀ローグ 現在位置/プロ西 ( prt_fild05 )所持品:ダマスカス、プレート→♂クルセの死体そばに放置、ロザリオ、ロープ、大青箱→返魂の札→自分に使用して復活>
<♂BS 現在位置/渓谷の橋 ( mjolnir_09 )所持品:ブラッドアックス、ゴスリン挿しロンコ、イグ実1個、♀BSの生首、スマイルマスク→破損 備考/GMの精神支配から限定的ではあるが解放>
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